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ホリゾント・ヘル  作者: 神無時雨
第三章 揺蕩う飛花に山おろし

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三章2話 ストレンジ・ハウス

日も本当に傾いている。ひとしきり走り終わった後、朔たちは服装もそのままに、ビニールシートを敷いて砂浜に座っていた。つばさはお手洗いへ行っている。


「夕食までに帰ればいいんだよね?」


「そうだと思うよ…。」


「澪めっちゃ疲れてんじゃん(笑)」


「こら、相棒。女子と男子の体力差考えなよ。」


「おっとすまん。」


「にしても、楽しかったねー。」


「ううっ!!スイカ…食べすぎた…!!」


マリンは近くのお手洗いへ。


「ちょっと飲み物買ってきますね。皆さんの分も買ってきますよ。あったかいものにしますね。」


輝登は近くのスーパーへ。残される朔と澪。


「なんだみんな。慌ただしいなぁ。」


「さぁね…。」


「――――っ!!そうだなぁ…。私もちょっと散歩してこようかな…。留守番任せてもいい?」


「いいけど…、なんで俺?」


「帰ってきて誰もいなかったらホラーでしょ…。」


「がんばってね…!!」


3人は行ってしまった。その場にぽつねんと残される朔。ああ、なんでこんなことに。そしてその場に戻ってくるつばさ。彼女は3人の不在に首を傾げながら、朔の隣に腰を下ろす。


「なんかみんなお手洗いだ散歩だ買い物だで離脱したよ。」


「そ…そうなんだ。」


と言葉を切り、つばさはしみじみと言う。


「楽しかったねぇ…。」


「うん。色々あったけど、なんか全部吹っ飛んだ感じだよ。」


「くしゅんっ」


つばさが体が冷えたのかくしゃみをした。


「俺の上着貸すよ?」


「私も持ってきてるからだいじょ…」


彼女が手元にカバンを引き寄せて上着を取り出した瞬間、突風。びゅうううと吹いた風はつばさの上着をさらって、海に落とした。


「あああーーー!!!お気に入りだったのに…」


嘆くつばさの横で朔は躊躇うことなく海に入り上着をとってくる。寒い寒い。上着をわたし、体をタオルで拭く。


「ありがとう…。それと…。やっぱり上着借りていい?」


「あ…ああ。いいよ。はい。」


朔は言い、ぱさっとつばさの肩にかける。


(あ…あったかい。)


つばさは温もりに包まれる。朔はようやく目のやりどころに困ることもなくなった。顔を見て話す。


「いやー…。なんかやっと落ち着けた感じだね。」


「ごたごた多かったよね〜。私がさらわれてから。」


「別に小森さんのせいじゃないけどね。これからもこんな日々が続くんだなぁ…」


「イヤ?」


「ううん。逆。なんかこれでよかった、みたいな気持ちが湧いてる。」


「この騒動が起こる前だったら、私たちあんまり喋ってなかったしね。通学路が一緒っていうだけで。」


「まあ確かにね。」


「そう考えると…逆によかったのかも…なんて…。」


つばさの言葉は最後は風でほとんど聞き取れなかった。だが彼女の顔はすごく赤くなっている。もうほぼ日は沈んでいるので夕焼けのせいではない。朔とつばさの視線が重なり合う。顔を見合わせる2人は――――


ガサッ。


「うわわっ!!」


タイミング悪く帰ってきて木の根につまづいたマリンによって邪魔されたのだった。


「いたた…。ん?」


マリンは目の前の光景に気づき、さーっと顔を青くする。


「うわああああ…!!ごめーん!!!」


彼女は飛びすさり、かけ出す。


「お幸せにぃ〜!!!」


ここまで固まっていた2人。どちらからともなくおかしくなって吹き出す。和やかな時間がまた広がった。


一方マリンは。


「はぁ…はぁ…!やっちまったよおおおお…!!!」


悔やみ倒しているマリン。その背後に影。


「マリン?いい空気だったよね…?邪魔しちゃったの…?」


散歩に行くと言いつつ器用に木に登って全てを覗き見ていた澪である。彼女のこめかみには青筋が立っている。なのに顔は笑っているため、怖いことこの上ない。


「うわあああ!!ごめええええん!!!」


「まったく…次のプラン考えなきゃ…!」


だいぶおませな子だ。そこへ輝登が合流。


「なんか見かけたので、飲み物と花火買ってきましたよ〜。」


「おお!いいね!やろうやろう!!」


マリンが言い、朔たちのところへやってくる。


「しかーし!チャッカマンがない!!」


「まあ、あたしが小さく火花起こすから火つけてよ。」


朔たちは水を入れたバケツを用意し、キャンドルに火を灯し、花火セットを開封。手持ち花火を始める。シャアアアと音がして、カラフルな火花が散る。手をぶん回すと円が描ける。朔たちのテンションはマックス。


