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ホリゾント・ヘル  作者: 神無時雨
第二章   未来を拓く剣

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二章5話 解呪

さて、こちらは2階と1階の階段の踊り場で無事に輝登と澪と合流できた朔である。非常に体力を消耗しており、その場にうずくまっている。


「今までずっと走ってたんですか?凄すぎますよ。」


「あ…ありがとう。もうやばい…」


「んん〜…一応本校舎であと調べてないのはあと少しなんだけど…理科室と6年生の教室だけ。」


「行きましょうか。朔さん、立てますか?」


「あたぼうよ。ここで踏ん張るんだよ。」


「ふふっ。強いなぁ、朔…」


「だろ?だから後で『俺』がめっちゃ活躍してたって言ってくれよ?『俺』が!!」


「そんなに強調しなくても…」


理科室。隣の準備室まで見たが何もない。

6ー1、6-2を見たが何もない。朱塗りだけが続いていく。


「どこなんでしょうか...。まさかどこかで見落としたんですかね?」


「10年間ひまだったからいろいろたんけんしたけど、かくし部屋みたいなものはなかったよ。」


「『かいと』がそういうなら事実か。だとしたらどこだ?校庭か?」


窓から覗くが当然何もない。


「ぬおおおおー!!一体どこだ!?羽目板の裏とかに隠れてるのか!?学校の地図に書いてない場所なんてわかんないよ!」


「そうですよね...もっと詳細なマップならよかったんですが...」


とここで輝登が言葉を切る。なにか思いついたようだ。


「地図に載っていない場所?ありがとう朔さん。それなら一つ候補があります。それはもはや一つのフロアと化しているため、記されませんし、普段立ち入ることも少ないですしね。」


朔たちの間に電撃が走る。(注:比喩です。)


「そうか...その場所って...」


「ちょうど少し後の時間になるとロマンチックな雰囲気になる...」


「「屋上!!!」」


「はい、正解です!早速向かいましょう!!」


朔たちは階段を駆け上がっていく。3階へ来た時、マリンが不意に現れる。


「みんなぁ1やばいこれ速すぎるって!雷の力尽きそうだし急がないとやばいよぉ!!」


「大丈夫ですよ、行く当てはついたので。」

  

     べたべたべたべたべたべたべたべたべた!!!!!


『鬼』も追ってきた。さあ、ここが正念場だ。

服の力に完全に頼り、驚異の2段飛ばしで駆け上がる。しかし4階の上に伸びる、屋上への階段はとても長かった。全員がひぃひぃ言いながらダッシュ。『鬼』も多数の足を器用に使い階段を猛スピードで上がってくる。もうみんな死に物狂いだ。やっと最初にたどり着いた輝登は屋上へのドアのノブをひねるが開かない。


「ど…どうしましょう開きません…!!」


「どいてーーー!!!」


追いついたマリンが冥王の霊笏をドアに向けて一閃。黄色い電気がほとばしり、ドアが砕ける。朔は、あんなものが人間に当たったら…と考え一人ビビっているが、何はともあれ輝登の報告で我に返る。


「つばささんがいますよ!朔さん!!行って!!」


「うおおおお…!!」


朔の真後ろまで『鬼』はやってきている。ドアの破片にひっかかり、朔はつんのめる。横から澪が『鬼』を手でぶん殴り、少し後退させる。その隙に朔は起き上がり、ダイビングヘッドの要領でつばさのもとへ。サッカーの試合ではうまくいったことがないが、今回だけは別だ。タッチすればいいだけなのだから。朔の手がつばさのかかとに触れる。そのとたんそばを浮遊する人魂が4つに増え、『鬼』の動きが止まる。


