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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
八章_笑顔

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502話_sideout_決戦-2



 『竜の巣(ドラゴンズネスト)』の遥か上空に、飛翔する一つの影。

 禍々しくも雄々しい竜翼と深緑色のどてらを風にはためかせ、傲岸不遜に眼下の世界を睥睨する『サラマンデルロード』――――ドラ子である。

 この高度からでは地表の人間などは砂粒程度にも見えはしないが、人間などとは比較にならない優れた視力を有する彼女の目には、全てが一望出来ていた。黒い森の姿も、その先で布陣する人間達の姿も、更に向こうの街並みも。

 逆に、人間達のほうからはまだドラ子の存在には気付かれていないだろう。ドラ子の体躯が小さいのもあって、天空における微小な点でしかない彼女を視覚的に見付けるのは至難の業だし、有翼の魔物であるドラ子はただ浮かぶだけならば特別魔力を消費しないので、この距離ならば魔力感知に引っ掛かることもない。当然、ドラ子が意識的になんらかの魔法を使えば即座に存在を察知されるだろうが。



「ん~~~~」



 ドラ子は器用に飛んだまま、うんと身体を伸ばした。手指の先から足の爪先どころか尻尾の先端まで入念に伸ばし、気持ち良さげな吐息を零す。



「ようやっと目も覚めてきたことやし、気ぃ張っていこか」



 ちょっとうたた寝して五十年も経ってしまうような大らか過ぎるドラ子なので、寝起きにエンジンが掛かるまでに要する時間も相応だ。スロースターターなどと表現することすら生温く、実際ドラ子はまだ完全に覚醒しているわけではなかった。ベルフェルテに起こされ、夢と現の半ばのような心地で昨夜の戦闘をこなしていたのである。

 尤も、魔物とは厳密には睡眠をとらない種であり、ドラ子の言う目覚めや寝ぼけも人間で言うところのそれとは若干性質が異なるのだが。生理現象というよりはシステム的なオンオフに近いものがある。謂わば、ドラ子の場合はそのスイッチを入れるのに莫大なエネルギーを要するので、オンオフの切り替えにやたらと時間が掛かるというようなものだ。



「ほな――――」



 ゆるりと流れていたドラ子の雰囲気が豹変する。

 竜の瞳がその色彩を深め、生物として圧倒的上位に位置するが故の根源的な重圧がいや増す。ただの少女大の小さな体躯であるというのに、そのプレッシャーは空間を軋ませるほどに莫大だ。

 身を隠すつもりも、魔力を隠すつもりもない。

 見たくば見よ。知らば知れ。恐れ慄き、竦むがいい。



『竜王の名に於いて告げる――』



 物理的な音の波ではなく、魔力を通して語り掛ける魔性の技。

 黒い森の、その隅々まで響き渡らんばかりの、尋常ならざる魔力量と認識圏(テリオスフィア)が齎す、王の宣告。



『我に仕えし栄誉を欲せんとする者共よ、参集せよ! 鬨を上げよ! 我ぞ在りと名乗りを上げよ!』



 ドラ子の声に呼応して、森そのものが震えたようだった。

 それは夥しい数の魔物達による合唱であった。

 我ぞ在りと存在を主張する眷属達の鬨の声であった。



『焔に集え同胞よ! 三界を灼き、蹂躙せよ! 以て灰燼を王の(みてぐら)と捧げよ!!』



 ヒートアップする。熱狂し、狂瀾する。

 劈くような咆哮が幾重にも折り重なり、大気が鳴動する。

 更に重ねるように低く重く響き渡るのは大地の脈動。地響きである。

 巨体を誇る『サラマンデル種』が力の限りに吼え猛り、地を踏み鳴らし、熱を撒き散らす。天空に座する王を讃えるように、その巨大なうねりが世界を席巻し、最高潮に達した時にそれは起きた。


 凄まじい轟音とともに、一瞬だけ全てが赤く染まる。

 天を貫かんばかりに噴き上がる、神々しいまでの灼光。



 噴火である。



 高々ととめどなく湧き立つ溶岩の柱を背に、ドラ子は心地良い熱に酔いしれた。

 勿論、この噴火は自然現象などではない。ドラ子の号令によって猛る幾多の『サラマンデル種』が展開している『熱域操作(ラヴァストラクチャー)』が出力を高め、効果を重畳し、その熱を以てしてドラ子は黒い森が丸々内包している火山へと働きかけた。

