503話_side_Primrose_決戦-3
・ポ○モンリスペクト。
~"転生令嬢"プリムローズ~
キノコちゃん曰く、私の魂の中にはアンジュを名乗る不審者が居るらしく、こいつがまた頭がおかしくて、魂の部屋を訪れたキノコちゃんを捕まえて魔法講釈(という名のオタトーク)を延々と具体的には五時間くらい垂れ流すイカレポンチらしい。キノコちゃんが私の魂を見た後に過負荷でぶっ倒れるのは十中八九というかほぼ確実にこの不審者のせいなのだが、何故か私自身はこいつを認識することが出来ないので、止めようにも止められない。
まあこいつが何者なのかっていうのは実のところなんとなく察しがついているので置いておくとして。
先程、日暮れ前にキノコちゃんと会った際も、奇行もとい奮闘虚しく発動してしまった『ソウルジャック』により、彼女は私の魂を観測し、そこで不審者に出会ってしまったのだろう。確証がないのは案の定キノコちゃんはぶっ倒れてしまったので、結局あの後話せていないからだ。まさかこの状況下で倒れたキノコちゃんをアイリスちゃんと二人放っておくわけにもいかないから、ブラピ達に安全なところまで連れて行くように指示はしておいたが、まあ次に会うのは戦後か、それか学院かな。
何が言いたいかというと、キノコちゃんが倒れたということは私の魂の中でそれだけの情報を受け取ったということであるのだが、どうせまた不審者が不審なことをしたんだろうと思いつつも、今回ばかりはわりと心当たりがあったりする。
というのも私、最近新しい魔法を作ったのだ。
私の中の人は絶対それを見せびらかして自慢したに違いない。だって私ならそうするから。
魔法オタクを自称する程に魔法研究に余念がない私であるが、実は私自身の完全オリジナル魔法というのは数えるほどしかない。そしてその全てが属性的には時間魔法に分類されるものだ。『白魔礼装』のように原作ゲスロリからパクった魔法を除けば、時間魔法は必然的にオリジナルにならざるを得ない。単純に遣い手が私と主人公ちゃんしか居ないし、主人公ちゃんの魔法技量はまだまだ未熟なので、現時点で私が彼女から学ぶことはないからだ。
それ以外の下位属性に分類される魔法は、須らく既存の魔法モデルの組み合わせで構築されている。いつかに使ったダイヤモンドダスト擬きとか、虹ゲロとか、完全に私が趣味に走ったせいで生み出されたとしか思えない魔法であっても、その実態は既存モデルの組み合わせなのである。無論、時間魔法のモデルが絡む場合はその限りではないが。
時間魔法に関しては私自身の有する技能や発想の産物というよりかは、圧倒的に特異な資質の為せる業という感が強い。即ち、私だから出来たことではなくて、時間魔法の遣い手がたまたま私だったというだけのこと。
今生において私が自身の才覚で生み出したものがあるとすれば、それは個別の魔法モデルではなくて、どちらかというとそれらを構築するためのメソッドのほうだろう。
知っての通り、魔法モデルというのは上位層である術理法則下の概念であり、それ故に下位法則下でそれらを正しく伝達することが出来ない。要は、魔法モデルというものを言葉や、絵や、動作で他者に教えることが出来ないのだ。例えば『紋章術』という技能があるが、誰かが描いた紋章は、当然他の誰かが真似することが出来る。同じように図形を描けばいいのだから、絵画のトレースと同じだ。しかし残念ながら、そうして寸分違わず同じ紋章をコピペしたとしても、同じ魔法が発動することはないのである。何故なら紋章術の紋章には意味や記憶といった無形の情報が含まれていて、それは物理的に伝達不可能な概念であるからだ。
このような事情があるので、魔法使いは永らく特権階級として君臨したし、その継承や教育は容易なことではないとされる。
というか、声でも絵でも動きでも伝えられないものなのに、どうして魔法学院などという教育機関が成立するのか、そして魔法使いという人種は絶滅することなくなんだかんだで継承されていくのかというと、やりようがないわけではないからだ。伝達出来ないのならば自ずから発想するしかなく、学院などではその道筋を教えているのだ。
わかりやすく言えば、仮に山田さんという魔法使いが生み出した『ファイヤボール』という魔法を弟子の河合さんに継承させようという場合、河合さんに直接魔法モデルを伝えることが出来なくとも、山田さんがその魔法を発想するに至った材料と、実際の魔法を実演してみせれば、河合さんが余程の能無しでない限りは同じような魔法に自力で辿り着くのだ。あくまでも『同じような』であるところがミソ。
これは流石に簡略過ぎる例え話だが、要はそういった魔法に至る過程――つまり『魔法構築のメソッド』を教えるのが学院の講師達の仕事であり、学院は正しく『魔法を使える人間』を育成する機関であるということだ。
話を戻そう。
