11.ふっ、神のお告げってね。
翌日、組織の手配した馬車でグリートマーセンの教会へと向かう。
そして昼頃に教会の前へ着き、中に通された。
「またの再会を神に感謝を。お久しぶりです、ハイリヒ君。」
「お久しぶりです。シスター、ユンカー。」
「早速ですが先日、魔族領の奥地のこの場所に魔王が復活したと神からお告げがありました。」
そう言って、シスターは机の上に用意された大陸地図に指を刺す。
「マオウ?」
「はい。かつて、魔族による人族の殺戮を主導したとされる存在です。」
「魔族ってそんなに強いです?前戦った時もそんな強くなかったです。」
「魔族は恐ろしい存在です。かつて魔王を討伐した時も魔族根絶の為、神軍を派遣しましたが、魔族領の荒廃した土地と魔族の力に阻まれ、完遂することができませんでした。」
「魔族領の荒廃した土地は補給に適さず、軍隊を維持するのは困難。そして高い知能を持つ魔族はそこを狙ってくる。その知能はキングクラスの魔物以上だ。しかし、魔族全てが高い知能を有する訳ではない。低い知能の魔族は時折魔族領を出て、こちら側に来る。それが魔族がさほど強くないというバイアスの原因だ。」
「なるほどです。」
「その通りです。それに加えて、私達の神軍は先の大戦で弱体化しています。」
「だから補給の問題が発生しない少数精鋭、俺らに頼もうという訳か。」
「そのようにせよとのお告げです。」
ふっ、便利なもんだな。
「いくつか直接確認したいことがある。確認できるか?」
「可能とのことです。案内しましょう。」
そうして教会の奥の方へと進み、特に豪華絢爛な扉の前にやってきた。
「この先は神に認められた者のみが入ることを許されます。お三方は私とこちらでお待ちを。」
すると扉が開き、その部屋へと入ると、その豪華な内装でも際立って存在する神座があった。
そして次の瞬間、その神座に見覚えのある姿、神フリューアーが現れた。
「さて、単刀直入に聞こう。魔王討伐は俺に対する追加の依頼ということでいいな?」
「はい。その通りです。」
「ではその対価として、魔王討伐後も魔族領は引き続き北の緩衝地帯として残しつつ、俺が自由に活動できる土地とすることを要求する。」
「分かりました。」
「取り引き成立だな。」
「では次の話だ。少し前に勇者の1人と接触したが、そいつの使った魔法『エレクトロクラック』とは何だ。」
「そのような魔法はないはずですが、」
「ふむ。ではもう一つ、魔法には初級中級上級があり、Lv.50で使えるようになる災害級魔法が最上位だと言っていたな。」
「はい。」
「では神級とは何だ。雷属性魔法Lv.99の勇者が使っていたが。」
「、分かりません。」
ふむ。
「そうか。」
「最後に、魔王が復活したから討伐を依頼するとのことだが、それは急を要する、つまり魔王が魔族を率いて侵略する可能性が高いのか?」
「はい。魔族が力をつける前に討伐する必要があります。」
「なら、手早く済ませるとしよう。」
「俺が確認したいことはそれだけだ。」
「分かりました。それでは、フライハイト国家連邦の破壊に加えての魔王討伐、お願いします。」
「あぁ。もちろんだ。」
そして扉の方へ向き直った瞬間、神座が光って神は姿を消し、扉が開いた。
魔族領において確かめたいこともあったからな。ちょうど良いだろう。
その後部屋を出ると、直後に扉が閉まった。
「はやっ」
「思ったより早いです。」
「少し急いだ方が良いとのことだ。そこで早速、魔族領と隣接する町、ノルディッシュタウンへ向かう。」
「神の加護のあらんことを。」
そうして、教会を出てギルドへ向かった。
さて。ここに戻ってくるのが、これほど早くになるとはな。
「あ、ハイリヒ兄ちゃんだ〜!」
「兄ちゃんだ〜!」
ギルドに入ると、それに気づいた子供2人がこちらに向かってきた。
