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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
二章_Gが大量に発生する話

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41話_side_Pr_学生区_食事処



 ~"転生令嬢"プリムローズ~



 おかしいなぁ。


 昼休み、いつものようにクラリスちゃんのお弁当を食べようかと思っていたら、現れたクラリスちゃんが優しい笑顔でこんなことを言うのだ。



『実は、然るお方から昼食のお誘いを受けております』



 察したよね。秒で。

 クラリスちゃんがそんな悪戯っぽい言い方をするってことは、その誘ってきた相手は間違いなく私にとって好ましい相手だ。となるとスーパーぼっちである私が思い当たる相手なんて、イオちゃんしか居ないではないか!密かにクラリスちゃん経由で伝えてくるあたり、周囲への配慮も万全なのだろう。たぶん動いたのはイオちゃんの取り巻きのレキちゃんかソシエくんだと思うけど、彼女らはイオちゃんが傍に置くだけあって相当に優秀っぽいので、安心してお呼ばれ出来るってもんだ。


 そう思って内心ウキウキしていたのも束の間。


 何故かマリアちゃんとこのアルヴィンくんに大声で呼ばれ、厄介ごとの匂いを感じながらも無視するわけにもいかず行ってみると、そこには当然の殿下と、何故かイオちゃん一行の姿があった。

 常通りに微笑むイオちゃんの後ろで、控えるレキちゃんとソシエくんが筆舌に尽くしがたい表情をしていた。



 察したよね。秒で。

 少なくとも私が思い描いていたキャッキャウフフの薔薇色未来は水泡と消えたのだと。

 念のため、一応、そうじゃなければいいなあと思いながらも用件を聞いてみると、案の定昼食のお誘いであった。なんでよりにもよって今日なのか。少し離れたところで控えさせていたクラリスちゃんも、なんだか絶妙に悲しげな顔になっている。

 というか、ただでさえエカテリーナ嬢は私のことが好き過ぎるのに、これで彼女の憧れの王子殿下とランチなんてしようものなら、どうあがいても面倒なことになる未来しか見えない。実際、殿下と話しているときに背中に感じる視線の痛いこと痛いこと。


 だがしかし、ここで私が固辞すれば、それはそれで『殿下からのお誘いを断るなんて無礼ですわ!』とか言って鬼の首を取ったように口撃してくるに違いない。

 つまり詰んでるんだなぁこれが。


 とはいえ、悪いことばかりではない。

 私がこの場に参加していれば、おそらく他家の令嬢からの嫉妬その他の面倒くさいアレソレの矛先は私に向くだろう。少なくとも、エカテリーナ嬢のヘイトは全部こっちに来る。確信している。

 イオちゃんをそういう悪感情から守るために呼ばれたのだと思えば、不思議とやる気がわいてきた。ゼロだったものが2くらいに上がった気がする。


 というわけで、なけなしのやる気を総動員して、私は殿下との昼食に臨むのであった。






 もともと個室を予約していたのだ、と説明するソシエくんの案内で私達が訪れたのは、学生区の中にある比較的グレードの高い高級商業街の食事処であった。個室制で客のプライバシーに配慮した造りの場所だ。身分の高い人間が訪れる場所としてはそう珍しいものではない。

 イオちゃん一行が都合よくそんな場所を予約していたことをレオンヒルト殿下は若干不思議そうにしていたが、アルヴィンくんはどことなく気まずそうだった。

 たぶん、もともと私との会食のために用意された場であると察しているのだろう。王族らしく浮世離れした感性のレオンヒルト殿下をサポートする役柄上か、アルヴィンくんは他者の機微に非常に敏い男の子で、殿下を取り巻く有力貴族の子息令嬢の交友関係や力関係の把握に余念がない。

 先程練術場で彼と話していた時、レオンヒルト殿下の『アシュタルテ嬢とは初対面じゃないの?』という問い掛けに対して、アルヴィンくんが敢えて『会話するのは初めて』と含みのある返しをしていたのを覚えているだろうか。つまり直接会話するのこそ今日が初めてだが、実は私とアルヴィンくんは以前に交流があるのだ。

 と言っても大したことじゃなくて、入学直後にイオちゃんとこのレキちゃんがドロシーを送り込んできたように、アルヴィンくんも手の者に私の周辺を探らせていたようだから、こちらからある程度の情報をくれてやっただけである。

