30.復活
誤字報告ありがとうございました!!
「一体何がどうなってるの」
「それはこっちが聞きたいのですが」
ルミエラはクレプスキュール家に戻ってきていた。
あのあと、王がルミエラたちが閉じ込められていた部屋にやってきてたのだ。竜が用いる術で何者かに城の中へと侵入され、その痕跡をたどってきたらしい。倒れているアンヌ王女に動揺した様子を見せた王だったが、ルミエラが無事を伝えるとすぐに冷静さを取り戻し、家に帰るよう言ってきたのだった。
そういうわけで、今はヒナノの自室と化している、客間にヒナノを寝かせ、セツリュウとリア、そしてルミエラの三人は応接室のソファに腰かけていた。ルナがヒナノを看病している。
ルミエラはヒナノが負傷した経緯をセツリュウ達に説明する。
「侵入者に刺されたですって?」
セツリュウの目つきが一気に険しくなった。
「きっとシリュウね」
と吐き捨てる。
竜だろうか? あいにくルミエラは黒竜以外の竜を知らない。というか、呪い関連以外の竜の情報は知らないと言った方が正しいだろう。
「そういえば、あなた方はどうして城に?」
とルミエラはセツリュウに問うてみるが、セツリュウは考え込んだまま、何も答えない。
見かねたリアが代わりに答えてくれる。
「あ、それはですね――」
二人はナウネ国の元王城に潜伏していたこと、そしてヒナノの竜の力が目覚めたときに、すぐ駆け付けられるように準備していたことを説明した。なぜ、潜伏していたのかも気になったが、突っ込んだ話をして答えてくれる相手ではないだろう。
「とりあえず、セイリュウ様が回復されるのを待つわ」
「そうですね。あのルミエラさん」
とリアが遠慮がちに言った。
「何かしら」
「あの、服を着替えたらどうです? セイリュウ様が目覚めたときにその見た目ではその、セイリュウ様びっくりしちゃうと思うので」
「そうね、それがいいわよ、クレプスキュールの娘。そんな恰好で、セイリュウ様の視界に入るなんてこの私が許さないわ」
「ちょっとセツリュウ様」
とリアがセツリュウの袖を引っ張る。
すっかり失念してた。ルミエラが、自分の着ている服を観察すると、ヒナノの血がべっとりとついている。
「そうね、着替えてくるわ」
そう言ってルミエラは自分の部屋へと向かう。部屋の扉を開け、明かりをともしてから、新しい服を取り出す。もう着飾る必要はないし、と少しカジュアルな服を着ることにした。
「これは……」
ルミエラが取り出したのは、ヒナノと初めて会ったときに着ていたブラウスだ。
ルミエラは血で濡れた服を脱ぎ、水で濡らしたタオルで身体の汚れを落とす。その際に肩を確認した。今まで呪いの印があった場所には、血で書かれた図形以外何もなかった。
ルミエラはその血も入念に跡が少しも残らないように落とした。
そして新しい服に着替えてから、ヒナノの部屋に向かう。中には眠っているヒナノそしてそれを見守るルナ、セツリュウ、リアがすでにいた。
「あ、お嬢さま」
「ヒナノは?」
「まだ眠ったままです」
「そう」
「あなた、ルミエラだっけ?」
「はいルミエラ・クレプスキュールと申します」
そう言って会釈する、ルミエラにセツリュウは険しい顔をする。
「どうして、あなたセイリュウ様と一緒にいたわけ?」
「それは」
と言って、ルミエラは今までのことを簡潔に説明する。
「なるほどね……」
とセツリュウは複雑そうな顔をする。
「でもよりによってクレプスキュールって……。あなたセイリュウ様に変なことをしてないでしょうね」
「変なこと、とは?」
なんだろう、セツリュウから敵意に似たもの感じ取れる。
「だから、セイリュウ様に取り入って――」
「――そんなことは絶対しません」
「まあ、口では何とでも言えるものね」
「信用してくださらないと?」
「ええ、信用できるわけないわ」
「お二人ともお静かに、ヒナノが休めないではありませんか」
ルナが二人の間に割って入った。
「ごめんなさい、感情が高ぶってしまって」
「いえ」
その時だった、突然あたりが紫色に光ったかと思うと、轟音とともに、地面が大きく揺れる。
「まずいわね」
「セツリュウ様、一体何が?」
リアがセツリュウにしがみつきながら叫ぶ。
「コクリュウが解放された」
シリュウがやったのだろう。ヒナノがあんなことになり、失念していたが。あの男は王女を剣で刺した後、ヒナノを刺したのだ。目的は一目瞭然ではないか……。
しかし王女以外にも黒竜復活を目論むものがいたなんて。
「そんな、どうしてシリュウ様はコクリュウを解放なんて……」
「あいつは人間をよく思っていないから。だからって、あいつを解放するなんて」
「セツリュウ様……」
セツリュウの顔が歪み、その表情を耐えかねたのかリアが顔を伏せる。どうやらセツリュウとコクリュウは間にはただならぬ何かがありそうだ。もしかしたらコクリュウがナウネ国を滅ぼしたことと関係があるのだろうか。
「あいつを止めなければ」
セツリュウはそう独り言のように言った。




