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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
二章_Gが大量に発生する話

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補完[闇の巫女-3]



 ~"黒髪令嬢"イオ~



「アレの口を割らせるのは無理だな」



 明らかに一人だけ堅気ではない男性の尋問を終えたハイメロート殿が、わたくし達のもとへ現れて開口一番にそう言った。彼がわりと直截な手段で尋問を行っていたのは漏れ聞こえる音から理解できていたが、結果は芳しくなかったようだ。

 それを聞いたアビー様もまた直截に「使えんのう」と笑った。

 わたくしは少し気になったことを訊いてみる。



「あの男性がなにかを隠しているのは確かなのですか?」



 今回の件が突発的な犯行で、他に隠し立てしているようなことがない可能性だってある。となればハイメロート殿がいくら尋問しようとも、喋れることがそもそもないことになってしまう。

 すると、ハイメロート殿は無表情のまま視線だけをアビー様からわたくしへと滑らせた。



「成果と言えばそれだな」


「ほう?」



 興味深そうに声を零したアビー様へと視線を戻して彼は続ける。



「何も知らない、隠していないならばそう言う。まあ隠していても大抵はそう言うが。だが奴は黙秘をしている」


「そなたがいじめても口を割らぬと」


「そうだ」



 重々しく頷いたハイメロート殿に、アビー様は意味深に息を吐いて「不穏だのぅ……」と呟いた。

 わたくしも少し考えて、その事実が示すことに気付く。ハイメロート殿の尋問をやり過ごそうとすれば何も知らない振りをすればいいのだ。黙秘をするだけの胆力があるのならば嘘を吐き通すことも出来るだろう。そして本当になにも知らないのであればそれを主張しない理由はない。

 つまり、あの男性は隠し立てをしているのだ。

 それも、自分は何も知らないのだ、と嘘を吐くことが憚られるような内容を隠している。教団の関係者であろう彼が、そこまでして庇う相手というのは、と想像すると成程確かに不穏が過ぎる。



「他の三人はどうした?」


「別室に押し込めているが、大した尋問はしていない」


「何故だ」


「堅気の人間を毀すわけにはいくまい」



 至極真面目な顔で言い切ったハイメロート殿に、アビー殿が面白そうに笑う。



「そなた融通が利かん奴よの」


「俺には人の心がわからん。俺に出来るのは痛めつけて吐かせることくらいだ」



 要するに、教団の信徒ではあれど一般人の協力者に過ぎないであろう三人を、穏便に尋問する手段を持たないとハイメロート殿は言っているのだ。彼はアシュタルテ侯爵家の私兵というか暗部を担うような人物であろうから、尋問技能自体は有しているようだが、それは圧倒的に暗部同士の抗争で活用されるような陰惨なものに偏っているのだとか。

 そんなノリで一般人を尋問したら情報を引き出す前に精神を毀してしまう、と真顔で言い切ったハイメロート殿の姿に、アシュタルテ侯爵家のお役目の過酷さを垣間見た気がした。同時に、その彼の尋問を耐えきるあの男性の、おそらくは信仰心が齎すのであろう狂気的な精神力の厄介さも。

 とりあえず、ハイメロート殿は暴力担当。精神的な揺さぶりをかけて情報を引き出すような真似は不得意、と。まあ、失礼ながらハイメロート殿は見るからに言葉を弄するのは不得手そうな印象の人物ではある。



「どれ、そちらは小生がやるとするか」



 腰を下ろしていたタンクからふんわりと舞うように立ち上がったアビー様は、その場で小さく伸びをした。そのままからんころんと暢気な足取りで部屋を出ていく彼女の背中をわたくしは慌てて追い掛け、更に後ろにハイメロート殿が続く。



「アビー様が尋問を?」


「そこまで大仰なことはせんでも良さそうだ。魔剣のが下地は作っておるでの」


「下地、ですか」



 言葉の意味を考えながら歩き、三人が捕らえられている部屋へと辿り着き、その姿を見た時に理解に至る。どうやら、ハイメロート殿はすぐ隣の部屋であの男性に対する尋問を行っていたらしく、音だけでその様子を知らされていたらしい三者は見るからに憔悴した様子だった。

