スサノオ女装疑惑問題を考える
女装と言えばヤマトタケル、ヤマトタケルと言えば女装と、とにかく日本神話で女装=ヤマトタケルみたいになってますが、実はもう一人物凄くマイナー説ながら女装疑惑がある有名人が居ます。それが超有名人スサノオです。
高天原たかあまのはら・たかまがはらで暴れ倒し、姉天照大神から高天原を追放されたスサノオが降り立ったのが出雲の国の肥河の辺りで、そこで有名な八岐大蛇を退治する訳ですが、その前に偶然出会ったアシナヅチ・テナヅチ夫妻の娘、クシナダヒメ(櫛名田比売、奇稲田姫)をいきなり嫁にくれとか言い出します。
何でも出会った時にシクシク泣いていて、「何故泣く?」と聞くと「もともと八人の娘が居たが、高志のヤマタノオロチに毎年食べられて最後の一人になり泣いている」と。それに付け込み、では無くてチャンスだと思ったスサノオは高天原の貴公子(追放中ですが)である事を明かして相手を信用させ、ヤマタノオロチを倒したら姫を嫁にする事を、両親にいきなり許してもらう訳です。ちなみにこの場面の絵やイラストではクシナダ姫はそこそこの娘として描かれる事が多いですが、実際はかなりの「幼女」(童女)らしいです。ヤバイですね、スサノオとかヒゲが生えた成人ですから……
で、神話の中でも有名な八岐大蛇退治が始まります。巨大な八岐大蛇の八つの首がすっぽり入る門と台を八つ作らせ、そこにまた八つの巨大な酒樽に酒を入れてオロチを誘い出し、飲み干して酔っぱらって寝ている所を次々に首を切り落として退治したそうな……勝利でハイになったのか、何故か突然奇行に走ったスサノオはついでに尻尾まで(ボンレスハム的に?)切り始め、その尻尾の中からガリッと出て来たのが【三種の神器】の一つ、【天叢雲剣】アメノムラクモノツルギという事になっています……なんというか、結局スサノオは巨大な酒樽とか台とか両親に準備させてるんで、そんだけの財力と動員力があればもともと両親にも退治可能だった気も。
で、問題はそこじゃ無くて、スサノオが八岐大蛇を退治に向かう時に「クシナダヒメを櫛に変えて頭に挿して」戦闘(というか頭を落とすだけ)に挑む訳です。えっ何故?? ってなりますよね。
女の子を櫛に変えて頭に挿すって結構な暴挙じゃないのと。しかし好意的に受け取ると櫛に姿を変えてクシナダヒメを守った、避難させたとも受け取れますが、正統な解釈では「女性の呪力を得た」という事になっているらしいです。
……でも櫛を頭に挿したと来たら普通は「女装した」と受け取る事も可能な訳で。で、とてもありがちな解釈で八岐大蛇を高志(越前・越後とかその辺り)から来た「謎の製鉄集団オロチ族」で、地元民の娘をさらう悪党集団だったとすると、そこに颯爽と現れた貴公子スサノオの悪党退治物語になる訳です。
すると櫛を頭に挿した意味も分かります。最後に供出される予定であったクシナダヒメ(幼女なのですが……)の櫛を譲り受け、代わりに女装してオロチ族の酒宴に忍び込んだのでしょう、多分。
そこでこんなありがち展開になる訳です。
「くくく愛い奴じゃもそっとちこう寄れ」
「あうっまだまだ来たばかりで恥ずかしいの、せめて持ってこさせたお酒を全部飲み干して下さいな……」
とか女装スサノオが言います。オロチ族が物凄いサディストとかだったらそんなの無視ですが、そこそこ無駄に優しかったのか、無理してキツイ酒を飲み干し八人の悪党全員がぐっすり寝てしまいます。そこでキラッと目を光らせた櫛を挿した女装スサノオが、卑怯にも寝ているオロチ族の首を次々切り落として行き、川は血で真っ赤になってしまいましたとさ……
……ちょっとそれ君、ヤマトタケルやないか!
ヤマトタケルが敵を騙したり結構酷い事を連発するのと同様、大和朝廷の言い伝えにはこうした敵を酒で騙すみたいなやり口が普遍的にあって、ネタが被る事も多かったのかもしれない。神話を書いている人も余りにもだまし討ちネタ被りが多い事を憂慮したのか、良心が働きヒゲ男の女装を止めて何故か櫛を頭に挿す部分だけを痕跡として残した……という説はどうでしょうか。……はい無理がありますよね。
しかし尻尾から出て来たアメノムラクモを、追放した張本人の姉天照に献上するとか、涙ぐましいくらいに真面目な気がしますが。そこからは両者の関係が決して悪く無かった事がうかがい知れます。創作ではだいたいとにかく天照とスサノオは仲が悪いので……