表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
二章_Gが大量に発生する話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/909

38話_side_Mil_第一練術場



 ~"もう一人の転生者"ミリティア~



「どうだった?」



 戻ってきたレックスに訊いてみると、彼は肩を竦めた。



「周りと、そう大差はなかったように思う」


「そ。私もよ」



 何のことかと言うと、今まさに測定してきた自らの魔法資質のことだ。

 大抵の学生の資質は、人間大の花を咲かせる程度だ。まれにもうちょっと大きな、例えばガゼボの屋根みたいな花束を咲かせて周囲をざわめかせる人が居る程度。



「ミアベルとすれ違った?」


「ああ。やっぱりあれか?主人公は」



 ちょっとだけ声を潜めて訊いてくるレックスに頷き、「見てればわかるわ」とだけ返した。

 レックスとちょうど入れ替わりで教員に呼ばれたミアベルの魔法資質は、たぶんもうすぐ見られるだろう。ここからでも、絶対によく見える。そのくらいとんでもないものを見せてくれるはずだ。

 なるほど、と頷いたレックスは「そういえば」と。



「マルグリット嬢を見付けたぞ」


「え?ほんと?」


「ああ」



 先日の第一回レクティア会議で最後に議題に上がった『悲劇の姉妹』。

 ベリエ男爵令嬢姉妹に対するスタンスは、正直なところ決めかねている。ぶっちゃけ既に手遅れである可能性が少なくなかったので、まずはマルグリットの現状を確かめようと方針を決めたのだが、生憎と翌日彼女の行方を調べると『怪我のため療養中』とのこと。

 もしかしてもう……、と気分が落ち込んだのだが、どうやら今日になって復帰してきた彼女の姿をレックスが見つけてくれたようだ。



「怪我してたって聞いたけど」


「ああ。足首を捻挫したらしい。まだ杖をついていたが、歩ける程度には回復しているようだな」


「ふぅん……」


「原因も訊いてみたが、魔物との戦闘でドジを踏んだとしか教えてくれなかった」


「え?話したの?知り合いだったかしら?」


「いや、初対面だ」



 涼し気にそう言ってのけるレックスに、暫し唖然とする。

 なにその行動力。てかコミュ力どうなってんの?

 ちなみに私はどちらかというとコミュ障側の人間だ。理由は前世の境遇から察して欲しい。



「俺のような、決まった相手のいない長男坊が、学院で嫁探しをするのは珍しくもないからな。いきなり話し掛けても不自然じゃないんだ」


「いやだからって」


「実際、マルグリット嬢は相手として申し分ないしな」


「というか、名前……」


「とりあえず、友好の印に下の名前で呼び合おうと言うことになった」


「コミュ力おばけめ……」



 敢えて言わないが、レックスの話は女性側にも当てはまる。

 要するに決まった相手のいない令嬢である私も他人事ではないってこと。それこそ在学中に縁がなければ、卒業後に親が決めた相手と結婚する未来が待っているだろう。

 そして現状はお察しである。いやまだ一年生の前期だ。焦ることはない、はず。



「で、どう見る?」


「そうね……」



 可能性がありそうな話としては、その足首の怪我が治ったマルグリットが戦線に復帰して、しかしブランクが原因で上手く立ち回れず魔物にやられて――ってとこかな。

 実は既に原作での死期は過ぎていて、本来なら死ぬはずのところが足の怪我だけで済んだのでは……と考えたいのは山々だけど、流石にそれは希望的観測が過ぎるだろう。本当に、原作で詳しい時期が説明されていなかったのが悔やまれる。

 でも、学院での生活に慣れてきた矢先のこと、っていうのはわかっているから、遅くとも一年生の前期の前半くらいまでだろう。同じく新入生である私自身の感覚から言わせてもらえば、今がまさに学院生活に慣れてきた頃だ。慣れる慣れないの話って人によってだいぶ感覚違うと思うから一概には決められないっていうのも時期を特定できない一因となっている。