 つまりは、噴き上がる溶岩、放たれる熱、そして降り注ぐ火焔。その一切すべてがドラ子の支配下であり、眼下の敵を飲み下し焼き尽くす一個の攻撃であった。

 最早それは戦略魔法という概念すらを超越した、災害級の魔法行使。

 サラマンデルという種族そのものが、力を結集して唱えた超常規模の魔法であると言えよう。

 普段使いなど出来ようはずもない即興の魔法なので、この魔法を表す固有の名前などは存在していないが、強いて名付けるならば――



「………………」



 ドラ子は魔法に名前を与えようとして、小さく嘆息した。

 周囲の気温は加速度的に上昇し続けているが、先程まであんなに心地良かった熱が、何故だか少し寒い。



「……」



 ドラ子が一生懸命魔法の名前を考えて。

 ウチが考えたさいきょーにかっこいい名前をお披露目しても。


 もう、




「さびしーなぁ……」




 もう誰も、『ダサい』などと言って笑ってくれる者は居ないのだ。





 ◇◇◇





「――さしずめ『災厄魔法(カラミティ・スペル)』といったところか」



 プリムローズは独り言ちる。

 なんという光景か。

 火山の頂からマグマが柱となって噴き上がり、天空を赤く染めつつ焔の雨となって降り注がんとしている。以前に戦った『フォートロード』の戦略魔法を思い出す光景であるが、あれですら比較にならない程の規模だった。

 先程イオに偉そうに講釈を垂れた手前、非常に恥ずかしいが、どうやら注釈を後付けする必要がありそうだった。


 つまり、常識が通用しないバケモノも世には居るのだぞ、と。

 そういう輩は往々にしてこういうことをしてくるぞ、と。


 ブラッドフォードの黒い森は確かに火山地帯を内包していることで知られるが、その火山の大部分は休火山であり、噴火の可能性はほぼゼロに等しい。しかし黒い森にそんなことは関係ないのだ。溶岩流という特有のオブジェクトを有することからもわかるように、昼の森と夜の森は厳密に別世界なのである。

 あるいは、黒い森そのものが一個の魔物であるとするならば、黒い森という魔物が『サラマンデルロード』という王の号令に答えたが故の事象なのかもしれない。



「まあ、無理かな」



 慌てふためく周囲の気配を見るまでもなく、結論する。

 開戦して早々で悲しいお知らせだが、勝敗は決したようだ。

 何故ならば、尋常の手段でこれを覆す方法など存在しない。間もなく降り注ぐ火焔の礫が人間達の陣営を滅多打ちに打ち据え、半壊したところに『サラマンデル』の大群が溶岩の津波を伴って押し寄せるだろう。

 どこにも逃げ場などはない。

 勿論、歴戦の勇士である騎士団の精鋭達は、エーベルヴァイン侯爵を筆頭にして諦めることなく動き出しているが、そういう規模の話ではないのだ。何故なら、まさしく人の身で火山の噴火に立ち向かうことに等しい。これを無謀と呼ばない者は居ないだろう。


 そして、状況はまだ悪化する余地があった。

 司令部付きのオペレータが殆ど金切り声で報告する。



「こ、高魔力反応、新たに出現ッ!? 大型種クラスです!」


「なんだと!? 『サラマンデルロード』の反応ではないのか!?」



 侯爵の声に、オペレータ自身が信じられない、信じたくないと言わんばかりの様子で答えた。



「違います! 別座標に新たに、二体! 新手の大型種が二体出現しましたっ!!」



 つまり、今この戦場には三体の大型種が存在する。

 一言に大型種と言ってもピンキリではある。例えば件のサラマンデルロードはどう見ても一種一体の大型種だ。即ち『サラマンデルロード』と呼ばれる個体は彼女しか存在せず、そういう大型種は例外なく非常に強力である。対して、どこぞのカメレオンこと『ヒドゥンロード』のように、大型種が複数存在している種族もある。まさにそのカメレオンの時の襲撃を思い返せばわかりやすいが、あれは大型種が複数体居るというよりは、強力な個体の群れそのものが上位者として種族を率いているのだと表現したほうが正しい生態であると言えよう。

 そして、新たに出現した二体の大型種がどうなのかというと、残念ながら前者のサラマンデルと同じタイプであろう。それは観測される魔力の大きさを見れば明らかだ。





 ◇◇◇





 それは、空を覆う巨大な影であった。

 その翼が雄大に大気を打つたびに旋風が巻き起こり、ただ空に在るだけで嵐を纏う。


 小さな眷属を群雲の如く侍らせた、天空の覇者である。

 小さいと言えども、眷属それぞれの体躯も人間などより余程大きい。それらがまるで小鳥の如く見えるほどの、圧倒的な体格と存在感。

 白くなまめかしい羽毛で、てらてらと輝く美しい起伏。どこか女性的なシルエットを有する超常の鳥獣。



『わたしが来たァ!!!!』



 誰あろう、『ハーピィロード』こと魔物メイドのハーティである。

 人間体への擬態を解いた、彼女本来の、本領の姿であった。



『空を制する者が戦場を制するっ! 戦いは空だよ!!』



 ハーピィロードの飛翔に追従するように、黒い森の奥から奥から湧き出して飛翔する無数の『ハーピィ種』が、その持論の通りに大空を埋め尽くさんばかりに広がっていく。



『さあ! 小さき者どもよっ! 天空の覇者のすがた、ありがたくその目に焼き付けるがいいーっ!!』





 ◇◇◇





 それは、地を這う巨大な影であった。

 まるで地形そのものが動いているかの如く、鉄錆色のそれは悠然と驀進する。


 小さな眷属を波濤の如く侍らせた、地上の津波である。

 鈍く輝く甲殻を軋ませ、鋏を打ち鳴らして甲高い音楽を奏でながら、夥しい数の群れが地表を呑み込み氾濫する。

 微かに大気が歪んで見えるのは、決してそれらが醸し出すプレッシャーだけが理由ではない。大気が歪むほどに濃密な、しかし目には見えない致命の毒素がそれらを取り巻いている。



