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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
三章_星詠みの夜会

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69話_side_Cz_学生区_旅猫屋



 ~"お目付け役"クゼ~



 あのゴーレム騒動から一週間と少し。

 臨時休講期間が終わり、学院のカリキュラムが再開して三日目のこと。

 放課後の学生区を私は一人歩いていた。未だにゴーレムに破壊された痕跡は各所に残るものの、表面上は日常風景を取り戻す程度には復興が進んでいる。復興作業に魔法使いを投入出来るというのは強い。それに、同じことをしたとて武力に傾倒している故国の魔法使いではこうもスマートには行くまいと思う。


 傍らに我が主であるカーマイン殿下のお姿はなく、実を言うと今の私は殿下の指示でここに居るわけですらない。いやまあ、厳密には殿下の指示と言えなくもないのだが。



「ああ……あれかな?」



 目的地の看板を遠目に見付け、私は独り言ちた。

 手の中には小さなチラシ。この商業地区に出店している喫茶『旅猫屋』の宣伝用に配られているものだ。つまりそこが私の目的地である。


 思い返すのは昨日のこと。

 放課後、お馴染みの『アトリーに会いに行くぞ』がいつ飛び出すものかとひやひやしていると、その殿下の元へとまさかのアトリー嬢のほうから訊ねてきた。私が知る限り、アトリー嬢のほうから殿下に会いに来るのは初めてのこと。もっと言えば、彼女のほうから殿下に話し掛けるのも初めてのことだと思う。職務上フォローしておくと、別に殿下が嫌われているとか疎まれているとかでなく、只々単純に身分の差を弁えたアトリー嬢が常識的な判断をしてくれているだけのことである。

 初めてのアトリー嬢のほうからのアプローチに、表面上冷静ながらも大層驚いた様子の殿下が、若干の期待とともに用件を確認すると、アトリー嬢は無情なまでに可憐な満面の笑みでこう言った。



『明日の放課後、クゼ君を貸していただけませんか?』



 まさかの私指名である。

 そのときの殿下の様子は筆舌に尽くしがたい。余人には解らぬレベルで一瞬フリーズし、その後凄まじく低い声で「何故」と問うた。



『えっと、この前、ゴーレムから助けてもらったお礼をしたくて……あの、一緒にお茶でもどうかなぁ、って』



 自信なさげに上目遣いでちょんちょんと指を突き合わせるのはやめてください。

 そういう無自覚に可愛らしいことをされると、殿下の精神衛生上とてもよろしくない。



『お前と、クゼが、二人でか?』



 そして殿下、怖いです。本気で。

 一音一音に威圧感籠めるのやめてください。

 頼むからアトリー嬢、殿下の不穏な気配に気付いて!



『あっ違います違います!わたしのお友達も一緒です』



 その言葉に殿下は小さく息を吐き、なるほど、ととりあえずは納得したらしかった。

 言うまでもないが先日の一件は殿下に報告済みである。なので私がアトリー嬢とその友人の窮地を救うために行動したこと自体は殿下もご存じだし、それに関しては褒められすらした。

 事情が理解できた殿下は難しい顔で呻っている。その傍で控える私はアトリー嬢の強かさに内心舌を巻いていた。十中八九、私を直接誘えば断られるのが目に見えているから、敢えて殿下に話を通しに来たのだ。殿下が頷けば私に翻す権利などないし、なにより――



『ダメでしょうか……?』


『ぬぅ……!』



 彼女の渾身のお願いビームに、殿下がたじろぐ。

 アトリー嬢の恐ろしいところはこの一連の駆け引きを打算なく素でやっているところだ。彼女は天性の人たらしだと私は思う。誰も彼もが彼女を意識せずには居られないような魔性の魅力を持っている。現状ではそれが悪い方向にばかり働いている感が否めないが、少し環境が変われば大きな力を得るだろう人物だ。

