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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
二章_Gが大量に発生する話

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44話_side_Rit_第五練術場



 ~"騎士の卵"マルグリット~



 ――拝啓 天使様


 お友達ができそうです。










「――呆れ、た!じゃあ鍛錬の相手が欲しかっただけなの?」



 片手剣型の模造刀で一撃を繰り出しつつあたしが言うと、目の前の男がそれを受けつつ答える。



「だけというわけじゃない、が!まあ、それが一番だな」



 模造刀が火花を散らすほどの勢いで斬り結びながら、叩き付けるように会話する。

 放課後の練術場で、あたしはつい最近――先日の魔法資質測定の場で知り合った男子学生のレックスと鍛錬をしていた。


 放課後付き合ってくれないか?とレックスに誘われたのが今朝のこと。もしかしてデートのお誘いなのではとドギマギして一日を過ごしたあたしを連れて、彼が訪れたのは普段から学生に開放されている第五練術場。どういうことなの、と混乱するあたしに模造刀がポイと投げ渡され、今に至る。

 あたしの純情を返せ、と八つ当たり交じりに叩き付ける一撃を、目の前の男は憎らしいくらいに器用に捌く。


 あたしが片手剣で手数と速度で押していくスタイルであるのに対し、レックスは両手剣でとにかく堅牢な立ち回りをする。巨大な武器のウェイトが持つメリットもデメリットも良くわかっていて、剣を大きく動かすことのない小刻みな防御を主体として戦闘を組み立てる。

 レックスの防御を正面から抜くことはあたしには難しい。ので、只管手数で押して押して押しまくって彼の防御を崩していく。だけど、あたしのラッシュにほんの僅かな緩みを見付けたのか、レックスが受けに徹していた両手剣でカウンター気味に弾いてくる。

 あたしの軽い剣は難なく弾き返され、腕ごと泳ぐ。



「ぬん!」



 そこに、轟と旋風を巻いて襲い来るレックスの反撃。

 膂力とウェイトが存分に発揮された剛剣は、あたしではとても受けられない。受け流すことすらできないので、あたしは身を翻してバク転気味に後ろへと下がり、レックスの間合いから逃れる。勿論、回避した動作にはカウンターの布石を仕込んであるのだけど、そこで不用意に追撃せずに堅実に体勢を整えるのがレックスの上手いところだ。



「あたしはお眼鏡に適った?」


「ああ。素晴らしいな。毎日でも相手して欲しいくらいだ」



 シチュエーションによってはときめく台詞なのに、鍛錬の話なんだよなぁ。

 一旦小休止と言うことで、剣を置いて汗を拭く。魔物に対する戦闘者を育成する学院であるここの制服は、実は戦装束としても優れている。防御性能は勿論として、柔軟性にも富み、下手な運動着よりも余程動きやすい。実際、あたしが学生戦力として活動する際にも制服着用を義務付けられていることから、その実用性がわかるだろう。というわけで、あたしもレックスも制服のまま鍛錬をしているのだけど、流石に通気性とかは運動着には劣るわけで、激しい打ち合いの結果二人して汗だくである。

 ブレザーなんていの一番に脱ぎ捨てて、その下のカッターシャツもぽいっと捨てて、あたしもレックスも上半身は黒いインナー姿である。一応言っておくが、下着ではないので悪しからず。結局制服はプリーツスカートしか残ってないわけだけど、魔法的な防御が織り込まれているので、スカート巻いてるだけでもわりと意味があるのだ。

 ぶっちゃけ、実家で剣の鍛錬をしていた頃なんて男も女も一緒くたで汗まみれ泥まみれは珍しくなくて、時には水浴びすら一緒くたもあったわけで、あたしは鍛錬中には殆ど羞恥回路が働かないのだ。その辺、騎士の家系だとどこも同じような感じなので、レックスのほうもあたしの姿に特に思うところもなさそうだ。


