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完全無欠の悪へと成った男の異世界暗躍記  作者: ゲームマスター
下地編 〜闇は準備を整える〜
7/9

7.庶民よ、これこそ栄誉のもたらす力である

「我が5つ数える間に、戦場から退避せよ。さもなくば魔物と共に消滅することになるであろう。」



(ペンタ)

まだ城壁の外に取り残されたままの冒険者も、追いつかれた魔物を倒したり、魔法で足止めすることすら辞めて死ぬ気で駆け出す。



(テトラ)

門番達が、冒険者達が入った瞬間に門を閉じる準備をする。



(トリ)

取り残されていた冒険者パーティーのほとんどが門の内側までたどり着いくが、走り慣れていない1人の魔法使いが門の手前で転ぶ。



()

それに気づいた仲間が急いで戻り、肩を担いでなんとか門までたどり着く。



(モノ)

門番が勢いよく門を閉じる。


直後、稲光が城壁を駆け巡って魔物の方へと飛び出し、そこから若い青年が姿を現した。

「天に代わり神の力を下す。地表を殲滅せんとす雷光、我より放たれよ。『ライトニング』」

謎の詠唱と共に、その青年の手から雷が放たれ、枝分かれした数多の電撃に少しでも掠った魔物は感電して一撃で倒された。


「見えざる電撃を放つ。必ずしも電気とは限らざる電撃、我より放たれよ。『エレキパルス』」

さらに、空中に留まったまま不可視の電撃を放ち、まだ森の奥の方にいたキングクラスの魔物を狙い撃ちで撃破。


「稲妻のごとく走る。世を駆け巡る電流、我にまとえ。『クイックボルト』」

そのまま、空中から稲妻のように残った魔物へと接近する。



「蓄えし力を発散する。(いかづち)の源たる帯電、その力を発揮せよ。『ディスチャージ』」

そして、残った全ての魔物へと電気が放たれ、魔物が一掃されてスタンピードが終結した。


「スタンピード程度に我が出る必要があるとは、栄誉を持たざる庶民はなんと貧弱なことか。」

「だが案ずるな。栄誉が絶大なる力をもたらすのは当然の事。何も悔やむ必要などない。」



「スゴい、、、」

と、アヤノも他の冒険者もあまりの強さに、言葉を失っていた。


ふむ。このスタンピードをこの速さで片づけるか。

それに、雷属性災害級魔法『ライトニング』。

どうやらこの世界において、かなりの実力のようだ。


だが、1つ考えを改めなければならないな。

かつて『厨二病』とは、実力を持たない者の事を言うと考えていたが、どうやら実力を持った厨二病も存在するらしい。

せっかく、雷属性の連続使用で詠唱を一部省略できるというのに、自分で無駄な詠唱をさらに発生させるとはな。


スキル『鑑定』

――――――

只野 エレキ 雷

・武術

なし

・魔術

雷属性魔法Lv.99

・技術

なし

・その他

雷の支配者

――――――

なるほど。

どうやら、こいつは連邦に召喚された転移者のようだな。

確か連邦では勇者と呼ばれていたか。


特筆すべきは、勇者が必ず1つは持つとされるユニークスキル。

こいつのは、『雷の支配者』か。

鑑定によれば、雷属性魔法の扱いを簡単にするが、それ以外のスキルはほとんど扱えなくなる。


なるほどな。

雷属性魔法に特化した『最強』と言ったところか。



そして、その男がクイックボルトで城壁の上に戻って来て、それに魔導師団の団長と思われる人物が話しかける。

「勇者エレキ殿。スタンピード鎮圧へのご助力、感謝します。」

「栄誉を持つ者にかかればこの程度容易い。貴様ら庶民も、栄誉を手にする努力をすると良い。」

「精進します。」


「とは言え、今回はやけに魔物共が賑やかだったのではないか?」

「はい。いつもであれば、我々も問題なく対応できますが、今回は魔物の数が非常に多く、対応しきれておりませんでした。」

「であれば、栄誉を持たざる庶民達は今後も気をつけた方が良いであろう。世の変動に庶民達がついてこられるとは限らん。」

「警戒を続けます。」

確かに、今回のスタンピードは異常だっただろう。


