表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

災難体質の彼氏

彼氏が紅茶になってしまった

作者: 虹夢

『紅茶になったから映画には行けない』

 それが、デート当日に彼氏の流依(るい)から来たメールだった。何を言ってるんだお前は。

 仕方がないので、私は流依の家に向かう。中学のときに知り合ってもう五年だ。こういうことにも慣れた。




「あらあら、よく来てくれたわね。ごめんね、流依がこんなんになっちゃって」

 こんなん、と言いながら流依のお母さんが手に持ったカップを振る。

「やめろ! こぼれる!」

 カップが喋った。


 流依のお母さんは、意に介さず話を続ける。

「メッセージを送ったの私なのよ。映画を楽しみにしてたんでしょう? せめてペットボトルとかだったら持ち運べたのに、全く流依は気が利かないわよね」

「災難は選択制じゃないんだよ」

 流依はため息混じりに言う。とても息など吐けそうにない外見をしているというのに。


「満月の次の日にデートを設定した時点で、こうなるかなとは思ってましたし。紅茶に変身するのは斬新ですね」

 流依は満月や新月の次の日に何かしらの災難に巻き込まれる。そういう体質らしい。彼の家族はそんな体質では無いのだから、かわいそうなものである。


「とりあえず、この子を預けるわね。私は仕事に行ってくるから」

 カップを差し出される。紅茶状態の流依を渡されても、一体どうしろというのか。


 一応受け取ると、小声で流依のお母さんは言う。

「……味が薄くて、あんまり美味しくなかったわよ」

「聞こえてるぞ」




 流依のお母さんを見送って、とりあえず流依をレンジにかける。

「暑っ。お前も飲むのかよ」

「流依味の紅茶を飲めるのは今しかないからね。減るもんじゃないし、いいでしょ。あ、飲まれると痛かったりする?」

 他の人が飲んだのに、彼女たる私が飲めないのは悲しい。


「痛くはないけど。人をレンジにかけるのにためらいが無さすぎだろ」

「ぬるいのはちょっとね。最高の状態で飲みたいじゃん」

 味が薄かろうが構わない。どんな紅茶でも私は受け入れる。

 そう思って、私は流依に口をつける。


「甘っっ」

 一口だけ飲んで、流依をテーブルに置きながら叫ぶ。

 全然、薄くなどなかった。むしろ濃い。めちゃくちゃ甘いのに、美味しい。甘い飲み物は苦手なのに。少し柑橘っぽい味もする。

 もっと飲みたいような、ここで止めておきたいような。


「だろうな」

 流依が知ったように言うのが悔しい。だから、私はさらに二口飲む。




 ちょうど次の日が身体測定だった。流依は十二ミリ縮んだらしい。少し恨めしそうな目で私を見ている。

 身長が九ミリ伸びた私は、もう少し飲んでおけばよかったかもしれないと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『紅茶になったから映画には行けない』  斬新な冒頭や、異常事態を淡々と語る彼女がとても良かったです。 [一言]  彼女の落ち着きぶりとラストからすると、次の日にはリセットされることが多い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