 別に私とイオちゃんが、つまり四大貴族のフレンネルとアシュタルテの娘同士が実は懇意にしているっていう情報をレオンヒルト殿下に隠す必要性は全くないし、むしろ知っておいてくれたほうが都合がいいまであるから。


 にしても……と、個室で料理を待つ間、私は斜向かいに腰掛けたアルヴィンくんをじろじろと観察する。


 最近の私は二日黒い森に繰り出したら一日休み、というルーチンで行動している。ちょうどフォノンちゃんと一緒にお風呂に入る日が休息日だ。なので、彼の姉であるマリアちゃんの姿もその後何回か見てはいるのだ。ただ、最初の一回はなし崩しで共同戦線を張ってしまったが、それ以後は基本的に遊撃として勝手に動いているので、マリアちゃん以下学生戦力と交流してはいない。そもそも学生戦力の彼らは毎日全員が黒い森に出動しているわけではないので、日によって居る人が違ったり誰も居なかったりもする。


 ううむ。と内心唸る。


 見れば見るほど、似てない姉弟である。

 長身で大柄、武骨なアルヴィンくんは、その実明るく朗らかで家柄を笠に着ず、誰とでも友好的に接する。

 小柄で華奢、儚げなマリアちゃんは、その実対人恐怖症一歩手前の重度の人見知りで、平民のメイド相手でも真面に喋れない。


 マリアちゃんが初対面で私にわりと物怖じなく接してきたのは、単にあの場が黒い森で、戦闘行動真っ只中であったからというだけだろう。あれから学院内でも何度かマリアちゃんを見かける機会があったけど、それはもう、なんというか、気の毒な感じだったので。



「アシュタルテちゃん?なんで睨むの……?」



 私が見すぎていたせいか、アルヴィンくんがちょっとビビりながら訊いてくる。



「別に睨んではいない。元からこういう顔なんだ」


「じゃあ、なんで見てたの?」


「アルヴィンは、目元が姉君に良く似ていると思ってな」



 なにからなにまで正反対っぽいヴァンシュタイン姉弟であるが、おっとりと優し気な垂れ目は良く似ている。同じ赤毛とあいまって、基本的には似ていないのに、何故か不思議と姉弟であることがしっくりくる感じだ。

 なお、アルヴィンくんへの呼称に関してはここに来る道中で向こうから要望があって、下の名前で呼ぶことになった。彼は知り合った人みなにそう言っているのだそうな。



「あれ?姉貴と知り合い?」


「いや。校内で見かけた程度だが。メイド相手に深々と頭を下げて失神させていたので良く覚えている」


「ああそれウチの姉貴だわ間違いなく」



 泣く子も黙る公爵令嬢に頭を下げられてしまった平民メイドの胸中や、察するに余りある。


 などと適当に談笑する私達であるが、席順は私の右隣にレオンヒルト殿下、左隣にソシエくん。正面にイオちゃん、殿下の正面がアルヴィンくんで、逆側にレキちゃんが座っている。この謎の席順の理由は、まずアルヴィンくんが『野郎の隣なんて嫌だ』と駄々をこね、殿下の対面に陣取ったは良いものの、では殿下の隣には誰が座るんですか畏れ多いのですがそれは……、と私が押し付けられたわけだ。一応次に身分が高いの私だし仕方ないね。レキちゃんとソシエくんは王族と同じ席に座るつもりは全くなかったみたいだけど、折角だから座りたまえと全員で説得(脅迫)して無理矢理席につかせた。

 利用料金がべらぼうに高いだけあって部屋は広く、二人が六人に増えたところでなんの問題もないし、専門の給仕はプロ中のプロで秘密を守れる仕事人が揃っている。ちなみに昼食代は部屋代含めて全部殿下が払ってくれるってさ。やったね!



「プリムローズ様。お訊きしてもよろしいでしょうか?」



 言って、しずしずと控えめに手を挙げたのはイオちゃんだ。

 なんだ、と不愛想な私が問い返すと、



「先程の魔法資質測定……いったい、貴女様はなにをされたのですか?」


「それは僕も気になったな」



 すかさずレオンヒルト殿下も食いついてきた。

 私が自らの資質を示すためにちっこいプリムラを一輪だけ咲かせて見せた件だろう。



「なんとなく、察しはついているのでは?」


「ということは、やはり貴女は魔法具の機能に介入したんだね」


「別に大したことではないですよ」



 質問したイオちゃんよりも興味津々な殿下が隣から身を乗り出してくるので、私は少し引きながら答える。

 実のところ、本当に大したことではないのだ。


 あの水晶玉型の魔法道具に触れてみてわかったことだが、そもそも私の使い方があの道具の本来の機能だったのだ。要は、魔法使いとしての資質の大きさだけを測る道具ではなく、本来はその技量までもを含めて測るものなのだ。自らの望む花を、どれだけ鮮明にかつ強固に現出させることが出来るか。それをもってして魔法使いとしての資質となす。



