一章2話 いざ行かん大阪へ
相も変わらず雨が降り続いている。
「そういえば、あの女の子の名前はなんなの?」
「ああ、小森つばさ。」
「へー、可愛い名前だね。そう思わない?」
なんでこっちに振るんだよ。
「う、うん。そう思う。」
答えた瞬間、マリンはしらーっとした顔に戻る。
なんなんだこいつ。
「それじゃつばさちゃんを助けにいかなきゃね。
一体どこにいっちゃったんだろう?」
「いやマリン知らないの!?閻魔効果仕事しろよ!」
閻魔ですからと得意げな顔への信頼度がうなぎ下がりだが、そんなことはさておき。
「どーしたもんかなー…」
「つばさちゃんのこと好きなんでしょー。いつでもどこにいるか把握してないの?」
「んなわけあるか!!立派なストーカーだよ!!」
…とその時、朔にある考えが閃いた。
「GPSだ!!」
「じーぴーえす?」
「ああ。これがあればどこにいても場所がわかる優れもの。小森さんスマホ持ってたし、親のスマホでおそらく居場所もわかる…はず。」
「言い切るなら自信持ちなよ…。にしても便利だなその『すまほ』ってやつ。」
「人類の叡智の結晶さ…っと、そろそろ小森さん宅に着くから、マリンはこの辺で待機な。正直その格好超目立つから。」
「分かった。うまくやってね。」
インターホンを押し、出てきたつばさの母に事情を説明。面倒くさいので閻魔うんぬんは伏せ、あくまでも普通の誘拐としてだ。あまり大事にしたくないと言う意向もあり、必ず連れ戻すことを約束して居場所を教えてもらった。
「大阪城!?ふざけんな遠すぎだろ!!お母さんこれマジすか!?」
「誘拐犯ならなぜつばさのスマホを捨てなかったんだろうね?スマホ持ってるの気づかなかったのかな?」
おそらくスマホ自体を知らないんだと思います、とは言わず、新幹線で向かうことにしたのだった。
◆ ◆ ◆
おそらく一人で喋っている変な人認定されること十数分、朔たちは新幹線に乗り込んだ。
「いやー…にしても遠すぎないか…?瞬間移動でもしたのか?」
「つばさちゃんに憑いた霊は『赤松紋十郎』って言う江戸時代の侍なんだ。その侍は外様大名の配下だったから江戸から遠くてね。参勤交代の時に莫大な時間をかけなければならないのが我慢ならなかったんだ。ついに彼は『尺歩』という歩法を開発したんだよ。生前のそれはただ早歩きより少し速かったぐらいなんだけど、死後にそれを極めて本当に空間を巻き取るくらいの速度で移動できるようになったんだ。」
「シンプルに人間技じゃねー…」
初めて乗る新幹線の速さにソワソワするマリンを落ち着かせつつ、朔は問う。
「そういえば、今までごたごたして聞けなかったけど、そもそもなんで地獄から霊が蘇ってきて、マリンが追いかけてきたんだ?何が起こってるんだ?」
マリンは一度言葉に詰まり、やがてぽつりぽつりと話し始めた。
地獄には閻魔大王がおり、その下に執刑官、またその下に獄卒衆がいることで統治されているということ。
古くから地上に出てしまう霊はいたということ(みんな知っているお菊さんなど)。
15年前のある日、地獄と現世をつなぐ門の封印が弱まったせいで現世に蘇ろうとする霊が多くなったこと。
まだ封印が生きているためある程度の力を持つ霊しか出てこれないということ。
幸い霊は臨死体験をした人か霊感のある人にしか見えないので大騒ぎには至っていないということ。
マリンはそう言う霊を地獄に戻そうとしているということ。
「なるほど…赤松もその一人ってことか…」
確かに朔は非常な難産の末誕生し、NICUに入れられ、母親も亡くなってしまったため、霊が見えるのも当然である。
「でも出ていく霊の勢いが凄すぎてなかなか制御できないんだ。あたしの力不足で…」
マリンは悔しそうに唇をかむ。今日のように逃げられる例も少なくないそうだ。それにマリンの父、閻魔大王は昔から心霊現象として現れる霊もいるので気にしないように言い、手伝ってくれないそうだ。
「そんな事情が…。」
朔はことの重大さにやっと気づいた。放っておけば社会がめちゃくちゃになるかもしれない。おせっかいかもしれない。朔がわさわざやらなくてもいいことかもしれない。でも、今ここに居合わせたのは朔なのだ。なら。
「俺でよければ、ビシバシ使い倒して欲しい。困ってるんだろ?君を手伝わせて欲しいんだ。」
「巻き込んじゃって…いいのかな?」
「おう!気にすんな!そんなに気に病むなら、俺も小森さんを助けられて好感度爆上がりでWin-Winだと思っときな!」
「ぷっ…なにそれ…」
とマリンは吹き出しながら、
「じゃあよろしくね。相棒!!」
「あれ!?名乗ったのに相棒呼びっすか!?」
そんなこんなで、舞台は大阪へ移る。
程なくして目的地の大阪城へ着いたものの、マリン曰く夜の方が都合が良いそうなので、周囲で時間を潰すこと数時間。
「そろそろかな?」
時刻は0時。周囲から完全に人がいなくなった。
「あ。あたしちょっと取ってくるものあるからここで待ってて。」
「え!?この状況で待ったかけるの!?」
「ごめん。ちょっとそれがないと今回厳しいかなー…ってことで、ちょいと待ってて欲しいんだけど。」
「お、おっけー。」
少し後。突然、城全体から呻き声のようなものが聞こえ始めた。赤松がどこにいるかは分からないが、このまま放っておくと嫌なことが起こりそうだ。朔はつばさを心配して、マリンの言いつけを破り大阪城へ入って行ってしまった。
それが罠だとは気づかないまま。