三章1話 青に染まる僕たちは
来る日も来る日も朔たちは訓練に追われていた。もう夏休みも後残り少ない。朔にしては珍しく、今年は早く宿題を終わらせているのでこれに没頭できる。そんなある日、凱羅が言った。
「なあ、みんな最近疲れたやろ?海行かへん?」
「マジすか!?やったーーー!!!」
一番食いついたのは朔。体が休息と遊びを欲している。もはや禁断症状の域。
「わぁ、いいなあ。久しぶりだなぁ…海。」
「つばさちゃーん、水着買いに行こー!!」
各自がワイワイはしゃぎ出す。朔はもう輝登とでっかい水鉄砲を買いに行く約束を取り付けた。
「じゃあ明日にしよか。ここから少し行ったら二見浦っちゅー海岸があんねわ。あんまし人おらんしほぼプライベートビーチやな。」
「まだまだあっついし、思いっきり遊べるね⭐︎」
「ビーチで優雅にパラソル立てとこうかな…」
澪はなぜかあまり乗り気ではないようだ。かなづちなのだろうか?だとしたら砂のお城を作るのを全力で手伝ってあげたい。
「じゃあ各自で準備しとくことー!明日朝8時にここ、大広間集合で。」
朔は「青春じゃん…」と思いながら夜もワクワクし続けていたのだった。
あくる日、朔たちは満を持して二見浦へ。熱い太陽、もう準備は整った。
「「ひゃっほーーーーーーーーう!!!!!」」
朔と、漆黒の長い髪をサイドテールにしたマリンが先陣を切って走ってゆく。二人は上着を脱いで飛び上がり、海へダイブ。
「ぷはーーっ!!気ぃ持ちいいーーー!!!!」
それを皮切りに、ぞろぞろとみんなが海へ。マリンが「うへへ…眼福眼福…」と言いながらせわしなく周りを見渡している。確かに大体の女子がビキニで白や黒、赤、青など色も様々だ。凱羅は岩場の突端で釣りを力樹と気ままにしているし、昴岩は遠泳をしている。万里亜や雛、真名や美羽など女子組はビーチバレーをしている。早々に泳ぎ疲れた朔は輝登と澪と一緒に砂の城を造形にこだわって作っている。弥次郎や一仁らは追いかけっこをしている。つばさは浮き輪に体を投げ出してぷかぷか浮いている。そこをマリンがひっくり返し、水の掛け合いに発展。みんな楽しそうだ。しかしここに一人、ため息をつき続ける人が。陽葉である。
「はぁぁぁぁ…。やっぱり海なんて来るんじゃぁなかったよ…なんかこう…残酷だよね。体のラインもろに出ちゃうし…!くぅぅ…なぜ成長しないんだろう…?」
全力で愚痴を言っているが、仕方ないものは仕方がない。結局彼女は万里亜たちに連れていかれ、10分後にはバレーをやっていた。
昼頃、凱羅が釣りから帰ってきて、竹を組み立てて流しそうめんを始めた。みんなで奪い合ってそうめんを食べる。そのあとはスイカ割り。振動を感知する万里亜は置いておいて、みんな苦戦していた。凱羅が「みんな視覚を塞がれると弱なるなー笑」と言って笑っていたので、彼がやっているとき海に誘導してやった。そのあとは水鉄砲を使ったサバゲーをした。
「ふっふっふ…昨日輝登と安さの殿堂ヤン・キホーテで買ってきたタンク式水鉄砲のお披露目じゃい!!」
「この水鉄砲10メートルも飛ぶんだって⭐︎」
みんなは頭に金魚すくいのポイをつけ、破れたら負けとしている。適当に二つのグループに分かれる。
「よーい…スタート!!」
と言われる間もなく一仁が突っ込んでゆく。彼は二挺銃で身軽に走り回る。
「すげぇ…これがあの人の戦闘スタイル…」
パシュッ。
ぼーっとしていた朔の頭に水が命中。ポイが破れた。見れば輝登が射程距離の長さをいいことに、銃を構えて精密射撃を行っていた。
「ぬおおお…!!なんという不覚…!」
つぶやきながら石段のあたりに退き、みんなの奮戦を見ることにする。輝登は相変わらず遠距離を打ち抜いている。適性が高い。澪がおーちゃんの協力で当たるのを妨げている。
「なんやみんな団服脱いで足元が砂なだけで遅ぉなるもんやなぁ!」
凱羅が煽りながら圧倒的スピードで朔のチームを殲滅しにかかる。筒の中身を押し出すタイプで背中にタンクがついている。しかし、ここで一仁とマッチアップ。彼らは縦横無尽に移動しつつ撃つ。
「凱羅さんそれ7メートルくらいしか飛ばないんすよねぇ。オレのやつもそれくらいなんで五分五分っすね…」
「おやぁ?めっちゃ煽るやん。負けたらハズいでぇ?」
「いやどの口が…」
と、ここで一仁の様子がおかしい。