「ヴァイゼ、キント。久しぶりー。」
「見て見て!僕、ハイリヒの兄ちゃんと同じ冒険者になったんだよ!」
「僕も僕も!」
「そうかー、まずはDランクになれるよう、頑張れよー。」
ひとまず2人の頭を撫でて宥める。
「あ!そういえば依頼受けてたんだった!いってきま〜す!」
「バイバ〜イ。」
「またなー。」
「どこでもコドモはカワイイものですね。」
「可愛かった〜。」
「満10歳超えてるから子供じゃないです。」
ここでは満10歳以上で大人だが、前世を基準に考えれば10歳はまだまだ子供だからな。
可愛いものだと言えるだろう。
無知ゆえに簡単に騙せる。
ハニートラップを駆使せずに好意を抱かせるなんてのもチョロいもんだ。
適当に優しくしておけばすぐに懐くし、それを見た周りの奴は俺のことを優しい人だと認識する。
好意を抱かせておけば、将来的にこちら側へつかせるのも難しくない。
可愛いものじゃないか。
「今回はワイバーンを借りて向かうとしょう。」
「護送依頼じゃなくてです?」
「あぁ。ワイバーンの方が馬車の何倍も速い上、ここからノルディッシュタウンへは陸路だと遠回りになる。」
そしてノルディッシュタウンへの配達依頼を受けた後に従魔ギルドの区画へ行き、ワイバーンを借りて発着場に移動した。
「なんでレンタル料よりオオくハラったの?」
「ワイバーンの盗難防止だ。借りたままどこかに消えられたらギルドとしてはたまったもんじゃないからな。余分に払った分はワイバーンを返した時に初めて返金される。要は保証金だな。」
と言っても、完全には予防できてないがな。
「どど、どうやって乗るんですか?」
「馬みたいに乗れば良いです?」
「鞍の上にまたがれ。操縦は俺がする。振り落とされないように、鞍についている縄をしっかりと握っておけよ?」
まずアヤノがワイバーンに触れ、様子を見た後に乗ってみた。
それを見たティピカが、馬に乗る要領でワイバーンに乗り込もうとして登れず、途中で落ちそうになっていた。
それをアヤノは手を伸ばして登るのを手助けし、その光景を見ていたプラハトは笑っていたが、その後いざ自分の番となると、思っていたより高いワイバーンの背にビビっていた。
ふむ。これまで相手させた魔物は見下ろす形しかなかったからな。
相手を見上げる経験はなかったか。
スタンピードの時は背丈の大きい魔物も居たが、それ以上に城壁が高かったからな。
精神面もそろそろ鍛えるとしよう。
ひとまず、剣を鞘から取り出してわざと音を立てながら剣を研ぐ。
その音を聞いたプラハトは反射的に鳥肌がたった。
前世で例えるなら、黒板に爪を立てた音に遠からず近い音になるように調整したからな。
訓練していない限り、この音はゾワゾワと感じる。
「な、なんで今剣研いでるんですか?」
プラハトが暗に拒否感を示した所にトドメを刺すとしよう。
「必要になりそうだからな。」
そう言うと、プラハトはすぐさま火事場の馬鹿力を発揮してワイバーンに乗り込めた。
さて。出発するとしよう。
ワイバーンの前側の操縦士席の方から片手だけで軽やかに飛び乗り、ワイバーンを飛びたたせる。
推測によればおそらく、実際にノルディッシュタウンでは剣が必要になる、つまり戦闘が起きるだろう。
その根拠はまず、魔王の復活で魔族が活気づく。
次に、先日のスタンピード。あれは普通ではなかった。人為的なものと見て良いだろう。
そしてフォルツダンジョン都市の位置。
連邦側で魔族領に接しているのはミリテールのみだが、その中でもフォルツはスタンピード発生を前提とした要塞都市。
城壁の硬さ。籠城に足る食糧の貯蓄。周辺都市からの援軍が受けやすいアクセスの良さ。
もし、あの時に勇者が駆けつけておらず、俺も介入せずにスタンピードが一掃されなかったとしても、スタンピードの解決は時間の問題だ。
