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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
十章_戦技舞闘会

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744話_side_Marguerite_講義棟_ロッカールーム



 ~"騎士の卵"マルグリット~



 学生にはそれぞれ個人用のロッカーが与えられている。これは入学時に学院から鍵を渡されて、以後卒業までそれを自分専用のロッカーとして使用出来るわけだ。学生の数が数なのでロッカールームは複数個所に分けられていて、まず学年別、そして男女別、からの階級別――つまり貴族と平民で別ということだ。

 ことが起きたのは一年生の平民女子学生用ロッカールームであった。

 ロッカーの用途というのは基本的に荷物置きで、一日の講義で使用する教材をすべて持って移動するのは現実的ではないため、大抵はある程度ロッカーに置いておいて昼休みや中休みなんかに都度出し入れして講義に臨むのだ。あたしはクラス分けの都合上ミアベルと一緒に行動することが多くて、今も午後からの講義に備えて教材を取り出すためにロッカールームに寄ったところであった。あたしは一応貴族なので貴族女子学生用の部屋に自分のロッカーを持っている。なのでまずはミアベルの荷物を取り出して、それからあたしの荷物を取りに行くつもりだった。

 だけど、平民女子学生用のロッカールームに辿り着くと、なにやら中がざわついている。野次馬的な人だかりが出来ていて、そこには平民学生だけじゃなくて貴族学生の姿もあった。それらの女子達が、あたし達の存在に気付くと、なにやら意味ありげな視線を向けてくるではないか。

 あたしとミアベルは顔を見合わせ、嫌な予感を覚えながらも、人だかりのほうへと足を踏み出した。




「こりゃひどいな……」




 例によって、と言っては悪いが騒動の中心にあったのはミアベルのロッカーであった。

 あたしが使っている貴族用のロッカーには、部屋にもロッカーそのものにも魔法的なセキュリティが設けられているのだが、そこまでお金を掛けられない平民用のロッカーには、部屋にもロッカーそのものにも古臭い物理的な鍵が付いているだけなのである。

 んで、ミアベルのロッカーは鍵を壊されて抉じ開けられ、中身に悪戯をされていた。

 こう言ってはなんだけど、それ自体は前にもあったことだ。というかミアベルに限らず歴代の平民学生の時でもまれに発生していた伝統ある嫌がらせらしい。

 でも、今回のこれは過去一で酷い。




「わぁ。すごいね」




 などとミアベルは他人事のように言っているが、現実逃避したくなる気持ちもわかる。

 ミアベルのロッカーは抉じ開けられ、中に汚物をぶちまけられていた。



「なんだこれ……生ゴミ?」


「みたいだね。どっから持ってきたんだろう……?」



 たぶん、食堂かどこかのゴミ箱を持ってきて、その中身をぶちまけたのだろう。

 べちょべちょで、見るからに汚く、そしてなにより悪臭が凄い。

 どう考えても、中に置いてあったミアベルの荷物は全滅だろう。汚過ぎて何が置いてあったのか見ることすら出来ないし、勿論被害の程度もわかりゃしない。

 当然、持ち主のミアベルは何が置いてあったか知っているだろうから、被害の程度を聞いてみると、それ自体は大したことはないらしい。



「ほら、前も何度かこういうことあったから、大事なものはそもそも置かないようにしてるんだ」


「そりゃそうか」



 だからこそミアベルは常に大きな学生鞄を肩に掛けて、重い教材を可能な限り持ち歩いているのだ。あたしとしては思うところあるし、ロッカーのセキュリティが心配ならあたしやミリティアのロッカーを間借りすればいいのにと思う。実際、ミアベルへの嫌がらせが深刻だった一時期はそうしていたのだが、それも少し落ち着いてきた頃にミアベルのほうから『もう大丈夫』と自分のロッカーに荷物を戻してしまったのだ。

 まあ、あたしやミリティアに迷惑が掛かるのを嫌ったのはわかるけど、その結果がこれでは、なんとも遣る瀬無い思いがわだかまるのは否めない。

 大事なものは置いてないから被害が少ないといっても、それは相対的にマシだったというだけの話であって、痛手には違いない。

 そして、それよりなによりしんどいのは、



「これ、どうやって片付けるんだよ」


「ね……」



 あたしとミアベルは途方に暮れた。

 ゴミを取り除いて、汚れを拭きとって、臭いもどうにかしないといけないだろう。これが貴族用のロッカーであれば学院の使用人に清掃を頼むことも出来ただろうが、平民用のロッカーではそうもいかない。勿論、ちゃんと清掃依頼をすればやってくれるだろうが、その費用は当たり前にミアベルの負担となる。なんで、どこかのクソ野郎がやった嫌がらせの尻拭いを、金を払ってまでミアベルがしないといけないのか。でも、現実的にロッカーが使えなくて困るのはミアベルなのだから、やらざるを得ないのだ。


