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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
二章_Gが大量に発生する話

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補完[虹の剣閃-2(end)]



 ~"騎士の雛"ユーフォリア~



 同時に吹き荒れた豪風に、私は思わずたたらを踏んだ。



「――ッ!?」



 ドンと空気を撃つ重低音を響かせて、光り輝く何かが凄まじい速度で飛来したのだ。

 それはまさしく閃光の如く戦場を縦断し、落下するタナカ君を軽やかに空中で受け止めて見せた。黒い森の鬱蒼とした戦域が、俄かに明るくなったように錯覚するほどに荘厳に舞い散る光の羽の主は、考えるまでもない。



「アン――」



 名を呼ぼうとして、その彼女と視線が交錯する。

 かなりの距離があるというのに、はっきりと視線が合ったことがわかった。アンジュ様の瑠璃色の強い視線はまるで私を叱咤しているようで、いや、事実として彼女の視線は私の体たらくを責めていたに違いない。

 今私がすべきことは慌てることでも安堵することでもない。アンジュ様に頼るなんてもってのほかだ。未だ魔物は健在で、戦闘は継続中で、私は責任ある立場なのだから。


 私は抜刀したレイピアを眼前に掲げ、ほんの一瞬だけその刀身の腹を額に触れさせる。愛用の剣の、ひんやりとした冷たさが思考の霧を払ってくれる。

 幾度も繰り返した儀式。剣に誓った言葉を思い出させる、私だけの自己暗示だ。



「しっかりしろ、私」



 不思議なくらいに熱が引き、冷静さを取り戻した思考は即座に結論する。

 戦線の立て直しは容易じゃない。タナカ君のおかげで負傷を免れたユノさんは、しかし腰でも抜かしたようにへたり込んでしまっているし、そのタナカ君が吹き飛ばされたことで前衛に穴が開いて、そこから侵攻したナックル種によって乱戦へと捻じ込まれつつある。

 事ここに至っては、考えるべきはこれ以上の被害を出さないこと。


 キッ、と前線を見据え、私は通信越しに声を張る。



「各員、私が出ます!巻き込まれないように注意して、援護を!」



 了解の返事が口々に返ってくるのを聞きながら、私は魔法を唱える。

 形作るは七色に輝く光の刃。

 化石もかくやの伝承の産物にして、何の因果か、何故か今になって私だけが使えてしまった古の魔法。



 『虹霓閃華(イーリスフルゴール)



 私が片手に持った愛用のレイピアの姿を写し取ったように、全く同じ造形の七本の剣が、光り輝き創出される。この魔法の効果はまさしくそれで、術者が振るう剣のレプリカを生み出すものだ。

 まず恐るべきは、生み出されたレプリカはオリジナルと同等の性能を有するということ。今のところ私が創り出せるのは愛用のレイピアのレプリカだけだ。これは写し身を生み出せるほどに私の理解度が及ぶ剣が、現時点ではこれしかないから。私の愛剣は量産品でこそないが業物と呼べるほどでもなく、至って普通の刀剣である。

 故に現時点での『虹霓閃華(イーリスフルゴール)』は基本ただの剣を増やす魔法に留まっているが、つまりは私が将来的に強力な魔剣や聖剣の類を使いこなすことがもし出来れば、その時こそこの魔法の真価が発揮されることになる。あくまでも私の魔力で形成されたレプリカは私が魔法を維持している間しか存在し得ないが、その制限内であれば例え『世界に一本しかない聖剣』であっても、理論上はレプリカを生み出して意のままに操ることが出来るのだから。


 そして、生み出されたレプリカが私の魔力の産物であると言うことはつまりだ。

 これらの刀剣はオリジナルと同等の性能を有する武具として振舞う一方で、内包した魔力を利用した魔法の発動体としても利用できるのだ。



「――往きますっ!!」



 鎧の如く、あるいは花弁の如く折り重なった光の剣が、一転して翼の如く放射状に広がる。アンジュ様の流麗な翼に比べればあまりにも物騒なシルエットだが、その分凶悪さは折り紙付きだ。


