二章7話(幕間) 歯車は回り出す
「…にしてもなんでここに?隠居したんとちゃうんか?」
とは、打たれた背中をさすりながらの凱羅のひとこと。朔から見て、七瀬が近づいているのは見えなかった。世の中にはすんごい人がぎょうさんおるんやなぁ。
「だれが隠居するかい、しょんべん垂らしが。」
「垂らしとらんわい!!!」
「おばあちゃんと仲が良かったのはわかるんですが、どういうつながりなんです?」
「ああ、元上司(?)みたいなもんやな。」
「にしても、お前も大きくなったなぁ。でもあの頃のほうがまだ可愛げがあったて。」
「はいはい、時の流れってもんは残酷ですね(適当)。で、何しに来たんや?」
「ああ、つばさからお前の名が出たから、ちょいと視察に来たんや。」
「刺殺しに来たんとちゃうよなぁ…?」
「もしその気ならもうお前はハムになっとるわいな。」
なんて強いおばあちゃんだ。凱羅を相手にこれほどとは。
「あれから15年かぁ…」
「長かったようで短かったよ、七瀬ばあちゃん。」
「ああ、お前も新しい仲間を作って元気そうでよかったわい。で、わしはとりあえずつばさに稽古をつけるために来たんじゃ。どっか開いとる部屋はないか?」
「あー、あるわ。そこをダーーー!って行って、どんつきまで行って左にガーー!!って行ったらあるわ。」
「相変わらずわかりにくいオノマトペじゃな。老人をいたわらんか。まあいいじゃろう。つばさ、行こう。」
「はーい!じゃあね、天原君!」
「おう…がんばれよ…!!」
そしてそれぞれが修行に修行を重ねていくのだった。
◆ ◆ ◆
日がまた昇る。マリンはぶらぶらと本部を出、雷に乗って東京方面へ。そのまま東京駅裏手へ。
「闇穴道が…ない…!!」
闇穴道とは、地獄へ行くときに通る、光の届かない道のこと。それは一般の人には見えない。マリンは最近そこからまた地上と地獄を往復していた。しかし今、それがなくなっている。マリンは焦って雷に乗る。北海道・五稜郭、宮城県・多賀城跡、岐阜県・関ケ原跡、京都府・蛤御門、広島県・爆心地付近、山口県・壇ノ浦、熊本県・島原半島原城跡などを回ったが、どこも道が閉じている。
「そんな…馬鹿な…。」
これが意味することは。
「あたしは…あたしは地獄へ帰れない!!!」
とぼとぼと本部へ帰るマリン。そこにいた陽葉に訳を話す。
「なるほどね。じゃあ、別にここに住んでもいいよ?澪ちゃんと輝登くんもそうしてるしね。」
「お、もっと寄宿組増えるの?やったやったー☆」
奥から出てきた万里亜も歓迎してくれる。
「じゃあ…お言葉に甘えて。」
「よろしくね、マリンちゃん!」
こうしてマリンは地獄へ出禁を食らったのだった。
▲ ▲ ▲
「にしても、本当によかったんですか?家族なのに追い出すって。」
「ああ、いいんだ。これ以上好き勝手されるのはごめんだ。いくら娘であろうと許容しがたい。」
先が青く染まった銀髪の女と仰々しい王冠を被った、深緑のうねった髪で見事な髭をたたえた赤い目の男が話していた。周りの岩だらけの地面からは焔が噴き出している。空も多色の絵の具を混ぜて塗りこめたような濁った色だ。肉眼でも普通のよりも真っ赤に見える太陽の下を、足が3本ある鳥が飛びかっている。そう、ここは地獄だ。閻魔大王の在所、『森羅殿』の門前にて会話は行われていた。
「最近は暴徒による襲撃が多発していますね。内乱でも起こす気でしょうか。」
「さあな。お前ら執刑官たちでうまく処理してくれ。」
「幻惑を使って相手を勘違いさせたうえで暴徒らを地上に放出する、という手はありますが。」
「なるほどな。好きなだけ暴れたら満足するだろう。それに一般人には私たちは見えない。誰も迷惑をこうむらない。」
「では、頼みに行きましょうか。」
そうして彼らは地獄のもっと深い階層へ、降りてゆく。水面下ならぬ地面下で、物事が勃発してゆく。回る回る、物語の歯車。朔たちよ、何が起ころうとも立ち向かえ。
それが、それこそが自分を一番輝かせるのだから。