「ぅ…ううん…。あれ?…天原君?」


「ああ、俺だよ。体、大丈夫?なんか月並みなことしか言えないけど、目覚めてよかった。」


「うん、また助けられちゃったね…」


「大丈夫だよ。助け合いが大事だし、てか頼られるとうれしいからもっと甘えてくれない??」


「なんか甘えるって言い方、ヤだなぁ…」


「ちょっとお2人さん方、今はちょっといちゃいちゃするのそこまででいい?『かいと』君がなんか言ってるから。」


「いっ…いちゃいちゃぁ///!?!?」


「はいはい。落ちてたつばさちゃんのなぎなた持ってきたから準備してよね。体動く?」


「うん。どこも痛くないよ。」


「たぶん今ならたおせる。おねがい、ぼくをたおして!」


「本当にいいんだな?」と朔が聞くと目を閉じて深く頷く『かいと』。


「『かいと』。短い時間だったけど、ありがとな。多分俺らはまた会える。そのときまでさよならだ。」


「うん。ぼくもずっとまってるよ。」


「よし、行くぞぉ!!!」


空が橙に染まり始めるころ、屋上にて戦いの火蓋が切って落とされた。コンクリート製の床、遮蔽物は僅少、そして周囲を囲う柵はない。先走ってマリンが雷を放出。その隙に金烏を使って輝登は屋上にある数少ないオブジェクトである円筒型のタンクの上へ。そこで腰を落ち着け、銃を構える。朔たちは射線上から流れた瞬間、銃が乱射される。手が一本飛んだ。流れ出る黄緑のオーラ。しかし『鬼』も負けていない。こぶにある口から鋭い糸を吐き、輝登を狙う。そこをまた金烏で空中を突っ切るつばさがなぎなたで斬り払う。そのまま『鬼』は朔のほうには毒の球を吐き出す。とても大きな球が6、7個である。


(よく見ろ。被弾するなよ。ほら、くるぞ…リズムを合わせて…3、2、1…)


右に左に上に下に、毒の球をよける。宿霊剣に頼るのは最後まで温存。そのまま毒の球は飛んでゆく。このままなら校舎の外に被害をもたらすかもしれない。ここにいたのが朔たちだけならば。


「どうにかしてくれるんでしょ?万里亜先輩?」


流し目で校門のほうを見る朔。全て感じていた万里亜は苦虫を嚙み潰したような顔で応じる。


「サクくんったらまったく…先輩遣いの荒いこと。私怒っちゃうぞ?」


と言いながら2秒で大型銃器の組み立てを終える。ギターのようにバンドで肩から下げ、口径の大きな砲弾のようなものが飛び出す仕組みだ。それを万里亜は照準を定めて砲弾を打ち出す。さすが先輩、全弾命中。毒の球は霧散する。一息ついた万里亜は屋上のほうを見やり、つぶやく。


「はい、私の仕事終わり。あとはキミたちの番だよ。」


朔は毒の球が消えたのを見て、満を持して宿霊剣を抜き放つ。当然前よりも強い虚脱感が襲い来る。


「…ということで、わたくし天原朔は2分間体調不良と戦うことを宣言しまーす!」


その場に腰を下ろし、壁際まで移動。その欠けた分の攻撃のピースを澪の妨害グッズが補う。澪が大量の火薬球を手を使って投げ上げる。マリンが器用に雷を当てる。


「みんな伏せて…!!」


ドゴンと一発腹に響く大きいのが来た。煙が晴れ切る前につばさがなぎなたをふるう。また足が一本斬れた。『鬼』はいら立ち衝撃波を口から放つが、また澪が呼び出した手が防ぐ。


「その手便利ですね…なんでも使えますよこれ。」


「手ってなんかアレじゃない?愛着に欠ける的な。」


「『大手』とかどう?」


といまだ座り続ける朔が提案すると、即「ダサい」だの「なんか嫌」だのと却下される。


「大手…『おーちゃん』とかはどうかな?」


「おおナイス『かいと』!おーちゃんでいこう!」


「そうしようかな…改めてよろしくね、おーちゃん。」


澪が呼びかけるとおーちゃんは嬉しそうに揺れる。


そんなこんなで2分経過。


「っしゃ出陣じゃい!!思う存分暴れてやりますか。」


朔は金烏に両脇をつかんでもらい、スピードをドーピングして斬りかかる。吐き出された糸が多数寄せ来る。それを朔はいなし、斬り払い、受け流し、避け、『鬼』に肉薄。しかしほんの手前で足元に張られた糸に足を取られ転倒しかける。しかしおーちゃんがまたもやナイスプレーで朔をつかみ、ぐっと引き戻す。数瞬後に持ち上がった『鬼』の足が振り下ろされ、地面に亀裂を作る。一歩遅かったら鋭い『鬼』の足に体を貫かれていただろう。今度はつばさと連撃を試みる。朔がすべての糸を切断し、つばさの道を拓く。なぎなたが、『鬼』のいぼに突き刺さる。抜くと、大阪城での赤松のように黄緑のオーラが大量にあふれ出る。