 例えば、推力装置。

 鋭利な剣の形状を体現した推進器。

 七色の剣から舞い散る光の波を虚空に広げて、莫大な推力が私の踏み込みに神速の勢いを与える。



「――――ッ」



 指揮官として戦場の最後方に居た私と魔物を隔てる長い間合いを一歩の時間でゼロにする。手に持ったオリジナルのレイピアに、レプリカの一つを複合強化魔法として重ね、勢いのままに刺突を繰り出した。

 それはナックル種の強靭な腹筋に守られた腹部をいとも容易く刺し貫き、刀身の殆どをその身に埋めた。

 背に纏う剣の翼が一際強い光を放って、再び虚空に波紋を広げ、私の身体を衝き動かす。



「ハアッ!!」



 推力にモノを言わせて半ば引き千切るように魔物の胴体を縦に両断しながら、私は地を蹴って飛翔し上空へと躍り出た。

 残りは、二体。

 ここまで肉迫してしまえば大仰な推進力は必要ない。更に二本のレプリカをオリジナルに重ねることで、強化されたレイピアが長く、鋭く、強靭な虹色の刀身を形成する。

 夜の闇に虹の残光を閃かせながら、上空からのパワーダイブ。


 繰り出すは――真っ向勝負の脳天唐竹割!



「チェストォ!!」



 ナックル種が迎撃で繰り出した拳ごと、その身を真っ二つに斬り開く。

 残り、一体!


 地面を抉りながら制動しつつ最後の魔物へと向き直ると、そこには色とりどりのバインドで雁字搦めにされつつあるナックル種の姿が。魔力の色から判断してブリギットやブルーノ君のみならず、バインドは苦手なはずのクロト君や、ちゃっかり加わっているアンジュ様に、それに鮮やかな翡翠色の魔力――ユノさんの魔法もあった。

 なんとも暖かいお膳立てに、胸が詰まる思いだった。

 バインドは長くは持つまいが、一撃叩き込むには充分過ぎる。


 制動用に必要な背の二本を残して、更に二本のレプリカをオリジナルに重ねる。都合レプリカ五本分の強化魔法を重ねたレイピアは、通常の何倍もの威力を発揮する。ただのレイピアだから重ねたところで物理的に威力が増大していくだけでしかないが、それは単純明快にわかりやすい暴力だ。

 間合いの概念が壊れるほどに肥大化した光の刀身を、大きく振り被る。



「せめて苦しまず……眠りなさいッ!!」



 振り抜いた極大の斬撃が閃光となって迸り、最後のナックル種の首から上を消し飛ばした。






「…………ふぅ」



 魔法を解除し、レイピアを鞘に収めて一息吐いた。

 時を同じくして常駐騎士達のほうでも『ナックルロード』の討伐を完了したと報告が届いた。私の補佐として付いているブリギットが代わりに対応してくれることに有難く甘えつつ、耳を傾けるにどうやら観測された魔物はこれで全数討伐完了のようだ。

 特に後続が現れなければ撤収となる。

 見たところユノさんも表面上は持ち直したようだが、後で話をしたほうが良いだろう。



「ベリエちゃん、おつかれ。大丈夫?」



 なんだか気遣わし気なクロト君が近寄ってきて声を掛けてくれたので、私は「お疲れ様です」と返した。

 続けて何かを言おうとしたクロト君を遮るタイミングで、ふわりと光の羽根が舞い落ちてきた。

 釣られて二人して上を見上げると、タナカ君を抱えたアンジュ様が居りてくるところだった。アンジュ様は着地はせず、地表から僅かに浮いた位置で制動を掛けた。彼女の羽と同じようにふんわりと重さのない所作であった。