スタンピード対策が万全なこの都市でさえ、対応しきれない量に収まらず、

スタンピードは災害の一種。

その危険度は災害級魔法と同レベルだ。

にもか関わらず、魔導師団と冒険者によって削られていた状態へのライトニングでも魔物が残る程の量。


森の奥にキングクラスの魔物が潜んでいたが、キングクラスの魔物が起こせるスタンピードの量でもない。

かなり高い知性を持ち、地の利というのを理解してダンジョンもしくは自身の縄張りからほとんど出てこないキングクラスの魔物がスタンピードを起こしているのも異常だが、今回のスタンピードはキングクラスの魔物以外の原因がいると考えられるだろう。


その原因が故意的な物なのであれば、フライハイト国家連邦の破壊という目的の為に協力するという手がある。

とは言え、こちらの準備は万全ではない。

こちらが狙われない限りは中立として無視で良いだろう。


それよりも、スタンピードでレベルを上げようと思っていた分をこの勇者と戦ってみることで補うとしよう。

レベルアップに加えてユニークスキルの情報。

一石二鳥という奴だな。


「だが、安心するが良い。我はしばらくここに留まることとする。何かあれば、栄誉を持つ我が対応してやろうではないか。必要ができたのならば、我を呼ぶが良い。」

「了解しました。」



その後、冒険者達は一度冒険者ギルドへと集められ、そこで魔力切れの近い魔法使い達には少量の低級魔力回復ポーションが配られ、損耗の少ない冒険者パーティー達で最終的なスタンピードの終結を確認する事となった。

そこで、プラハトとティピカ、アヤノには中級魔力回復ポーションを渡してスタンピード終結確認を行う事にした。


そして、パーティー単位で散開してシャッテン森林を見回ることになった。

「もうマモノはいなさそうですね。」

「疲れたし、もう魔法の連続使用はしたくな〜い。」

「確かに、この前はずっと魔術紙を使っての訓練だったからな。今度は連続詠唱しても魔力操作に集中できるように訓練するか。」

「え〜?」


さて。そろそろ例の場所を近くの冒険者が発見するだろう。

すると、そう遠くない場所から悲鳴が聞こえてきた。

「ヒメイ?!」

「スタンピードの残党がいたのかもしれない。向かうとしよう。」


そして悲鳴の聞こえた方へと、森の中を小走りで進むと、動揺している様子の冒険者達が見えた。

「大丈夫ですか?」


「キャァッ!」「うわゃあっ」

すると、スタンピード前に口封じした冒険者達の死体を見つけたアヤノが悲鳴を上げ、プラハトは驚きで言葉ではない言葉を放った。

「弓で何本か打たれて、その一部が急所に当たって即死みたいです。」

一方で、ティピカは冷静に死体の状況を分析していた。

どうやら、軍で場慣れしているようだな。


「この辺りはスケルトンが出る。たぶん、スタンピードで押し寄せたスケルトンにやられたんでしょう。」

「それにしても、かなりの数のスケルトンが居たようですね。この辺りにはたくさんの矢が刺さっている。」

と、偽装した現場をそれらしく分析していると、第一発見者のパーティー所属の背丈ほどの大きさの魔法の杖を持った女性が話しかけてきた。

「まぁ、そんなところでしょうね。彼らは周りを見下して、自分達の実力を過信する所があって油断していたでしょうし、この数が相手では逃げる暇もなかったと見てまず間違いないでしょう。」


「あなたは?」

「言い忘れたわね。私は彼らと同じくずっとここで冒険者をしているエクスパーテよ。」

「アポステルです。ここへは最近来たばかりです。」


「来たばっかりでこれなんて、ついてないわね。」

「いやむしろ、スタンピード対策が抜群の城壁内に到着していて運が良かったですよ。」

「それもそうね。今回の異常なスタンピードは、フォルツダンジョン都市の城壁と勇者さんの力あってこそ耐えられた。」

そうこうして、それ以降も時々逃げ遅れた冒険者の死体を見つけては報告するを繰り返したが、魔物の1匹すら出くわすことなく、他の場所でもそうだったようで、ひとまずスタンピードは終結したことになった。