 それはそれで、年頃の男女としてはどうなのと思わなくもないけど。


 まあ、そもそもレックスがあたしに声を掛けてきた理由が、実力の近しい鍛錬相手を探していたかららしいので、最初っから色気のある関係じゃあないんだよね。

 鍛錬の相手を務めること自体は、あたしとしても療養中に鈍った身体のリハビリになるし望むところではある……のだが、



「レックスなら、あたしに声掛けないでも他に相手がいくらでも居たんじゃないの?」



 鍛錬の相手をしてくれる男友達が、という意味だ。

 女子のあたしが切磋琢磨できる同性を探すのはかなり難しいが、男子学生であれば騎士を志す者など掃いて捨てるほど居るのだから。それでもって、武術一辺倒で友人など殆ど居ないあたしと違って、レックスは社交のほうもそつなくこなすらしく、わりと顔が広いみたい。

 本人は『八方美人なだけだ』と言うけど、それはそれで上手くやるのは難しいことだとあたしは知っている。



「居るには居るんだが……」



 歯切れの悪いレックスに、あたしは首を傾げた。



「なんというかな、同級生の男子は……地に足が付いていないというか、そう、夢見がちでな」


「ああ……なんかわかる」



 騎士を志すとか、魔物相手に戦功をあげるとか、故郷の守りとなるとか、皆それぞれに目標を持って鍛錬に励んでいるのだが、同級生となると基本的には実戦経験はほとんどない者ばかりなので、理想ばかり大きくて、綺麗すぎるのだ。

 要は、腕を磨くことそのものが目的と化していて、具体的なビジョンに結び付いていない。

 それが悪いことだとは言わない。あたしだってレックスだってそう言う時期はあったのだし、誰もが最初はそうだ。だから、これはあたし達の勝手な言い分で、その誰もが通る時期を駆け足で通り過ぎてしまったが故に、周囲の同年代と見ているものが違ってしまっている。


 実力で言えば、別にあたしやレックスに比肩する同級生なんていっぱい居るだろう。

 だが、そういう彼ら彼女らが鍛錬の相手としていまいち奮わないのは、視点が違うから。


 こうしてレックスと行っていた打ち合いだって、あたし達は勝敗にはこだわらない。何故ならあたし達が勝利したいのは魔物相手であり、同級生を叩きのめしてもなにも嬉しくないからだ。むしろ、それが魔物相手に戦う糧となるならば、鍛錬ではどれだけ無様にぶちのめされても構わないとすら思う。

 そこを同級生の大半と言えば、打ち合いをすれば勝ちたくなってしまう奴ばかり。

 目的がすり替わってしまって、実のある鍛錬になどなりやしない。



「でも、レックスは魔物と戦ったことはないんでしょ?」


「ないぞ。見たことはあるが」



 となると、少し不思議だ。

 あたしが魔物との戦いを現実的に見据えているのは当然だ。何故ってあたしの生まれたベリエ家では男も女も子供の頃から魔物と戦って育つのだから。学生と言う立場ながら、半ば社会人として働いているようなものである。

 では、レックスは?



「レックスは鍛錬の先に何を見ているの?なんのために戦うの?」



 あたしが興味本位で訊いてみると、レックスは「そうだな……」と少し言葉を探したようだった。



「遠からず、戦わねばならない時が来ると知っているから、だろうか」


「なにそれ」


「その時に無力を嘆きたくはないからな」



 へんなの、とあたしが言うと、レックスは笑った。

 なにが変なのかって言うと、レックスは抽象的なことしか言っていないのに、あたしはそれを少しも疑わなかったからだ。きっと彼が言う『戦わねばならない時』は本当に来るのだろう。それが確信できるほどには、彼の剣は誠実に力を求めていた。



「なら、その時はあたしも手伝ってやる」



 なんとなくそう言うと、レックスは一瞬きょとんとして、それから眩しげに瞳を細めた。



「それは心強いな」


「でしょ?」



 レックスと笑顔を交わして、なんかこういうのも悪くないな、なんて思っていたあたしは、おもむろに笑顔をひっこめた。



「ところでさ」


「ああ」



 皆までいうな、という様子でレックスもあたしと同じ方向へとさりげなく視線を向けた。

 あたし達が鍛錬をしていたのは練術場の隅のほうなのだが、そこから程近い木立の中から、ずっと視線を感じていたのだ。


 視線を、というか木の影からこっちをガン見してる人が見えてるわけだけど。



「気にしないようにしてたけど、なにあれ?」


「いやまあ、なんだろうな」


「あれって、あの子だよね。ミアベル・アトリー」



 平民階級の特待生であるその少女は、先日の魔法資質測定以来ちょっとした有名人だ。

 この場合の有名人は、彼女自身にとって必ずしも良い意味ではないことのほうが多いが。


 ともあれ、その有名人であるミアベルが、何故か木の影からちょこんと顔を覗かせて、遠くからこちらを眺めているのだ。正直意味が解らない。なにがしたいんだろうか。しかもよく見れば彼女は一人でなく、傍らに別の女子も居るようだった。こちらはミアベルと違ってわりとちゃんと身を隠しているので、誰かまではわからないけど。