では私が今生で生み出した『魔法構築のメソッド』を同じように他者に教えることが出来るのかというと、基本的には無理だ。何故ならば私の魔法構築メソッドの根幹は前世の生業である機械設計を模したものであり、今世の人間にはその前提となる概念そのものが存在しないからだ。
魔法を設計し、モデルをアッセンブリするという発想。即ち、私の魔法というのは基本的に既存魔法の組み合わせであり、魔法モデルというよりは魔法アッシーなのである。
無論、この世界にも設計という概念はあるし、図面を引くことを生業としている者は居る。しかしながらソフトウェアは未発達で、図面とは未だに二次元上の一枚絵という認識でしかない。三次元で設計を行ってきた私とは発想の源泉そのものが異なるのだ。
私がそのメソッドの体現として生み出した魔法こそが『Chronos Unlimited 2-way Wing』――――即ち『ChU2W』である。
これは私の今生が始まって、魔法というものの何たるかを知った瞬間に発想し、前述のメソッドの構築とともにリアルタイムで進化し続けてきた魔法だ。この世界で私が初めて手掛け、そして今なお進化し続けている。実戦投入出来る完成度に至った時点で一端は完成と見做したものの、厳密には私が生きて思考し続ける限り更新され続けていくスルメ魔法だ。
長々と語ったが、ここまでは余禄。
本題は、中の人がキノコちゃんに見せびらかしたであろう新魔法の話だ。
魔法の名称は『Kairos Ultimatum Double Wing』――――即ち『KoU2W』である。
意訳すれば『さよならを告げる刹那の双翼』といったところか。
これも『ChU2W』と同じく私特有の魔法構築メソッドに基いて生み出された魔法アッシーであるわけだが、手掛けた時期は実のところ『ChU2W』と然程も変わらない。私が幼少の頃から雛形だけは存在していた。
この魔法の開発目的はずばり、純粋戦闘用の魔法端末、である。
普通に戦闘においても大活躍の『ChU2W』であるが、実はこれはあくまでも多目的に対応可能なマルチプルデバイス的な魔法であって、戦闘用に特化しているわけではない。どちらかというと私という魔法使いの魔法行使そのものをサポートし強化するための端末であると言える。
私が今生を生きるという目的を考えれば魔物との戦いは不可避であり、となれば純粋に戦闘用に特化した魔法は持っていて然るべきと考え作り始めたわけだが、最初に作り出した『ChU2W』がなまじ高性能だったせいで、次なる『KoU2W』は長い間凍結状態にあった。というのも、戦闘行為を含めた通常起こり得るであろう状況に対応するには『ChU2W』で充分なのだ。
私が砲撃魔法の撃ち合いをする際に度々、システムとしての上限値に言及することがある。どれだけ魔力が有り余っていようが、どれだけ出力に優れていようが、砲撃魔法という形にして放射出来るエネルギー量には術理法則に依る縛りがあるため、どこかで頭打ちになるのである。つまり現状『ChU2W』でそれが出来てしまっている以上、更なる高性能端末を創り出したところで更に強力な砲撃が撃てたりはしない。
これまでの手札では。
ベルフェルテとの戦いを経て、私は上限突破の手段を手に入れてしまった。
術理法則に属する魔法を用いれば、物理法則下では実現出来ない時間操作のような真似が出来てしまうのと同じように、更なる上位法則を用いれば術理法則下での制限を撤廃出来るであろうことは自明の理である。
術理法則の更に上の、所謂『摂理法則』を理解することは出来ない。それはこの世界においては神になることと同義である。だが、ベルフェルテや、おそらくフェンリスが行っていたように、部分的にその力を行使することは出来る。なんかよくわからんものをよくわからんまま使うというのは私の流儀ではないが、そうも言っていられない以上は仕方がない。
上位法則に対抗するには上位法則を用いるしかないのだ。
故に私は、長らく放置されていた『KoU2W』を完成させて実戦投入させることを決意した。
その完成のための最後の一ピースは、ブレイクスルーだった。
これは、エーテルを行使するための純戦闘用魔法端末なのである。
◇◇◇
レオンヒルト殿下からの下命を受けて、私はその場で魔法端末を展開する。これまでは隠蔽の意図で端末に視覚的な迷彩を施していたが、今回はそれはナシだ。というのも、エーテルを運用するという性質上、自らエーテル曝露によって迷彩を解除してしまうという機能上の問題が解決出来ていないからだ。
アンジュの時にも同じ魔法端末を使っているのが身バレ的な意味で多少心配ではあるが、まあこれまでは基本的に透明化させてたし、バレたらバレたで私がアンジュ(というかスレイ)に同じ魔法を教えたか、あるいはその逆だと言い張っておけばいい。
生身の私の身長は劇的に小さいので、『ChU2W』の刀身ですら身長並だ。となればそれより更に大型化している『KoU2W』は私の全長を優に超える長さだ。当然、翼として背に負えば地面に刺さってしまうので、展開と同時に私は空中に浮かぶことになる。
