48話_side_Mil_第五練術場
~"もう一人の転生者"ミリティア~
「栄華の矛先!」
私の声に応じて魔力が編み込まれ、燦然と輝く巨大な光の槍となって放たれる。
一直線に迸った魔法が、練術場に備え付けの対魔法用デコイに直撃し、あっさりと蒸発させて突き抜けた。
自動で再生成されるデコイを遠く眺めつつ、私は息を吐く。
「大した威力じゃないか」
傍らで見ていたレックスが称賛をくれた。
「ありがと」
「上級魔法か?見たことがない魔法だったが」
「そう。光の上級魔法」
栄華の矛先。貫通力特化の直射型砲撃魔法に分類される。
「やっぱりダメね。宣言までしてこれじゃあ、発動が遅すぎる。とても実戦じゃ使えないわ」
「確かにな。切り札として持っておくには申し分ないと思うが」
「そうね」
この世界の魔法というのはちょっと変わっていて、発動のために呪文を唱えたり杖を振ったりすることは一切ない。基本的には全てが術者の脳内で完結する。
魔法を使うために自身の魔力を出力する行為を『魔力を編む』とか『唱える』などというが、魔法使いは自身の脳内に構築されたそれぞれの魔法モデルに従って魔力を編むことで魔法を完成させる。
感覚的な表現になるが、魔法モデルとは立体パズルのようなものだ。いわば、魔力を使って小さなピースを創り出し、組み合わさった結果が魔法として発動する。難しい魔法ほどピースの数が増えていく。そんな感じ。
余談だが、この魔法モデルを文様として描き出す技能が紋章術と呼ばれるものだ。
ここで特徴的なシステムとして『宣言』というものがある。これは文字通り使用する魔法の名前を宣言すること。そうするとどうなるかと言うと、魔法が発動するまでの時間が短縮される。先の例で言えば、最後の詰めでAIが即座に残ったピースを組み合わせてパズルを完成させてくれるわけだ。
ただし、宣言するにはそれだけで魔力を使う。つまり魔法の名前を言うとガッツリ威力が下がるのだ。
というわけで、基本的には魔法を使う時は無言。ただし高難度の魔法になってくると、つまり魔法モデルがべらぼうに複雑な魔法になってくると術者の技量とは関係なく最低限の必要時間が掛かってくるので、実戦で使用するためには宣言が必須になってくる。
有り体に言えば、大技は技名を叫ばないと使えないのだ。
どうしてそんな面倒なシステムになっているのかというと、完全に漫画的な都合である。原作『夜明けのレガリア』の作者は、そもそも最初は魔法に名前を付ける気がなかったらしいのだ。だけど物語が中盤に差し掛かって魔物との戦闘が主軸となってきた頃、たぶん気付いてしまったのだ。
技名がないと戦闘がいまいち盛り上がらない……!と。
んで後付けで登場したのが上記の設定。今までは簡単な魔法しか出てこなかったから誰も宣言をしてなかったけど、これからは大技バンバン出すから、皆じゃんじゃん技名叫ぶよ!って言うね。まあお陰様で原作は大人気だったわけで、そこは作者か編集者か知らないけど間違いなく英断だったと思う。
「どう思う?今の魔法」
「宣言してなおデコイを蒸発させるのは、凄まじい威力だが……正直、ミリティアさんの身の丈にあっているとは言えんな」
「そ。私もそう思う」
私が同意すると、レックスは怪訝そうな顔を見せる。
身の丈に合わないとわかっている魔法を何故覚えたのかということだろう。
「この栄華の矛先って原作でのプリムローズの十八番なのよね」
「そうなのか……ん?」
「使ってみれば、戦力差がなんとなくわかるかなって」
「いやそれはいいが、それ以前にアシュタルテ嬢は氷属性だろう。なのに光魔法が十八番なのか?」
レックスの尤もな疑問に、私はそういえば説明していなかったと思い出す。
「彼女の属性は氷じゃないわ」
「光なのか?だが……」
「もちろん違う。彼女の属性は『時間』よ」
「ああ……上位属性というやつか」
驚くレックスに頷いて見せる。
この世界の魔法使いは全員が必ずなにかの属性を有している。世間一般で言われる属性は全部で九種類。
比較的使用者が多く、汎用性に富む『地』『水』『炎』『風』の四属性。
尖った性能の特殊な魔法が多い『光』『闇』の二属性。
そして使用者が少なく、使いこなすのが難しいが相応に強力な『氷』『雷』『樹』の三属性。
私は光属性で、レックスは地属性の魔法使いだ。
では、私が告げた『時間』という属性はどこに登場するのかと言うと、これは公には認められていない『上位属性』と呼ばれるものだ。私はそれが厳然と実在している属性だと原作知識で理解しているけど、この世界の魔法使いの常識的には、まあ都市伝説みたいなものだ。
