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16.お迎え

「ガリバーさん! 遅くなってすいません!」


ヒナノは名残惜しさを感じながらルミエラ様と別れた後、急いでガリバーさんの元へ戻った。


「おー、おかえり。えらい遅かったじゃない」


 ヒナノはガリバーさんに事情を説明した。



「それは大変だったね。ルミエラ嬢は大丈夫?」

「はい、当初はしんどそうにされてましたけど、すぐに回復されて」


 本当に、ルミエラ様の回復力、恐るべし。ヒナノが保健室に運んだあと、本当は休ませなきゃいけないのに、なんか長々会話しちゃったし。あと抱き着いちゃったし。さっさとおいとまするべきだったよね。とヒナノは心の中で反省する。


「はあー。若者はすぐ元気になってうらやましいな」


正直、あの回復力はその範疇を超えていると思うけど……。もしかして、貴族の特殊能力とか?


「あ、それより頼まれた本です。お待たせしました」


  とヒナノは、例の幻の生物目撃者インタビュー本をガリバーさんに手渡す。


「おー、これこれ。確か竜の目撃情報が……」

「竜と言えば、これもおとぎ話の本なんですか?」


 と『竜と守護者』の本も手渡す。


「……ヒナノちゃん、それはなぞかけか何か?」

「え」


ガリバーさんは『竜と守護者』を片手に困惑した表情を浮かべていた。


「いえだからその竜と守護者について書かれた本について――」

「――内容が理解できるの?」

「え」


 ガリバーさんが表紙に書かれた文字を左から順番に指さしていく。ヒナノはその動きに合わせて、竜、の、守、護、者、と発音した。


「え、まじ? 嘘! 読めるの! この字が!!」

「読めますね」


 この国の文字とは違うから、外国の本かなと思ったんだけど。そして、ヒナノは異世界出身者の特権か何かで、この世界の言葉は自動的に理解できるのかなとも思っていたり。


「ヒナノちゃん、君は一体何者なんだ……」

「異世界から来た女子高生です」

「そうだった。まあ異世界から来たって話自体が突拍子もないんだから、この本の内容が理解できるからといって驚いてもいけないか」

「もしかして、ガリバーさんは外国語ができない感じですか?」


 ヒナノの疑問に対し、ガリバーさんはポカーンと口を開ける。


「あー、いや、私は各国の言語を一応読み書き位はできるけど。これはどこの国の言葉でもないのよ。まったくもって出所が不明の謎の書。昔から、解読しようとした人間はいたけれど、失敗に終わってるってわけ。だから、解読不能の本ってところかな」


 へぇーそうなんだ。


「ということは、誰もそこに何が書かれているか知らないってことですか?」

「そうなるね。でなんて書いてあるの? さっき竜とか言ってたよね?」


 とガリバーは興奮気味に聞いてくる。

 ヒナノはそんなガリバーさんに対し、身体をのけぞらせながら、本の最初の方に書かれていたことを説明した。


「六体の竜と、六人の守護者か……」

「でも、この世界に竜はいないんですよね?」

「ああ、いないことにはなってる。私の祖父は見たって言ってるけど……」

「もしかして、本当にいるんじゃないですか。ガリバーさんのおじいさんは本当に見たんですよ、竜を」

「もし、この本に書かれていることが真実だとしたらだけど」

「ガリバーさんは私の言っていることが信用できませんか」


 ヒナノの言葉にガリバーさんはそういうわけじゃない、首を振る。


「いや、ヒナノちゃんが適当を言っているとは思えないよ。それに納得できる部分もある」

「なんですか」

「レトヴィオは地震が少なく、エルワスは水害が少ない。レジドラとナウネはわからんけど。ナウネは先の大戦で滅びてしまったから」


 とガリバーさんはうなずく。


「ただ、仮にその本に書いてあることが本当だとして、私の祖父が見た竜が本物だとして、今現在竜はどこにいるんだ? なぜ誰も竜の存在を知らない?」


 ガリバーさんの意見はもっともだ。

というか、ヒナノ言葉を信用してくれるガリバーさんめっちゃいい上司だ。


「本当に竜がいて、誰も知らないってことは竜は隠れているんじゃないですか?」

「なぜ隠れる?」

「それは……わかりませんけど」


 二人でうーんと唸る。

 そもそもヒナノはこの世界についての知識はからっきしだし。


「というか、その本が読めるってことは」


 ガリバーさんは、自分の机に積んでいる本の中から一冊を引き抜く。


「これもなんて書いてあるかわかるんじゃないか」

「これは……」

「いや、ほらヒナノちゃんとルミエラ嬢が会いに来てくれた日に、私も気になったのよ。召喚術とかさ。でここの図書館で、普段あまり見てなかった本棚で、その本を見つけたわけ。なんて書いてあるか、わからないけど」