 少なくとも遠からずってことだとすれば、やはり脚の怪我が治って復帰した直後が一番怪しい。



「ってとこかしら」



 誰が聞いているかもわからない場で直接的なことは言えないので、ところどころをぼかしつつ見解を述べると、レックスも「そうだな」と頷く。



「だとして、どうするつもりだ?」


「そうねぇ」



 実際のところ、できることは殆どない。

 そもそも、マルグリットに死期が迫っているというのも私達が勝手にそう思ってるだけのなんの裏付けもない情報なので、彼女に『死なないように気を付けてね!』などと言ったところで意味はないし、不審に思われるだけだ。

 せめてその時の状況がもうちょっとわかっていれば取れる手段もあるのだろうが。

 いっそのこと、彼女の脚の怪我をわざと悪化させて戦場に立てないようにしてしまえば、もしかしたら死亡フラグを折ることが出来るかもしれない。だけど、私達はそこまでするほど彼女に入れ込んではいないし、そんなことが出来るほど彼女の人生に干渉する権利もない。

 なので、できることがあるとすれば。



「とりあえず、仲良くなろうかしら」


「うん?」


「お友達になってもらって、彼女が万全の状態で居られるようにお節介を焼いてみようと思うの」



 消極的だが、それが精一杯だ。

 なにか小さな瑕疵が原因でマルグリットが命を失うなら、その瑕疵を防ぐために動く。見当違いかもしれないし、意味もないかもしれないけど、それが出来る限界で、同時に、やっていい限界でもあると思う。



「いいのか?」


「なにが?」


「仲良くなれば、喪った時につらくなるだけかもしれんぞ」



 心配そうなレックスに、敢えて軽い調子で笑って見せる。



「そんなの、もう手遅れよ。きっと既に、仲良くならなくても喪ったら少なからず後悔はするわよ」


「そう、かもしれんな」


「だから、せめてやれることをやるだけよ」



 それにほら、なし崩し的にミアベルとノエルも巻き込めば、謎の主人公補正で悲劇の結末を捻じ曲げてくれるかもしれないし!

 てのは半ば冗談だけど、ミアベルならもしかして、と思っているのも本当だったりする。


 そう言えば、ノエルはどこに行っちゃったのかな。

 私達よりも先に教員に呼ばれて測定に行ったはずだけど、まあどこかで他の友達とでも話してるのかな。


 そうこう言っているうちに、ミアベルの出番が来たようだ。

 特徴的なストロベリーブロンドの後ろ姿の、隣の水晶玉の前に同じように立つのは――



「む。あれはアシュタルテ嬢か」


「そうね。長い長い因縁の始まりよ」



 原作ファンにとっては歴史的瞬間。以前の私なら興奮を抑えきれなかっただろうけど、今となっては大事な友達であるミアベルを待ち受ける過酷な運命を思って憂うばかりである。

 そして、満を持してミアベルが水晶玉に片手を置いた瞬間、爆発的な光が溢れだした。



「うおっ!」



 隣のレックスに限らず、その場の学生全員どころか教員までもが騒然となる。

 間欠泉みたいな勢いでミアベルから立ち上った魔力は、練術場の上空に鮮やかで雄大な花畑を生み出していた。空が丸ごと花園になってしまったかのような、凄まじい光景。

 これがミアベルと言う魔法使いが秘める資質だとすれば、その才能は平均的な魔法使いの百倍でもきかない。



「…………うそ」



 ミアベル本人も含めた誰もが呆然として上空の花園に視線を奪われる中、私だけは別のほうを見て呆然としていた。

 ミアベルと同時に水晶玉に触れていたプリムローズだ。

 原作では彼女もそれはそれは強大な資質を示して見せたのだが、いかんせん隣のミアベルが規格外過ぎて見向きもされず、地団太を踏んで悔しがっていたはずなのだが。


 そのプリムローズが、小ぢんまりとした一輪の花を咲かせていたのだ。


 可愛らしい、素朴な一輪のプリムラ。


 私やレックスどころか、間違いなくこの場の誰よりも小さな花だった。


 だけど、何故か私はそのプリムラから視線を外すことが出来なくて、当のプリムローズは満足そうに頷いていた。しかも、彼女はミアベルが生み出した花園に見向きもしていない。興味が無いだけのようにも見えるが、驚きすらしないと言うのは異様過ぎる。