「これは推測だが、もともとはそういう使い方をしていて、学院の規模拡大に応じて入学生が増え、一人一人にそこまで時間を掛けられなくなったが故の現在の測定法なのではないか?」


「なるほど。いかにもありそうな話だね」


「では、プリムローズ様が行ったのは」


「魔法道具を本来の機能として使っただけだ。誰でもできる」



 尤も、当然その本来の機能が容易に使えないように内部的なプロテクトが掛けられていたので、それを騙したのは純然たる私の技能だ。自身が優秀な魔法使いであるレオンヒルト殿下やイオちゃんは少し疑問げだ。



「僕が使ってみた感じ、特に違和感もなかったけどな」


「わたくしもです。本来の機能が隠されているなどと、思いもしませんでした」



 そりゃあね。普通は魔法道具の内部を探る隙なんてなくて、手を置いた瞬間に勝手に作動して花が咲いてしまうのだ。



「アシュタルテ嬢は、あの一瞬で魔法具の本来の機能に気付き、それを掌握したというのかい?」


「私にとっては『一瞬』あれば充分ですので」



 レオンヒルト殿下は「凄まじいなぁ」と感心してくれているが、まあ実際はただのチート行為である。

 『停滞』と『遡行』を司る時間魔法使いである私にとっては、一瞬ってつまり永遠みたいなものなので。時間を停滞させた状態でじっくり調べてゆっくり掌握してやっただけなのである。



「今年の女子の部は、アシュタルテちゃんとアトリーちゃんの2強かなぁ」


「言っておくが、私の魔法資質はミアベル・アトリーの足元にも及ばんぞ」



 それは厳然たる事実。単に資質の強さという意味では、私に相当する人物は他にもいくらか居るだろう。そもそも今まさに目の前に一人座ってるし。



「そりゃあそうかもだけど、アシュタルテちゃんはそのぶん技量がずば抜けてるってことでしょ?」


「む……まあ、現状のアトリーに劣るとは微塵も思わんが」



 将来的にはどうかなぁ。

 主人公ちゃんは才能チートだから、あっという間に追いつかれる未来が見えるなぁ。

 具体的には、あと一年ちょっとで。



「ねえねえアシュタルテちゃん!なんか、魔法が上手になる特別な方法とかってあるの?」


「そんな都合のいいものはない」


「だけれど、貴女とてなにもせずにその力量を得たわけではないんだろ?」


「それはそうですが」



 私の魔法技術の根幹って、まず第一にプリムローズが有する異質な属性と、それを客観的に理解させてくれた前世の原作知識の恩恵があって。それからアシュタルテ家の伝統的な英才教育によるところが大きい。つまりは親愛なる帝国軍の特殊部隊を相手に、命を懸けた歓迎パーティーに勤しんだ結果なのだ。幼く矮躯である私が生き残るためには、なにがなんでも魔法の力量を磨き上げる必要があったというだけのこと。

 そんな血みどろの事情を殿下やイオちゃんに語るわけにもいかないしなぁ。



「強いて言えば、」



 私は卓上の水差しを手に取って、片手の人差し指の上にツ―…っと水を垂らした。

 一筋の線となって指まで垂れた水は即座に凍結し、水差しの口から指までを繋ぐ氷柱となった。一体何を始めたのかと周りが見遣る中、私はその細く長い氷の串を使って、同じく卓上に置かれていた菓子の皿から、マシュマロを一個突き刺した。


