1.転生か。面白い。
21XX年、国際テロ組織「悪ノ勝利世界」の台頭によって、世界中のあらゆる政府組織・警察組織は破壊された。
ICPOや、世界の警察を自称する国の大統領でさえ、その手から逃げることはできなかった。
そんな中、悪ノ勝利世界の東南アジア支部(旧日本)にて。
「ボス。北アメリカ支部の核シェルターの制圧は完了しましたが、シベリア支部(旧ロシア)にて、政府軍が攻撃を開始しました。」
「そうか。石油はこちらが掌握している。持久戦に持ち込め。」
「はっ。」
警察連続殺人から始まった、「正義は必ず勝つ」の反例を世界に示す為の犯罪の日々。
それによって、もはやこの世に正義は存在しない、混沌に満ちた世界へと生まれ変わった。
完全な悪になる事を果たせただろう。
とは言え、この俺も100歳を超える年に勝つのは無理だったようだ。
「俺も流石に年という奴だ。次のボスは、俺の遺伝子を持つ『未来』。お前に任せよう。」
そして、意識を失った。
完全な悪。それは達成できたが、やはり寿命には勝てなかったか。
だが、もし今度があるならば、そこでは生物の枠を超えなければならないだろう。
・・・
・・・
すると、何者かに声をかけられた。
「あなたを待っていました。」
誰だ?組織のメンバーの声ではない。
何らかの理由で耳に不調をきたして聞こえる声の波長が変わっているとしても、俺の事を「あなた」と呼ぶ奴は組織に居ない。
なら組織でない奴の声か。
だが、俺は東南アジア支部にいたはずだ。
組織の支配も行き渡って、治安も一周回って安定している。
敵襲を受けるような場所ではない。
そう思い、目を開けると、
白い空間に人影。
目を凝らすと、その人影からは鳥の翼のようなものが見えた。
この空間は何だ?
妙に白い。
世界中のどこにも、これだけの広さの空間を明るく照らせるほどの電力はないはずだ。
とすれば、常識が通じていない。幻覚かそれ以外か。
ひとまず話しかけてきた奴の方へと向かうとしよう。
白い霧のようなものが漂う空間を人影の方へと歩くかのようにして進み、人影の正体がわかる距離まで近づいた。
「初めまして。私は女神フリューアー。地球を含むいくつかの世界を管理する神です。」
見た目としては、古代ギリシャのような衣装を着た女。
ただ、背中には鳥の翼のような骨が生えていた。
ふむ。この空間と言い、その見た目。非現実性は強い。
とすれば、女神というのも妥当だろう。
それで、待っていたというのはどういう意味だ?
・・・
ふむ。とりあえず聞くとしよう。
「さっきの『待っていた』とは、どういう意味だ?」
「あなたがその命を終え、魂のリサイクルに入るタイミングを待っていたのです。」
「魂のリサイクル。それはいわゆる輪廻転生か?」
「そういう認識でも構いませんが、正確には、魂を素材の状態に戻してそれを新たな魂を作る材料にするというものです。」
「ふっ、天界でも持続可能社会って奴の話か?随分と現代的なもんだ。」
「昔は使い捨てで魂をどんどん作っていましたが、そこで使い捨てた魂が劣化し、汚染されて異世界に流れることで、その世界のガン細胞となって世界が破壊されようとしているのです。」
「昔はゴミ処理を怠っていたという訳だな。」
「はい。そこで、あなたに汚染された魂の排除をお願いしたいのです。」
「ふむ。俺に依頼するからには取り引きだろうな?」
「もちろんです。あなたには多くの国を飲み込んで膨張するフライハイト国家連邦の破壊をしてもらう代わりに、転生した異世界で自由に暮らしてもらって構いません。」
「なるほど。ちなみに失敗、つまり俺が死んだ場合にはどうなる。」
異世界とは言え、そんなことはないだろうがな。
「いえ。あなたであればできると確信しています。記憶にないかもしれませんが、あなたは地球でいくつもの国を破壊してきました。」
「よく分かっているじゃないか。俺は地球で、完全な悪になった。時間がかかることはあるだろうが、基本的に成功するだろう。」
「・・・もしかして、記憶を保っているのですか?」
「何を言っているのか分からないが、『正義は必ず勝つ』の反例を世界に示すと決めてから警察、政府組織を消すまでに至った事を一度たりとも忘れた覚えはない。」
「記憶は肉体に宿るもの。頭が破損したり、肉体を失えば簡単に記憶を失う。それをあなたは魂だけにも関わらず、保っている。はっきり言うと、凄まじい精神力です。」
「俺は肉体だけ鍛えていた訳ではないからな。完全である為に精神も鍛えてある。」
