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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
八章_笑顔

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489話_side_Primrose_討伐者ギルド



 ~"転生令嬢"プリムローズ~



 シリウス閣下への治療を終えて『剣の誓い』のクランハウスを後にした私はその足で討伐者ギルド支部を訪れていた。同行者はヴァイオラのみで、スレイという名のドロシーとは既に別れている。影武者を演じている彼女にはアヴァターの維持限界というタイムリミットが存在しているので、基本的にはこれ以上積極的に行動させるつもりはなかった。先の戦闘での消耗を理由に休養させる、という体で舞台袖に下がらせる方針だ。

 私がギルド支部を訪れた理由は、レオンヒルト殿下からの招集を受けているからだ。『オンスロート』への対処のために王政府が派遣した騎士団は既に続々とロイエンタールに到着しつつあり、今夜の戦闘に向けての迎撃態勢構築に励んでいる。王宮騎士団が誇る魔導工作部隊による陣地構築は相当凄いと噂なので、出来れば私も間近でじっくり見物させてもらいたいものだが、生憎とそんな暇はないのだ。討伐者にも優れた実力者は多く居るが、やはりこういった大規模戦闘になると規律訓練された軍隊の優位を実感する。まだ戦端が開かれていない準備段階からして効率が全然違うのだ。

 マリアから事前に聞いていた通り、レオンヒルト殿下はこの派遣軍の総司令官というポジションであり、私には彼をよく補佐するようにとお兄様からの指令が下っているのだ。

 レオンヒルト殿下は総大将とはいえ実権を振るう立場にはない。魔法の実力はともかくとして、経験や実績を鑑みれば当然の話だ。殿下とて魔物と戦ったこと自体はあるのだろうが、それはあくまで鍛錬の一環的な意味合いが強く、公式には今回のこれが彼の初陣であると言ってもよい。

 よって基本的には実戦経験豊富な騎士団の重鎮あたりが補佐という名目で采配を振るうことになるのだろう。となれば私の役割は単純で、要するに戦場に立つ王子殿下の傍仕えという名のお話相手である。言うまでもなく、とても名誉なことだ。これは皮肉ではなく、実力的にも、立場的にも、性質的にも、あらゆる意味で能力を認められたが故の抜擢であると理解している。


 尤も、それを理解していながらも『名誉(笑)』と鼻で嗤って憚らないのがアシュタルテ侯爵家という血筋なのだが。

 むしろ、そうであるからこそ王家に信頼されているのだという不都合な真実からは目を逸らしつつ。


 さて、既にロイエンタール入りを果たしているレオンヒルト殿下が滞在しているのは、討伐者ギルド支部である。支部の上階に存在している運営側のスペースであり、一般の討伐者を始めとした部外者が立ち入ることは基本的にない空間なので、この状況下で貴人が滞在するのにちょうど良いのだろう。

 というわけなのでヴァイオラは同行出来ないので彼とはロビーで別れ、私は一人その奥へと進む。話は通っているようで特に咎められることもなく見慣れぬ廊下を進んでいくと、休憩スペースかなにかと思われる少々開けた場所があり、そこで意外な人物が待っていた。



「む……」



 王宮騎士団の上級騎士であることを示す団服を身に纏った彼は、壁に凭れて片手の資料らしきものに目を通していた。

 しなやかに鍛えられた長身に、白皙の美貌。ロイヤルカラーを思わせる淡い金髪に、翡翠色の瞳。王太子よりも余程王太子らしい、などという不敬な噂話が実しやかに囁かれる程には気品がある彼の名はユリウス・テオ・エーベルヴァイン。学院常駐騎士団の次席であり、私も以前にアンジュとして会ったことがある相手だった。

 ユリウス卿は私が通りがかったことに気付くと、資料を脇に抱えて穏やかな笑みを見せた。

 どうあがいてもプリムローズ個人に対して反応している以上、流石に見ぬ振りで通り過ぎるわけにもいかず、私は渋々ながらも彼のほうに歩を向ける。



「ごきげんよう、ユリウス卿」



 挨拶に伴って一分の隙もないカーテシーを決めてしまうのは、お母様による過酷(スパルタ)な令嬢教育の賜物であろう。私の今世のお母様はくっそプライドが高くて負けず嫌いなので、その辺のマナーなんかも完璧だし、娘にも同様の水準を当然のように求める。