 それはさておき、愛しの君からのおねだりに殿下が耐えられるはずもなく。



『構わんぞ』


『わーい!ありがとうございます!』



 嬉しそうに無邪気に喜ぶアトリー嬢と、彼女が喜んでくれたのでとりあえずご満悦な殿下。

 私以外は皆ハッピーなようでなによりである。

 ちなみに私が憂慮しているのはアトリー嬢にお呼ばれしたことそのものではなく、この後冷静になった殿下が十中八九向けてくるであろう恨みがましい威圧感の籠った視線を耐えねばならないという、過酷な未来に対してのものである。











「――んでは!改めましてリタとお友達になれた記念女子会兼、ゴーレム事件お疲れ様会を開催します!」


「長い。やり直し」


「じゃあリタ友ゴーレム会でいいよもう」



 というわけらしい。

 ベリエ嬢にさくっとツッコミを入れられて唇を尖らせたアトリー嬢の宣言により、なんだっけ『リタ友ゴーレム会?』が開催と相成った。ベリエ嬢納得してますけど、貴女本当にその名前でいいんですか。

 場所は喫茶『旅猫屋』の一角。

 参加メンバーは前述のアトリー嬢、ベリエ嬢の他、あの時一緒に居たクライエイン嬢に、彼女らと友好関係にあるハートアート伯爵令嬢、それからアトリー嬢の幼馴染であるコーリッジ男爵令息。あの場に居たもう一人であるフォノンというメイドの少女も呼びたかったらしいが、生憎と彼女は職務中とのこと。その言い訳が通るのならば、私も来なくて良かったのでは……?

 今更だが、殿下がお心を傾けている相手としてアトリー嬢の名前が挙がった以上、彼女の交友関係や親族関係、生い立ち等々はわかる範囲で調査済みである。これは陛下から殿下のお目付け役を任されている私の、当然の職務である。なので、この場に居る者達のことは把握済みだし、ベリエ嬢に言われる『ミアベルのストーカー』という不名誉な呼称もまったく言い訳出来ない私である。


 年頃の少女達らしく、お茶と甘味に舌鼓を打ちつつ歓談する彼女らを横目に、場違い感を覚えながらお茶を啜っていると、同じような雰囲気の表情をしたコーリッジ殿が話し掛けてきた。



「オセローさんは、カーマイン殿下にお仕えしているんだよな?」


「ええ。私のことはクゼと呼び捨てにしてください。そう呼ばれるのが一番慣れておりますので」


「そうか?では俺のこともレックスと」


「承知しました」



 コーリッジ殿あらためレックス殿は、きゃいきゃいとはしゃぐアトリー嬢を微笑ましげに眺めながら言う。



「ミアベル達を助けてくれたんだってな。ありがとう」


「当然のことをしただけですよ」



 おもに職務的な意味で。



「お陰様で、このような場違いな空間にご招待いただいたわけですが」


「ははは。ミアベルは頑固だからな。アレに目を付けられたのを不運と思って諦めてくれ」



 流石に幼馴染の言葉には実感が籠っているな、と思う。



「クゼには悪いが、俺は来てくれて助かってるぞ。見ての通り、非常に肩身が狭くてな」



 そう言って肩を竦めるレックス殿を、私は胡乱気に見遣る。

 この男も大概変わった人物だと、私は思う。

 他の面子を見てみろ。アトリー嬢を筆頭に、どいつもこいつもタイプの異なる美少女ばかりだ。この空間に黒一点で参加しておいて、レックス殿には彼女らを少しも意識したところがない。異性として意識していないというか、そこはかとなく微笑ましげに見守るような雰囲気すら醸し出している。まるで、父親が娘を眺めているみたいな眼差しだ。

 何故そんなことを気にしているのかと言うと、つまり我が主がアトリー嬢の心を射止めんと欲した時、最も強力なライバルは他でもないレックス殿だと判断していたからだ。兄妹同然に育った幼馴染で、平民を娶っても然程おかしくない男爵家の人間で、しかも長男であり、ついでに言えば品行方正質実剛健を地で行き社交も如才なくこなすという好人物である。