「うわなにあれ…僕たちで言う血みたいなもんですか?でも確かに再生しないですね。続ければ倒せそうです。」


と言いながらなぎなたを抜いてさっとどいたつばさのすぐ後を補うように輝登は銃を乱射。銃弾が切れたのか弾込めをしている。その間をおーちゃんが割って入るが、『鬼』もそろそろ本気でまずいことに気付いたのか、口から圧縮したエネルギー弾のようなものを発射。おーちゃんはまともに喰らいちぎれ飛ぶ。


「おーちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


つばさがさけぶが、澪が落ち着かせる。


「おちついて…おーちゃんは再生するから。」


「あ、そうなの?じゃあおーちゃんの分も頑張らなきゃね…」


 ――上から多重の衝撃波が襲ってきた。


◆ ◆ ◆

これはまずいことになった。確かにうまくいきすぎていて油断したのも事実だ。しかしそこを絶妙に疲れて陣形が総崩れ。輝登は足場から頭から落ちて血を流している。その傷を受けるもととなった攻撃を受けて彼の金烏もダウン状態、マリンは笏を地面に突き立て辛うじて立っている。そして朔は膝をついている。血が出た左腕を抑えている。ぴんぴんしているのはつばさと澪オンリー。毒の球から進化して、毒のビームのようなものを放つようになってきた。


「ちょっと遮蔽物が欲しいんだけど、澪ちゃん、おーちゃんはまだ復活しない?」


「まだもうちょっと...ちょっと時間稼がなきゃだから...力貸してくれる?つばさ。」


「私にできることならなんでも。」


「合わせて攻撃して。」


短く言葉を残し、澪は煙球を3つ放り投げる。砂嵐の中にいると何も見えないが外にいると向こうが見えるのと同じ要領で、今一方的に澪たちだけが周りを見渡せる。それを利用し『鬼』の周りに起爆剤をセットしていく。しかし目つぶしされたので『鬼』は四方八方に糸を放出。近寄っていた澪の肩口を薄くえぐる。しかし澪は痛みにくじけず設置し終えた。再び迫りくる糸はつばさが流し斬りで一か所に集め、澪がチャッカマンで燃焼させる。そのまま本体にも火をつけようと試みるが足で手からチャッカマンが叩き落される。「あ」という短いつぶやきを残し、周りの地面が爆ぜる。しかしマリンが雷速で危機一髪澪とつばさを避難させる。糸が燃え、使用不能に。これで『鬼』のウェポンは毒とエネルギー弾、鋭い脚しかない(はず)。澪は倒れた輝登をタンクの裏へ連れていきかくまう。朔も何とか起き上がる。


「おーちゃんが復活したよ。」

 

「もう正味短期決戦しかないと思うんだよ。こうやって話してる今も毒ビーム飛んできてるし。」


「じゃあ全方向から攻めよう!」


朔たちは散開、四方向から挟撃。『鬼』は激しく足を振り回し、毒とエネルギー弾を吐き出し抵抗。毒はおーちゃんが薙ぎ払う。エネルギー弾はマリンが相殺。つばさと朔は両サイドから斬りこんでそのまま左右に分かれる。『鬼』が飛び上がりダイビングプレス。押しつぶされるのは勘弁なので大仰に回避し落ちてきたところをぶっ刺す。そのまま『鬼』が全身から毒の奔流を垂れ流す。すごい勢いだ。朔たちは金烏を呼び出し空中へ逃れる(しっかり輝登と『かいと』も回収)。マリンが今日いちの大きな雷電を起こし強制的に毒を蒸発させる。その後また屋上に降り立った朔は駆け出す。大きく走った刀が『鬼』を狙うがジャンプして躱される。そのまま減ったとはいえ人間よりはるかに多い足と宿霊剣を必死になって打ち合わせる。