 まるで、見るまでもなくそうなることを知っていたかのように。


 時間にして十秒も経たず、ミアベルが生み出した花園は溶けて消えた。

 他の学生達が生み出した花は大抵十五秒くらいで消えるので、ミアベルのは規模が大きい分だけ不安定で早く消えてしまった印象だ。

 そして、未だざわめく学生達の声を割って、甲高い声が聞こえてきた。



「あらぁアシュタルテさん!随分と可愛らしい花を咲かせたのねぇ?貴女に良くお似合いだわ!」



 悪意塗れの粘着質な抑揚をつけて言うのは、テンプレ悪役令嬢のエカテリーナだ。

 豪奢なはちみつ色の巻き毛のせいで若干運動着が似合っていないエカテリーナが、わかりやすく引き攣った表情でプリムローズに絡んでいる。そのわかりやすい内心は、あまりにも圧倒的な資質を示したミアベルに絡むと百パーセント返り討ちにあうので、とりあえず精神の安定を図るために与しやすいほうを標的にしたと言ったところか。

 たぶん、もともとはミアベルを嘲笑するためにそこに居たのだろうけど、意外にもプリムローズの花がしょんぼりだったので、これ幸いと嬉々として標的変更したに違いない。

 この場の話題をミアベルに掻っ攫われてなるものか、というプライドも窺える。

 取り巻き令嬢たちも口々にプリムローズの花のしょんぼり具合をあげつらう、侮蔑のオーケストラ状態である。


 そのエカテリーナの試みは半分功を奏していて、ミアベルの資質について持ちきりだった周囲の目が、少なくともエカテリーナ達のほうへと移った。


 嫌味と皮肉を悪意でコーティングしたかのようなエカテリーナ達の言葉に、それをぶつけられたプリムローズは欠片も動揺することなく、いつも通りに不機嫌な顔で応じた。



「ありがとう。私はこの花が一番好きなんだ。似合っていると言ってくれて嬉しい」


「お、おバカさんには皮肉も通じないのかしら?」



 ひくひく、と頬を痙攣させるエカテリーナに、プリムローズはわざとらしく首を傾げた。

 仏頂面のくせにきょとんとしているように見える。

 まさか、本当に皮肉が通じていないわけじゃないよね……?



「おかしい……」



 不意に、隣のレックスが呟く。

 顔を向けると、彼はプリムローズが生み出した花を見遣って眉間に皴を寄せていた。



「アシュタルテ嬢の花は、もう二分近く存在しているぞ」


「え?あ!ほんとだ」



 しかも、まだまだ消える気配がない。

 エカテリーナは嫌味を捻り出すのに必死で気付いてもいない様子だったが、チラホラとおかしさに気付く学生もいて、また別種のざわつきが生まれ始めている。なにより、プリムローズを担当していた教員が納得したように何度も頷き、手元の用紙に何事かを書き込んでいるのが印象的だ。

 たぶん、あの先生にはプリムローズのやったことが理解できたのだ。

 そして、先生が感心するようなことを彼女はやったのだ。


 私は小さなプリムラを注視し、なんとなく違いに気付く。



「解像度……?」



 遠目からでも明らかなくらいに、プリムローズの花は細部まで綺麗に形作られているのだ。

 私や他の学生が生み出した花がブラウン管だとすれば、プリムローズのソレはフルHDくらいに鮮やかさが違う。なお、私はそういうのには全然詳しくないのでイメージだけで喋っているのは秘密だ。

 私の呟きを拾ったレックスが訳知り顔で頷いた。



「なるほど。画面を小さくした分だけ相対的にドット数が増えたのか」


「たぶんそんな感じね……!」


「更にその分密度が上がって強固になっているということか」


「たぶんそんな感じね……!」



 もっと言えば、魔法資質を表す花は、その者の性質に合わせた種類の花が咲くと言われているものの、つまりは咲く花の種類に意図は介在しないのだ。

 だがプリムローズが咲かせたのは、彼女の名前と同じ花。そして彼女自身が最も好むと言った花だ。

 これが偶然とは思えない。


 おそらく、プリムローズは意図的に、プリムラの花を一輪だけ咲かせたのだ。

 要するに資質を測る魔法道具の機能に介入するだけの能力があるのだ。



 空に大輪の花園を描いたミアベル。


 望む花を一輪だけ咲かせたプリムローズ。



 果たして、そのどちらが優れた魔法使いであると、誰が判断できるのであろうか……?



2021/5 細部の描写を修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