 調査すればするほど、コイツ本当に私と同い年かと疑ったものである。


 だが、同時にわかったのは、どうやらレックス殿もアトリー嬢も、互いを異性として意識している節は全くなさそうだぞ?という殿下にとっては朗報に違いないが、少しばかり疑わしい情報であった。

 良い機会なので、ぶっちゃけ訊いてみることにする。



「ところでレックス殿は、アトリー嬢をどうお思いで?」



 声を潜めて言うと、レックス殿は一瞬きょとんとしてから、得心がいったような苦笑を見せた。

 こういうところが底知れないと思う。私の唐突な問いかけから背景を察して質問の意図を即座に理解したのだ。



「まあ妹のようなものかな……で良かったか?」


「話が早くて助かります。ではお兄さん的に、ウチの殿下などはどうでしょう?」


「ミアベルの反応を見る限りは、まだステージにすら上がっていないと思うぞ」



 でしょうね。忌憚ない意見をどうもありがとうである。



「ちなみに俺が見るに、現状最有力候補はアシュタルテ嬢のメイド。対抗馬としてマルグリット嬢がぐいぐい来てる感じかな」


「どっちも女性じゃないですか」



 当然だが私はアトリー嬢が貴族学生からいじめ行為を受けていることは把握している。これは殿下には敢えて伝えていない。殿下が知れば百パーセント事態を悪化させるような行動を起こすからである。無論、いつまでも隠しておけることでもないが、少なくとも現状をお伝えするのは時期尚早と判断せざるを得ない。そういうわけで私は、件のアシュタルテ家のメイドのクラリスが、アトリー嬢を密かに支援して交友関係を築いていることも承知しているのだ。

 そして確かに、アトリー嬢がクラリスに向ける視線にはわかりやす過ぎるくらいの尊敬と憧憬が満ちていた。

 思うにアトリー嬢が他者に向ける好意には今のところ性別の区別がない。LIKEとLOVEの区別がついていないわけでなく、LOVEの対象に性別を問わないというべきか。となれば、レックス殿の言う通り、現状最も彼女からの好感度が高い人物はクラリスその人だろう。

 ちなみにLIKEのトップはクライエイン嬢とハートアート伯爵令嬢だ。飽くまで私見だがアトリー嬢は大概わかりやすいので、そう的外れでもないと思う。


 それからベリエ嬢だが、彼女はアトリー嬢の友人の一人と言う認識だったのだが、現在こうして一緒にお茶を楽しむ彼女らを見ていると、あのゴーレム騒動以前と比べて明らかに親密度が上がっている。



「ねえねえリタ!これ美味しい」


「へーよかったね」


「あ!ねえリタそれわたしも食べてみたいっ」


「頼めばいいでしょ……ああわかったって一口あげるって」


「リタリタ!」


「はいはい」



 という感じ。

 いやイチャつき過ぎだろ、とツッコミを入れずにはいられないくらい、アトリー嬢からベリエ嬢への好き好きオーラが凄まじい。同じテーブルについているハートアート伯爵令嬢が砂糖を吐きそうな顔をしているくらいだ。のほほんと笑顔で見守っているクライエイン嬢は間違いなく大物である。

 とは言え、理由はわかっている。

 間違いなく、ゴーレム騒動の最終局面での一件が影響しているのだろう。アトリー嬢の魔力暴走の原因が過去のトラウマであったとしたら、ベリエ嬢はそのトラウマを克服するためのキーパーソンとなった。要は、いまやアトリー嬢にとってベリエ嬢は絶望の淵から救い出してくれたかけがえのない人物と言う認識なのである。

 あの一件は殿下にも報告はしたが、正直謎が残る。

 突如現れたアンジュと名乗るアヴァター。学院からの説明によると以前から存在が確認されている『敵対的でないアンノウン』らしいが。他国の人間である私達に情報を隠しているのか、あるいは言葉通り学院でも把握出来ていないのか。かのアヴァターの正体を考えた時、あの場で最も疑わしい人物が一人居るわけだが、はてさて。

