第18話 上手に焼けました~!
俺は思いついてしまったのだ。
【モンスターの肉】を食べれば、いい感じに毒素を体内に取り入れることができるだろう、と。
ということで俺はさっそく、森の中へ探索にいくことにした。
親や使用人には、『少しモルヴェナ先生と森で修行してくる』、と言って出てきた。
もちろん嘘だ。
モンスターの肉を食うなんて、さすがにモルヴェナ先生にも知られたら、止められるに決まっているからな。
先生にもあとでなにか言い訳をしておこう。
◇
俺がやってきたのは、ドミナル領内にある近郊の森――【フジミナル森林】。
この森林には様々なモンスターや毒キノコが生息している。
俺は道中、生えているキノコを片っ端から食べていった。
しかし、前に毒キノコを食ったときのように、気絶するわけではなかった。
今の俺の毒耐性なら、毒キノコくらいでは、ほとんどなんともないのだ。
「俺も成長したなぁ……」
毒耐性の進化を実感しながら歩いていると、さっそくモンスターに出くわした。
現れたのはキノコタイプのモンスター――【マッシュマン】。
マッシュマンはキノコ頭に、人間のような手足が生えた気色悪いモンスターだ。
毒の胞子を吐き出してくる、厄介なモンスターでもある。
「マッシューー!!!!」
マッシュマンは頭から毒の胞子をふりまいてくる。
しかし、その程度の毒、俺には効かない……!
特にキノコ由来の毒には慣れっこだからな!
俺は胞子をものともせずに、その中を突っ切り、マッシュマンに近づく!
「マシュ……!?」
どうやら俺に胞子が効かないことに驚いているようだな。
このくらいの毒、おれにはむしろスパイスになって気持ちいいくらいだぜ!
「キノコの胞子きもちえええええええ!!!!」
俺は恍惚的な笑みを浮かべながら、持っていた剣で、マッシュマンに斬りかかる。
「マシュゥ……!?」
さすがのマッシュマンも俺のその姿にドン引きして、背中を見せて逃げようとする。
「そこだ……!」
その美味しそうなキノコ頭、いただくぜ……!
「マシューー!!」
――ズバ!!!!
俺はマッシュマンを後ろから、横なぎに一刀両断。
マッシュマンのキノコ頭は地に落ちた。
ガス先生から剣を教わって、修行以外だと、何気にこれが初めての実戦だな。
「楽勝だったな……」
俺はさっそく、倒したマッシュマンの頭を食べてみることにする。
周りに誰もいないか、辺りを見渡して確認だ。
モンスターの肉を食うことは禁忌とされていて、もし見られたら大変なことになる。
「うげ……さすがにちょっと気持ちわりぃな……まあでも、すぐに慣れるか」
マッシュマンの死体からは、さっそく【瘴気】が漏れ出していた。
モンスターの肉には、普通の毒とは違って、【瘴気毒】というものが含まれているのだ。
瘴気が溜まりすぎると、ゾンビモンスターになったりするし、人間が接種しすぎると同じようにゾンビになってしまう。
だから、俺も気を付けてギリギリで抑えないといけないな。
けど、今後のことも考えると、普通の毒や菌だけでなく、【瘴気耐性】も上げておきたいからな。
これはいい機会だ。
特にマッシュマンには普通のキノコとしての毒も含まれているから、一石二鳥で特訓になる。
「じゃあ、いただきまーす」
俺はマッシュマンのキノコ頭にかぶりついた。
――もしゃ、もしゃ。
「うん、意外と悪くない味だ。まあ、不味いけど……」
味と食感は、まさに普通の毒キノコとさほど変わらない。
しかし、瘴気のせいか、ちょっと変なすっぱい味がする。
それに、瘴気のせいで、身体が重くなる……。
二日酔いのようにしんどい。
でも、瘴気の味は、これはこれで癖になりそうだ。
たまに毒が気持ちいいことがあるんだよなー。
いい感じに調整したら、気持ちよくなるアイテムとか作れそうだ。
なんだか犯罪の匂いがするけど……。
ちなみに、イルカもフグ毒をわざと摂取して気持ちよくなったりするそうだ。
イルカってめちゃくちゃ知能高いらしいからな。
マッシュマンを食べ終わり、しばらくして、次に現れた敵は【ポイズントード】――カエルのモンスターだった。
「ゲコ……!」
ポイズントードは、俺を見るなり、毒の液を吐きかけてきた。
俺はそれを無意識に避けていた。
毒耐性があるから大丈夫だとは思うんだが……。
しかし、ポイズントードの吐いた毒が当たった地面が、じわーと溶けているのがわかる。
「もしかして……さすがにこれは食らうとヤバいか……?」
そのまさかだった。
ポイズントードは矢継ぎ早に毒の液を吐きかけてくる。
またも俺はそれを避けるが、一部が靴にかかってしまった。
すると、俺の靴がみるみる溶け、足先が見えてしまったではないか!