「なのであれば、依頼の方に話を戻しますが、取り引き成立という事でよろしいでしょうか?」
「あぁ。俺は異世界に転生し、フライハイト国家連邦を壊せば良い。それさえこなせば、異世界で自由に過ごしてかまわないんだな?」
「はい。それでは早速、転生の方wo…」
「待て。」
「何でしょうか?」
「まず確認だ。俺がここに留まるのに時間制限はあるか?」
「いえ、ありませんが。」
「なら、転生する異世界の常識等の情報を教えろ。異なる世界だというのに、何の情報も持たずに突入する訳にはいかないからな。」
「分かりました。では、・・・」
・・・
・・・
スキルとそのレベルによって人々が魔法を使う世界。
スキルとは神々からの天命であり、そのレベルを上げる事でそれに応えなければならない。
スキルレベルが高い者が貴族となり、権力を握っているスキル至上主義と。
肝心のレベリングは、Lv.10を超えた辺りからレベルアップがし辛くなる。
故に、生まれた頃から高レベルのスキルを持つ貴族や王族はずっとその地位を保ち続ける。
「よし。大体の事は分かった。」
「では、転生の準備を始めます。」
「あなたが転生するのはマハト神聖皇国の教会付属孤児院。」
「スキルは私の方で揃えておきました。何かスキルについて要望があればどうぞ。」
ーーーーーー
・武術
体術Lv.10
剣術Lv.3
弓術Lv.3
短剣術Lv.10
投擲Lv.5
・魔法
闇属性魔法Lv.3
・技術
鑑定Lv.1
・その他
なし
ーーーーーー
「まず、スキルは最低限のLv.1で良い。それと、武術に関しては前世で習得済みだ。わざわざスキルに振る必要はない。ふむ、、、スキル一覧を見せろ。俺が自分で決める。」
「分かりました。あなたの魂はかなり強いので、初期スキルの合計レベルが35まで取得できるでしょう。」
ふむ。
前世で扱ったことのない武術系スキルはないな。
なら、武術スキルは生まれてから手に入れれば良い。
優先すべきは、前世に存在しなかった魔法系スキルだ。
火・水・風・土・雷の五大属性に、強化系の魔法である無属性魔法、希少属性の光・闇。
全属性をLv.1だけ獲得しておく。
これで8レベル分だ。
次に、唯一レベル上限がある技術系スキル。
異世界という性質上、未知の物が多くあるだろう。
そこに情報を得ることができる鑑定スキル。これは重要だ。
そして、鍛治と醸造。これも異世界であるが故に、鉱物と薬草も特有のものだろう。
どの素材が武器に適するか、毒に使えるか。
この2つがあれば、それを活かせる。
それに合わせて錬金術。
自然生成の鉱物を扱えば有限だが、錬金術があれば無限。
それに加えて、戦闘中に武器の生成も可能になるだろう。
あとは魔力感知。
魔法のレベリングをする為にも、敵からの魔法攻撃にいち早く気づく為にも、持っておいた方が良い。
それに、スキルが多い分、レベリングも過剰に負荷をかけなければならない。
高速再生があればレベリング効率を上げてくれるだろう。
最後に詠唱短縮。
これに関しては、Lv.10のMAXで詠唱省略にしておく。
詠唱省略でなければ意味がないからな。
魔法発動までのタイムラグもそうだが、奇襲性は大事だ。
これで16。魔法系と合わせて24。
残りは、その他のスキル。
これは、レベルアップ補正とスキル取得補正で十分だろう。
中でも、レベルアップ補正スキルは、レベリングしていてば勝手にレベルアップしてくれるだろうが、スキル取得補正はそうはならないだろう。
余りのレベルはスキル取得補正にあてよう。
「スキルはこれで良い。」
ーーーーーー
・武術
なし
・魔法
火属性魔法Lv.1
水属性魔法Lv.1
風属性魔法Lv.1
土属性魔法Lv.1
雷属性魔法Lv.1
無属性魔法Lv.1
光属性魔法Lv.1
闇属性魔法Lv.1
・技術
鑑定Lv.1
醸造Lv.1
鍛治Lv.1
錬金術Lv.1
魔力感知Lv.1
高速再生Lv.1
詠唱短縮Lv.10(MAX)
・その他
レベルアップ補正Lv.1
スキル取得補正Lv.10
ーーーーーー
「これほど数多くのスキルを獲得すると、全部をレベルアップするのが大変になりますが、良いのですか?」
「もちろんだ。1つだけを極めて最強になったとしても、対処されやすい。完全とは全てを持つ者。手段は多い方が良い。」
「では改めて。あなたの転生先はマハト神聖皇国の首都、グリートマーセンの教会付属孤児院。親に捨てられ、教会に拾われた瞬間になります。」
「把握した。」
すると視界が暗転し、次に目を開けると教会のシスターが目の前に見えた。