「だああしまった!!オレのやつ機動力重視でタンクねぇから水切れた…!」
一仁は一回でんぐり返しを打って海のほうへ走る。そのすきを逃す凱羅ではない。
「くそっ…これでもくらえ!!」
と一仁は落ちていた水風船を投げるが凱羅はすべて筒ではじく。
「さてと、おしまいや…」
ぱしゅっと音がし、凱羅のポイが破れる。凱羅は「ふぁ!?」と驚きながらあたりを見る。一仁はびっくりして勢い余って海に突っ込み、結局ポイが破れる。視線の先、彼から見て11時の方向にいたのは、つばさであった。
◇ ◇ ◇
つばさと七瀬の訓練を振り返ってみる。彼女らは凱羅から借りた部屋を閉め切る。もとより地下であるため薄暗い。
「何かセットしなくていいの?祭壇とかかがり火とか魔法陣とか…」
「お前はイタコの口寄せをなんだと思っとるんじゃ?それじゃ呪いをかけちまうじゃろうが。何はともあれ、まずは適性を見ようか。」
「適性?」
「@@@@@@@。」
七瀬は答えず、短く詠唱。青い人魂がひとつ浮き出す。
「何か見えるか?」
「青い人魂が一匹。」
「次じゃ。〒〒〒〒〒〒〒〒〒。」
頭から血を流した、甲冑姿の人が出てきた。口を動かしているようだが何も聞こえない。
「何か見えるか?」
「なんか鎧兜を付けた人が見えるけど、何しゃべってるかは聞こえないよ。」
「なるほど、わかった。今のつばさの適性は多く見積もって40%といったところじゃな。」
「うそん…ひっく…」
「初めてじゃからのう。心配ないわいな。今から高めるまでや。今呼び出したのはな、壇ノ浦で敗れた平家の一人じゃ。まずは言っていることを聞き取れるようになるんじゃ。霊との親和性を増すんじゃ。」
一日目。霊山を登った。しんどかった。二日目。滝に打たれた。首が折れそうだった。三日目。禅のお寺へ行った。バシバシたたかれて痛かった。四日目。またもや霊峰へ。このサイクルを繰り返すらしい。
「さて。もう一度呼び出すぞ。〒〒〒〒〒〒〒〒〒。」
「あぁ…うらやましいぃなぁ…生きてるって素晴らしいぃなぁ…。小童、命は大切にするんだなぁあ…」
「聞こえるか?」
「うん、ネガティブを装ってふつうにいい人じゃん。」
「おお!一歩進歩じゃな!!」
そして。久しぶりに個人的に任務に出る。(朔たちも別に完全な休暇なのではなくちょくちょく先輩について行ったり単身任務に駆り出されたりしていた。)
今回の任務は雑兵狩り。強くはないが数の多い敵を倒す。標的は栃木県の山中(渓谷など)に沸いた異形。金烏をはばたかせ、つばさは単身で向かうのだった。渓谷に降り立つ。水が冷たい。この辺でいいか、とつばさは拠点を決め、持ってきた笛を吹きならす。瞬間、木々がざわめき、異形どもが現れる。ここでつばさは忘れていた。自分は怖がりであるということを。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」
叫びながら逃げる。なにあれ、怖い…とか思いながら走るが、ふと思う。
(逃げてばっかじゃ、いつまでも解決しなくない?それに森の中のほうが怖くない?川のところのほうが開けてて明るいし。よし、もどってさっさとやっちゃおう。)
「くぅ…帰ったら怖がり矯正だなぁ。お化け屋敷かホラー映画か…どうにかしないとな。」
団服の力で軽々と倒木を超え、悪路を走破する。苔で滑りそうになるも手をつく。そのまま跳躍し、金烏の足につかまる。
(わぁ…高いなぁ…。)
自分を探す異形どもが見える。その真ん中に降り立つことにした。団服の力で脚力も強化されてるだろうし、ある程度高いところからなら大丈夫だろう。つばさはそこから腹ばいで自由落下し、着地直前で周りを取り囲む異形に技を繰り出す。
「『花疾風』!!!」
まあ言ってみれば単純に空中で体をひねり周りを円形に切り裂く技であるが、武器がなぎなたであるため、効果範囲は結構広い。
「やっぱり技名あったほうがかっこいいよね!」
スタっと降り立ったつばさが言う。誰も返事してくれないのが悲しい。そのまま周りの異形を手当たり次第に斬っていくが、きりがない。
「数が多すぎる…」
ぼやいた瞬間、死角から飛び出したある異形の鋭い爪が、翼の背中を薄く切り裂いた。それをきっかけに、いろんな異形が群がってくる。つばさは膝をつく。
「くぅっっ…!」