 レックス殿はというとイチャつく女子二人をやはり微笑ましい目で眺めながら、



「俺としてはおたくの殿下には是非とも頑張って欲しい」


「それはまた何故?」


「俺の本命の子がミアベルに取られそうで気が気でないからな」



 なるほど、と頷いておく。



「では殿下のお役に立つようなアトリー嬢情報をご教授願います」


「主のために情報収集か?」


「いえ。本日この場に参加するにあたって、殿下からそれはもう恨みがましい視線を向けられてきましたので、せめて有力な情報でも持ち帰って機嫌を取らねば」



 ちなみにこの危惧はガチである。

 私の表情からだいたいの事情を察したのか、レックス殿は思案気な顔になる。



「とはいえ、そもそもミアベルの鈍さは筋金入りだしなぁ」


「結構露骨にアピールしてる方もいますけど、ガンスルーですもんねぇ」



 アトリー嬢はモテる。下位の貴族学生や平民階級の男子からの支持はかなり篤い。

 類稀な美少女で、しかも平民階級なので敷居が低い。そんでもって性格も良くて発育も良好とくれば人気が出ないほうがおかしい。というわけでそれなりに多くの男子が彼女にアプローチを掛けているはずなのだが、罪作りなことに、アトリー嬢は自分がモテているという自覚が微塵もないのだ。

 言うまでもなく、男子諸君のアプローチはそもそも正しく認識すらされていない。



「とりあえず、美味いものでも与えておけば好感度は上がると思うぞ」


「なんて身も蓋もない……」



 だがそれが最も有効なのはクラリスが実証してしまっているのでなんとも言えない。

 一応殿下に伝えておくことにしようとだけ決める。



「ところで、レックス殿の本命はミス・ベリエなので?」



 流石にいつまでも野郎二人で密談しているわけにもいくまいと、敢えて女性陣に聞こえるように訊いてみる。

 少しくらいはこの男が困るところでも見たいと思っての話題だったが、生憎とレックス殿は憎らしいことに動揺すらしない。



「実はそうなんだ。良くわかったな」


「それはまた、茨の道を選びましたねぇ」


「聞こえてるわよクゼ。どういう意味だコラ」



 そりゃあ聞こえるように言ったので。

 どういう意味かって、そういうところですよ。



「だめだめ!ロイなんかにリタは渡さないよぉ!」


「いやミアベル貴女、レックス様を応援する件はどこいったのよ……?」


「うふふ。リタさんは人気者なんだね」


「ええい離れろミアベル鬱陶しい!あとノエル!それなんか絶対間違ってるから!」


「そういうクゼは相手が居たりするのか?」


「実は故国に婚約者が居りまして」


「ええ嘘ォ!?」


「なんでそんなに驚くんですかミス・ベリエ?」


「アンタみたいな胡散臭いストーカー予備軍を好きになるモノ好きが居るなんて!」


「お察しの通り政略結婚ですので、私も相手に申し訳ないと思っていますよ」


「あ、ごめん……」


「まあ嘘ですが」


「ッ~~~~むぅかつくぅ!!あたしの謝罪を返せコラぁ!!」


「リタさんはクゼさんとも仲が良いんだね」


「ノエル!?」


「ハーレムじゃないの。羨ましいわ」


「ミリティアまで!貴重な常識人枠がまとめて狂ったぁ!?」


「おいおいマルグリット嬢。まるで俺達が常識人じゃないみたいな言い草じゃないか」


「失礼しちゃうぞーぶーぶー」


「うっさい変人ども!」



 そんな感じで、只管にベリエ嬢をいじり倒して和やか(?)に過ごした。

 会合の趣旨からすれば、極めて正しい過ごし方だったと思う。



・2021/9 細部の描写を修正。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >彼のアヴァターの正体を考えた時、〜〜 文脈的に彼(かれ)の、ではなく彼(か)のなのは分かるのですが、対象かアンジュなので"彼女の"にするかひらがなで"かの"や"あの"にした方が分かり…
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