 彼らは一般人なのだから、隣の部屋で行われている苛烈な尋問が次は自分の番だと思ったら気が気でなかったことだろう。

 改めて彼らの姿を見てみると、内訳は男性二人に女性が一人。二十代くらいの若い男性と、初老くらいの男性、そして中年の女性である。簡易的な拘束をされて座り込み、項垂れていた彼らを順繰りに見下ろし、アビー様は軽い調子で言った。



「なんだ、元気ではないか」



 それから、ハイメロート殿を呼び付け、



「そなた少々優しくしすぎではないか?ちゃんと尋問をしたのか?」


「口頭ではな」


「それが甘いと言っておるのだ」



 アビー様はハイメロート殿にびしりと煙管を突き付け、



「指の十本でも折れば吐くであろ」


「俺がやると勢い余って殺してしまう」



 あまりにも平然と行われる冷酷な会話に、俯いていた三人は動揺を隠せない様子だった。自分達の処遇を決める立場にある人間がこんなことを言い始めたら動揺しないわけがない。



「死ぬ前に情報の一つでも吐けばよい」


「……殺してしまってもいいのか?」


「よいぞ」



 あっさりと言い切られて、戦々恐々と会話を聞いていた三人が息をのむ。わたくしも少なからず動揺したが、表には出さなかったと思う。アビー様の言葉は情報を引き出すためのブラフなのだろうが、憔悴して動揺している彼らにはそれを見抜けるだけの判断力がない。



「そもそも生きて帰す気はないでの。黒い森に捨ててくれば魔物が処理してくれよう。こ奴等には本望であろ」


「う、嘘だろッ!?」



 真っ先に反応したのは一番若い男性だった。

 殆ど裏返った声で叫ぶように言う。



「まだなんもしてないじゃねえか!死罪になるようなことしてねえって!!」



 実際、彼らは黎油に細工をする前に捕縛されたし、仮に彼らが犯行を終えていたとしても即座に処刑されるほどの罪ではないだろう。



「そうは言うがな、そなた等を生かしておいたところで、どうせまたぞろくだらないことを企むだけであろ。小生も暇ではないのでな、後腐れなくここで死んでおいてくりゃれ」


「い、言っとくがな!俺の家族はここで暮らしてんだ!俺がいきなり居なくなったら家族が俺を探すぞ!」


「さよか。残された家族は気の毒だの」



 まるで取り合う気のないアビー様に、男性は絶望的な顔になる。

 普通に考えればアビー様の物言いは横暴を通り越してただの違法である。罪人を裁かずに殺すと言っているのだから、ただの殺人だ。しかしこの場の三名にはアビー様の言葉が脅しだと判断することが出来ない。何故ならばわたくし達の外見は明らかに公僕ではないし、今まさに彼らと行動を共にしていたうちの一人が隣室で苛烈な尋問を受けたところである。



「なに、心配せんでもそなたが居なくなったことに疑問を持つ者など居らぬ。そなた等も良く知っておる通り、外部の状況は混迷を極めておる。人間の五人や十人の蒸発したところで無理からぬ状況よ」



 ゴーレムによる混乱状態を利用して犯行に及んだのが彼らなのだから、アビー様の言葉に否定できない部分があることが理解できないはずがない。

 するとずっと黙っていた初老の男性が口を開く。



「それで俺達を殺すと言うのなら、アンタらのほうが余程の悪じゃないか」


「罪人の分際で善悪を説くのか?」



 くだらなさそうに切り捨てると、アビー様は身振りでハイメロート殿を呼んだ。



「というわけだ。死んでしまっても構わんから適当に痛めつけて吐かせよ」


「了解した」


「そなた等も、どうせ死ぬのだからくだらん意地は捨てることだ。素直に喋れば苦しまぬようにしてやろうぞ」


「待ってくれよ!んなこと言われてもなんも知らねえって!言われたことやってただけなんだよ!!信じてくれよっ!!」


「それはこの男に言うと良い」



 ハイメロート殿に後を任せて退室しようとするアビー様に道を譲りつつ、ずっと一人後ろから状況の推移を観察していたわたくしは違和感を覚えていた。三者三様の態度ではあるが、わかりやすく恐慌して命乞いをする若い男性はおそらく本当のことを言っているのだろうと思える程度の真実味がある。むっつりと黙り込んでいる初老の男性は、おそらくこういう事態になることも覚悟の上で協力していたのだろう。流石に命まで奪われるとは思っていなかったようだが、アビー様相手に一言発した以外は抵抗する素振りもなく、諦めて受け入れているように見える。

