一章3話 ライトニング
城内に入ると、資料館のようなフロアがあった。古い鎧や刀が飾られており、歴史好きにはたまらないんだろうなあなどと思いながら階段を探す。電気が消えている上に奥まっており、探すのに少々時間がかかったものの、朔は7階まで来た。その時だった。目の前に青い幽霊みたいなものが現れた。
「わわわっ!!びっくりしたー…もうちょっとでちびるところだったって…」
朔は元来ビビりである。だが流石の朔も目の前のものが武士の姿をしているのを見ると、それが大坂城の説明のためのホログラムだとわかった。
「なーんだ。びっくりしたぜまったく…いやビビってないし!?怖くないし!?」
誰に言い訳しているのか分からない。流石の小悪党感である。
しかしそれにしても、なぜ階下は電気が消えていたのにホログラムが存在するのだろう。
疑問に思った刹那、周りのものがガタガタ揺れ始めた。ポルターガイストだ。
ガラスが割れ、その中にある刀が空を舞い、さっきのホログラムの方へ飛んで行った。非常灯が点いた。そのホログラムを見ると、あの赤松同様に足が薄くなっていた。
その時、朔は嫌な予感に従い、頭を下げた。
頭上を走り抜けた刀が朔の髪を数本断っていった。
「頭を下げれば大丈夫…ってんなわけあるか! 刀こっわ!」
この縦に開けた場所は不利だと思い、朔は階段に転げ込んだ。
鎧兜を付けた霊が後から追ってきている。気づけば朔は最上階に来てしまっていた。そしてやはり飛んできた刀を、そこらに落ちていた瓦で打ち払った。
刀と瓦が打ち合う音。必死に応戦するも、朔は押されてゆく。間取りの中央ほどにきた時、霊の刀が少しぶれ、鴨居を切り込んだ。刀を抜こうとしている隙に、ここを先途と前に飛び出し胴を一閃。当たり前だが瓦が砕けた。振り下ろされる刃。
「あー…これ終わったかもしれん…」
一応腕を上げて抵抗。しかしどれほどの効果を生むだろう。全てを投げ出した時、全てが白く染まった。
「いやーごめんごめん。遅れちゃった!」
マリンの声と同時に重い金属の散らばる音がした。
彼女は手にやけに暴れる袋を持っていた。
「はい、これが例のブツだよー。」
渡された袋を開けると、刀が出てきた。鞘は赤の地に銀の装飾がついている。刀身はすらりとして鋭く、少し赤みを帯びている。
「これが霊に対抗できる刀、『宿霊剣』だよ。」
なるほど少し素振りしてみるといかにもな雰囲気だ。
「しっかしこれ…なんか重くない?」
「どれもこんなもんでしょ?」
その時、さっきまでバラバラになっていた鎧兜がまたガチャガチャと組み合わさり始まった。
「おっと忘れてたねー。」
と言いつつマリンは人差し指から小さな雷を放出。
ふたたび散らばって完全に停止する兜。
「つばさは…どこだ?」
「下の階にはいなかった?なら…屋根しかなくない?」
「おいおいガチか…どーやって登るんだ?」
とりあえず今いる階の庇に乗り出してみる。
「なんか意外と足かけたらのぼれそうだよー!」
「下を見なきゃねー…マリンは怖いとかないの?」
「んーとねー…別に私雷に乗れるから大丈夫かなー… 現に今もそうやってきたし。」
「さいですか。こりゃ聞く相手間違えたか。」
飛び出した庇に手と足をかけ、懸垂の要領で上へ。
楽々と朔を抜かして行くマリンを横目で追いながら。
城の屋根のてっぺんで、赤松が待っていた。両手に短めの刀を装備している。
「やっと来たのか。遅かったのう。それになんか階下で縮み上がっておらんかったか?」
「おいおいここまで結構しんどかったんだって。…って誰がビビりだ!!」
今更ながらつばさの外見でその口調は非常に違和感がある。できればすぐやめて欲しいものだ。
「さーて赤松、覚悟はいい?そろそろつばさちゃんの体返してもらうわよ。」
「面白い。やってみるが良い。」
その時城の周りが雲海で覆われ、幻想的な雰囲気に。
見惚れていると、赤松の刀が飛んできた。
マリンが弾く。
「ぼーっとしないで!!相手は今体を乗っ取っているからその刀しか効かないの!!」
渋々まだ手に馴染まない刀を抜こうとする。
その刹那、ものすごい虚脱感が襲ってくる。吐き気と頭痛でその場にくずおれる。
「相棒!?どうしたの!?」
その問いに答えられない。視界が狭窄している。耳元で鐘が鳴り響いているようだ。
(ぐっ…情け無い…。マリンが瓦で応戦してくれているけどいつまでもつかわからないし…)
現につばさの体を人質にした赤松にいまひとつマリンは攻勢に出られていない。
(立てよ、俺。こんなんで膝をついてていいのか?いつも俺は考えなしに行動してただろ!タフなだけが取り柄だろ!立て!!)
今マリンと赤松は屋根のてっぺんで向かい合っている。朔は這いずりながら雲海に紛れ、赤松の後ろに回り込むスネーク作戦を決行。果たして朔は背後を取れたのだ。
(よしこれで後ろから刺す…)
その時、赤松が衝撃波のようなものを四方に放ち、吹っ飛ばされる朔。シャチホコに手をつき、凸凹に足をかけて耐える。赤松は無警戒に周囲を見回している。ここしかないと見た朔は忍びのようにしゃがみ、足跡を殺して背後に接近、腹と思しき部位を突き刺した。
「ぐううっ…腹が…!」うめく赤松。
(くそっ!狙いが逸れた!鳩尾あたりを行きたかったが…)
「グッジョブ相棒、いい仕事してくれた!!ここから攻めに出よう!!赤松のお腹から黄緑のオーラみたいなのが出てるでしょ?そこから赤松を追い出そう!」
相変わらずだるい肩を振り、軽くジャンプ。
「よし、行こうマリン!」
「断鬼雷獄、疾迫強襲。出でよ、『冥王の霊笏』!」
マリンは足元に現れた紫色の魔法陣から平安貴族が持つような笏を抜いた。ただし縁が鋭くなっており、竹刀より少し長いほどである。金色の地に赤で縁取りがなされていて、持ち手の少し上に紅色の宝玉がはめ込まれている。
「閻魔七つ道具の一つでね。霊魂特効があるんだよ。雷に指向性を与えるんだ。ただね、これじゃ赤松のお腹の傷を抉るしかできないんだ。だからできるだけサポートする。ここで2人で詰めよう!」
「よっしゃ行くぞ!!」
赤松は両手に持つ二刀を構え、一分の隙もない。
「いくよ!『裁きの雷』!!」
甲走る雷が3人の周囲を縦横無尽に駆け巡る。
そして、ジグザグに踏み込み、一気に加速したマリンが回転しながら笏を一閃。右手の刀を折りつつ、前言の通り腹の辺りを切りさいなんだ。
それと同時に飛び出していた朔は、左側から跳躍し、首を狙う———
「終わりだ!!赤松!!!」