まず、この孤児院を使っている間は身体能力を鍛えるとしよう。
魔法にスキルを振った分、武術に何もステータスを振っていないからな。
この為に、余ったレベルをスキル取得補正にあてた。
スキルさえ手に入れてしまえば、レベリングは容易いからな。
そうして、昼は孤児院の雑務等を、夜は高速再生で削った睡眠時間で身体能力を鍛えて過ごすこと9年。
明日で年明けだが、そうすると俺は満10歳になる。
満10歳になれば、ギルドに登録することができ、そうすれば職業に就くことにできる。
職業に就けば孤児院から自立することができ、自由に活動ができるようになる。
よくある異世界転生ものであれば、冒険者を選ぶだろう。
だが俺は違う。
そして翌日。
他の満10歳になる孤児院の子とシスターと共にギルドへ行く。
ギルド前まで着いたら後は自分で登録しなければならない。
逆に言えば、ここからは自由に行動できる。
そうしてギルドに入り、迷わず裏口へと向かう。
その裏口から出てまっすぐ進み、暗い路地裏の中、掠れた文字で『ギ_ド』とかろうじて読める看板がある扉に入る。
「ほお。随分と若ぇ奴が来たな。迷子か?それなら今すぐに来た道を戻るんだな。」
「実戦での実力が全て。実力主義とはここのことだろう?登録を頼む。」
「ハッハッハッ、こりゃあ面白え。ステータスを見せてみろ。」
「あぁ。」
ステータス全てを見せるというのは如何なる時でもすべきではない。
闇属性初級魔法『ハイドステータス』
「ステータス。」
ーーーーーー
ハイリヒ・アポステル(満10)
・武術
短剣術Lv.10
・魔法
無属性魔法Lv.5
・技術
醸造Lv.3
・その他
なし
ーーーーーー
闇属性魔法の『ハイドステータス』。
選んだスキルを隠すという都合上、隠していないスキルのレベルを操作することができない。
ステータスを完全な偽物にするには上級闇属性魔法『フェイクステータス』が必要だ。
ただ、俺はほぼ全てのスキルを持っている。
それを踏まえれば、中級闇属性魔法『チェンジステータス』でスキルのレベルを変え、『ハイドステータス』と合わせて表示すれば、実質的に『フェイクステータス』になる。
「この歳でこのステータス、相当有望だな。なぜここに来た。」
これも適当な嘘で良いだろう。
「僕は、親を殺して孤児になった。ナイフで突き刺し、血が流れ、鼓動の止まるあの感覚が忘れられないんだ。あの、僕の行動が、確実に他人に影響を与えている感覚が、楽しくてしょうがないんだ。」
「ハッハッハッ、とんだ野郎だな!闇ギルドがお前を歓迎しよう!」
「ところで、闇ギルド証の名前はどーする。」
ふむ。適当にダークネスのネスで良いだろう。
「ネス。」
「よし。こっちが表向きのギルド証、冒険者って事にしておく。そしてこれが闇ギルド証だ。」
「ふふふふ、これで、また殺れるっ!」
ーーーーーー
『ハイリヒ・アポステル』
Fランク冒険者
ギルド登録から0年
依頼達成数:0
ーーーーーー
『ネス』
有望なビギナー
殺数:0 達成数:0 失敗数:0
ーーーーーー
さて。しばらくは対魔物と対人の両方で魔法のレベリングを主にするとしよう。
フライハイト国家連邦やらなんやらの情報を本格に集めるのはそれからだ。
国家転覆を狙う何者かが居るというのは実力の下準備を整えるまで知られるべきではない。
そして5年後、
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『ハイリヒ・アポステル』
Cランク冒険者
ギルド登録から5年
以来達成数:1826
ーーーーー
『ネス』
若き殺しのプロ
殺数:500 達成数:200 失敗数:0
ーーーーー
さて、そろそろマハト神聖皇国を出て、本格的に情報集めなり組織形成なり準備を始めるか。
それに、かつて女神に挑み敗北してその力の一部を失ったにも関わらず、生き残り続け、国として存続している邪神とやらも気になるしな。
フリューアーによれば、その邪神は廃棄された魂を乱用し、フライハイト国家連邦の源となる革命を起こしたらしいが、
かつては情報リテラシーが叫ばれる世界を生きてきた俺だ。
片側の情報だけを鵜呑みにはしない。
とは言え、依頼を反故にする訳ではない。
ただし、あちらから依頼を反故にするような事があった時を想定し、神に相応の代償を与える用意は整える。
それが俺だ。
・ネス
嘘とは演技とも言える。描いた人物像になりきる。相手に不信感を抱かせない程、言動まで完璧に嘘で覆い尽くす。それが、自分を偽る時の嘘だ。