厳然と実在しているのに何故認められていないのかと言うとそもそも絶対数が圧倒的に少ないのと、これは想像だけど、この世界の魔法について規定する組織である『魔法協会』の内部に上位属性の遣い手が史上存在していないからだろう。ルールを決める側が理解できないから認められていないというわけだ。
「ただし、今の時点では彼女、まだ氷属性だろうから間違いではないけど」
ここからはこの世界の常識ではなく原作知識の説明である。
上位属性は生まれつき有するものだが、自覚しなければ使えない。そして自覚しないうちは下位属性(上位ではない九属性を相対的にそう呼ぶ)の魔法使いとして過ごすことになる。だから今の時点でプリムローズは氷属性だというのは正しくて、物語の終盤で上位属性を自覚した瞬間から化けるのだ。
常識として、魔法使いは己の属性の魔法を最も高効率で使うことが出来、逆に属性以外の魔法は軒並み効率が下がる。私で言えば光属性の魔法は1.2倍の効率で発動できるけど、それ以外の属性は軒並み0.5倍になるって感じ。
上位属性持ちには他属性の効率低下がないので、全下位属性を1.0倍の効率で使用できる。つまりは苦手が存在しないのだ。無論、その上で上位属性の魔法も使用できる。原作プリムローズが栄華の矛先を好んで使用したのは、単純に高火力・長射程の攻撃魔法として使い勝手が良いからだろう。
言うまでもないが、効率何倍で云々と言うのは原作で説明されていた事柄でしかないので、この世界の魔法使いが定量的に理解しているわけではない。感覚的に自分の属性の魔法が一番使いやすくて、他の属性を使おうとすると苦労するというのは誰だって理解しているが、それ以上のことは検証のしようがないのだ。何故ならば同じ魔法を使っても魔法使い個人の技量によって効果の程は変わるし、同一人物が同一の魔法を使っても注ぎ込む魔力の量やコンディション次第でも効果が変わってしまうのだ。
勿論、私自身も実際に検証したわけじゃないので原作知識を鵜呑みにして語っているに過ぎない。感覚的には、たぶん間違っていないとは思う。
「なるほどな……それで、戦力差はわかったのか?」
「ええ。まあ、私程度ではお話にならないということはわかったわ」
少なくとも、宣言をしてやっとこさ一撃放てる程度では話にもならないのだ。
「原作のプリムローズって、最終決戦仕様の転神状態だと、この栄華の矛先を宣言なしで同時に千発くらい使ってくるから」
「は?」
「もっと多かったかも」
なんせ見開き使って紙面一杯の栄華の矛先だったからなぁ。
「……地形が変わるぞ。というか、現実的に可能なのかそれは」
「普通は無理よ。上位属性って一口で言ってもプリムローズの時間属性はチート中のチートだから」
だって時間を止めて好きなだけ魔法を準備できるし、しかも自身の魔力が一切減少しないから理論上はゼロ時間で無限に撃てるのだ。止まった時間の中でせこせこ魔法を設置するプリムローズの姿を想像するとちょっとだけ笑えるけど、残念ながらその姿を見られる者は本人以外に居ないのである。
「しかも転神が使えると言ったか?」
「そりゃそうよ。原作の大ボスよ?使えないわけがないでしょ」
「そんな存在に、ミアベルは勝つのか……?」
戦々恐々としているレックスには悪いが、もっと驚いてもらう必要がありそうだ。
彼に原作の説明をしたときはストーリーの流れ重視だったから、個人の技能とかそういうのは一切省いちゃったから。
「勝つわよ。だってミアベルも上位属性だもの」
「ああ、うん。主人公だし、まあそうだろうな」
「しかもプリムローズと同じ時間属性」
「なに?」
あらゆる意味で対比なのだ。ミアベルとプリムローズは。
ミアベルが善ならばプリムローズは悪。プリムローズがマイナス方向の時間使いであるならば、ミアベルはプラス方向の時間使いだ。その本質は『加速』と『進化』。プリムローズが停滞した時間の中で無限に魔法を唱えるならば、ミアベルは自身の時間と回復力を無限に加速して≒ゼロ時間で無限の魔法を唱える。
そして、その相性上、プリムローズはミアベルには勝てない。何故ならばプリムローズの能力値の上限は決まっていて、ミアベルの上限は無限に進化し続けるからだ。プリムローズの勝ちの目はミアベルが進化しきる前に倒すしかないのだ。原作では傲慢なプリムローズがミアベルを侮り、わざと時間を掛けていたぶった結果、まんまとミアベルの進化を許して逆転負けという顛末であった。
ていうか、そう考えると原作でミアベルが魔王に勝てたのは、前座のプリムローズが丹念に育ててくれたおかげとも言えるのか……?