確かに、魔物が多過ぎて冒険者達が近接でズバズバと魔物を減らせず、全員の魔力もいずれ尽きて最終的には魔物を攻撃しようがなくなるとはいえ、あの魔物の大群が城壁を取り囲む事はできても、突破はできない。
すぐに多数の援軍が到着し、城壁を囲む魔物を援軍て取り囲み、援軍と都市からの挟撃でスタンピードは時間をかけつつも片付けられるだろう。
ではなぜ、あそこでスタンピードを起こしたのか。
問題は、アクセスの良さだ。
アクセスが良いから援軍が円滑に到着する。
そう、アクセスが良すぎるんだ。
スタンピードの為にミリテール各地から援軍が送られ、素早く戦力が集中する。
すると、他の戦力は手薄になる。
まぁ、アクセスが良いということは、帰りも同様だということだが、速攻によって混乱を引き起こせばなし崩し的に前線は突破可能。
後はどこかの森林にでも身を隠してしまえば良い。
つまるところ、スタンピードは陽動作戦。
そもそもの陽動作戦が失敗した今、相手はどう動くか。
作戦を変えるか、場所を変えるか、時間を置くか。
大まかにこの3つだ。
マハトに来るとすれば、場所を変える選択をしたということになるが、作戦も変えてくる可能性も十分にある。
確実ではないが、可能性があるなら十分だ。
それに、こちらは陸路の代わりに空路が発展していて、数に限りのあるワイバーンさえ抑えてしまえば情報の伝達さえも妨害できる。
ワイバーンを抑える方法として、陽動のスタンピードで冒険者達がこぞってワイバーンを借りるように仕向ければ良い。
そうすれば、ワイバーンが早馬のように素早く襲撃に遭っているとの情報を伝達するのを防ぎ、険しい陸路で時間をかけて早馬が情報伝達するしかない。
その点からは、わざわざ作戦を変えたりする必要性はないと言える。
そうしてしばらく飛んで、ノルディッシュタウンが見えてくると、何やらワイバーンが慌ただしく飛び去っていく様子が見えた。
その後、発着場にワイバーンを着地させ、降りて近くにいた従魔ギルドの職員に話しかける。
「先ほど、ワイバーンが何匹も飛び去って行くのが見えましたが、何かあったんですか?」
「あぁ。スタンピードが起こったらしい。しかもワイバーンやドレイクの群れが多くて、地上からはなかなか数を減らせないそうなんだ。」
「それでワイバーンが。」
「あぁ。冒険者達はみんなワイバーンで飛んでいって、その結果今ここにはそのワイバーン1体しか居なくなったって訳だ。」
「私達も向かうです?」
「それは辞めといた方が良い。あんたらは皇都から来たんだろう?見たところ、こいつは疲れてる。皇都はここと違って往来が激しいからな。戦う体力は残ってなさそうだ。」
「それならワイバーンで向かうのは諦めます。ちなみに、スタンピードが起きてるのはどこですか?」
「アプレンケ村だ。ワイバーンなら何とかなるくらいの距離だが、ここからはだいぶ遠い。それに、もうすぐ日暮れだ。スタンピードのワイバーンも動きが鈍くなってくる頃だし、神聖龍団のドラゴンが蹴散らしてくれるさ。」
「それもそうですね。では、僕達は配達の依頼を済ませるとします。」
その後、配達の依頼を手短に済ませ、夕日が沈もうとしている頃には宿に戻って3人を寝かせた。
さて。早速魔族が来たようだな。
すぐに服装を変え、ネスとして森の方へと向かう。
一方、森の中に潜む魔族達は今まさに町へ奇襲をかけようとしていた。
すると、魔族達の目に町から出て森に近づいてくる人影が映った。
両手をポケットに突っ込み、まるで警戒していないように見える人間を見て、人間への殺意に燃えていた魔族の内の1体が、並大抵の冒険者では反応すらできない速度で近づき、それによって戦端が開かれようとしていた。
・ネス
宗教とは弱者を操るのに都合の良い道具だ。自分自身に頼れない弱者は神に縋る。便利なもんだな。