 ただ、最後の一人。言葉を発することなく只管こちらを睨んでいる中年女性。この者の態度は不審だった。

 自分達が秘密裏に処分されると聞いて動揺はした。表情から死や暴力を恐れていることもわかるし、こちらに並々ならぬ叛意を抱いていることも明らかだ。だからこそおかしいと思う。協力者として動員されただけの一般人が、どうしてこの状況で叛意を保ち続けて居られるのか。

 ハイメロート殿が見立てを誤るとは思えないから、彼が隣室に連れて行った男性以外のこの場の三名は、間違いなく堅気の人間である。特殊な訓練を受けているわけではない一般人だということだ。状況的には男性二人の反応が普通だ。何故なら彼らには既に逆転する手段がないから。生殺与奪を完全に握られてしまっているから。その結果が命乞いになるのか諦めになるのかは、きっと男性二人の年齢と経験の違いによる差異なのだろうけど。


 では、この女性の態度の理由はなんだろうかと考えた時。難しい問ではない。ただ単に、彼女にはまだ諦めない理由があるというだけのことだ。

 つまり、彼女はまだ逆転の手段があると思っているのだ。



「そうやって偉そうにしてられるのも、今のうちだけよ」



 立ち去るアビー様の背中に、女性が憎々し気に告げた。

 アビー様は立ち止まると、面白そうな笑みを浮かべて「ほう?」と振り向いた。



「精々いい気になっているといいわ。どうせもう手遅れなんだから」



 彼女は精一杯の虚勢を表情に浮かべて、嘲るような笑みを浮かべて言った。



「――『巫女様』が降臨されれば、アンタ達は終わりよ」



 その瞬間、わたくしは寒気のようなものを感じた。中年女性の言葉を聞いたアビー様とハイメロート殿の気配が一気に研ぎ澄まされたからだ。巫女様とやらが降臨する、という抽象的な言葉の意味が、彼らには理解できたのだ。

 これまではどこか状況を楽しんでいるような雰囲気を漂わせていたアビー様が、打って変わった真剣な表情でハイメロート殿に問い掛ける。



「魔剣の。隣の男はまだ生きておろうな?」


「無論だ」


「手段は問わぬ。委細を吐かせよ」


「……学院結界を越えて外部から侵入した男など居なかった。そうだな?」


「そうだ」



 それだけ言葉を交わすとハイメロート殿は足早に隣室へと向かう。アビー様は軽く片手を振って罪人三名を小規模の結界で隔離すると、下駄を鳴らしてハイメロート殿の後を追った。わたくしもそれに続く。

 ハイメロート殿が簡易的な尋問室として利用していた隣の保管庫へと辿り着くと、部屋の扉は閉ざされていた。アビー様は閉じられた扉の横の壁へと凭れ掛かって腕を組んだ。中ではハイメロート殿が尋問を再開しているのだろう。今度は手段を問わず。



「アビー様、巫女とは……?」


「それはわからん。だが、教団の連中が『降臨』という言葉を使うときは、大抵が碌でもないモノを呼ぶときよ」


「碌でもないもの、ですか」


「小生が前回その言葉を聞いたのは凡そ十年前のことだが……その時は850人が死んだ」


「!!」



 情報を整理すると、アビー様が察知した結界外部からの侵入者は一名。これはゴーレム騒動が発生してから今までの、という意味だ。この一名を捕縛すべく行動したわたくし達は、黎油保管施設――つまりここで黎油のタンクに細工をしようとしていたその人物と、三名の協力者を捕らえた。

 おそらく、教団に直接所属している人間は外部から来た一名だけだ。外から侵入してきた男、彼は教団内でもそれなりの地位に居る人物である可能性が高い。そして協力者の三名の内、あの女性は謂わば教団の外部協力者的な立場なのだろう。彼女が主導となって男を結界内部に引き入れる手引きをしたと思われる。他の男性二名の協力者は、単なる教団の信徒であり、女性が頭数のために呼んだだけの存在だったのだろう。