 犯人がわかればソイツに弁償させるだけの話であるが、まあ無理だろう。

 これだけ野次馬が居れば誰かが犯行現場を見ていたりもするだろうが、訊いて回っても答えは出てこないはずだ。なにせ、周囲で眺めているやつらの圧倒的多数を占めるのは、ミアベルへの同情ではなく嘲笑だ。つまりコイツらの殆どは、こうなっていることがわかっていて、困り果てるあたし達を見物するために集まっているのだ。

 同情的な視線をくれるのは平民学生達だが、彼女達だってクソ貴族に目を付けられたくはないので、出来る限り関わりたくないというのが本音だろう。

 仮に目撃証言が出てきたとしても、首謀者が貴族学生で、証言者がそれよりも身分の低い貴族だったり平民だったりすれば『言いがかりをつけるな』と一蹴されてお終いになってしまう。写真とか、物的証拠とか、言い逃れが出来ないものが出てくれば話は別だけど、それにしたってこういうことをする輩は大抵姑息で卑劣だから、実行役は別の誰かに押し付けて自分の手は汚さず、もしもの時は実行役だけを切り捨てるというのが常套手段だ。


 ここにきて過去一酷いことをやられた理由は残念ながら想像がつく。

 十中八九、ミアベルが王子殿下のチームに参加したことだろう。つまりはただのやっかみである。

 ミアベルは自分からチームに志願したのではなく、レオンヒルト王子のほうから誘われたのだ。だからミアベルのチーム入りが認められないならば王子に文句を言うのが筋というものなのは幼年学校生でもわかる道理なのだけど、生憎とこういうくだらない真似をするやつらにはそんな道理も知性も度胸もないのだ。

 やつらが振りかざす言説はワンパターン。

 ミアベルが立場を弁えて辞退するべき。そうしないミアベルが悪い、である。


 ムカつくしキレそうだけど、ここでキレ散らかしても野次馬を喜ばせるだけで何も解決しないのはわかりきっている。

 だからあたしは努めて冷静に、建設的に今後のことを考えようとした。

 置いてあった教本が使い物にならなくなったのは、とりあえずどうとでもなる。あたしのを一緒に使えばいいだけだから。なので今日の午後の講義は乗り切れる。で、片付けは放課後に考えよう。こういう時に頼りになるのはミリティアだから、申し訳ないけどまた力を借りることになりそうだ。


 と、思ったのだがとうのミアベルから待ったがかかる。



「これをそのままにしておけないよ。他の人たちに迷惑が掛かっちゃう」


「そりゃあ、そうかもだけど」



 とにかく悪臭が凄いので、同じロッカールームを使用する平民学生達にとっては今すぐにでも片付けてほしいだろう。特に、ミアベルのロッカーの周囲のロッカーを使っている者達は堪ったものではないはずだ。

 とはいっても、現実的にどうするというのか。

 昼休みの残り時間だけで、ミアベルとあたしの二人だけでこれを片付けるのは無理過ぎる。



「少しでも、できる限りでやるしかないよ。リタは先に行ってて」


「バカ言うな。あたしも手伝う」



 まあ、これがミアベルだよな。

 しかたない気分になりつつ、あたしは周囲を睨みつける。見世物じゃねえぞぶっ飛ばすぞア゛ァ?

 そんなこんなであたし達がとにかく手を付けようとした矢先、そいつは現れた。




「――ふふふ! 派手にやられたようね!」




 耳に響く高い声でそう言ってきたのは、野次馬を割って出てきた一人の女子学生だった。

 緑銀のロングヘアを鮮やかな花飾りでこれでもかとデコレーションし、それに負けないくらいの派手なメイクで武装した自己顕示欲の塊のような女。


 アゼリア・シュトゥラ・コーバシィ伯爵令嬢。


 コイツか、とあたしは確信した。

 図ったような登場に、あからさまに見下した態度が物語っている。コーバシィはあのクレインワースの派閥に属する学生であり、実家も伯爵位の中ではわりと有力なほうだったはず。しかもクレインワース派閥のロンベルクやミュラーが失脚した都合上、相対的に影響力を増して調子に乗っているらしいではないか。

 しかも、この女にはミアベルを貶める動機がある。

 というのも、少し前にしつこくミアベルを自分の派閥に勧誘していたようなのだ。ミアベルは曖昧に濁していたが、相当粘着質に付き纏われて迷惑している様子を憶えている。勿論ミアベルが勧誘に応じることはなかったし、ここ最近はコーバシィも現れなくなったのでようやく諦めたのかと思っていたが、これである。


 要するに、ミアベルに断られた腹いせに、こんな嫌がらせをしたのだ。

 自信満々に出てきたからには、どうせ証拠は残していないのだろう。

 それでも文句の一つくらいは言ってやらないと気が済まないあたしがコーバシィに詰め寄ろうとすると、何故かミアベルに制止されてしまう。



「待って、リタ」


「なに? どうせコイツが――」



 ミアベルは首を横に振った。

 そして言う。




「アズにゃんがこんなことするはずないよ」


「アズにゃん!?」




 コーバシィは胸を張った。




「あたりまえでしょ、ミーたん!」


「ミーたん!?」




 えちょっと待ってなにがどうなってんの!!?



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