「あれっていわゆる『ツッコミ待ち』ってやつ?」


「いや……たぶん、アレの場合は天然だと思うぞ」



 いやいやそんなバカな。

 子供じゃあるまいし。

 胡乱気なあたしの視線を受けたレックスは、溜息を吐いて、



「呼んでみればわかる」

















「わたしの隠れ身を見破るとは、流石はロイだね!」



 どうしよう。天然だった。



「昔っからロイはかくれんぼ上手かったもんね」


「お前が下手す……いや何でもない」



 レックスに呼ばれるや否や、めちゃくちゃ嬉しそうに駆け寄ってきたミアベルは、その後ろに更に二人の女子を連れていた。

 一人は眼鏡を掛けた黒髪の少女。小柄で理知的な、温厚そうなノエル・クライエイン。

 もう一人はサイドテールの髪形が印象的な、怜悧な貴族の少女。確か伯爵家のミリティア・リリア・ハートアート。


 三者三様の美少女が現れて、むっさい練術場の一角がいきなり華やかになった気すらする。上半身にインナーを曝け出した女子力皆無なあたしはちょっとだけ恥ずかしくなっていそいそと制服を着こんだ。



「ベリエさんっ!!」


「ふひぁ!?」



 いきなりミアベルに『グァシィッ!!』と両手を掴まれてあたしの肩が飛び跳ねる。

 女のあたしでも見惚れるような可憐な顔が、ものすっごい近くまで寄ってくる。



「ロイのこと、よろしくね!基本的に変なヤツだけど、総合的には悪くないと思うから!」


「は、はい!?」


「ベリエさんが最後の希望なの!貴女なら、ロイを真人間に戻してくれるって信じてるっ」


「こらこら」



 息つく暇もなく捲し立てるミアベルにあたしが目を白黒させていると、不意にレックスがミアベルの頭を鷲掴みにした。そのまま握力でギリギリと締め上げながらミアベルを引きずっていく。笑顔で。

 巨大な両手剣を操るレックスの、鍛えられた強靭な握力から繰り出されるアイアンクローである。すごい笑顔で。



「ぎにやぁぁぁぁぁ割れる、割れちゃうっ、ミアベルさんの中身がでちゃううぅ!?」


「はっはっは、飛び出るほど詰まってないだろ」


「しちゅれいにゃあああああぁぁぁぁ……――――」



 フェードアウトしていく悲鳴を呆然と見送る。心配そうにぱたぱたとノエルが駆けて行って、この場にはあたしとミリティアだけが残された。とりあえず、とあたしは口を開く。



「あの二人、どういう関係?」


「レックス様とミアベル?」


「うん」


「幼馴染なのだそうよ」



 へぇー、とあたしは相槌を打った。

 平民の幼馴染というのも少し珍しいけど、まあ男爵家だし、おかしいというほどでもない。ということは、先程ミアベルが(本人曰く)隠れて様子を窺っていたのは、幼馴染のレックスに会いに来たから?

 でもそのわりにはあたしになんか良くわからないこと言ってたし。



「まったく。レックス様を連れてっちゃったら本末転倒でしょうに」



 嘆息するミリティアの言葉の意味がわからなくて、あたしは首を傾げた。



「ん?ああ。ミアベルね、レックス様の恋を応援するために来たんだって」


「恋?レックスが?誰に?」



 あたしが素で問うと、ミリティアはぱちくりと瞳を瞬いた。なんか、冷たい印象の女子だと思ったけど、無防備な顔は結構かわいらしい。



「誰にって、貴女でしょ?」


「あ。そっか」



 あたしの反応に、ミリティアは察したような苦笑になる。



「少なくとも、ミアベルはそう思ってるわよ」



 レックスがあたしに向ける感情って、恋愛感情ではなくて、鍛錬仲間かお友達くらいがいいとこだと思うな。

 別に、あたしだってアホではないし、一応は女の子やってるので、レックスが敢えてあたしに声を掛けてきた背景に、将来的なあれやこれやを見据えた下心があることくらいはわかっている。

