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3. 「これ学校? 宮殿の間違いじゃ?」

「これ学校? 宮殿の間違いじゃ?」


ヒナノは目の前の建物を見上げながら呟いた。まるで宮殿のような豪華な彫刻の施された巨大な建築物に唖然とする。自分がいた世界の学校の校舎とは全く見た目が異なることは言うまでもない。

 これが、学校というのなら、ヒナノが通っていた高校はもはや豆腐である……。


「ルミエラ様はこんなすごい所に通っているんですね」

「見た目だけじゃなくて、施設も充実しているわ。特にこの学園の図書館は、この国でも有数の蔵書数を誇る図書館なのよ」


すごい、貴族の通う学校ってすごい!ヒナノは視界に入るものすべてに感動し、きょろきょろと周り見てしまう。


「ヒナノ、みっともないからやめなさい」

「申し訳ございません、ルミエラ様」

ヒナノは今日から、ルミエ様ラの従者として、この学園で日々を過ごすこととなっていた。それをヒナノが知ったのは、今朝だ。

一週間前に助けてもらったと思えば、今日はもうルミエラ様に付き従い学校に来ている。


「ヒナノ、さっき馬車の中で渡した本だけど、内容は理解できたかしら」

「は、はい」


今朝、馬車に乗ってからすぐ、ルミエラ様に字が読めるかどうかと、本を渡されたのだった。ヒナノはそれを学園に到着するまで読んでいた。

それは不思議な感覚だった、書かれている文字は、日本語とは全然違うのに読めるし、内容も理解できる。一体自分の脳に何が起きているのかわからないけれど、文章の意味が理解できるということはこの世界で生きることにたいしての難易度が少し下がるということだろう。早く元の世界に帰りたいのはやまやまだが、今はそこのところを素直に喜んでおく。

校舎に入るとルミエラ様は真っ先にヒナノを従者の待機部屋に連れて行ってくれた。


「口頭で説明してくだされば、一人でもたどり着けたと思いますけど」

「いいのよ、まだ少し時間もあるし」

 

でも主人に世話される従者ってどうなんだろう。と、ヒナノは前を歩くルミエラ様を見ながら思う。というかそもそも従者って何をするんだろう? えっと、お世話? ルミエラ様のお世話をすればいいの? え、お世話ってどうやってやるものなの? 全然わからないんだけど!


「では私は教室へ向かうわね」


そう言ってルミエラ様は立ち去る。


「あ、いってらっしゃいませ」


ヒナノはルミエラ様を見送ってから、待機所の扉を開けた。

中には数人の従者がいたが、ヒナノには目もくれず各々好きなことをやっている。


「あれ、見ない顔だね」


しかし、一人だけヒナノに声をかけてきた人物がいた。

ショートカットヘアの女性である。


「あ、えっとルミエラ様の従者のヒナノと申します」


ヒナノがぺこりとお辞儀をすると、周りがザワザワとする。

えっと、変なこと言ったかな。

「あれ、ルナさんじゃないんだ。おっと失礼。私はレンディ、ローズ家の四女、アリシア様の従者兼護衛さ」


レンディさんの声は女性にしては低めだった。

ローズ家、アリシア様……やばい、わかんない。てか、ルミエラ様の友人関係とか、この国の偉い貴族の名前とも全然知らないんだけど、これまずくない?

何かあったら、記憶喪失で通すか……。


「もしかして、ルナさんに何かあった?」


ヒナノが動揺する傍らで、心配そうな顔をするレンディさん。


「い、いえルナさんは、元気にしていると思い……元気にしてます」


実際のところヒナノはルナさんのことをよく知らなかった。ここに来る前の一週間、ほとんど顔を合わせなかったし、廊下などですれ違っても無視された。こちらから声をかけて全くの無視である。もしかしたら、あの時点でルミエラ様からルナさんに、ヒナノが休暇明けから、ルナさんの代わりにルミエラ様の従者として、学校へついていくことを知らされていたのかもしれない。そうだとしたら、ヒナノは怒りの感情を抱かれても、恨まれても仕方あるまい。なぜなら、ルナさんのいた場所をヒナノは奪ってしまったのだから。きっとレンディさんのほかにも従者コミュニティの知り合いとかいて、ここで交流していたんだろうし。