スタンピードで倒された魔物の素材はギルドが回収し、その資金で冒険者全員に報奨金が分配された。

今回は量が量だったのもあり、ちょっとしたお小遣い稼ぎになったな。それでも端金(はしたがね)ではあるが。

その後は、魔物が出払っている隙を狙ってダンジョンに入り浸る冒険者が多発し、自然沸きの魔物を狩る冒険者の姿はなかった。



「もう日が暮れるか。仕方ない、連続詠唱の訓練は明日にするとしよう。その後は休まず夜戦の訓練もする。今日は明日の分まで休んでおけ。明日になっても魔物がいなければ、夜戦は実戦形式にする。気を抜くなよ?」

とは言え、夜間において、ほとんどの魔法は煙草の火以上に隠蔽性が悪い。

昼に魔法を打ちまくったとしても、使わなければ何にもならない。

まずは、夜戦の緊張下でどれほど普段通りでいられるかを重視した訓練にする予定だしな。




その後、太陽が完全に沈み、新月の暗闇が辺りを包んでいる中、雷魔法の光で照らされている人物へと近づく人影があった。


「『(かみなり)支配者(しはいしゃ)』、只野 エレキ 雷とはお前の事か?」

「忠告する。庶民、それは間違いである。我が称号は(いかづち)支配者(ヴラデーリェツ)。栄誉たるは(いかづち)であり、(かみなり)とは異なる存在。栄誉を持たざる庶民には理解し難いかもしれぬが、決して間違えてはならないものである。」

(かみなり)属性魔法と言うのに『いかづち』と読む理由は謎だが、まぁどうでも良いだろう。


「して、貴様は我に何の用だ?答えよ。」

「なに、簡単な事だ。勇者という者の実力が気になった。そして手合わせに挑もうと思った。それだけだ。」

俺は相手の実力を測るのは得意だが、こいつからはずっと自分は強いという根拠さえない自惚れた立ち振る舞いを感じる。

前世であれば、それはただの厨二病の特徴だったが、実際にこいつは『最強』であるはずだ。

実力を得てもなお、厨二病の立ち振る舞いから変わらないと言う事は、こいつはもっと強い姿を思い描いている。


だからこそ、こいつのユニークスキル含む実力の全容を正確に測っておかなければならない。

厨二病が厨二病でいる間は脅威ではないが、実力を手にしたら、その後の環境次第で化け得る。

前世で、『厨二病』を実力を持っていない者のみに限定し、実力を持っているものはそうではないと区別した理由は、これだからな。

つまり、こいつは実力を既に持っていながら、今後さらに化ける可能性を秘めている。魔法という実力を手に入れる手段を既に得ているこいつは、いつ化けてもおかしくないという事だ。


「ハッハッハッ、」

「我に挑む?」

「庶民でありながらも面白いことを言うではないか。」

「栄誉を持たざる人の身において、栄華を誇る(いかづち)には敵わないと知れ。」


「栄誉の真価を示す。栄華の領域を展開せよ。『エレクトリックフィールド』」

電気が周囲に展開され、その暗闇をうっすらと照らし出し、2人の人影をあらわにする。

一方は3本の雷の描かれた灰色の服を見に纏う青年。もう一方は全身真っ黒で、フードを深く被って口元も布で隠している為、顔も性別も何も分からなかった。


「我が栄誉の偉大さを貴様に示してやる。さあ、庶民の力を振るってくるが良い。」

最初に、上級魔法の『エレクトリックフィールド』を展開したか。

周囲の雷属性魔法の威力を高め、それ以外の魔法の威力を下げる。

確かに『最強』としては妥当な魔法だが、『完全』には及ばない。


第一に、魔法というのは初級か中級かだけでなく、込める魔力量によっても威力が変わる。

初級魔法なんかは元が低威力故にそれが顕著だが、中でも雷属性の初級魔法は特に魔力依存で、その性能を簡単に変え得る。


そして、魔力量は魔術系スキルの合計レベルに依存する。

合計レベルであれば、俺はLv.99を超えている。

よって、その魔力量によって放たれる魔法は、『最強』を超す威力となる。

だからこそ、雷属性最強相手でも俺は雷属性で戦える。


「雷属性初級魔法『エレクトリック』」

初撃ではあるが、かなりの魔力量を込めて電撃を放つ。

ポーションを使う手もある上、高速再生Lv.10の『超速再生』もある。大した消費量ではない。

「抗え。抵抗(オメガ)