毒の液がかかった足先が、少し溶けて、血が出てしまっている。
「やべぇな…………マジか」
さすがにこの威力の毒は、いくら毒耐性があるとはいっても食らうとただじゃ済まなそうだ。
それに、毒の液のせいでなかなか近づくことができない。
すばしっこいし、厄介な敵だな。
「近づけないなら……遠距離から倒すだけだ……!」
今度は、俺は剣ではなく魔法を使って戦うことにした。
モルヴェナから教わった魔法を、さっそく実戦で使うときがきた。
「うおおお! 氷牙刃……!」
――キィイイン……!!!!
俺が初級の氷魔法を使うと、手のひらから氷の刃が放出された。
そして氷牙刃は見事にポイズントードをとらえ、その中心を一撃で貫いた。
「よし……!」
なんとか毒を食らわずに倒すことができた。
うーん、理想はあの毒の液ですらも無傷でいられるほど、毒耐性を鍛えることだな。
さすがにそれだけの毒耐性を得るには、まだまだ時間がかかりそうだ。
さて、ポイズントードを倒したし、さっそく食うか。
でも、こいつの体内には、さっきのあの毒の液が入ってるんだよな……?
だったら、そのまま食べるのはまずいか……?
「一応、捌いて処理してから食うか……」
俺は森の中で川を見つけ、そこでカエルを調理することにした。
前世でも、親に一度森の中に捨てられて、数日サバイバルしたことがあるからな。
あのときはまだ小さかったから、マジで死ぬかと思ったんだよな……。
そのときの経験から、サバイバル知識は一度調べたことがあって、一通りの知識は持っている。
俺はポイズントードを捌いて、毒抜きをして、焼いた。
「上手に焼けました~!」
カエルは前世でも何度か食ったことがあるから、あまり抵抗はない。
食べ物なんて、生きるためには食えればなんでもいいからな。
がぶり。
「うん、不味いけど……なんとか食えるな……!」
さすがに毒と瘴気を持っているモンスターは、ミレイユの料理ほどじゃないが、まずい。
まあ、ミレイユの料理も最初はあれだけ不味かったのに、だんだん美味く感じるようになっていったからな。
モンスターの肉も食べ慣れれば、それなりに美味く食えるようになるだろう。
今度、いろんな調味料を持ってきて、試してみよう。
あと、モンスターの肉を食うと、だんだんと瘴気が身体に溜まっていくのがわかる。
身体が重くなって、頭が痛くなる。
心臓もバクバク言って、だんだんと死の足音が近づいているような気になる。
これが溜まりすぎると、身体がゾンビ化してしまうから注意が必要だ。
けど、瘴気耐性を鍛えるには、このしんどさに耐えるしかない。
ちょっと癖になりそう。
俺は何度もモンスターを倒しては、食い、【毒耐性】と【瘴気耐性】をどんどん鍛えていった。
すっかり夕方になってしまったので、俺は森を出る。
◇
森を出て、家に帰ると、マーサが驚いた顔で俺を出迎えた。
「な……!? ゼノさま、そのお姿は……!? どこに行っていらしたのですか……!?」
「え……? なんのことだ……?」
俺は言われて、自分の身体を見回してみる。
「あ…………」
そこでようやく気付いたのだが、どうやら俺の身体には、何匹もの小さな毒蛇が噛みついていたみたいだった。
俺の身体にかぶりついたまま離れずに、宙ぶらりんになってる。
別に今更この程度の毒蛇に咬まれても、なんともないから、気にしていなかった。痛みも俺はあまり感じないしな。
