第3話 剣の才能~今も勉強中よSWORD~
俺は破滅回避のために、毒を食って【毒耐性】を得る作戦を思いついた。
だが毒耐性だけを鍛えるのだけではなく、生き残るには剣や魔法の修行も必要だ。
筋トレやランニングでの身体づくりも重要だろう。
毒耐性だけあっても、本体が弱かったら万が一の強敵にやられて死ぬ可能性もある。
それに、ゼノはもともと怠惰で傲慢な性格ながらあれだけ強かったのだから、鍛えればもしかしたら本当の最強になれるかもしれない。
ということで、剣術と魔術の修行もすることにした。
「ていうかそもそもこの世界の強さって、ステータスとかあったっけ……?」
ゲームと同じなら、この世界にもレベルやステータスという概念があるはずだ。
だが俺のゼノとしての11年間の記憶からすれば、この世界にそんなものはなかったはず……。
ただ、『耐性を得るためにはその属性を食らえばいい』という法則は同じなはずだ。
例えば、『炎を食らい続ければ炎耐性が育つ』という風に。
つまり、『毒耐性を得るには毒を食らい続ければいい』ということになる。
「いちおう試してみるか……。ステータスオープン!」
俺は異世界転生でお約束のその言葉を口にする。
しかし……アニメやゲームでよく見るような、あのステータス画面は現れなかった。
「やっぱりダメか……」
どうやらこの世界はゲームと同じ世界ではあるものの、ゲームと全く同じというようにはいかなさそうだ。
ステータスを数字で確認することはできない。
ゲームみたいに、レベルや経験値といったものを、数字で確認することはできなさそうだ。
だったらなおさら、独学で強くなるのには限界があるだろうな。
ということで、俺は師匠を探すことにした。
まずは剣術の師匠をつけてもらう。
俺を溺愛している父に相談すると、すぐに剣の師匠が見つかった。
◇
翌日からすぐに、剣術の修行が始まった。
「私の名はガスパール・クライン。ガス先生とでも呼んでくださいな。今日からしばらく、よろしくお願いします……ゼノぼっちゃん。私もこう見えて、昔は立派な兵士だったんですがね……。膝に矢を受けてしまって……今ではかなり衰えましたよ」
そう名乗った男は、無精ひげに天然パーマの、およそ剣士とは言えない、だらしのない見た目をしていた。
だがその見た目に反して、元王国騎士団所属のれっきとした剣豪らしい。
しかも彼は歴代最強をうたわれるほどの伝説の騎士だとか。
だから引退した今でも、優秀な教師としてやっているらしい。
俺はちゃんと、『ガス先生、俺に剣を教えてください! よろしくお願いします!』――と言おうとした。
もちろん、剣を教わる相手に敬意を払うのは当然だ。
だが、やはりそこでもゼノ本来の傲慢な性格が邪魔をして、思ってもいないことを口にしてしまう。
「無駄話はいい。お前などガスで十分だ。いくら剣を教わるとはいえ……貴族の俺が、たかが元王国騎士団の剣士風情を先生などとは、決して呼ばん。いいからさっさと俺に剣を教えろ。お前の仕事はそれだけだ」
ああ……そんなこと言うつもりないのに……勝手な口だ。
すみませんガス先生……お給料は倍払うように父に言っておきますからどうか許してください……。
俺の言葉に、明らかにガス先生は眉をしかめて、機嫌を悪くする。
そりゃあそうだ。
俺みたいな生意気な貴族のガキにいきなりそんなこと言われたら、キレたくもなるだろう。
やばい、このままじゃあガス先生に嫌われて、いらぬ恨みを買ってしまう。
毒殺の可能性をなるべく低くするためにも、できれば恨みは買いたくない。
てか、シンプルに恨まれるのは気分のいいものじゃないし、普通に嫌だ。
こうなったら、どうにか態度で示すしかないな。
俺は剣を握りしめる。
「いくぞおお!!!! うおおおおおおお……!!!!」
俺はガス先生に指示される前に、全力で剣を素振りし始めた。
とにかくこっちにやる気があるってところを見せるんだ!
全力で剣の修行に励んで、ちょっとでもガス先生に見込みのある奴だって思ってもらわないと。
もちろん、俺は前世も含めて剣なんて習ったこともないし、触ったことすらこれが初めてだ。
だから素振りをしてみるっていっても、適当でめちゃくちゃなやり方だ。
きっと俺の素振りなんてガス先生からしたらめちゃくちゃ間違っているんだろうな。
俺のへたくそな素振りを見れば、ガス先生もきっと正しい型を教えたくなるはずだ。
生徒ってのは、多少ポンコツなほうが教え甲斐もあるし、可愛げがあるってもんだ。
こうやって素人丸出しの素振りを見せれば、きっとガス先生も指導欲が刺激されるに違いない!
間違っても、先生よりも優秀なところを見せたりなんかしたらいけない。
しかし、俺が勝手に素振りをし始めたというのに、ガス先生はなにも言ってこない。
あれ……?
おかしいぞ?
どうしたんだ?
俺は、ふとガス先生のほうを見た。
すると……ガス先生の表情は、まるで化物を見たかのように、青ざめて固まってしまっている。
あれぇ……?
なんでぇ…………?
俺、もしかしてなんかやっちゃったのか?
予想外の反応に俺も固まっていると、ガス先生がようやく口を開いた。
「そ、その……。ゼノぼっちゃん。これまでに剣の経験は……?」
「もちろんないが……? だからお前を呼んだのだろう」
俺はまだこの世界に生まれて11年しか経っていないんだから、そんな経験があるはずがないだろう。
おかしなことを聞くもんだ。
なんでそんなことを聞くんだ……?
「そ、そうですよね……。いや……申しわけありません。あまりの出来事に、さすがの私も驚いてしまいました……」
「……? どういうことだ?」
「ゼノぼっちゃん……正直、あなたに教えることはあまりないかもしれません……。さっきの素振り、実にお見事でした……」
「えぇ……?」
見事って……俺はただ適当に素振りしただけなのだが……?
もしかして、ゼノの剣の才能って、俺が思っていたよりもすさまじいのか?
まあ、怠惰かつ傲慢不遜で、努力を一切しなかったはずのゼノが、ゲームであれだけ強かったんだから……才能はもともと、人一倍あるはずだよな。
それにしても、初見で剣を扱えるほどなのか?
そんな俺がここからさらに、ちゃんと努力を重ねれば、いったいどうなってしまうんだ……?
「実は今、ゼノぼっちゃんがなさった素振りは、【破滅の太刀】という名前の型そのものなのです」
「マジか……適当に素振りしただけだぞ?」
「はい。マジです。ゼノぼっちゃんは適当に素振りしただけのつもりかもしれませんが……天性の才能が、自然と有効的な型を導きだしたのでしょう……。これは凄まじい才能です」
どんな確率だよそれ……。
だが、俺が素振りをして見せたことで、ガス先生の好感度を得ることにはなんとか成功したようだ。
さっきまで俺の指導にあまり乗り気ではなかったように見えたガス先生だったが、今では目の前にダイアモンドの原石を見つけたとばかりに、目を輝かせている。
「とにかく、これは素晴らしい才能ですよ! では次はさっそく、私と模擬戦をしてみましょうか」
「えぇ……いきなりか」
「大丈夫です。ゼノぼっちゃんなら……」
「そうか……では、いくぞ!」
俺は身体が動きたがる方向へと自然に身を委ね、剣を振るった。