「ここでぇ…決めるんだ…!!!!」


また一本、朔が足を斬りおとした。その代償に朔も右太ももに別の足が刺さる。即座に引っこ抜きバックステップでみんなのもとへ。


「やべえ機動力そがれた…!」


「おーちゃん使う?」


「ああ、頼む。俺を投げてくれ。」


「じゃあおーちゃん、頼むね…。」


朔はおーちゃんの手のひらに乗る。おーちゃんはためをつくり、朔を全力でぶん投げた。さすがにすごい重力加速度がかかる。けれども朔は顔を前に向け、宿霊剣を振りかぶり飛んでゆく。『鬼』は後ろ足以外の残存するすべての手で体をガードする。加速する時間と白熱する思考。どうする。このままじゃ鋭い脚の餌食だ。そしてこれを逃すとまた誰かがこれ以上傷ついてしまう。ひねり出せ、重なった足と本体を切り刻むほどの力を。全身の痛みも、消えない雑念もすべてクリアに。腰のひねりでより推進力を増せ。朔は大きなためをつくってその時の訪れを待つ。しかし。パアン、と音がし、足がはじけ飛ぶ。


「朔さん、行ってください!!足は何とかしますから!」


目覚めた輝登がマリンの支えで立ち上がり、銃弾を放っていた。『鬼』が突然痙攣する。


「どう?雷のエネルギーをしっかり込めた弾は。シビれちゃうでしょ?」


残った足もつばさがなぎなたで払う。もう、邪魔するものは何もない。朔と『鬼』の距離はもう1メートル強――


「おねむりください、ことろさま。」


足を切るつもりで込めた力を生かし、深く斬り込む。刃が肉に食い込む感触。第一の刃でこぶを切り落とし、返す刀で首を落とした。着地した朔は胴体に斬りかかり致命傷を与える。『鬼』の全身から溢れ出す黄緑のオーラが『鬼』の体全体を包み切った時、『鬼』の体は崩壊し、周囲には白い光がひらめく。そのまぶしさの渦中で、朔はことろさまの記憶を視た。


◇ ◇ ◇

わたくしは何もかもが平凡な女としてこの世に生を受けた。代り映えのない生活、代り映えのない人生。何か変化を起こしたくて、運動や勉強も全力を尽くした。メイクも頑張ってみた。けれども、気づいてしまった。所詮『持っている』側の人間に勝つことはできないのだと。人はだれしも一度は大望を抱く。それが身に不相応であるとわかっていても、だ。わたくしはその傾向が強かったようだ。わたくしはいつか成功してやろうとずっと思っていた。けれどもどだい無理だった。不安定な砂の城を作るように、どこかに手をかけるとどこかがもろく崩れ去った。わたくしはすべての望みを捨て去った。するとなぜか心には凪が訪れた。裏切られるくらいならいっそ望みなんて、とわたくしはひとりごちていた。でも、人生ってものは、平均するとちょうどいいくらいにできているようで、こんなわたくしと結婚してくれるという人が現れた。一年後、子供もできた。玉のようなかわいい子。わたくしは灰色のモノトーンの生活が、急に彩度を増したように感じた。


「あなただけはわたくしが一生守りますから、らいと。」


らいと=頼斗は夫の単純な考えでつけられた名だ。


「頼れる人のほうがいいよな。」


「そうですね、わたくしはなんか嬉しすぎて信じられません…!」


1歳。頼斗がしゃべった。


2歳。頼斗が歩いた。


3歳。頼斗がごっこ遊びを始めた。


4歳。初めて頼斗を連れて夫と遠出をした。


5歳。七五三に行った。とてもかわいらしかった。


6歳。頼斗が亡くなった。今まで全くてんかんなんて患わなかったのに、おそらくそれが原因で突然死した。もうすぐ小学校だからランドセルまで買って、全てがうまくいっていたのに。わたくしは本気で自殺を考えた。でも夫に必死になだめすかされ、気が変わった。そして夫婦で決めた。また子供をつくろうと。しかしなぜか、2人の間に子供はずっとできなかった。誰に相談してもダメなものはダメだった。