「ミアベルは今の時点では炎属性なんだよな?」
「そうよ」
「俺達が上位属性のことを伝えたらそれに目覚めたりするのか?」
「黙ってたけど、実はレックス、貴方も上位属性持ちなのよ?」
「うそだろ!?」
「うそよ」
「あ、ああ。なるほど。言うだけで自覚なんてするわけないか」
「そんなはずないって思って終わりでしょうね」
それ以前にこの世界の常識的には都市伝説レベルの信憑性しかない上位属性の概念を説明で理解させるのがまず無理だ。だって私もレックスも下位属性なのだから、私達だって知識として知っているだけで理解しているとは言い難いのだ。
これは本人の自覚を待つしかないと思う。たぶん本人にしか理解できない機会がいつか来るのだろう。原作通りならばだいぶ先の話だ。
ちなみにそのミアベルであるが、今日はノエルとリタをお供に連れて商業地区へと繰り出している。なんでもスイーツ巡りをするそうだ。ミアベルって基本的には貧乏ゆえのケチ――もとい倹約家なので、無駄な外食とか極力しないのだけど、今日はリタとのお友達記念日で特別なのだとか。レックスはともかく私は甘いものがあまり得意ではないので遠慮しておいた。味覚的には別に嫌いでもないのだけど、前世の入院生活での厳しい食事制限の影響でどうしても苦手意識がね……。
なんか、甘いものをちょっとでも食べ過ぎると意味もなく罪の意識が湧いてくるのだ。辛気臭い顔の私が混じってたらあの子たちも楽しめないだろうし。
「そういえばレックス」
「うん?」
「魔法使いの属性が本人の性格に影響を与えるって話、聞いたことある?」
「あるぞ。まあ血液型占い程度の信憑性だと思っているが」
例えば、炎属性は情熱的、地属性は堅実、光属性は派手好きとかそんなの。レックスの言い分は言い得て妙で、実際のところその程度の信憑性だろう。
「ただ原作的に言えばあれって真実なのよ」
「属性で性格が決まると?」
「傾向は決まるわ。外的な要因で形成される本来の性格を捻じ曲げるほどの強制力はないってだけで。というか、本人の性質によって属性が決まるって言ったほうがいいのかもね」
なんで私がいきなりそんな話をし始めたかというと、魔法使いの属性と本人の資質は相互に影響するということを言いたかったのだ。つまり、ならば上位属性持ちはどうなるのか、と。
「上位属性の持ち主はもっと顕著に影響が出るのよ。それこそ、外から見えるレベルでね」
「ふむ……ではアシュタルテ嬢の身体が小さいのは」
「そう。彼女の属性が時間で『停滞』を司るから。成長が停滞してるの。逆にミアベルはあらゆる物事に異常な才覚を示す」
「進化、か」
プリムローズの知性の成長は停滞せず、ミアベルが他者よりも早く老いたりしないのは漫画的なご都合主義なのだろうけど。たぶん現状彼女ら以外にあの属性の持ち主は居ないから、比較対象もない以上普遍性を問うても無駄である。
上位属性と言えば、これも教えておいたほうが良いかもしれない。
「レックスはヴァンシュタイン公爵令嬢を知ってる?」
「弟は知っているが、姉君は知らん」
「三年生で生徒会執行部の部長なんだけど、あの人も上位属性持ちよ」
その属性は『虚影』である。ヴァンシュタイン公爵令嬢ことマリア様は原作の主要なキャラクターではなくて、主な出番は続編のほうのキャラクターだ。だから今の時点でミアベルとの接点は基本的に無いはず。
それはともかくとして、虚影という上位属性を有するマリア様には外面的などんな影響が現れているのかと言うと、
「他者が纏った虚影を見破れるのよね」
「つまり?」
「例えば魔法で姿を隠した存在を看破したり、あるいは単純に嘘を見破ったり」
基本的には私はレックスに対しても個人に関する原作知識はあまり伝えないようにしている。それが必要ならば情報共有を厭わないけど、必要以上のそれは単に他人のプライベートを吹聴しているだけになってしまうから。だけどマリア様のことを伝えたのは単に知っておくべきだからだ。
「だからもしヴァンシュタイン公爵令嬢と会話する機会があれば気を付けてね。嘘吐くとバレるから」
「肝に銘じておくよ」
後ろ暗いものが何もなければむしろマリア様の異能は知らないほうがいいが、前世の記憶持ちで原作の存在を知っている以上は後ろ暗いところしかない。だとすれば知っておいてくれたほうが警戒できるだけマシである。
レックスのことだから、知ってさえいれば上手くやるだろう。
「ところで、ミアベルはかくれんぼの才能だけは進化しないようなんだが、それは?」
「それは流石に知らない」
・2021/7 上位属性に関する設定を修正。下位属性の設定を追加。