 彼らの目的は黎油に細工をすることではなくて、巫女様とやらを降臨させること。

 どうやら既にそのための仕込みを終えているらしく、それがあの女性の強気な態度の理由だったのだ。同時に、協力者の男性二名はなにも知らされては居なかったのだろう。教団員の男性がハイメロート殿の尋問に口を割らなかったのは、その巫女様とやらが教団における信仰対象かそれに準ずる存在だからと考えるのが妥当だ。まさか魔王本人ではないだろうが。信仰対象が相手であれば、教団員の立場で『そんなものは知らぬ』と言うことは出来ないから、黙秘を貫くしかなかったのだろう。

 彼らにとっての最大の誤算は、この場にアビー様自身がハイメロート殿を連れて現れてしまったこと。これが単なる侵入者への対応として警備員を派遣しただけだったら、この場で裏を探ろうとせずに、ただ犯行を未然に防げてよしとしてしまったかもしれない。そもそも公僕の立場では、例えこの場で犯人にキナ臭いものを感じたとしても、独断で拷問まがいの尋問など出来な――、



「ッ!?」



 その時、唐突に得体の知れない感覚がわたくしを襲った。

 それは耳鳴りのようで、りんりんと鳴り続ける鋭利で澄んだ音が、直接脳を揺さぶってくるかのような、かつてない感覚だった。わたくしは直感でその音の正体を悟る。


 これは、刃鳴りだ。

 刃というものに音があれば、こうなるであろうと言う音色だった。


 あまりにも強烈で、甘美な、美しい音。刃の奏でる芸術的な歌だった。

 耳を塞いでも聞こえ続ける圧倒的な音の波に、わたくしの平衡感覚は狂い、立っていられなくなってその場にしゃがみ込む。脳がりんりんと揺らされ、吐きそうなくらいに気持ち悪いのに、同じくらいの恍惚感があった。

 これを解決する手段が本能的にわかる。

 この音を奏でる刃を手にすればいいのだ。

 そうすればこの気持ち悪さは消える。そうすればこの恍惚感にずっと浸っていられる。

 だから、わたくしは、



「ちと、刺激が強かったかの」



 気付けば、しゃがみ込んだ姿勢のまま、アビー様に正面から抱き締められていた。

 小柄な彼女の胸に抱き込まれ、あやすように背を撫ぜられる。



「刃の声に応えてはならん」


「あ、アビー様……?」


「そなたは強い子だ。気をしっかり持て。そう、ゆっくりとな」



 撫ぜる手の優しい動きに促され、何度かゆっくりと呼吸をすると、段々と刃鳴りの音が遠のいていく。

 平衡感覚が戻って来て、自分の脚で立ち上がることが出来た。

 そこで漸く、異様な音の正体にも気付く。



「これは、ハイメロート殿の魔剣、ですか」


「然り」



 音は閉め切られた目の前の扉の内から響いていた。きっと室内でハイメロート殿が魔剣を抜いたのだ。直接目にしたわけでもなく、扉越しだというのに、わたくしは魅了されそうになっていた。思えば、先程アビー様が他の三名を結界に隔離したのは、こうなることがわかっていたからでもあるのだろう。

 室内からは変わらぬ刃鳴りに混じって、異様な叫び声のようなものが聞こえてくる。

 保管庫故の分厚い壁と扉に阻まれて判然としないが、それは男性の獣じみた叫び声で、確証はないが『寄越せ』という類の言葉を発し続けて居るようだった。



「魔剣に魅入られたものは、最早真面な思考はできん。魔剣を手に入れるためならば『なんでも』するようになる」


「手段を問わず、と仰られたのは」


「情報を吐けば魔剣をくれてやる、と言えば形振り構わず吐くであろう。効果は覿面であるが、最終手段だの。なにせ――」


「二度と元には戻れない」



 わたくしの呟きに、アビー様は再び「然り」と答えた。

 それほど長い時間はかからなかった。

 数分程度だったと思う。

 室内から聞こえていた獣の叫びがぷっつりと途絶え、その後すぐに刃の呼び声も聞こえなくなった。



「済んだようだの」


「はい……」



 わたくしは、あの男性がどうなったのかとは訊かなかった。

 わかりきっていたのだ。

 情報を引き出し、用済みになった彼には、きっと約束通りに魔剣をくれてやった(・・・・・・・・・)のだろうから。



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