 そしてそれは、あたしとしてはやっぱり望むところである。親の采配でどこぞの良くわからない男に嫁がされるくらいなら、レックスのように話の合う男と添い遂げたいものだ。

 ただし、現状では知り合い以上友達未満くらいが妥当な関係だろう。



「貴女とノエルはなに?付き添い?冷やかし?」


「ノエルはほぼミアベルの保護者ね。私は――」



 ミリティアは少しだけ言い淀み、それからあたしの目を見て口を開く。



「私は、貴女とお友達になりたくて来たのよ」


「ふぅん?」


「ミアベルの微妙な立場は知ってるかしら?少しでも、一人でもいいからあの子の味方が欲しいのよ」



 なるほど。色々なところから目を付けられつつあるミアベルを守るために仲間集めか。

 伯爵令嬢様が自ら、あたしのような木っ端にまで打診しに来るとはなんとも友達想いなことだ。



「正直なんだね」


「ええ、まあ。私って友達少ないしコミュ障だし口も上手くないし頭も良くないから、変に小細工したところで裏目に出るだけだし」


「そ、そこまで卑下しなくても」


「それに、貴女もまどろっこしいのは嫌いでしょ?」



 最後の一言が確信的で、あたしは内心唸る。確かに、あたしにしてみれば下手に遠回しな表現をされたり、貴族的なオブラートに包まれるよりも率直に言ってくれたほうが余程有難い。だって、遠回しに言われてもたぶんあたし気付けないし。

 てか、ミリティアが(あげつら)った内容がぜんぶあたしにも当て嵌まっているように感じるのは被害妄想だろうか。少なくともあたしはコミュ障ではない――と思いたいところだが、敬語ができないアレは一種のコミュニケーション障害かもしれない。


 とまあ、実はミリティアの思惑がどうであれ、考えるまでもなくあたしの答えは決まっている。



「なら、友達になろう」


「……誘っといてなんだけど、いいの?」


「いいよ」



 あたしがなんかの役に立つとは思わないけど、と正直に白状しておくと、ミリティアは曖昧に笑った。

 彼女が肩透かしを食らったような顔になるのもわかる。たぶん、ダメ元くらいの気持ちで誘ってくれたのではなかろうか。だって、幾多の令嬢どころかどこぞの侯爵令嬢にすら睨まれているミアベルに今の時点で味方しても、たぶん良いことなんて何もない。

 実害のあるなしはさておいて、平穏な学院生活を望むのであれば、とりあえず現時点ではミアベルという少女には関わらないべきであるとあたしでもわかる。

 だと言うのに、あたしが一も二もなくミアベルの側に立つことを決めたのは、似ていたからだ。



 さっき、あたしの両手を握って、すっごい近くで笑顔を見せてくれたミアベルの姿が。

 あの日、あたしを救ってくれた天使様の笑顔に、どうしようもなく被って見えて。

 顔が似てるわけでなくて、笑顔の質も全然違う。でも何故か不思議と、ミアベルの笑顔を見てあたしは天使様のことを思い出したのだ。



 あの日、天使様が助けてくれなければ、あたしの命は終わっていただろう。

 命を失っていれば、こうしてレックスと鍛錬をすることもなかっただろうし、ミアベルやミリティアと知り合うこともなかった。それってすごく勿体ないことだと思うのだ。

 恋愛も、友達も。



「――ちゃんとやってみないと勿体ないよ?って、あの人なら言うかなぁ」



 天使様が誰かのアヴァターであることは理解してるし、人となりを知っているわけでもないけれど、きっと彼女はそう言うんだろうなぁと不思議と思ったのだ。


 だから、いつの日か。

 戦場以外で天使様と会えることがあれば。



 貴女が救ってくれたおかげです、と。



 ありがとうの言葉と一緒に友達を紹介できれば、きっとそれは素敵なことだろう。

 不思議そうにするミリティアの手を握りながら、あたしはそんなことを思うのだった。



・2021/6 細部の描写を修正。

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