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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
二章_Gが大量に発生する話

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51話_side_Jsh_大学区_技研



 ~"技研職員"ヨシュア~



「おおいシューベル?居るか?」



 研究室のロックを解除して入室すると、目当ての人物が奥に立っているのが見えた。

 伸び放題になったくすんだ金髪を雑に括った、不健康な顔色で痩せぎすの白衣の男だった。


 ミヒャエル・グラハイト・シューベル。俺の同期の研究者で、このラボの主だ。



「んなこったろうと思ったけどよ……――居るなら返事しろよ!」



 呼び鈴を散々無視してくれたシューベルに歩み寄りつつ文句をつけると、そこで漸くヤツは俺の存在に気付いたようだった。



「ん?お、おお!ヨシュアじゃないか。いつの間に」


「今だよアホ」


「ちょうど良いところに来たね!これを見たまえ!」



 こちらの都合なんざ知ったこっちゃないとばかりにシューベルは俺を呼び寄せ、それまで熱心に眺めていたものを示して見せた。ラボの奥にはガラス製のシリンダーが設置されていて、内部の台座の上にはいくつかの煉瓦が乗っていた。



「ゴーレムの材料か?」



 この男の最近の研究内容は知っているので、その成果だとあたりをつけて訊いてみる。するとシューベルは寝不足なのか血走った眼で、渾身のドヤ顔を炸裂させた。

 なんだ?そこまですごい仕掛けがこの煉瓦にあるのか?



「ふむ……ただの煉瓦にしか見えんが」


「そうとも!ただの煉瓦だ。その中を見たまえ」


「中?」



 よく見ると、膝の高さくらいまでに積み上げられた煉瓦の中心に、銀光りするインゴットのようなものが。察するに、アレが研究成果か。得意げなシューベルがおもむろに手元の端末を起動して魔力を流すと、そのインゴットがとろりと液状化する。



「おお?」



 銀の液体は周囲の煉瓦にまとわりつき、染み込み、自在に動かして瞬く間に一つの人型を形成した。煉瓦で出来た魔法人形――ゴーレムである。

 シューベルの最近の研究内容とは、ずばりゴーレムの戦力化だ。黒い森における魔物の討伐は常駐戦力や学生戦力が担っているわけであるが、現状のメソッドでは観測器における高魔力動体検知によって都度迎撃の方法が取られている。魔物は夜にしか活動しないのである程度時間帯は限られているとはいえ、つまりは観測器が魔物を検知したらその都度迎撃に出動する必要があるということだ。

 例えばこれが雑魚の小型種一体だけの反応であっても、勿論見過ごすことは出来ない。それが単発で済めばどうということはないが、散発的にやられると、迎撃戦力が出ずっぱりになって負担が馬鹿にならないのだ。

 いわゆるハラスメント攻撃を受ける場合があるわけだ。


 そこで、小型種の小規模の侵攻くらいは迎撃を自動化できないかと白羽の矢が立ったのが、魔法人形であるゴーレム兵器だ。

 黒い森と学院の間の緩衝地帯にあらかじめゴーレムを配置しておいて、観測器とリンクさせて自動で魔物を迎撃する防衛網を構築しようということだ。


 この構想に必要不可欠なのはメンテフリーのゴーレムだ。

 単にゴーレムに魔物を迎撃させるだけであれば現状でもできる。例えば夕方くらいに魔法使いがゴーレムを作って設置しておいて、夜の間は魔物を自動で迎撃するように命令を下しておく。

 それだけでゴーレムが破壊されるまでは防衛網が機能する。

 問題は破壊されたときだ。

 術者がすやすや眠っている間にゴーレムが破壊されれば、当然その後は魔物が素通りである。それを避けるためにはゴーレムが破壊されたら即座に修復できるように魔法使いが控えておく必要があり、結局人的負荷が掛かるのだ。ゴーレムを最も高効率で製作できるのは地属性の魔法使いなので、今度は地属性の魔法使いに尋常じゃない負荷が集中するだけ。

 それでは意味がない。


 求められたのは、一度作ったら自動で命令をこなし、そして自身かあるいは友軍が破壊されたら自動で修復を行うゴーレムだ。

 実のところ、その条件を満たすゴーレムは現状でも既に製作可能なのだが、防衛網を敷くとなるとそれなりの数が求められるのは言うまでもない。なので、比較的安価な手法を確立できなければ、とてもコストが見合わないのである。