字面が紛らわしいので、『ChU2W』のことは『フェザー』端末、『KoU2W』のことは『ウィング』端末と呼ぶことにしよう。端末の規模的にも『羽根』と『翼』でちょうどよろしい。
構成としてはこれまで七基のフェザーを用いていたところ、そのうちの二基をウィングに変更し、中央に三基のフェザー、その両脇に二基のウィング、その更に外側に一基ずつのフェザーを配置するシンメトリカルな放射状のシルエットだ。
私は片手に持っていた魔剣を肩から背に回すと、中央のフェザーにその鞘をマウントさせる。アヴァターの時は自前の翼で飛べるので全ての端末を投射しても問題ないのだが、生身の際は最低でも一基の端末を背に残しておかないと飛行能力を失ってしまうので、中央のフェザーは基本的に投射せず固定運用となる。そのため、リーチ的に取り回しがきかずぶっちゃけ邪魔な魔剣をその端末に持たせておくことにした。そもそも、生身の身体では腕のリーチ的に手持ちで魔剣を抜刀するのも一苦労なので、それならば浮遊する端末に鞘を持たせておいて背から抜き放ったほうが余程やりやすかろう。
「うむ。悪くない」
調子を確かめ、私は一人頷く。
端末の稼働状況も安定しているし、見た目的にもハッタリが効いていて中々よい。
私は時間を停滞させると、屋根のない前線司令部から一息に上空へと飛翔する。停滞した時間の中を移動するので、周囲からはいきなり消えたように見える疑似転移である。
そうして辿り着いたのは、赤々とマグマを立ち昇らせる黒い森の火山と同じ目線。正確には、その仕掛け人である『サラマンデルロード』と同じ高さだ。時間を動かすと、遥か遠くのロードと確かに視線が交錯したのを感じた。私の肉眼ではロードの姿を捉えることが出来ないので、本能が伝えてくる魔物特有のプレッシャーで判断するしかないが、たぶんあちらさんからは私の姿が普通に見えているのだろう。
殿下からのオーダーは、この窮状をなんとかしろということだった。
なので私は現状最もどうしようもないファクターである、あの『災厄魔法』をなんとかしなくてはならない。追加で現れた二体の大型種と、うじゃうじゃ湧いてくるそれらの眷属はこの際無視だ。そちらは騎士団と討伐者の奮闘に期待するという体で丸投げする。彼等はそもそも魔物と戦いに来ているのだから、本懐と思ってなんとか頑張ってくれ。
なんとか頑張ってもどうにもならないアレだけは、私がなんとかするから。
「では! 景気よくお披露目といこうか」
私は空中で肩幅より大きく足を開き、そして両腕を組む。
紛う方なき仁王立ちの姿勢であり、傲岸不遜なゲスロリポーズである。
その意に応じて背中の『ウィング』が飛翔し、私の左右に展開して切っ先を遥か遠方のサラマンデルロード、ひいてはその奥の火山噴火行へと照準する。複雑怪奇なディテールに恥じない内部機構が唸りを上げて稼働し、展開した装甲板の内側からせり出すようにして、明らかに体積以上の巨大かつ長大な砲身が姿を覗かせる。
やはり変形はいい。大袈裟かつ物理的にあり得ない程いい。
そして長物はロマンだ。大艦巨砲主義は正義である。
無論、砲主は仁王立ち。これは譲れない。
腕なんて飾りです。振り回してもしょうがないのだから腕組みしとけばいいねん。
時間魔法チートが齎す実質無限の魔力が、臨界まで高まり二つの砲口からスパークを迸らせる、魔力が高調遷移する心地良い高音に混じって、僅かに零れる碧い燐光はエーテルの輝きだ。
ところで。
これまでわりと砲撃魔法を多用してきた私であるが、基本的には光属性の『烙星の焔』を使うか、最近ちょっと闇属性の『禍竜の咆哮』を使ったくらいで、一応私が最も得意としているはずの氷属性の直射砲撃魔法というのを使ったことがない。いや使ったことはあるし使えるのだが、あまり積極的に使おうとしない。
何故だと思う?
別に弱くないんだよ。前述の光闇の砲撃魔法の異属性同種魔法なのだから、威力的には同等なのだ。
だけど使いたくなかったのだ。
主に美学的な理由で。
名前がダサいのである。
いや、そもそも私は魔法を宣言する必要がないのだから、別に言わなけりゃいいじゃんってのはその通りなのだけど、それもまた困った美学を持っていまして、やっぱ技名は言うべきじゃん。叫びたくなるじゃん。
でもそれがダサいってちょっと嫌じゃん。カッコつけないと生きていけない貴族的には致命傷じゃん。
だがやはり、ここは氷属性が最も有効な場面だし、プリムローズである以上は氷属性を使うべきだし。
くだらんこだわりを捨てれば戦術の幅も増えるのは確かなことだし。
ここは、私もようやく少しだけ大人になることにしよう。
というわけで、満を持して、いま必殺の!!
「オーロラビィィィィィィムゥ!!!!」
『極光の射手』、相手は死ぬ。




