表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全無欠の悪へと成った男の異世界暗躍記  作者: ゲームマスター
下地編 〜闇は準備を整える〜
3/7

3.感情は利用するものだ。

そうして、買った奴隷を連れてエレンズシュタットの宿へと着いた。


「4人分。なるべく1部屋の方が良いが、あるか?」

「4人1部屋ですね。ございます。」

「なら、食事付きで1泊する。金貨2枚で、お釣りは口止め料に。」

「口止め料、確かに受け取りました。」


ここ、エレンズシュタットの宿ではチップとして口止め料を払い、宿泊者名を残さないと言うのが基本だ。

エレンズシュタットには、闇ギルドに所属する多くの指名手配犯がやってくる。

その指名手配犯にとって、足取りを途絶えさせるというのに宿の口止め料を使うのが便利というわけだ。

だから、この最悪な治安の中でも宿として運営できている。


そして、案内された部屋に入るとプラハトが

「あの、、、その、」

「何だ?」


「私、何もできなくて、、、だから、そういう事も、、、」

あぁなるほど。

主に、監視の目が行き届くように1部屋に集めたが、別の意味だと勘違いしたのか。

「簡潔に答えよう。必要ない。将来的にはできるように鍛えるが、今はできなくて構わない。」


「本当、、、ですか?」

「ここで嘘をつくことに何の意味がある。」



「それはそうと、アヤノ・シミズ。」

アヤノが名前を呼ばれたことに反応する。


俺は女神の所で異世界語を習得した時、日本語にかなり近い言語である事も分かっている。

故に、自らの手で規則性を見つけ出したかのように演じる事は簡単だ。


またアヤノに紙と書くものを渡す。

「火属性初級魔法『ファイア』」

手のひらに火の玉を出現させ、書くようにジェスチャーする。

「《()(ほのお)。》」

言い方2つに、漢字とふりがなの両方を書いているな。

言語を解明しようとしている空気を読んだか。

こういう時に、日本人というのは便利で良い。


「水属性初級魔法『ウォーター』」

今度は手のひらに水を生成し、桶に流す。

「《(みず)。》」

・・・


・・・


この流れを一通り行い、そこで確認できた異世界語との対応を、紙に50音にして表を作る。

それを見たアヤノが日本語の50音表を書く。


よし、これで言語の壁は突破完了だな。

「《あいうえお。はつおんわこれであっているか?》」

「《すごい!合ってる!合ってる!》」


「「???」」

プラハトとティピカの理解が追いついていないようだな。

説明するとしよう。


「どうやら、アヤノの発していた単語には50音に対応した規則性がある事が分かった。そして、その規則性を特定する事で会話できるようになったという事だ。」

「よく分からないけど、すごい。のかな?」


「あとはアヤノに発音と読み書きを覚えさせるだけだ。そのついでにお前らの読み書きもできるようにしてやる。」

「本当ですかっ!」「本当?!」


「あぁ。そのくらいできないと不便だろう?」

「ありがとうございます!」

「私達奴隷に、読み書きを教えて下さるなんて、、、感謝の言葉しかでませんっ!私は、あなた様に一生ついて行きます!」


ふっ、チョロいな。

プラハトの方は少し予想以上の反応だったが、問題ではない。

むしろ好都合だろう。

いくら奴隷契約で命令できるとは言え、士気というのは大事だ。

命令で強制的に動くのと、命令を受けて自主的に動くのとでは、自主的に動く方が力を発揮しやすいだろう。

命令を受けて自主的に動くようにするには、俺に対して好意的な感情を持たせるのが1番だ。


さて、こちらの対応は終わった。

であれば、

「《アヤノ。そのことばはどこのげんごだ?きいたことがない。》」


「《・・・》」

「《なにかいいよどむようなことなのか?あるていどのことならきょうりょくできるが。》」


「《信じてもらえるか分かりませんが、、、私は、こことは違う世界。異世界からやって来たんです。》」

「《いせかい。なのにげんごがにている。いや、いせかいだからこそにている?》」


「《ひとまず、どんなせかいにいたんだ?》」

「《私は日本という国に生まれ、平和に暮らして居ました。》」

『平和に』?

日本は最初に国家転覆して東南アジア支部を設立したはず。

治安は悪化し、とても平和な日々を送れるとは言えないはずだが。

いや、世界全国を国家転覆させた後と前を比較すれば、前と比べて治安が安定し、平和になったと言えるか?

もう少し探った方が良さそうだな。


「《ちなみに、いつからあそこ、というかこのせかいに?》」

「《分かりません。この世界に来てすぐにあそこに連れられて、それからはずっと、、、》」

と言ってアヤノが泣き出した。


精神力はさほどないか。

「《おちつけ。おちつけ。あそこでなにがあったかまではわからないが、もうだいじょうぶだ。》」

別に奴隷である事に変わりはなく、大丈夫な要素などないがな。


「《ずっと独りで、大変で、何も分からなくて、、、》」

「《ひとりでがんばったな。たいへんだったな。》」

こういうのは他と比べて簡単だ。

ずっと肯定し続ければ良いだけだからな。


アヤノが泣き崩れ、その場にうずくまる。

それを両腕で表面上優しく包み、なぐさめる。


このくらいで、買った奴隷全員の心理的な掌握はできただろう。

であれば明日からは、全員に読み書きを覚えさせることからだな。

鍛えるのはそれからだ。


闇ギルド本部も見てまわっておきたいからな。

鍛えるとなるとエレンズシュタットを出なければならない。

この街には、犯罪者達は居ても魔物は居ない。

もし魔物が出たとしても、腕試しがてらにやられるかサンドバッグにされてやられるからだ。

この街において弱い奴は人も魔物も皆平等にやられるって事だな。


だから魔物相手に戦闘訓練をするにはここ以外に行かなければならないが、闇ギルド本部に脱法奴隷以外にも何か良いものがないかは見ておきたい。

しばらくはこの宿に留まるとしよう。


そうこうしている内にアヤノが泣き止んだ。

「《とりあえず、きょうはねろ。》」

「《うん。》」


「さて、明日からは読み書きを覚えさせる。今日は早めに寝ておけ。」

「「はい!」」


そうして全員が寝静まったのを確認し、醸造スキルで作った揮発性の睡眠薬を枕元に置いて部屋を出る。


それにしても高速再生のスキルは便利だな。

脳の回復も早めてくれるから、睡眠時間を短くできる。

しかも浅い眠りで短くできるからこそ、寝込みを襲われてやられる可能性を限りなく低くできる。

そして、短くした分をこうして活用できるわけだ。

この時間で闇ギルド本部なり、エレンズシュタットの店なりを見て回るとしよう。



そうして1人で歩き回っていると、痺れるような気配を感じた。


他の奴らも薄らと感じ取ったか。

だが流石だな。誰一人取り乱さない。


それはそうと、魔力感知スキルが反応した。

つまり、魔法か何かという事になるが、方角的にはフライハイト国家連邦の方からか。


何かあったな。

連邦に行く時には気をつけるとしよう。

だいぶ離れているように感じるにも関わらず、この痺れさせる気配。

前世でも感じることはなかった。



ふっ、面白いじゃないか。異世界。

・ネス

感情とは時に便利だ。

上手く利用すれば、心理的に行動を操る事ができる。

だが、上書きされた時にはリスクとなる。そして、感情は時に合理性を欠く。

その2つさえ気をつければ、ある程度有用だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