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14.おかえり


「ルミエラ様が目をお覚ましになられましたよ」


 レンディさんが、保健室のドアから顔を出し、二人に知らせる。


「ルミエラ様!」


 ルナが保健室に戻り、ルミエラ様のもとへ駆け寄る。


(必死だな……)


 でも、それは本当にルミエラ様のこと思ってなのか。それとも……。


「ルミエラ様、お加減いかがですか?」


 ヒナノはゆっくりと、保健室に入った。何も言わずに家を出て行ったのだ。こうやって面と向かって会うのは気まずい。


「ヒ、ヒナノ?」


 ルミエラ様の目が見開かれる。その目には驚きと、他の感情を混じっているように見えたが、ヒナノにはそれが怒りなのか、呆れなのか何なのか読み取れなかった。


「どうしてここに?」

「あ、ちょっと仕事の関係で学園に用事がありまして」

「いえ、そうではなくて……どうして『ここ』に」


 どうして保健室にいるかということか。


「あの、ルミエラ様。覚えていらっしゃいませんか? カフェテリアで倒れたんです。それで、私とレンディが動揺してしまって何もできないときにヒナノが現れてルミエラ様をここまで運んでくれたんです」


 戸惑っているルミエラ様にアリシア様が説明をしてくれる。


「そういうわけです」


 とヒナノも答える。


「そう、私のことが不要になった瞬間に助けられてしまうなんてね」

「ルミエラ様が不要、ってなんの話ですか?」

「あなたは元の世界に帰るために私と共にいたのでしょう?」


 とルミエラ様は悲しそうに微笑む。その笑顔は誰がどう見ても無理をして作られた表情だった。


「ルミエラ様は、私が元の世界に帰るためにあなた様を利用していたとお考えなのですか?」


 なんかとんでもない誤解をされている。早急に解かなければ。

横で、レンディがアリシア様を保健室から連れ出そうとしていた。聞いてはまずい話と判断したらしい。ついでに保健医も廊下に出ようとしていた。余計な話は聞きたくないのだろう。


 ルミエラ様は三人が廊下に出るのを待ってから、言葉を続けた。


「貴族なんて利用して利用されての世界。それが当たり前だと思っていた。最初の頃は、あなたは貴族を知らないのだから、クレプスキュールを知らないのだから、そういうことをしない人かもしれないと思っていた。でも、家を出て行ったって聞いて。まあ、そういうものよねって」


 利用されたと思われたってことだろう。

 しかし、なんでその誤解が生まれたかというと。思い当たることは一つ。ヒナノの隣に立っている女のせいだろう。


「ルミエラ様。私がルミエラ様の家から出て行ったのは、あなたの迷惑になりたくなかったからです。ルナさんに言われました。私のような人間がいては、クレプスキュールの家にいらぬ噂が立つと。私はあなたの貴族としての立場を傷つけないために家を出たんです」


 自分に手を指し伸ばしてくれた相手。絶対に迷惑をかけたくなった。


「でも、もっと早くに気付くべきでした。あなたは貴族だから私を助けたのではないと。あなた個人として私を助けてくれたのだと。なのに、私は自分が貴族という偉い人にお世話になることに怯えて、迷惑と思われることに怯えてました。貴族のこと……違いますね、あなたこのことをよく知りもしないで、勝手にこう考えてるって決めつけて行動してました。その結果そんな悲しそうな顔をさせるなんて思いもしませんでした。本当にごめんなさい!」


 この世界に来てから何度こうやって頭を下げただろう。今までは、自分が責められないように、嫌われないように頭を下げてきた。

 でも、今回は違う。

 自分のことなんてどうでもいい、逆に自分のことが許せなかった。


「そう……だったのね。ルナちょっと二人きりにしてくれるかしら」


 ルミエラ様は静かな声で言った。


「……はい」


 ルナは素直に従い、その場を後にする。


「ヒナノ来て?」


 ルミエラ様がヒナノに向かって両手を広げた。ヒナノは吸い寄せられるように、ルミエラ様の懐に飛びこむ。病み上がりの相手にこんなことをして申し訳ないと気持ちもあるが、今は甘えたいという気持ちを優先させてしまう。


「すいませんでした、ルミエラ様」

「いいのよ、迷惑と思わせていたなんてね。ルナの言葉を鵜呑みにせず、あなたを探しに行けばよかったわ」

「いえ、ルミエラ様はルナさんを信頼していただけでしょう」


 ルミエラ様は悪くないよ……。

 ルミエラ様、とヒナノは小さい声で呟く。


「本当はずっとそばにいたいと思っていました。何か役に立ちたいと。でも、私はこの世界のことを何も知らないから……」

「知らなくて当然じゃない。これから知っていけばいいのよ。私のそばでね」

「いいんですか」

「あなたが良ければだけれど」


 ルミエラはヒナノを頭をなでる。


「ぜひ、おそばにいさせてください」

「おかえり、ヒナノ」


 そう言ってルミエラ様はヒナノから体を離した。かと思うと、ヒナノの額に温かくて柔らかいものが触れる。

 数秒遅れてルミエラ様が何をしたのか分かった。


「ルミエラ様、貴族って庶民のおでこにキスとかするんですか?」

「さあ、どうかしらね。でも今は誰も見ていないのだしいいじゃない」


 とルミエラ様は少し意地悪そうに微笑んだ。




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