「わあ〜…!夏っぽい!!」


つばさが叫ぶ。彼女の顔は花火で青く、赤く、時に緑にオレンジに、彩られる。綺麗な顔に、濃い陰影が現れて、すごく艶かしい。


「ふぁっ!?もうほとんど花火がなくなった!!相棒、買ってきてよーー!!」


「自分で行きなよ!!」



十数分後、夢中で花火にふけっていたためもう残るは線香花火だけである。


「これはなんていうやつ?」


「線香花火だよ。火の玉を落とさないように持つんだよ。」


つばさがマリンに教えている。ちょうど1人一本あるので、同タイミングで着火。



「わぁ〜…きれいだねぇ…」


「このチリチリと火花が散るのがなんとも風情を感じるぜ…!」


「あー…夏が終わりますね…」


朔たちはめいめいに晩夏を嘆く。


「来年もこうやって過ごしたいね…。」


「当たり前だろ!」


「うわっ…!」


つばさが火球を落とす。あらー…とよそ見した朔も少し後に灯りを落とす。


「よそ見してるからだよ。つばさちゃんの方ばっか見ちゃって~。」


「ちょっとマリンさん今集中してるので静かにしてください...。」


そんなこんなで朔たちは一日を満喫した。ごみを全て片付けた後もなお残る火薬のにおいに、朔はなぜか胸が締め付けられる思いがした。


◆ ◆ ◆

翌日。休暇の後は任務が待っている。朔たちイクリプスは静岡県の田舎の方にポツンとある、こじんまりとした古い洋館の調査を命じられた。庭の草は伸び放題だ。鉄柵で囲まれている。表札はつけられていない。すべての窓に何故か新聞紙が貼り付けられ細い板材がクロスにかけられており、物々しい。いつも通り引率として真名がついてきた。彼女はトレードマークのまろ眉と垂れ眼をとろんとさせ、眠そうな顔つきで言い放つ。


「ふぁぁ...。引率って言われたけど、まあなんも危ないことなんてないっしょ。アタシはめんどくさいから木の上で寝とくわ。終わったら起こして―...。」


俊敏な動きで近くの木の上へ移動。10秒もすると寝入ったのか静かになった。


「じゃあ...。行くか?」


「おーけー。相棒。いつでもいいよ。」


「んじゃ、とつにゅーう!!!」 


鉄柵をひらりと乗り越え、玄関を開く。ギ、ギーと音がして、扉があく。古いながらも朽ちてはいない。毎度のことながら、だれがこうやって鍵を開けてくれているのだろう。あとで凱羅に聞いておこう。


「すんごい不気味…。」


玄関はホールになっていて、シャンデリアがかかっている。当然電気はつかないが。靴箱には父親のだろうか、ローファーと母親のだろうか、パンプスがある。2,3歳用の子供の小さな靴もある。その上には作者は知らないが、名画が飾ってある。朔たちは土足でお邪魔する。外観に反して床はそのまま板張り。きしむ床にビビりつつ、つばさは進む。今回は朔が隣にいる。情けないところは見せたくないとつばさは思う。手近な一室に入ってみる。子供部屋だろうか。本当に小さないすやテーブルがある。おもちゃが散乱している中に一つのブランケットが落ちていた。かわいらしい動物が描かれている。タグがあったが、にじんだのかこすれたのかでほとんど読めない。名前だろうか。『■■■ら ■み』とある。


「そのまま残ってるんだね...。」


澪が懐かしむように部屋を見回す。その隣はトイレだった。においがひどく、封印しておく。その奥には風呂場と台所、リビングがあった。どれも生活感は残っているが、この家の所有者の情報は割り出せなかった。階段が二つある。一つはホールから、もう一つは台所の横から。台所の横から上がっていくと、和間とピアノが置いてある部屋があった。あとは物置。何気なく朔が扉に手を触れると、中のものがなだれでてきてほこりが舞う。


「いったい何年前に廃墟と化したのでしょう...?」


「わからん。でもなんか戒音の時と同じ感じな気がする。...にしても、そろそろ霊が出そうな時間じゃない?」


「出ないならそれに越したことはないよ、天原君。」


そういいながら一行は階段を降りかける。そして朔は、眼だけが非常に大きい、狼のような生き物と目が合う。


「んぎゃああああああ!でたああああ!!」


「どいてください朔さん。」


朔が本能的に身を壁にへばりつけると、銃弾がその横を通っていく。パン、パンと音がして、狼はどこかへ行く。朔たちはホールへ急ぐ。そこへさっき見た子供部屋のドアから大きな手が伸びてきた。おーちゃんではない。爪が長すぎるのと、緑色の腕だからだ。(おーちゃんはうすだいだい色)


「おーちゃん!!」


澪が叫ぶと、色違いの大きな手が出現。取っ組み合いになる――――


「あれ!?透過した!!やばい!逃げよう!!」


迅速なマリンの判断で、いったん外に出ようと朔たちは玄関ドアを目指す。朔がもはやタックルするように扉にぶつかると、開かない。


「なんでだ!?さっきまで...!」


輝登が人魂であたりを照らす。すると、ドアノブと鍵に口だけが付いた紫色のスライム状の物がへばりついている。それがケタケタケタと不快な笑い声をあげる。マリンが電気ショックを与えるも、消えない。後ろからは手が迫ってくる。


「こっちの二階に逃げよう!!」


朔たちは死に物狂いで階段を上がる。つばさが階段の床板を踏み抜いてしまう。


「足が...!!抜けないっ...!!!」


「小森さん!!」


マリンが電撃で床板の穴を広げて、朔が手をのばし、つばさを引っ張る。


「いくぞ。大丈夫?」


「う、うん。ありがとう。」


踊り場を駆け抜け、上がった先には一枚のドアが。それを蹴破る勢いで。


「突っ込めェーー!!!!!」


ばたん、と立て付けの悪い扉が外れ、内側へ倒れ掛かる朔たち。それを歓迎したのは――――


「あまり埃を立てるなよ。汚らわしい。」


その部屋の主からの、あまりにも冷めた言葉だった。

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