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6.婚約者のジョエルと食事

――数日後


今朝、学校に着くなりルミエラ様は、


「ヒナノ、悪いけれど今日は私は一緒に昼食をとれないから」


と言った。

唐突にそう言ったルミエラ様に驚いたヒナノだったが、とりあえず返事をしておく。


「わかりました」


そもそも従者が主人と食事をする方がおかしいと思うし。

ただ、一人でカフェテリアとなると食堂は使えないよね。あとで、レンディさんにカフェテリア以外で食事をとれる場所を聞いておかなきゃ。

ヒナノがブツブツ呟いていると、ルミエラ様の視線を感じる。


「えっと、どうかなさいましたか、ルミエラ様?」

「あっさりしているわね……」

「なにがですか?」


ヒナノが聞くと、ルミエラ様はプイっ顔を背け、そのまま授業に向かって行ってしまった。

 そんな、クールなルミエラ様もかっこいい。


「さて今日も手がかり探し、頑張りますかぁ」


ヒナノはパチンと頬を両手で叩き、気合いを入れてから図書館へと向かった。







「ルミエラ、浮かない顔をしてどうしたのかな?」


昼、ルミエラは婚約者のジョエルと食事をとっていた。互いに愛のない、いわゆる政略結婚の相手なのだが、こうしてたまに二人で食事をとるようにと互いの親から言われている。今日は仕方なく二人で食事をとっていた。


「別に、普段からこういう顔ですが」


――はぁ。


ルミエラは頭の中で、ため息をつく。

やっぱりヒナノを従者として、学園に連れてきたのは間違いだったかもしれない。

従者して連れてくるとなれば、向こうはこっちを主人として扱う。つまり上下関係が生まれてしまうのだ。ルミエラが望まなくとも。当初はそれでよいと思っていたが、考えてみるとヒナノはこの世界の出身ではないし、貴族間のしがらみや、貴族と庶民間の溝とも無縁だ。だから、学園の友人とは、家の使用人とは異なる関係がヒナノとは築けたのではないか、と少し後悔してる。


「はぁ……」

「なんだなんだ、何か悩みか? このジョエルお兄さんに言ってごらんなさい」


ジョエルは鼻息を荒くしながら、自分の胸をバンバン叩いている。


「お兄さんって、同い年でありませんか」

「いや僕の方が誕生日は三か月ほど早いよ?」


ああ、面倒だ。今は婚約者と食事をしている場合ではないというのに、早くヒナノを元の世界に帰す方法を見つけないと。

しかし、ヒナノもヒナノだ。異世界からきたっていうのに少し落ち着きすぎていやしない? 抵抗もなく、「様」づけで呼んでくるし。それとも、ヒナノがいた世界もこちらと同じような世界なのかしら。それにしては、出会ったときに「貴族」という言葉にピンと来ていなかったようにも思うけれど。

とりあえず、さっきから悩みを相談してほしそうにしている、ジョエルをどうにかしないといけない。でも異世界から来たヒナノのことを話すわけにいかないし。適当にごまかしておこう。


「ジョエル様は異世界に行く方法をご存じですか?」

「い、異世界? いや、知らないけど」


いきなりどうしたんだい? とジョエルは困惑した顔をする。

それはそうだろう。こちらは図書館で調べに調べてもわからなかったのだから。

あれから三日、ヒナノは一日中、ルミエラは空き時間をフル活用し、異世界に帰る方法を探しているが、いまだに糸口すら見えてこない。

しかし、本当にこのままヒナノを元の世界に帰せなかったらどうしよう。口だけの女になってしまうではないか。日が過ぎるごとにその可能性が大きくなっていることにルミエラは焦る。


(ただ、人それぞれ知っていること知らないこと違うのだし……)


ルミエラは困惑したままのジョエルを放置し、ナイフとフォークを機械的に動かし、料理を口に運ぶ。今日は婚約者同士で二人きりになるために、カフェテリアではなくガゼボで食事をとっていた。

ちなみに、クレプスキュールの家にだって、他言無用の話がある。この前、ヒナノにはものすごく濁して説明したけれど、あれはかえって混乱させてしまったかもしれない。

 この世界には竜が存在しているが、その存在を知っているのは基本王族のみ。例外がクレプスキュール家、その理由は。


――クレプスキュール家が竜に呪われているから。


むかし、この世界で竜を巻き込んだ戦争が起きた。自国が、黒き竜ともに他国に侵攻したのだ。その時に黒き竜を封印したのが、クレプスキュール家の先祖。つまり、クレプスキュール家は自国を裏切って、他国についた。そして、その裏切りの代償として、黒き竜に呪われた。そして、呪われたものには呪いのしるしが表れるのだが……。

これにあることないこと盛り込んで、話を捻じ曲げたのが、先日図書館で調べたおとぎ話である。

ジョエルやアリシアは今も実際に竜が存在していることを知らない。知っているのはクレプスキュール家に短命の者が生まれやすいということだけ。というか王家は竜の存在を国民に隠している。だから昔の竜を巻き込んだ戦争も、歴史の授業では、竜の存在を隠したものが語られている。昔、誰かが意図して記録を残さなかったのだろう。理由は不明だが。


(私が竜の存在を知っているから、というわけではないけれど。誰か召喚術や転移術のことを知っている人がいるはず……)


それとも全くの見当違いで、召喚術はおとぎ話の作られた部分なのかもしれない。

ヒナノの役に立ちたくて、ルミエラ自身を頼ってほしくて、ああ言ってしまったけれど。

やってしまったかもしれない。


「ジョエル様……」

「ど、どうしたんだい、ルミエラ」


ルミエラが料理の皿から視線を移し、ジョエルに声をかけると、ジョエルの顔がぱあっと明るくなる。


「その、友人にできないことをできると言ってしまい、無駄に期待をさせてしまったことをお詫びしたいときはどうすればよいでしょうか……」

「そりゃ、謝るしかないよね。期待させて、落とすってことは相当相手を傷つけるだろうし。期待の規模にもよるけどね」

「彼女の人生に大きな影響を及ぼすようなことです」

「それだと、許してもらえないかもしれないなあ。運が良ければ謝罪で済んで友人関係が続くけど、最悪を覚悟した方がいいよ」

「最悪とは?」

「……その友人を失うこと――」


その言葉を聞いた瞬間、ルミエラの胸が締め付けられる。そして、人生最大規模の後悔の念がルミエラを襲う。

どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。言わなければよかった。


「あの、ジョエル様」

「うん?」

「異世界に行く方法じゃなくてもいいのです。かたくなに魔法などを信じている人をご存じないですか?」


ルミエラは思わず、身を乗り出す。

こうなったらなりふり構っていられない、使えるものは何でも使う覚悟だ。

ようするに自分がヒナノに言った言葉を嘘にしなければいい。


「ああ、一人知っているけど。人ならざる力を信じている人なら……」

「どこに行ったらお会いできるでしょうか!」

「やたら、ぐいぐい。くるねえ……。なんだか嬉しいなぁ。王立図書館のガリバー・タントルという人を訪ねるといいよ」

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