 それを、おもむろに殿下の前に突き出す。



「殿下。私は焼きマシュマロが食べたいぞ?」



 いきなり菓子を突き付けられてきょとんとしていた殿下だが、すぐに持ち前の聡明さで私の意図を悟ったらしく、小声で「なるほど?」と呟く。

 殿下は右手の人差し指をぴんと立てて、マシュマロの表面を撫でるように微かに炎を散らせ、



「あ」



 そしてマシュマロは炭になった。

 ちなみに氷の串は特別製なので溶けたりしない。時間止まってるので。

 何とも言えない沈黙が満ちる中、私は黒焦げのそれを躊躇なく口に放り込み、じゃりじゃりと咀嚼した。

 尊い犠牲となったマシュマロは、スタッフが責任をもって頂きました。



「辺境の野蛮人は炭でも食ってろということか」


「ちょ!アスタルテちゃんそれ炭ッ!?」



 そんなことは言われなくてもわかっているが。

 ほら私って変なモノ食べても身体壊したりしない生物だからさ。時間止まってるので。



「すまないアシュタルテ嬢。ちょっと火加減が強すぎたみたいだ」


「お気になさらず。きっと王子殿下はウェルダンが好みなのでしょう」


「次はキミ好みにしてみせるよ」



 名誉挽回、ということらしい。

 私が再び突き出した第二のマシュマロを、レオンヒルト殿下は先程よりも慎重に、だが二回目だというのにもう慣れた様子で軽く炙った。

 ほんのりと表面に焦げ目がついたマシュマロが、なんとも香ばしい甘い香りを薫らせる。


 二回目で完璧に仕上げてくるとは、なんという才能の塊。

 殿下が完璧な仕事をした以上、私がしくじるわけにはいくまい。


 私は頬を膨らませて一生懸命マシュマロをふーふーして、完璧な温度に冷ますことに成功する。熱すぎては口内を火傷するし、冷まし過ぎてはマシュマロが冷え固まってしまう。

 最もおいしいタイミングを見計らって――――ここだ!





「はむっ」





 その瞬間、口いっぱいに幸せな甘みが広がる。

 この至高のスイーツの前では、いつも仏頂面の私のアイアンフェイスも形無しである。マシュマロの甘味で、強張っていた表情筋どころか思考までもが蕩けていくような錯覚すら覚える。





「んぅ~~~~っ♪」





 背が低すぎるせいで床に届いていない足をぱたぱた揺らし、溶けてしまいそうな頬を掌で押さえつつ、瞳を閉じて存分に堪能する。

 マシュマロは前世の時分から一番大好きだったお菓子だ。

 そして焼きマシュマロは我がソウルフードと言っても過言ではない!


 あぁ……至福。




 で、一頻り味わって目を開くと、何故かその場の全員が私を凝視していた。



「ん?なんだ?」



 なんで皆して『信じられないものを見た』みたいな顔になっているのだろうか。

 私がマシュマロ食べたらそんなにおかしいのか。

 いやプリムローズのキャラ的にはミスマッチかもしれないけど、私だって乙女なんだから甘味にときめくことくらい許して欲しい。実年齢四十台のくせに乙女を名乗るのは烏滸がましいって?ほっとけ!


 当然だが、私はなにも焼きマシュマロが食べたいがためにこのようなことをしたわけではない。

 とりあえず、殿下に魔法を使わせたかっただけだ。できれば、一般的な魔法使いが眉を顰めるような用途に。

 敢えて、私の魔法技量が上達した理由を挙げるとすれば、たぶんそれだ。



「魔法が上達したければ使うことだ」



 結局は練習あるのみである。

 たかがマシュマロを焼くだけでも、求められる技量はそれなりに高いのだ。優秀な王子殿下でも一度は失敗したように、緻密な力加減が求められるので、他の魔法使いだったらもっと苦戦するだろう。

 どこぞの脳筋の言葉ではないが、特権的な技量だからひけらかすべきでないとか言って、大事に仕舞っておいたところで勝手に上達したりはしない。私に言わせれば魔法なぞ自分の財産なのだから使ってなんぼである。


 とまあ、そんなことを説明してなんとなく納得してくれた殿下たちはともかくとして、



「…………(そわそわ)」



 イオちゃんは、なんでそんな輝く瞳でこちらに手を差し出しているのでしょう?



「わたくしも、焼きます」


「お、おう?」


「貴女様のためにマシュマロを焼きたいのです。どうか」



 マシュマロを焼くだけなのに、なんという気迫。

 あれかな、頑張り屋さんのイオちゃんだから、殿下に負けていられないと火が付いたのかな。焼くだけに。


 別に、マシュマロは別腹だし、イオちゃんが焼いてくれたものなら炭でも喜んで食べるけども。

 でもたぶん、炎属性でもないイオちゃんには相当難しいと思うんだけど……。






 結果だが、尊い犠牲は無駄にはしなかったとだけ言っておこう。



2021/6 イオとプリムローズの関係性をアルヴィンとレオンヒルトが知っている描写を追記。

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[一言] 外見年齢相応の笑顔とか問答無用でほっこりするに決まってんだろw
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