ああ、ごめんなさい、ルナさん。

ヒナノは心の中で土下座しておく。


「そっか、元気ならいいんだけど。それにしても今頃、世話役を変えるんだ。相変わらずルミエラ様はつかめないお人だ。時間だってないのに――」

「え?」

「――もしかして、知らないのかい?」

「何がですか?」


ヒナノがそういうと、レンディは気まずそうに顔をそらす。


「いやこっちの話、気にしないで」

「は、はあ」

「というかここに来るの、今日が初めてだよね? 学園内を案内してあげるよ」


とレンディさんはヒナノ手を引く。


「あの勝手に出歩いて大丈夫なんですか?」

「ん? 大丈夫、大丈夫。主人に言ってさえおけばね。それに毎日毎日この部屋に閉じ込められるなんて耐えられないだろ?」

「私、ルミエラ様に許可をいただいておりません」


ヒナノの言葉に、レンディはきょとんとした顔をする。


「さすがルミエラ様の従者、真面目だね。まあ新人さんはそれくらいがいいか。大丈夫、僕が連れ出したって言っておくから。ルミエラ様とアリシア様は仲がいいからね」

「は、はあ」

「ほら、いくよ」


ヒナノはレンディに腕を引かれ、従者の待機室を出た。






――昼頃、カフェテリアにて。


「あのレンディさん、私たちここにていいんですか?」


午前中レンディさんは、学園内の各施設の場所を教えてくれた。ただ、ヒナノはそれを全然覚えられなかった。まず学園の敷地が広すぎる。ヒナノの通っていた高校の校舎の三倍の大きさの校舎に加え、学園の庭園は通っていた高校のグラウンドの二倍くらいあった。レンディさんはその広範囲を今日一日で案内しようとしてくれているらしく、効率重視で学園内を回っていく。が、普段から主人の予定を把握したり、効率よく動き回れるように訓練された従者ならまだしも、一週間前まで物覚えの悪い、ただの女子高生だったヒナノには難易度の高すぎる学園案内だった。


「大丈夫、大丈夫。僕はいつもここでアリシア様と一緒に食べているし、たまにルミエラ様とルナさんとも一緒に食べていたよ」


レンディさんは人差し指を立てて、自慢げに言った。


「おっと噂をすれば」

「あら、レンディ、席をありがとう。あら、そちらは……」

「紹介するわアリシア、今日からルナに代わって私の世話をしているヒナノよ」

「初めまして、ヒナノと申します」

「アリシア・ローズよ、よろしくね」


といってアリシアは首を傾けた。

ヒナノとレンディはそれぞれの主人の椅子を引き、二人を座らせる。

それから、主人たちが食べたいメニューを聞いてから、料理をカウンターに取りに行った。

メニューは基本三種類で、メイン以外は共通。メインだけ魚、肉、野菜の中から選べるようだ。ちなみにルミエラ様は魚料理をご所望である。

まさか、貴族の学校のお昼ご飯がこんなカフェテリアスタイルだったとは……。

ヒナノたちが料理をもって戻ると、ルミエラたちは何やら真剣な様子で話し込んでいた。







「アリシア、召喚術について何か知らないかしら」

「召喚術っておとぎ話に出てくる魔法のことですか」

「ええ、それよ。でも私がしたいのは架空の話じゃなくて、この現実世界に召喚術を行う方法があるかどうかという話よ」


アリシアはルミエラ様から突然振られた突拍子もない話に目を白黒させる。しかし、ルミエラ様の真剣な様子に気が付いたアリシアは、たたずまいを直した。


「そのような話は聞いたことありませんね。それにルミエラ様がご存じないことを私が知っているとも思えないですし」


ルミエラ様は学園で一、二を争う才女だ。そのルミエラ様を差し置いて、アリシアが知っていることなんて自分の身内のことか、レンディのことだけだろう。容姿端麗、頭脳明晰、そして由緒ある上級貴族、クレプスキュール家の長女。本来、アリシアのような下級貴族ともに行動するようなお方ではない。あの事がなければ、王子の婚約者にだってなれる器だったのに。


「そう、やっぱり自力で調べるしかないかしらね」


ルミエラ様は腕を組み、考え込むように言った。


「でも、ルミエラ様、なぜそんな話を?」

「いえ……少し気になっていることがあって」


とルミエラ様はアリシアから視線をそらした。その横で、ルミエラ様の新たな従者、ヒナノがあたふたしている。なんだか、落ち着きのない娘。優秀なルナに代わってこんな娘がルミエラ様の従者をやっているとはね……。


「それは『例の件』に関係しているのですか」

「いいえ、全く関係ないわ」


なら、そこまで重要なことではないのだろう。


「そうですか、ルミエラ様の『呪い』に関係ない――」

「――アリシア」


ルミエラ様がアリシアにするどい眼光を向ける。


「えっと……」


何か悪いことを言ったのだろうか。この四人は『呪い』のことを全員知っているはず。

まさか……。

アリシアがヒナノの方を見ると、ヒナノは驚きと困惑をあらわにしていた。困惑しているのはこっちだっていうのに。

もしかして、あの娘、知らなかったのか。


「まさか、自分の従者、それも学園内では唯一の従者に対し、お話しされていないのですか?」


アリシアの言葉に返事をせず、ルミエラ様は席を立った。料理にもまだ手を付けていないというのに。そして、カフェテリアを去ろうとする。ヒナノも慌てて立ち上がり、茫然としているアリシアとレンディに一礼した後、ルミエラ様を追いかけてカフェテリアを後にした。





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