 ガリバーさんは本の中ほどのページを開いて、ヒナノに見せる。


「ほらここ図が書いてあるでしょ。なんていうか、おとぎ話に登場する、魔法陣みたいな。だからなにか関係することが書いてないかな」


 ページには図が二種類描いてあった。一つには転移術と書かれており、もう片方には


「召喚術」


 ヒナノがそう呟くと、ガリバーさんは目を見開く。


「まじか」


 この世界魔法が存在しているんじゃん。

 召喚術の欄にはこう書いてあった。


――召喚術は召喚されるものの意志に関係なく、世界の外から、呼び寄せることができる。しかし、転移術と異なり、生物の意志を無視し、他世界に干渉するという点から、この術は禁術とされており、用いるにはそれなり代償がいる。


 仮にヒナノが異世界から召喚されたとして、この本の内容に沿って考えるなら、ヒナノはある犠牲と伴って誰かに召喚されたことになる。その犠牲というのがきっと、ヒナノが召喚されたときにこの世界で起こった自然災害なのだろう。

うーん、特に役に立つ情報はないようだ。


「ガリバーさん、やっぱり私が召喚された代償で、この世界で災害が起こったみたいですよ」

「そう書いてあったの?」

「えっと、召喚術にはそれなりの代償が伴う、と」

「そっか」


 ガリバーさんは表情を曇らせる。


「あ、大丈夫ですよ。私もうこの世界で生きていくって決めたので。この世界で何かが起こる心配はありません」

「いや、役に立てなくてごめん」


 と、ガリバーさんは頭を掻く。


 その様子を見たヒナノは、心の中が温かくなる。ルミエラ様もガリバーさんも自分の責任じゃないのに、自分が何かをする必要はないのに、こうやって熱心に調べてくれて。申し訳なく思われることに、こっちが申し訳なくなるけれど。

ヒナノは本のタイトルを確認する。


『禁術一覧』


 と書いてあった。

 ガリバーさんとてつもなく物騒な本を見つけてきたんだな……。大丈夫なのかな、禁止された術を本にひとまとめにして。

 なんて考えていると、廊下からガリバーさんを呼ぶ声がする。

 ガリバーさんは廊下に出て、相手と言葉を交わした後、部屋に戻ってきた。


「お客さんですか?」

「いや、迎えだよ」

「え?」


 ヒナノがきょとんとしていると、案内係に連れられたルミエラ様が研究室に現れる。


「え? ルミエラ様!」


 なんで、ルミエラ様がここに?というか。


「お加減もう大丈夫なんですか?」


 さっき倒れたばっかですよね? なのになんでここに来てるんですか?


「タントル様、ヒナノがお世話になっているようで。ただ、私、今日はヒナノと大切なお話があるので、ヒナノは早退させます」


 ヒナノはルミエラ様の言葉に口を開けたまま動けなくなる。


「ええ、どうぞ。ちょうどそろそろ仕事を切り上げようと思っていたところですよ」


 え? え?


「さあ、ヒナノ帰るわよ」

「すいません。えっと、何がどうなってるんですか?」

「何って、あなた私のそばにずっといるんでしょう?」

「……そういいましたけど」

「へえ、ヒナノちゃんやるねぇ」


 ガリバーさんがニヤニヤしている。ヒナノは少しむっとして、足を踏んづけてやろうかと思ったが、一応上司なのでやめておく。


「さあ、帰るわよ」

「は、はい」

「それでは、タントル様。先ほどの話の通りでよろしいですね」

「うん、ヒナノちゃんの助手はありがたかったけど、公爵家の令嬢に言われちゃあねえ。ということで、ヒナノちゃん出勤は土曜日だけでいいから。さあ、戸締りするから。帰った帰った」


 ガリバーさんがパチンと両手のひらを鳴らす。


「ヒナノ、行くわよ」

「いや、あのまだ状況が……」


 戸惑うヒナノの腕を、ルミエラ様は引っ張りながら研究室を出て廊下を歩いていく。

 馬車にたどり着くまで、ずっとルミエラ様は無言で、ヒナノの腕を引っ張って歩き続けた。


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