 舐められるの嫌いだから。お母様って。私もだけど。

 出来ない、と出来るけどやらない、は全く以て違うのだ。

 舐めプ好きだから。お母様って。私もだけど。


 ちなみにユリウス卿への挨拶の裏に隠された副音声は『なんで貴様がここに居る?』である。



「お久し振りです、ミス・アシュタルテ」



 どうやらユリウス卿は私と顔見知りという体で行くらしい。私が彼と会ったのは休暇前のローゼンハイン邸での会合時であり、公の場ではない。

 なので彼と知り合いなのは対外的にはおかしい話なのだが、私は深く考えるまでもなく結論に至る。


 ま、ええか。


 ユリウス卿が何らかの意図をもってそのように振舞っているのか、あるいは単なる天然なのかはわからないが、どうあっても大差はない。この場には不特定多数の目はないし、彼は学院の常駐騎士団に所属しているのだから、在学生の私とどこで遭遇していても不思議というほどではない。つまりいくらでも言い訳が効くということだ。

 最悪、商業区画のラーメン屋で知り合いましたとか言っとけばええねん。バレへんバレへん。



「卿はラーメンはお好きですか?」


「? ええ、人並みに」



 よし。



「卿も今回の派兵に?」


「ええ。今回は第二師団が中心となっていますので、私も一時的に原隊に復帰する運びとなりました」



 成程、と私は頷く。ということはレオンヒルト殿下の補佐についているのは第二師団長のエーベルヴァイン侯爵――ユリウス卿の実父だ。確かおひげが素敵なナイスミドル的な風評に定評がある御仁だった気がする。

 多くの貴族子女から王族までもが通うエンディミオン魔法学院を守護する常駐騎士団というのは、王宮騎士の中でも選りすぐりが配属されるエリート中のエリート部隊であると言えよう。つまりそこで次席を務めるユリウス卿の優秀さもまた折り紙付きということであり、逆に言えばこの有事においてそれほどの戦力を遊ばせておくわけもないのだ。勿論、彼の元の所属が第二師団だったからというのが前提なのだろうが、彼はこのロイエンタールでの戦闘に参加するために一時的に常駐騎士団を離れ、こうしてここに居るということだ。

 ほんの少し前まで近くの会議室で情報共有のためのミーティングが開かれていたらしく、ユリウス卿はその会議に出席していたのだと言う。目を通していた資料はその手土産ということだ。



「それで? わざわざこんな場所で待っているなんて、そんなに私に会いたかったのですか?」


「そうですね。一言ご挨拶差し上げようかと」



 知らぬ仲でもありませんし、とユリウス卿は朗らかに笑っているが、私としては呆れるしかない。

 真面に会ったのは以前の一度だけだし、勿論親密な関係でもない。ただし、あのローゼンハイン邸での会合の性質を鑑みれば、秘密を共有した仲とは言えるわけで、彼の物言いも必ずしも間違いではない。

 まあ、このユリウスという男は素でこういうことを言うのだ。ソースは原作(うろ覚え)。


 どうせ会ったのならば折角なので、と私はユリウス卿から今しがたの会議の内容や騎士団の方針等の情報を仕入れておくことにする。おそらくだが、彼もそのためにわざわざここに居たのだろう。対外的には私はあくまでも王子殿下のお話相手であり、実力を見込まれているとはいえ厳密には子供扱いだ。ただ、ユリウス卿だけは私が『アルファ』として活動していた強力な戦闘者であると知っているので、情報を共有しておく価値があると判断して気を利かせてくれたのだろう。

 殿下を守る戦力としてあてにされているということだ。

 当然、与える情報は話せる範囲に限る、であるが。



「そういえば、」



 手早く情報交換を済ませ、別れる前に私はふと気になったことを訊いてみた。



「ローゼンハイン家のあれこれはその後どうなったのだ? 貴様なにか知っているか?」



 なお、ユリウスが「砕けてもらって構いませんよ」と言ってくれたので、令嬢口調とはオサラバした。自慢ではないが、私はこの辺りの切り替えの速さと遠慮のなさはあらゆる令嬢の中でも屈指だと自負している。

