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24.招待状

「お嬢様、今よろしいでしょうか?」


 夜、ルミエラが自室で読書しているとルナが部屋にやってきた。


「ええ」


 ルミエラは読んでいた本から顔を上げる。家の中でのルミエラの世話は彼女に任せているが、こうして改まって訪ねてくるとは珍しい。


「こちら本日届いたお嬢様宛てのお手紙です」


 と一通の手紙を手渡される。差出人は、この国の第一王女だった。


「そういえば、そろそろアンヌ王女のお誕生日だったわね」


 王族の誕生日は城で盛大に祝われる。招待客も相当な数で、ほとんどの貴族が招待をされる。

ただ、手紙一通くらい、直接渡しに来なくても机の上に置いておいてくれたらいいのに。


「それと、お嬢様」

「なに?」


 ルナの顔に迷いが生じていた。その手にはもう一通の手紙。


「お嬢様はヒナノとアンヌ王女のご関係について何かご存じですか?」


 ヒナノと王女様? あの二人に面識があるとは思えないけれど。


「いいえ。そもそも互いを知らないでしょう」


 もし、ヒナノが王女様に会ったとすれば、その驚きやら興奮やらをルミエラに話す気がする。


「それが、そうでもないようなのです」


 と力強く、差し出された封筒の表にはヒナノの名前。受け取って裏返してみるとそこには王女の名前。


「一体どういうこと?」


 いつの間に、二人は出会っていたというの? もちろんヒナノがルミエラに逐次報告する義務はないし、そんな友人関係などこちらからお断りだけれど。

でもなんだろう、この胸騒ぎは……。


「ヒナノを呼んでまいりましょうか?」

「いえ、私が話を聞いてくるわ」




***



「ルミエラ様?」

「今いいかしら」


 ヒナノが自室で読書をしていると、ルミエラ様がやってきた。


「どうかされたのですか?」

「少し聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」

「あなたいつアンヌ王女と知り合いになったの?」

「それは……」


 というかなんでルミエラ様がそのことを知っているんだろう。

 ヒナノが言いよどむと、一通の封筒を手渡された。ヒナノ宛で差出人はアンヌ王女。

 これは脅迫状でも入っているのだろうか。ヒナノはレターオープナーで封筒を開けて手紙を取り出す。内容は、


「誕生パーティの招待状?」


 とりあえず、物騒なものではないのでそこは安心する。が、なぜこんな招待状が届いたのか。

 ルミエラ様にこの前研究所でアンヌ王女と出会ったことを説明する。

 ただ、王女に、黒竜を解放しろと言われたことはどうしよう、これもルミエラ様に報告するべきか。でも、ヒナノは王女の言いなりになるつもりはないし、実際断ったし。

 ルミエラ様には知らせなくてもいいかな。


「王女が研究所に?」

「ええ」

「何の用だったのかしら?」

「さあ、ガリバーさんに用があったみたいですけれど」


 まあ、それだけじゃなかったけれど。


「そう、まあいいわ。特に何かされたわけじゃないのね」

「ええ、私は無事ですよ、ほら」


 と両手を広げてみる。


「それなら良かったわ」


 とルミエラ様はホッとため息をついた。何か、ヒナノとアンヌ王女が出会うとまずいことでもあるのだろうか。


「それより、最近ずっと本を読んでいるわね。しかも例の文字の本」

「ええ、ルミエラ様の呪いを解く方法を探してまして」

「ヒナノ、誤解が生じた日からずっとそのことを調べてくれているみたいだけれど。」


 とルミエラ様はヒナノの肩にそっと手を置く。


「無理しないでいいのよ」

「無理なんてしてません」

「だって、あなたこうやって毎日夜遅くまで起きているじゃない」

「私がやりたいからやっているだけですよ」

「でも……」

「せっかくこうやってほかの人が読めない字が読めるんです。だったらできるだけ手がかりを見つけたいじゃないですか」


 とヒナノは本のページをなでる。


「こっちにいらっしゃい」


 ルミエラ様はヒナノをソファへと手招きする。ヒナノが隣に座ると、ヒナノを自分の方に引き寄せる。


「ねえ、ヒナノ」

「な、なんですか」

「どうしてあなたはそこまでしてくれるの」

「どうしてって、それは。ルミエラ様は私のことを拾ってくれた恩人ですし」

「そう」

「それにやっぱり、好きな人には長生きしてほしいから、その可能性が、少しでもあるなら――」


 ヒナノが頬を掻きながらいうと、横から抱きしめられ、そのまま押し倒される。


「え?」


 ルミエラ様?


「ヒナノ……」


 ヒナノの顔を見つめるルミエラ様の目が潤む。両手首をがっちりとソファに押し付けられ、真っすぐな視線を注がれる。凛々しいその顔にはためらいの感情が見え隠れしているように思えた。

 その表情にヒナノは思わず、


「キスしてもいいですよ」


 と言った。言ってしまった。

 いや、何言ってるんだろう。というか何様だ!? ヒナノは心臓が激しく鼓動を打つのを感じる。勘違いだったらどうしよ――


 ルミエラ様はゆっくりと顔を近づけ、ヒナノの唇に自身の唇を重ねる。温かくて柔らかいその感触にヒナノは自分の体温が上がり、息苦しさを感じた。

 ルミエラ様の身体が離れ、ヒナノが体を起こすと今度は強く抱きしめられる。

 少し息が苦しい。


「ヒナノ、好きよ。どうしようもなく、好き。私……私死にたくないわ」


 そう言ってルミエラ様は嗚咽を上げ始めた。


「ルミエラ様」

「幼いころから自分の運命を受けれていたはずなのに、あなたに出会って。私、初めて死にたくないと思った。なんで今さら、こんな気持ちに」


 ヒナノはルミエラ様の背中を優しくなでる。

 それから、ルミエラ様の頬を伝う涙をぬぐってから、その跡に口づけをする。


「できることからやっていきましょう。まだあきらめるのは早いですよ」

「そうよね、ええ」

「二人で頑張りましょうルミエラ様」

「ええ、ええ」


 ヒナノの言葉にルミエラの涙が止まることはなかった。


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