『おまえら終了のお知らせ』



 即ち、『スコルピオンロード』こと魔物メイドのスコールであった。

 同じく本領を発揮した彼女の姿は、巨大なサソリである。特徴である凶悪な鋏は、人間勢力の主力兵器であるゴーレムすらを一息にねじ切れるほどの大きさにもなる。

 そして空に居る相方の眷属も大した数だが、『スコルピオン種』はそれと比べても明らかに桁が違うほどの数である。



『鳥頭にはわからないでしょうが、いつの時代も数の暴力こそが正義です。戦いは数です』



 スコルピオン種の眷属は、確かに個体の性能ではハーピィ種に及ばない。しかし雑多な人間如きに後れを取るほど劣弱ではないし、バカなのでなんでも食らうし、バカなので死を恐れない。なにより、どれだけ死んでも代わりが居る程の圧倒的ストックがある。

 製造コストが安いのが強みなのだ。何故安いのかは、無駄な機能を搭載していないから。例えば、のうみそとか。



『一体につき一人齧れば我々の勝利です。なんて容易い戦場なのでしょう』





 ◇◇◇





 騎士団の司令部は恐慌状態に陥っていた。

 浮足立っている。無理もない事態だ。

 司令官であるエーベルヴァイン侯爵を始めとしたベテラン勢は流石に取り乱していないが、経験の少ない若い人員などは目も当てられない。ここでそうなのだから、実際に魔物達と相対することになる前線の状態は推して知るべしだった。


 相棒の魔剣を納刀のまま肩に担いで、プリムローズはその様子を冷めた目で眺めていた。

 特段、嘲る意図があったわけではない。強いて言えば彼女は平静だった。


 彼女は気付いていた。

 恐慌する司令部において、彼女と同じくらいに平静を保っている者が、少なくとも一人存在していることを。それはもしかしたら立場上必要な取り繕いでしかないのかもしれないが、虚勢だろうがなんだろうが平静を保てるだけの胆力は賞賛に値するとプリムローズは思う。

 自画自賛をしたいわけではなくて、反則的な視点を持っているからこそ平然としていられる己と同じところに、根性で食らい付いてくる、その見掛けによらないタフネスを褒めているのだ。



「――――アシュタルテ」



 彼が一声発する。

 然程大きな声ではなかったというのに、司令部の人員は誰もが動きを止めて静まり返った。

 そして振り仰ぐ。

 司令部の最奥、総大将の居所に佇んでいる少年の姿を。



「はい。殿下」



 プリムローズは魔剣を肩に担いだまま、態度は横柄に、声音だけは真摯に応えた。

 レオンヒルトはその様子を見て笑みを深める。

 まるで『そうこなくては』とでも言いたげな、ひどく楽しげな顏だ。


 さて、彼はなにを言うつもりだろうか、と思いを巡らせていたプリムローズは、次の瞬間目を丸くすることになる。





なんとかしてくれ(・・・・・・・・)





 別の意味で司令部が静まり返る。

 総大将から発せられた、まさかの命令である。

 いや、そんな投げ遣りな命令ってある? と誰もがそこはかとなく思う中、喉を震わせて笑う者が二人居た。一人はレオンヒルトの近くに居た、隣国の王太子カーマインだ。この窮状において、ライバルが発したまさかの命令が面白くて堪らないとでも言わんばかりだ。

 そしてもう一人は、そのまさかの命令を受けた張本人。



「うくく……なるほど?」



 状況に窮したかのような王子の言葉が滑稽だから笑ったわけではない。

 レオンヒルトという男が、プリムローズを傍付として指名しながらも、実はそんな仕事をさせる気は最初から微塵もなかったということに気付かされたので、感心したのだ。

 ただ一人。

 本当にただ一人だけ。彼だけがアシュタルテというカードの使い方を理解していたのである。


 故にプリムローズは、社交辞令ではなく本心で応えることにする。



御意(なんとかしよう)



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― 新着の感想 ―
[一言] フリーハンド与えて難問にぶち当てれば成果を持ち帰ってくる 普通の組織人からは嫌われるけどもともとアシュタルテ 飽和攻撃vs時間(いっぱい)
[一言] 最後のセリフのシーンは平野耕太先生風の絵を付けて欲しいィ〜 盛り上がってきましたよ!!
[良い点] 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た のうみそを搭載してない 潔いバカってなんかいいですよね、好き
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