そのせいで、途中から完全に存在を忘れていたんだよな……。
いちいち気にしてたらめんどうだし、ほったらかしにしてた。
森を出る前に蛇を振り払ってから出ようとは思ってたんだけどな……忘れてたわ。
さすがにこの姿は、マーサからしたらドン引きだったわな……。
しまった……。
変なやつだと思われただろうか……。
「だ、大丈夫なんですか……?」
「ん? ああ、まあな……」
「ならいいですけど……。無茶なことはしないでくださいよ? 最近、本当にどうかされてますね……」
「すまん……。お父様には黙っててもらえるか?」
「まあ、いいですけど……。さすがにその蛇は落としてから中に入ってくださいよ?」
「うん、わかった」
マーサは話のわかるやつで助かる。
昔から俺のことをよく見てくれるし、こうやって告げ口せずに、俺をかばってくれるところも好きだ。
まあ、それゆえに、ドン引きされてちょっとショック……。
マーサは俺を、かわいそうな人を見る目でみながら、どこかへ行った。
「マーサぁ……俺を嫌いにならないでくれぇ……」
マーサに嫌われるのも、毒殺の可能性を考えると、あまりいいことではない。
迂闊だった……。あとでなにかフォローしておこう。
俺は蛇を落としてから、屋敷に戻るのだった。
◇
屋敷に戻ると、ミレイユが満面の笑みで出迎えてくれた。
「ゼノさま……!? そのお怪我はどうされたのですか……!?」
「ああ、ちょっと……蛇に咬まれた」
さすがに蛇に咬まれたところは、痕になっている。
他にも一日中戦闘して森の中を駆け回っていたから、小さな擦り傷などがたくさんだ。
ミレイユは心配性だから、大げさに騒ぎすぎなんだよな……。
でも、心配してくれるのはありがたい。
ミレイユにだけは嫌われたくないな。
「そうだ! いいお薬がありますよ! うちの実家に伝わる伝統の、薬用オイルです! これでマッサージしてさしあげます! きっとすぐに傷もよくなりますよ!」
「お、マジか……じゃあお願いしようかな」
ミレイユが俺に薬を塗ると、傷口にめちゃくちゃ染みて痛かった。
「ぎえああああああああああああ!!!!」
「だ、大丈夫ですか……!?」
「だ、大丈夫だ……続けてくれ……」
まさかとは思うが……この薬用オイルにもなにか毒とか入ってない……!?
あきらかに普通に薬が染みてるとか以上に、なにか危険な痛みなんだが……!?
案の定、俺はそのままマッサージ中にまた気絶した。
「ゼノさまあああああああ!?」
◇
けど、目覚めると、完全に俺の傷は癒えていた。
ミレイユ特製だから毒要素が入ってただけで、回復効果自体はあるようだ。
でも、この薬用オイルなら、毒の修行にもなるし、傷も癒えるし、一石二鳥だな。
今度またやってもらおう。
「ありがとうなミレイユ。お前のおかげで、傷が治ったよ」
「ゼノさまー! そのようなお言葉……身に余る光栄です……! 今日も大好きです♡ ゼノさまー♡」
「お、おう……」
ミレイユは俺に抱き着いてくる。
どうやらミレイユにはすっかり好かれているようだな。
これでミレイユに毒殺される可能性は、限りなくゼロになったと言えるだろう。
あとはマーサにももっと好かれる必要があるな。
さて……どうするか。
とりあえず、明日も森に行ってみよう。
しばらくはモンスターの肉を食って、毒耐性と瘴気耐性を鍛えるぞ!