「あのぉ~」



 と、アンジュ様は何故かすごく気まずそうな表情だ。

 どうしたのだろう、と思っていると、彼女は横抱きにしたタナカ君をチラ見しながら言う。



「この子、さっき助けるときにちょっと、強く抱え過ぎちゃったみたいでして」



 もしかして怪我でもしているのか、と私とクロト君が俄かに緊張感を帯びてアンジュ様を見遣ると、彼女は慌てて首を振った。



「ううん!怪我はさせてないわよ?ただ、目を回しちゃったと言いますか、失神しちゃったと言いますか、オトしちゃったと言いますか……」



 言い訳がましくゴニョゴニョと呟くアンジュ様の姿を意外な思いで眺めている私を他所に、クロト君はひょいとタナカ君の顔を覗き込んだ。



「なんか……腹立つくらい幸せそうな顔してんだが」


「ちなみにアンジュ様、どのように……?」


「どうって……こう?」



 むぎゅぅ、とジェスチャーをして見せたアンジュ様に、クロト君は得心いったような顔になる。



「あー……ベリエちゃん、たぶん心配ないと思うぜ」


「そう、なのですか?」


「ちょっと刺激が強すぎただけだ。たぶん」


「???」



 良くわからないがとりあえず、すごくいい夢を見ていそうなのでそっとしておいてあげよう。

 アンジュ様からタナカ君の身体を引き受けたクロト君は、一瞬叩き起こしてやろうかと不穏な呟きを零したものの、嘆息して大人しく彼を背負った。なお、決して小柄ではないタナカ君をアンジュ様が軽々と横抱きにしていた絵面は中々にシュールだったが、大抵の場合アヴァターの筋力は常人を凌駕しているので、事実彼女にとっては軽いものだったのだろう。


 一応医務室に連れていく、と言ってクロト君はタナカ君を背負って立ち去り、アンジュ様と二人になった場で私は彼女に向き直った。

 たぶんアンジュ様はすぐに立ち去ってしまうと思うので、その前に取り急ぎ、これだけは伝えなくては。



「助力に感謝します。ありがとうございました」


「あはは、タイミング良かったねぇ」


「また、貴女に窮地を助けていただきましたね」



 アンジュ様が少し不思議そうに小首を傾げる。



「先日の件です。私はユーフォリア・ラ・ベリエと申します。貴女が迷彩型の魔物から救ってくださったマルグリットは私の妹です」


「あ、お姉ちゃん。どーりで」



 美人姉妹なんだねぇ、とのんびり笑うアンジュ様の言葉がなんだかこそばゆくって、私は少しはにかんだ。

 私はともかくとして、妹の容姿を褒めてくれるのは素直に嬉しい。



「じゃあ私、通りすがっただけだから、この辺で」



 おそらく咄嗟に援護してしまっただけで、そもそも私達に関わる気がなかったであろうアンジュ様は、至極あっさりと立ち去る気配を見せる。この方への対処の方針というのはまだ上のほうで意見が割れていて、アンジュ様が敵対的でない限りは行動を黙認するということに暫定的になっている。

 これは暫定と言ってもかなり例外的な処置で、普通は在り得ないことだ。例外が許容されている理由はとても簡単で、単純にアンジュ様の戦闘能力が高過ぎるからだ。下手に干渉して敵対することになるリスクをとるよりは、放っておいてその戦闘能力を魔物相手に発揮してもらったほうが好都合だという判断が多数派なのだ。


 故に私も特に引き止めることなく見送るつもりだったのだが、どうしてかアンジュ様はそんな私の顔をじっと見る。

 浮遊しているので少しだけ高いところにあるアンジュ様の端正なお顔としばし見詰め合う。

 どうしたのだろう、と問いかけようとした時だった。おもむろに、アンジュ様が腕を伸ばして私の頭の上にぽんと掌を置いたのだ。



「あ、あの……?」



 困惑する私に構わず彼女はそのまま、なでりなでりと数回腕を動かした。

 それから、私の鼻先にひたりと人差し指を添えて。



「指揮する人が、そんな顔してちゃあだめだぞ?」


「!」


「お姉さんもちょっとだけ人の上に立ってたことあるから、経験則だけど」



 私は今回、采配ミスをした。

 士気が低迷しているブルーノ班に自信を持ってもらうべく、彼ら自身の手で魔物を打倒してもらおうと考えた。魔物に対する恐怖や畏怖の感情を払拭するには、そうするしかないと知っているから。

