ブラックホールサーファー
ーーブラックホール暴走、ブラックホール暴走
赤い蛍光色が施設中を照らし、激しいサイレンの音が響き渡っていた。
施設内を研究員たちは走り回っている。
「どうかしたのです?」
一人の少女が騒いでいる研究員らに問いかけた。
研究員は早口に答える。
「ああ。ブラックホールが暴走した。このままじゃこの施設が飲み込まれる」
「なるほど。そういうことです」
動揺する研究員らの横で、少女は平然としていた。
まるでいつも通り、日常の他愛もないひとコマを見ているように、愛想なく。
白髪が揺れ、光のない白眼には、映った。
壁や床を時空が歪むように、形を変えて飲み込まれ、巨大化していくブラックホール。
「あれがブラックホール」
それを見た少女は微笑んだ。
手に持っていた謎の鍵を手の上で遊ばせながら、綱渡りをするかのように広い道を歩く。
ある場所へつくと、そこにあった少女特製に改造されたバイクに乗り、鍵を刺す。
エンジンがかかり、バイクについているライトが明るく発光する。
「あの明かりはなんだ」
研究員らは新たなトラブルが起きたのではないかと不安に襲われる。
その不安の正体は、その不安を逆撫でしながら現れた。
「こーんにーちわぁぁああああ」
バイクには少女が乗っている。
少女はバイクに乗ったままブラックホールがある方へと走っている。
「神戯。何をするつもりだ」
「どうせここはブラックホールに飲まれる」
「だからってやめるんだ」
「私は見てみたいんです。ブラックホールの向こう側が」
少女は純粋にブラックホールを見ていた。
「私は見てみたい。論文や仮説がどれだけ世に生み出されても、ブラックホールの向こう側には何があるか、その明確な答えはなかった。そもそも何が答えかなんて、行ってみないと分からない。だからーー」
少女はバイクに乗ったまま壁に突っ込んだ。
壁にはバイクが衝突した衝撃で亀裂が入り、それは穴となった。そこを貫通し、少女は壁の向こう側にあったブラックホールの中へと飛び込む。
「向こう側には何がある。その向こう側に何がある。ブラックホールよ、私にその先の景色を見せてくれ」
少女はブラックホールの中へと吸い込まれた。
漆黒の棺、とも言えるブラックホールの中で、少女は何を見たのだろう。
その向こう側に何があったのか、それは、向こう側にたどり着いた彼女しか知らぬこと。