第13話 ゆうべはおたのしみでしたね
数日間、ミレイユの料理を食べて寝てを繰り返していると、だいぶ味にも毒にも慣れてきた。
今では数時間腹を壊す程度だ。
やはり俺の予想通り、毒耐性を鍛えることに成功しているみたいだ。
この調子で、今後もどんどんと毒耐性のレベルを上げていけば、大人になるころには致死毒にも耐えられるようになるだろう。
なんだか最近では毒の痛みも不思議と気持ちいいと感じるようになってきた。
あへあへあへ…………。
ミレイユの激痛マッサージも気持ちいいし……。
俺ってもともとMなのかな……?
いやいや……そんなことないよな……!?
ミレイユのことだからなにか変なもの――媚薬とか入れてんじゃねえだろうなぁ……?
ちょっとやりかねないから、怖い。
うん、毒耐性はこんな感じで鍛えていけばいいな。
なんかたくさん食べるようになって筋肉もいい感じについてきたな。
筋トレもしているし。
体力もついた。……これは、毒料理の効果なのか?
◇
昨日もミレイユに風呂場で激痛マッサージをしてもらっていた。
毒料理はかなり平気になったが、マッサージのほうはまだ慣れない。
いまだにデカい声が出るし、すぐに気絶する。
昨日も「ぎゃああああああああおんんんん!!!!」と大声で絶叫して気絶した。
目覚めてすぐ、気を取り直して、俺は今度は剣の修行にやってきた。
修行場にいくと、俺の剣の師匠であるガスパール先生に、こんなことを言われた。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
どこかで聞いたことのあるようなセリフだな……。
けど、ゆうべのおたのしみって、いったいなんのことだ……?
昨日はマッサージをしてもらって、そのまま気絶していただけだぞ……?
あの激痛マッサージは、決しておたのしみではないだろう。
「なんのことだ……?」
「昨日もまた、ずいぶんと暴れていたようじゃありませんか。その……風呂場で」
どうやら風呂場で叫んでいたのが、ガスパールの部屋まで聞こえていたようだった。
激痛マッサージのときの俺の声、どんだけデカいんだよ……。やっぱりめちゃくちゃ痛いもんな、アレ……。
「ああ、風呂場ね……。大きな声を出してすまなかったな。迷惑だっただろう?」
「いえ。ずいぶん楽しそうでしたね」
あれが楽しそうに聞こえるのか……?
こいつも、どっかおかしいんじゃないだろうか……?
もしかして、風呂場でのマッサージを、なにかえっちなものとでも勘違いしているのではないだろうか……?
たしかに、風呂場でメイドにマッサージさせてるなんて言ったら、字面だけ見たら、えっちなものと思ってしまうのも無理はないか……。
だが決して、あれはそんないいものではない。
なにせ激痛だし、気絶するんだからな……。
それに、あれはいやらしい意味じゃなくて、俺がこの先生きのこるために必要な修行なんだから。
「いや、あれは別に……やらしいことはなにも……。ただマッサージしてもらってただけで……」
俺はガスパールに弁明する。
「隠さなくてもいいです……。俺も男だから、わかりますぞ」
「なにがだよ……」
なにかマジで勘違いされているな……?
俺は誤解を解こうと、なにか言い訳を考える。
だがその前に、ガスパールが口を開く。
「風呂場は最高の修行場ですよねぇ!」
「お、おう……?」
あ。
まじで勘違いしてらっしゃる……!?
ていうか、勘違いは俺の方だったのか……!?
「熱湯風呂やサウナに耐えて鍛えていたんでしょう!? さすがはゼノぼっちゃんだ!」
「お、おう……。そうだな……」
もうそういうことにしておいてもらおう。
えっちなものと勘違いをされて勘ぐられるよりはましだ。
「水の中で身体を動かすのもいい負荷になるし、水を敵に見立てて剣で切り裂くのもいいですよねぇ! 俺も若い頃はよくやったものだ……」
「そ、そうだな……しゅ、修行になるよな……!」
俺はとりあえず同意しておくことにした。
なんかこの人めんどくさい……。
「それにしても、あんなに絶叫するほどの修行を、『ただのマッサージ』だなんて。ゼノぼっちゃんも言うようになられましたなぁ……! さすがだ! アッハッハ!」
「あはは……」
まあ、本当にマッサージしてもらってただけなんですけどね……。
◇
ガスパールのおかげで、俺の剣の腕はみるみるうちに伸びていた。
まあ、ちょっと勘違いの多いおじさんだけど、悪い人ではない。
剣の腕も確かだしな。
毒の修行も順調だし、筋トレや日々の体力作りもうまくいってる。
このままいけば、大人になるころにはゲームのゼノよりもさらに、かなり強くなれるだろう。
元々のゼノは怠惰で、絶対にこんな努力はしないやつだったからな。
さて、そろそろ剣の修行も落ち着いてきたころだ。
ここいらで、魔法の修行も並行してはじめることにしよう。
ということで、俺は父に頼んで、今度は魔法の師匠を探してもらった。
魔法の師匠はすぐに見つかった。
だが、やってきたのは、俺の思いもよらぬ、とんでもない人物だったのだ――。
◇
「はじめまして。私はモルヴェナ・ナイトベイン。他人からは、【毒の魔女】と呼ばれているよ……」
モルヴェナ・ナイトベイン――そう名乗った女性は、グラマラスな肉体に、妖艶な雰囲気を漂わせるお姉さんだった。
見た目は抜群に美人だし、なんだか魔法使いとしても強そうだ。
しかし……しかしだ……。
なんでよりにもよって、毒タイプの魔法使いなんだよおおおおお――!!!!
俺の危機感センサーがびんびんに反応していた。
だって、俺のもともとの弱点は毒属性。
いくら鍛えているとはいえ、俺の毒耐性はまだまだ初歩の初歩。
モルヴェナのような毒の専門家にかかれば、俺の命なんて簡単に消し飛ぶ。
つまり、嫌われたら、即毒殺される可能性が跳ね上がる……!!!!
危険人物だ――。