 だけどその判断は浅慮だったと言わざるを得ない。ユノさんの失調を見抜けなかったこともそうだが、それ以前に、侵攻してきた魔物がナックル種だと知った時点で方針を改めるべきだったのだ。ブルーノ班の面々に魔物を打倒して欲しいなら、もっと体躯の小さな魔物を相手に始めるべきだった。何故なら、彼らの心に陰りを作った原因である『ヒドゥンロード』は大型種だ。今回相手にしたナックル種の眷属は小型種で、能力の脅威度で言えばヒドゥンロードの足元にも及ばないだろうが、大型種の中では小柄なヒドゥンロードと小型種の中では大柄なナックル種では全高がほぼ同じなので、相対した時の圧迫感は然程も変わらない。

 要は、巨大な魔物の姿にトラウマを抱いている者に、巨大な魔物の相手をさせてしまったのが私の失敗。

 たぶんだけど、今日の相手が人間大の小型種だったならば、ユノさんが恐慌状態に陥ることもなかったのではないか。


 結局彼らに自信をつけさせるどころか、命を危険に晒しただけだった。荒療治で死んでしまっては意味がないのだ。

 タナカ君の咄嗟の判断が無ければユノさんは死んでいたかもしれないし、アンジュ様がタイミングよく通り掛かっていなければタナカ君は墜落死していたかもしれない。

 その、自分の采配で仲間を危険に晒してしまったという事実が私の心を苛むのだ。



「人は誰でも失敗をするもの。指揮官だって人間だもの、失敗はあるわ」


「はい……」


「後悔も反省もいいけれど、それを部下の前で顏に出しちゃあだめ。失敗したら悪態吐くくらいでいいの」



 お手本のつもりなのか、綺麗な顔と綺麗な声で悪態を吐いて見せるアンジュ様が全然さまになって居なくて、私は少し笑ってしまう。

 私が笑うと、アンジュ様も嬉しそうに頬を緩めた。



「指揮官は冷静沈着で、泰然自若として、自信満々なくらいがいい。そうでなくても、不安な顔だけはしてはだめ。指揮官が不安な顔をしていると、下につく人は迷ってしまう」


「迷い……」


「そう。戦場で迷うこと。それが一番良くない。迷ってまごついてるくらいなら、自信満々に間違った方向に進むほうがなんぼかマシよ。勿論、そこで方向を間違わせないのが指揮官の仕事だけどね」


「でも、不安を見せないなんて、どうすれば」


「自分のために、というのは案外難しい。どこかの誰かのために、というのはもっと難しい。勇気をくれるのはいつだって、自分にとって大切な人への想いだと私は思う」



 そこまで言って、アンジュ様は一転して申し訳なさそうに、



「得体の知れない女が、偉そうなこと言っちゃってごめんね」



 私は首を横に振った。アンジュ様が言ってくれたことは、少なくとも私にとっては必要な言葉だった。

 彼女の言葉で、私は大事なことを思い出したから。


 私には責任がある。私の指揮下に入って戦ってくれている彼らへの責任はもとより、なによりも、こんな私を目標に据えてくれている人が居るのだから、彼女に恥じない自分であり続ける責任が。



「私は妹の――リタのお手本で居なくてはなりませんので……確かに、不安な顔なんてしている場合ではありませんね」



 今は療養中のリタだけど、遠からずこの戦場に戻ってくる。その時にこんな体たらくでは、可愛いあの子を幻滅させてしまうだろう。

 可愛い妹の前では、格好いいお姉ちゃんで居たいと思うくらいの欲はあるのだ。

 私は失敗をする。後悔も反省もする。だけどその姿すらもリタのお手本であれるような自分でありたい。きっとその想いこそが私の心の支えになるのだと、アンジュ様の言葉で気付かされたから。



「そっか」



 私の言葉にアンジュ様は破顔して、突き出した腕に小さく握り拳を作って見せた。



「がんばれ、お姉ちゃん!」


「はいっ!」



 こつん、と私達は拳を軽くぶつけて笑い合った。



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