 例え人命にかかわるとしても、資金も資源も無限ではない以上、手段を選ばなくてはならないのが世知辛いところだ。



「基幹術式と素材を分離したのはわかるが……」


「ふっふっふ。聞いて驚け。先ほど溶けたインゴット、名付けて『シューベルメタル』は自律する金属!それ自体が一個の生き物なのだよ!」


「魔法生物ってことか」


「その通り!そして『シューベルメタル』はなんと、自己増殖し、相互修復を行うのだ!」



 コイツは普段はもう少し厭世的な雰囲気の男なのだが、矢鱈とテンションが高いのは研究の成果が上がったことだけが理由ではなく、眼の下の色濃い隈が示す通りに睡眠時間が足りていないからなのだろう。残念ながら、技研の研究者にはよくあることだ。


 さて、研究成果の名前はともかくとして、性能が事実ならば素晴らしいことだ。

 モノは試しとばかりにシューベルが端末をいじると台座の上に新たな煉瓦が出現する。ゴーレムがその煉瓦に接触すると、その部分から『シューベルメタル』が侵食し、一回り小柄な二体目のゴーレムを作り上げたではないか。すごいのは、その過程にシューベルは『煉瓦を置く』という行為でしか関わっていないということだ。



「そして、こうだ」



 ぽちっとな。とシューベルが手元の端末のボタンを押すと、シリンダー内の台座の直上に設置された雷撃装置から稲妻が迸り、真下に立っていた最初のゴーレムを粉砕した。台座には防御用の紋章術が施されているので傷一つなく、ガラス製のシリンダーも同じく特別製なので威力は遮断されてこちらに届くことはない。

 すると破壊されたゴーレムの残骸から『シューベルメタル』が滲み出て、破片を繋ぎ合わせてもう一度人型を造って立ち上がる。



「軽度の損傷であれば自己修復する」



 ぽちっとな。ともう一度ボタンを押すと、再びの落雷が二体目のゴーレムを粉砕し、こちらは原型が無いほどに木っ端微塵となった。

 すると最初のゴーレムが動いて、二体目の残骸が堆積した砂の山に触れ、侵食した『シューベルメタル』が土くれのゴーレムを作り上げる。



「自己修復不能なレベルで損傷した場合は、他のゴーレムが残骸を素材にして新たなゴーレムを作る」


「無限に増えるんじゃねえのコレ?」


「勿論リミッターは設けるつもりだとも。今は閉じ込めているのでこれ以上の材料を与えない限りは増えることはない。逆に言えば、この『シューベルメタル』を外界に解き放てば、その辺の土や木石を材料に全自動の軍隊を作り上げるのだ!」


「その『なんとかメタル』はなにを燃料に動いてんだ」


「『シューベルメタル』だよ。燃料は勿論魔力さ。理論上は大気中の低濃度の魔力だけで活動可能だ。と言っても、この学院内や黒い森なんかの高魔力環境でなければ流石にパフォーマンスは落ちるけどねぇ」


「ほぉ。そりゃすごい」


「しかも!術者が付けばもっとすごいぞォ。高密度の魔力を注げばそのぶん強力になるから、大型種の魔物との戦闘にも応用できるはずだ」



 おお。まじですげえ。文句のつけようがない。


 ゴーレム戦力化のプロジェクトが立ち上がった時、最初の問題は誰がその研究を行うかということだった。この王立魔法技術研究所――通称『技研』には多くの魔法研究者が在籍しているが、ゴーレムを専門にしている者は居なかった。正確には爺さんの研究者が居たけど去年腰をやってそのまま隠居した。そのため、多少その分野に造詣を有する研究者の中から誰かが担当することになったのだが、ことがことだけに皆尻込みをしたのだ。

 何故ならば、研究に瑕疵があれば、それは直接的に誰かの命の危機に繋がりかねないから。

 自分の専門分野でもない研究で、そんな重い責任は誰も背負いたくなかったのだ。


 で、最終的に押し付けられたのがこの男。

 シューベルは少々、いやだいぶマッドな気はあるが、間違いなく天才だった。マッドなので少々、いやだいぶ不安はあるが、それでも技研の誰もがその実力を認めている。

 この間だって、突如出現が確認された大型の魔物『ヒドゥン種』の報を受け、そのステルス能力を無効化する方策が早急に求められた。俺も含めた複数の研究者が頭を突き合わせて対抗策を練る傍ら、結局シューベルがゴーレム研究の片手間にした提案で解決してしまったのだ。


 現状一定範囲ごとに設置している観測器を相互にリンクさせてレーダー圏を構築するとか、どうやったらそんな発想が出てくるのか。しかも、本来リンクできる構造になっていない魔法具を、片手間で改造して仕上げてしまうのだから笑えない。