 話を戻して、ローゼンハイン家の云々とはまさしく私とユリウスが出会った会合の主旨である、ローゼンハイン伯爵令嬢ミリアムとその親友であるリヒトベルガー公爵令嬢ジークリンデのすったもんだの件である。



「ああ、それがですね」



 ユリウスは思い出すように笑みを含むと、「少々面白いことになっていますよ」と言う。



「ほう?」


「あれからグラハム卿と何度かお会いする機会があったのですが、なんでも、卿は最近『騎士団倶楽部』に顔を出しているそうで」


「倶楽部? 学院のか?」



 騎士団倶楽部とは文字通りのクラブ活動である。私はまったく関わりはないが存在だけは知っている。

 エンディミオンに通う騎士志望の学生達が主体となって活動している組織であり、参加要件は『騎士を志していること、ないし騎士であること』と『エンディミオンに在学していること、ないし卒業生であること』とかだったはずだ。

 要するに部活動とOB会が合体したようなものだ。一応、エンディミオンに通う騎士志望の学生は全員が参加していることになっているはずで、ユーフォリアちゃんとかマルグリットちゃんとかレックスくんも例外ではない。特に参加しない理由もないだろうし、倶楽部には結構な頻度で暇な――もとい面倒見の良いOB達が訪れて手解きをしてくれたり、見込みのある若者を引っ張り上げてもくれるので、むしろ参加しないことにはデメリットしかない。たぶんだけど、ユーフォリアちゃんが学生ながらに女性騎士への配属内定してるのも、倶楽部を通して能力を認められたからじゃないかな。

 なお、倶楽部を実質的に運営しているのはもう少し位の高い騎士系出身の学生達であり、有り体に言えば『意識の高い』奴等だ。所謂、将来のエリートコースって子達だね。



「まあ、卿ならば引退したとはいえ参加要件は満たしているだろうが……」


「なんでまた、と思いますよね?」


「まあな」



 伝説的な騎士であるグラハム卿が倶楽部の側から請われて講演に出向くというならば理解出来る。だがユリウスの口振りではグラハム卿は自発的に倶楽部に参加しているらしい。言ってはなんだが、騎士団を実質追放された彼が今更何の用事があって、ということだ。

 するとユリウスは『おかしい』と『微笑ましい』の中間のような顔で言う。



「どうやら卿は、女性騎士達との交流を通して『百合という文化』について学んでいるようです」


「なんて?」



 なんて?



「百合です。ご存じありませんか? 女性同士の恋愛関係を俗に、」


「知っとるわ!」



 むしろユリウスが知っていることが驚きだと言いたい。

 いやそんなことよりやはりグラハム卿だ。おじいちゃんの身に何が起きたというのか。一体どうしてそうなった。

 そこで私はハッと気付く。



「まさか、ミリアム先輩がジークリンデ先輩に向ける思慕を理解するために、お勉強しているのか……?」


「根が真面目ですからね。彼は。ミリアム嬢の心を改めさせるにしろ、応援するにしろ、まずは自身が理解せねばならないと結論したそうですよ」


「おじいちゃん無理すんな、と言ってやりたいところだが意外と親和性は高そうだな」


「そうなんですよね。もともと同性愛には理解ある人ですし」


「あ、やっぱりそうなのか」


「ええ。女性騎士と百合が切っても切れない関係性であるように、そもそも騎士団という環境と同性愛は縁深いものがありまして」



 まあ、男だけ女だけの環境、命を預け合う仲、明日をも知れぬ日々となれば何も起きないはずもなく……。

 とはいえ昨今はかつての時代に比べれば圧倒的に平和だし、男女の区分けも昔ほど厳密ではなく同権化が進みつつあるので、そこかしこで百合や薔薇が咲き乱れる事態にはなっていないようだが。