(何を調子に乗ってたんでしょう、わたくしはもともとこうだったのに。何も変わらない、何もうまくいかない。わかってたはずなのに…。涙が…止まらない…)


その日からわたくしは情緒が不安定になった。当然妊活は打ち切り。実家も古い考えの人たちの集まりなため、早く孫の顔を見せろとうるさい。わたくしは髪を切らず、風貌を整えなくなった。夫に聞くと、自覚はないのにずっと


「こどもこどもこどもこどもこども…」


と呟いていたらしい。我ながらホラーである。しかし1ヶ月経っても半年経っても、1年経っても妊娠することはなかった。わたくしにとって子供は希望の光だった。四月になると、小学校に入学する子供たちの笑い声があふれるようになった。我が家は通学路に面しているらしい。わたくしは玄関を開け、外を覗いてみた。どの子も太陽のような笑顔で目をキラキラさせていた。五月。ふっと思った。どうしても手に入れたいと。


「こぉとろ、ことろ。」


わたくしが小学生の時はやった遊び。親が子供を鬼から守る遊び。


「子ぉ捕ろ、子捕ろ...」


わたくしは外に出て、ある男児の体に手をのばし、捕まえようとする。しかし、その瞬間


「何やってるんですか!?」


と横から飛び出してきた男性に突き飛ばされる。そのまま出張ったコンクリートに頭を打ち付け、意識が途切れる。気が付くと、目が見えなくなっていた。でもどうやら音を聞く限り、ここが現世でないことはすぐに分かった。()()()()()()()()()()()。でもその中で聞こえた、確かな声。よくとおる女の声だった。その声が言う。


「あなたはまだ未練を果たせていませんね?子供が欲しかったんですよね?すごく同情いたします。」


「あ…あなたは…?」


「名乗るほどの価値もありませんから控えさせていただきます。提案なのですが、あなたが生霊となり子供を取り込めば、子供と暮らすことができますよ。」


「それは…どういう…」


といい終わるか終わらないかのうちに、また意識が薄らぐ。


「あなたは子供たちに呼び出されているんです。こっくりさんなどと同様にね。」


といった声を最後にして。


その後もわたくしは呼び出され続けては眠らされ続け、『ことろさま』という愛称で怪談の種となった。ある日、わたくしを眠らせ忘れた子供たちがいた。わたくしは生贄にささげられた子供を取り込み10年間暮らした。取り込んだそのとたん、視覚が開かれた。わたくしは手近な子供たちと教師を皆取り込んだ。年月を経る途中でわたくしは耳が聞こえなくなった。音の刺激を受けなかったからだろう。いつの間にかわたくしは化け物と成り果て、望んでいたこととの相違に愕然とした。焦っていろいろな手段で子供を誘い込み取り込もうとしたがすべてが徒労に終わった。久しぶりに入ってきた生贄の少女は、仲間の手によって解放された。そしてなんだかんだで感じなかった痛覚も、最初で最後に感じたのは茶髪の少年によって体に食い込む刃の感触であった。


(もういい――潔くすべての妄執を捨ててあるべき場所へ帰りたい…。こんな姿になってまで欲しかったものは得られなかった。もういいんだ。)


そんなことを思いながら斬られたわたくしは堕ちてゆく。おそらく地獄へ向かって。


◇ ◇ ◇

記憶を視終わった朔はやり切れない思いを顔に表しつつ言う。


「また全員無事に帰ってこられたよ。」


もう陽は傾き、宿霊剣は自らを誇るように夕日の赫を反射し輝いている。突然に音がした。よくよくものも言わずに、ためらうように、戸惑うようにあたりをせわしなく見まわしている。『鬼』とともに成仏したと思われていた『かいと』であった。

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