 観測器をマルチ化したことで段違いに向上した精度を活かして、ステルスの『違和感』を検出するってどういう発想だっての。



『どれだけステルス能力が優れていようが飛んでるわけじゃないんだから足跡は残るはずだ。フィルタリングすれば違和感は検出できるだろ。精度が足りないって?一基で足りないなら二基でも三基でも投入すればいいだろう。どうせ観測器の予備が倉庫で腐ってるんだから、増設させなよ。ランニングコストが嵩むって?馬鹿だねキミ達、今必要なのは即座に実行できる方策だよ。とりあえず場を凌いでその間に安くて優れた新型観測器でもなんでも開発すればいいだろ。頭動かす前に出来ることやりなよ。研究者だからって手を動かすことを忘れちゃいないかい?』



 こんな感じ。

 ちなみに上記のセリフは喧々囂々の対策会議で技研のお偉方にシューベルがぶちかました一撃である。研究者の職業病とでも言うべきか、誰も彼もが厄介なステルスを無効化する新たなメソッドを構築することに躍起になっていた中で、ただ一人シューベルだけが平常運転だった。

 俺達が対策を考えている間、そしてそれが完成するまでの間、常に前線で戦っている者達の命が危険に晒され続けるのだと、当たり前のことに当たり前に気付いていたのがコイツだけだったのだ。

 しかも結局シューベルの提案以上の方策は現状実現できないとの結論だったのだから呆れたものである。観測器を増やせば増やすだけ維持費が掛かるので、設置個数を最低限に抑えるための配置の見直しが掛けられ、最終的には元の二割増し程度の個数に収まる予定である。

 あれ以後ヒドゥン種は出現していないので、実際に通用するかどうかはわからないが、少なくとも迷彩魔法を使った魔法使い相手の試験では問題なく機能した。



 さて、そんな天才シューベルであるが、発想力と開発力はずば抜けているが、いかんせん頭の構造が常人とは違うので、その分やらかすことも多い。

 研究開発に失敗はつきものではあるが、この男の場合はなまじ能力が高いせいで、大それた研究をして失敗するときは盛大にやらかすのである。功績と同じくらい不祥事の回数も多いのだ。

 マッド気質のせいで突っ走ったら止まらない上に、優秀過ぎて他者が研究内容を理解できないことも多いので間違いに気付いて諫めてくれる役が居ないのである。結果的に同期の俺が手綱を握る役目を任されることが多いのだが、どう考えても荷が重い。


 まあ差し当っては出来ることをしよう、ということで。

 また徹夜で研究をしていたらしいこの男を強制的に休ませることくらいはしようと思ってここに来たのだ。



「そういえばヨシュア。僕になにか用だったかい?」


「じゃなきゃ来ねえよ。メシ行こうぜ」


「お、おおもうそんな時間か。没頭すると時間を忘れていけないな。そういえば昨夜は何も食べていないから空腹で仕方がない」


「一応言っておくが、朝食を通り越して今は昼……も通り越しておやつ時だな」


「なんと!どうりで腹が鳴くわけだあっはっは!」



 これである。

 まじでほっといたら死ぬまで研究してるんじゃなかろうか。しかも没頭すると周りの声なんざ聞きやしないから、寝ろとか休めとか飯食えとか、言うだけ無駄なことも多い。俺の声は比較的届きやすいみたいなので、まあ同期の誼で他の奴らよりは親しい認定されているのだろう。


 睡眠不足は判断力を鈍らせるから、やっぱり睡眠は大事だと思うんだよ。

 眠いと、普段やらないようなポカをやらかすからな。


 例えば、家の鍵を閉め忘れて出掛けたり、調理用の魔法具をつけっぱなしにしちまったり。


 あるいは、自律するゴーレムを放置して飯食いに行ったりな。




 小一時間後、俺達は昼食を終えてラボに戻ってきたときにようやく知ることになる。

 マッドご自慢の『シューベルメタル』が雷撃装置を侵食し、力尽くでシリンダーの結界をぶち抜いてラボから脱走した、と。



・2021/7 細部の描写を修正。

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― 新着の感想 ―
適当にオリジナル小説を、読んだことある作品から設定パクったり(ゴーレム暴走事件パクってオリジナルで描いてみようかな、とした)もしながら、描いてみて、思ったんだが、 文章や設定の技量が並外れている。 ボ…
自律型生物兵器的なの作って放置してたら脱走してたって大問題やないかーい!
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