とりあえず汗を拭こうと右の手のひらで顔の右半分を覆う。その瞬間。右目にありえない光景が映る。
空から自分たちを俯瞰するような視点からの景色だ。左目は何ともない。
「てやっ!!」
つばさは体に群がる変態を振り払い斬り払い、距離をとる。
「まさか…これがおばあちゃんが言ってた『霊との親和性を高める』…??」
確かに金烏は地獄の生き物だから、霊と近似できるかもしれない。もう一度右の手のひらを右目にあてる。またあの景色が見える。上を見上げると悠々と金烏が羽ばたいて旋回している。やはりあそこからの視界とみて間違いなかろう。そしておそらく発動条件は金烏を呼び出した状態で再度右の手のひらを右目に当てること。
「自分と違う動きされるとちょい酔うけど…。これなら自分に及ぶ危険を察知できる!!」
その後つばさが異形をこれ以上のダメージを受けずに殲滅したのは言うまでもないだろう。
「ただいまー。ふぃー、私は自分の体の潔癖を守ったよ。」
「何を言っとるんじゃお前は。うまくいったのか?」
「もちろんだよおばあちゃん。でね…」
つばさは今日自分の身に起こった変化を七瀬に伝えるのだった。
◇ ◇ ◇
今日も金烏を空に飛ばしていた。過重労働ばっかでごめんね。そしてつばさは陰から好機をうかがっていた。そして凱羅の警戒が一番それたところで飛び出したのだった。彼のポイが破れた瞬間、つばさはこういったのだった。
「これを『座標次元視』と名付けよう…!」
一仁と凱羅は脱落者ゾーンの石段のところへ来た。
「なんだぁ?あのタイミングの良さは。なんかオレも脱落しちまったしよぉ…」
「流石にビビるわあんなん。どっから生えてきてん。」
「あそこに割り込んできて白星をあげるなんて…!やるな、小森さん!!」
と口では言う朔だが、今のスーパープレーよりも、技の披露の先を越されたことで非常に悔しがっていた。
(ちっくしょおおおお…!!俺がカッコよく技決めようと思ったのに…!!)
そんなゆったりした石段の周りの空気とは対照に、砂浜ではアツい戦いが継続している。波打ち際から少し離れたところでは、固まった砂で壁を作ってその前に穴を掘り、塹壕戦を展開している人も。昴岩が膠着状態を打破しようと飛び出ていく。彼はガトリング式のを持っている。陽葉はそれに向かって狙撃に重点を置いた銃で立ち向かう。横から万里亜が空気圧縮式のを使って昴岩を援護。マリンが回り込んで塹壕内の人を全滅させる。
「うあああああ…!!!」
熱い声が飛び交う、楽しい時間だった。
◆ ◆ ◆
もう夕方。結構な時間が過ぎていた。
「ふぅ~。ごっつ疲れたなぁ。じゃあもう帰る人は帰ってええで。ゆっくり体休めぇや。」
「はぁ。ちょっとさすがに疲れたー。」
「大人組は帰りますか。明日の筋肉痛が怖いです…。」
「にしてもみんな強なったなぁ。ボクなんかすぐやられてもうたわ。」
「へっへっへ…わかります?おばあちゃんと頑張ったんですよ。」
「じゃあまた夜に!本部で会おか!」
「お疲れっしたー!!!」
海岸にはイクリプスだけが残る。マリンが詰め寄る。
「やぁ~。にしてもつばさちゃんすごいねぇ。めっちゃ頑張ってたじゃん。」
「金烏のおかげだよ~。」
「あ、そうだ。最近読んだ本にさ、こういう時は全員で手をつないで波打ち際を走るっていうのが青春だって書いてたんだ。」
「よくドラマとか映画であるやつですね。」
「やるか!!」
朔たちは手をつないで波打ち際を走る。もうすぐ夏が終わる。今年の夏は急にどたばたと忙しかった。でも、一味違う夏だった。とても楽しくて、一瞬で過ぎ去った。戒音を学校から救い出した時のことを思い出す。(今日は彼は体調を崩していて来ていないが。)あの時もこんな感じに夕焼けが出ていた。
『人生は陶器』
そう輝登は言っていただろうか。朔たちは明日に向かってがむしゃらに走り続けなければならないと。でも、この瞬間がただ愛しい。おそらくいつまでたってもこの景色は思い出せるだろう。別に過去を振り返ることは悪くないと思う。また前を向いて、歩き出せるなら。だから、休んでもいい。サボってもいい。そのあとに頑張りたい。そうやって生きていきたい。磯臭い砂交じりの風と、朔たちの足元からはねるしぶきが反射する陽光のきらめきが、朔たちを大人にしていく。
この時は、そう思っていたのだった。