その電撃を、青年は右手から展開した電気の壁で防いだ。


ふむ。何の詠唱か突き止めなければな。


「力を発揮せよ。電力(ワット)

電撃を防ぎきった青年は、電気の壁を解除して左手を前に突き出し、そこから電線を通すかのように一直線上に電撃を放つ。

「雷属性初級魔法『クイックボルト』」


雷属性にしてはやけに精度が高いな。


「全てを貫き通せ。電流(アンペア)

青年がさらに連続して、左手から素早い電撃を放つ。

スキル『錬金術』

それを大きなミスリルの盾を錬金して防ぐ。


ミスリルは魔力をよく通すが、魔力から変換された電気はほとんど通さない。

つまり、ミスリルは魔法防御力が高くて魔法攻撃力が高い、理想的な物質という事だ。


「眼下に叩きつけよ。電圧(ボルト)

青年が今度は両手を突き出し、指先から多数の電撃をミスリルの盾に向けて放つ。

盾を回避するように打たなかったという事は、盾を貫通させる気だな。

だが、今度の電撃は遅い。

盾を地面に突き刺し、錬金術で太めの金の針金を作って、その端を盾の持ち手に結びつけて、もう一端を接地させて、その場から少し離れる。

それによって盾に命中した電撃がアースして無力化された。


なるほど。規則性はほぼ掴んだ。


「力を保有せよ。電荷(クーロン)

次に青年はその両手を頭上に向け、そこに電気の塊を生み出した。

その塊がある程度大きくなると、手元を離れて上昇していった。

貫通を止め、上から射線を通すつもりか。

闇属性中級魔法『ファントム』

それに加えて、懐から光属性中級魔法『ミラージュ』の魔術紙取り出して使用する。

やがて電気の塊が盾の真上にまで移動すると、塊から盾の周辺へと多数の電撃が放たれて、土煙を発生させた。


その土煙が晴れると、盾の後ろには依然として(たたず)む姿が見えた。

「ここまでよく耐えたものだ。栄誉を持たざる庶民にしては上出来ではないか。」

「それに合わせ、我は栄華の何たるかを示すとしよう。」


「天より(いかづち)が放たれる。もはや天上の神による(いかづち)はこの地の全てにおいて逃れる術がないと知れ。雷属性魔法、神級(・・)。『サンダーボルト』」

すると、突如として上空に魔法陣が浮かび上がり、そこから雷が佇む人影へと降り注ぎ、大きな雷鳴と土煙を引き起こした。


その後、雷の着弾点には人影も盾すらも残っておらず、雷で抉られた地面が残るのみだった。


・・・


光属性中級魔法『シャインレーザー』

と同時に、雷属性中級魔法『エレキパルス』の魔術紙を使用して放つ。


エレクトロクラック(・・・・・・・・・)

それに驚きながらも反応した青年は、予備動作なくその言葉を発し、その姿を消した。


躱されたか。

クイックボルトのように素早く回避したわけではない。

まるでそこから消える、瞬間移動かのようだ。


まさか、今の俺に匹敵する実力とはな。

だが問題ない。

一部、技の正体は掴んだ。

途中のオメガだとかボルトだとかは、初級魔法エレクトリックの応用をユニークスキルで詠唱改変したに過ぎず、問題ではない。


残るは『神級』と『エレクトロクラック』。

神ですら知らないか、意図的に隠していたか。


ふっ、一体どちらだろうな。

・???

我が同志と戦っている相手、面白そうじゃないか。

闇の気配。引き続き観察のみに留めるとしようか。


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