 その時代を当事者として知っているグラハム卿は同性愛というものに対して忌避するところはないようだが、さりとてかつての時代のそれと昨今のそれではかなり性質が変わってきてしまっているので、価値観をアップデートするために若い女性騎士と交流をしているというのがグラハム卿の最近の動向ということだった。

 なお、念のために言っておくとグラハム卿自身は同性愛者ではないはずだ。もしそうならミリアム先輩は生まれていないはずなので。ということにしておくのが賢明だろう。



「そういう貴様はどうなのだ? 実は同性に興味があったりするのか?」



 てかぶっちゃけそのほうがしっくりくるよね。

 というのもこのユリウスとかいう完璧超人が未だに独り身である理由が、そのくらいしか思いつかない。

 考えてもみてほしい。エーベルヴァイン侯爵家と言えば騎士系の名門中の名門だし、しかもユリウスの御母堂は現国王の姉ということで、王家との繋がりも強い。ユリウス本人は非の打ち所がないイケメンだし、性格も天然記念物レベルで清廉だ。若くして常駐騎士団の次席に昇り詰めた実力を疑う者など居るはずもないし……え、コイツの周りの女どもは何してるの? と疑わずにはいられない。

 だがその答えは簡単だ。きっとそもそも女がいないのだろう。騎士団だし。

 常駐騎士団の次席副官ってメチャメチャ美形の女騎士お姉様だった気がするけど、きっと気のせいだろう。



「いやぁ、どうなんでしょうね?」


「貴様が訊いてどうする」


「恥ずかしながら、青春時代を剣と共に過ごしてしまったせいか、未だに色恋というものを経験したことがないんですよ」



 恥ずかしげに頭を掻くユリウスに、私は唖然とするしかない。

 モノホンの天然記念物やんけ。

 というか恥ずかしそうに頬染めるのやめろ。イケメンのくせに可愛さまで兼ね備えるな卑怯だぞ。


 いや、なんとなく思い出してきた気がしないでもない。

 ひょっとしてこの男、主人公ちゃんとどっこいレベルの超絶鈍感じゃなかったか? これまでの遣り取りを鑑みれば、恋愛的な感性はちゃんと備わっているにもかかわらず、自身が対象になった瞬間にそれが一切仕事をしなくなるタイプの鈍感と見た。

 だとしたら、周りの女性からのアプローチに素で気付いていない可能性があるぞ。そんなヤツ現実におるん? これがおるんですよ。ソースは主人公ちゃん。脳筋殿下の苦労が偲ばれるなぁ。


 念のために言っておくと、ユリウスは普通に異性愛者だと思われる。原作云々の話ではなくて、以前のローゼンハイン邸での会合で、私のアヴァターの破廉恥極まりない造形に対して、わかり難いが健全な反応を示していたので。



「ちなみに今年の『花告祭(イドフィオーレ)』は何をしていた?」


「仕事をしていましたが……?」



 それがなにか、みたいな顏やめろ。

 恋愛というものにどれほどの重きを置くのかは個人の価値観だから、これ以上口出しはしないけれども!



「――では私はこれで。ご武運を」


「貴様もな」



 予定よりもだいぶ話し込んでしまったからか、ユリウスは別れの挨拶を告げると足早に去っていった。順当にことが進めば、配置的に私と彼が戦場で会うこともないだろう。

 私もまた歩みを再開し、殿下が滞在している部屋へと向かうことにする。

 それにしても、妙な話題で思いがけず盛り上がってしまったな。



「…………」



 恋愛、ねえ。



「私は、もういいかなぁ」



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― 新着の感想 ―
[一言] ラーメン大好きプリムちゃん いやローズちゃん?どっちがいいか
[良い点] 「私は、もういいかなぁ」 ゼロ円はこういう子にこそ燃える男だ。 頑張れゼロ円! プリムちゃんに「……好き」と悔しそうな顔で言わせるんだ!(難易度:エクストリームハード)
[一言] 挨拶直後の会話がラーメンの好悪を問うのは、今世のママン的にセーフなん? ユリウス氏が「まほうつかい」とか「けんじゃ」、「だいけんじゃ」に至るフラグが高々と建ってますね。 コレをボッキリ折…
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