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23.ヒナノとアンヌ王女

 とある土曜日。

 学校が休みの日はルミエラ様の従者業もお休みのため、ヒナノはガリバーさんの助手として、研究室に来ていた。

 呪いを解く方法自体はわかったものの聖竜や黒竜の手がかりは見つかっていない。

 ならば、他の方法がないか。

 そう思い立ち、図書館のほうに呪いを解く関連本を探しに行こうと思った。今は取りあえず、解呪の陣を模写している。

 ちなみにガリバーさんは隣国の図書館に出かけている。一応助手として、同行すると申し出たのだが、長期滞在になるかもしれないからと断られた。二足のわらじの思わぬ弊害である。


「まあ、自分の調べ物ができるからいいけれど」


 とりあえず描き写してしまおう。

 ヒナノがしばらく黙々と作業をしていると、突然研究室の扉が勢いよく開いた。


「ガリバー様! いらっしゃいます?」


 そして現れたは見知らぬ女性。

 あれ、今日は来客のアポイントメントはないはず。

 事前にアポイントメントのない来客があった場合は受付の人がここまできて客を通すか聞かれるのだけれど。


「すいません、ガリバーさんは出張でして」

「あら、あなた見ない顔ね」

「あ、ガリバーさんの助手をしています。ヒナノと申します」

「ガリバー様、庶民の助手を雇ったっていうの?」


 初っ端から、失礼な令嬢だことで。


「えっと、あなた様は……」


 どちら様ですか、と聞こうとすると。令嬢の顔に驚愕という二文字が現れる。


「まあ、庶民だから顔が分からないのも致し方ないわね……」


 そういうと令嬢は胸に手を当て、


「わたくしはリオワノン国第一王女、アンヌ・エイレン・リオワノンよ」


 リオワノン……。第一王女。


「お姫様!?」

「そうよ、私に会えるなんて、あなたラッキーね」


 いや、ちょっと待って。王女様がどうして一人でガリバーさんの研究室に来るわけ?

 護衛とか従者とかいなくていいの?


「あの、おひとりでこちらへ?」

「そんなわけないじゃない。下に待機させてるわよ」

「そ、そうですか」


 大丈夫なのかな。護衛の人張り付いていなくて。

 アンヌ様はヒナノを頭のてっぺんから足の先まで眺める。


「もしかして、あなたも竜を信じてるのかしら」

 

 あ、ガリバーさんの助手だからってこと?

 それに……。そうだ王族。王族は竜の存在を知っている。


「はい、信じてます。あの、王女様……聖竜は今どこにいるかご存じですか」

「聖竜? ちょっと待って。あなたまるで竜が本当に存在しているかのように言うわね」

「そのルミエラ様から教えていただきました。ルミエラ様と王族の方々は竜の存在を認知していると」

「ルミエラ・クレプスキュール……?」

「はい、私ルミエラ様の従者もしておりまして。今はルミエラ様の呪いを解く方法を調べていたんです」


 とヒナノは本を指す。


「じゃあ、あなたが」

「はい?」

「いえ、なんでもないわ。本ってこれあなた読めるの?」


 この反応を示したのはこれで三人目だ。本当になんで読めるんだか。


「ええ、ガリバーさんから今まで読める人がいなかったと聞きましたが……」


 ヒナノは今まで読んだ本の内容、特に呪いの解き方について説明する。


「へえ、本当に読めるみたいね……。えっと、ヒナノだったかしら」

「はい」


 王女様に名前を呼ばれると緊張する。失礼なことしないように気をつけなきゃ。


「私知ってるわよ、聖竜がいまどこにいるのか」

「え、ど、ど、どこですか!」

「教えてもいいけど、その前に。あなたこの類の本が読めるなら、調べてほしいことがあるの」


 そんな、すぐに教えてくれてもいいのに。


「黒竜の封印を解く方法」

「黒竜って国を滅ぼした竜では」

「そんなの大昔の話じゃない、それに黒竜は悪くないの」


 いやいや、国一つ滅ぼしておいて悪くないって……。


「どういうことですか」

「黒竜は役に立とうとしただけ、リオワノンのね」


 それは戦争で、国を滅ぼすことにより、リオワノンに利益をもたらそうとしたとかそういうことかな。でも、だからって悪くないとは言えないんじゃ。


「それでも、国を滅ぼしたことは事実です」

「だから封印しておくべきだと」

「は、はい」

「ふん、本が少し読めるからって偉そうに」


 本が読めるからというより、ルミエラ様が望まないことはしたくないという理由の方が大きいんだけど。


「だったら、クレプスキュールの呪いだって解かれるべきじゃないわよ」


 そういえばルミエラ様も、先祖が黒竜を裏切ったって言ってたけど。


「黒竜を封印したクレプスキュールは当時黒竜の守護者だったのよ。だから、あいつには裏切り者の血が流れているの!」


 王女に言葉に熱が帯び始める。


「守護者」


 ルミエラ様の先祖が?

 守護者は確か、竜を守るたった一人の存在で、えっと竜と時を過ごすために不老になるっていう。


「そうよ、竜が絶対的信頼を置く存在。その守護者が竜を裏切って、封印したんだから。だから呪われたのよ! あの家は」


 クレプスキュールが裏切ったから、だから呪われた? ルミエラ様が?

 でも……。

 今黒竜が封印されているのは黒竜自身が国を滅ぼしたから。ルミエラ様の場合は先祖が黒竜を裏切ったら。ルミエラ様自身がなにかをしたわけじゃない。なのに、呪われている。  

 竜とルミエラ様では状況が違う。


「とにかく! 私の家にあるこの類の本も持ってくるから、とにかく黒竜を解放する方法を調べなさい」

「しかし」

「黒竜が脅威かどうか決めるのはあなたじゃない。私たち王家よ。あなたはただ従っていればいいのよ」

「いやです。私は……」


 ルミエラ様の意志に、反することはしたくない。

 ヒナノが拒否をしようとすると、王女様が迫ってきてヒナノ壁へ追い込んだ。そして王女はヒナノに覆いかぶさるように、手で壁を押す。


「いやですって? 笑えるわね。あなたみたいな庶民が王女に逆らうっていうの? それこそあなたの主人、ルミエラに迷惑がかかるんじゃない?」


 この王女脅す気か。これだから、身分の格差ってやつは。

 ルミエラ様に、迷惑がかかる。またそういう話になるのか。だが、もうその手には乗らない。乗り切って見せる。


「確かに私はルミエラ様の従者ですが、それは学園内に限った話です。それ以外のときは、タントル伯爵の助手ですから」

「だったらガリバーに迷惑がかかるわね」

「いえ。研究員には個人の依頼を受ける権利がありませんから。なので王女は正式な書類として提出して頂かないと……」


 まあ、それで正式な書類持ってこられたらそれはそれでやばいんだけど。ただ正式依頼となると国からの依頼となり、国が黒竜の復活を望むことになる。その場合、だれにも止められない事態ということになる。とりあえず、王女だけが黒竜の復活を望んでいると思いたい。


「そう、あくまでも私に逆らうって言うのね?」

「もし国が望むのならその時は黒竜復活の方法を探しましょう」

「……あなた、覚えていなさい」


 王女は憤りを見せながら研究室を後にした。

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