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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
八章_笑顔

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431話_side_Keika_『剣の誓い』クランハウス

・私のGWはもう終わってしまったので元の更新ペースに戻ります……



 ~"生贄の少女"彗華~



「この顏、ちょっとどうにかできないかな?」



 なんとなく自分の前髪を引っ張りつつ言ってみると、横に居たリュウ君が悲しそうな顔になる。



「ケイ、やはり、」


「あ! いやいやそうじゃなくてね」



 そりゃあ魔物化してしまった容姿を元に戻したいのは戻したいが、先程皆の前で語ったことは嘘ではない。私は今の環境に結構満足しているので、皆と一緒にここで頑張って、ゆっくり進めていけばいいと思っている。私自身もそうだし、皆にも、そろそろ休息が必要だ。緑后(リョクゴウ)の一件からこちら、遠いタイホウ連合の地からリヒティナリア王国まで、殆ど気が休まることのない旅を続けてきたのだから。

 だから、私が今呟いたのはそういうことではなくて、もっと単純な意味だ。



「ほら、ここで働くにしてもやっぱり、一切人前に出ないって難しいと思うんだ。前までの視線避けの外套でもいいんだけど、あれっていかにも怪しいから。もうちょっとどうにかならないかなぁ、って」


「成程。それは確かにな」



 本音を言えば、私も討伐者の資格を取って皆と一緒に活動したいくらいなのだが、流石に難しいだろう。これまで守られるばかりで荒事はからっきしだった私がいきなり魔物と戦えるわけがないし、皆に気を遣わせて足を引っ張るのがオチだ。なので私は大人しく裏方に回って皆が帰ってくる場所を守ることに貢献しようかなと考えるのだけど、そこで思うのは、こんな私に出来る仕事ってなんだろう、である。



「お仕事はこれから教えてもらって練習すればいいと思うんだけど、でも、じゃあなにができますかって時に『人前には出れません』なんてお話にならないでしょ」


「別に、探せばそういう役目もあると思うぞ」



 現状既に『剣の誓い』の面々には顔を晒して生活しているのだから、例えばクランハウスの運営側のスタッフに回れば身内だけに接して仕事をすることは出来るだろう。食堂のスタッフとか、ハウス内の清掃とか。



「そもそも、俺はケイが顔を隠すのをやめてくれたのが意外だし、言ってはなんだがここのクランの人達がわりと好意的に受け入れてくれているのも意外だよ」


「そうだねぇ。ほんとうにね」



 魔物排斥を謳う教会の存在があったので過敏にならざるを得なかったこれまでの旅路であるが、いざこうして顔を晒してみると、意外なくらいに抵抗がない。

 しかもここは討伐者の集う場所である。討伐者といえば魔物と戦うことを生業にする人々だ。常日頃から魔物と殺し合いをしているわけで、中には魔物のせいで親しい人を失った者だって居るだろう。だからこそ自分のこの容姿は絶対に受け入れられないとすら思っていたのだが、蓋を開けてみれば、実態は真逆であったのだ。

 つまり、討伐者の人達は実際の魔物を知っているからこそ、魔物の容姿を持っているだけの人間を、無闇に恐れないし排斥もしないのである。

 魔物というのは人類の絶対的敵性存在で、故に相容れないし、滅ぼすべきものであると誰もが教えられて育つ。それは教育として正しいことだ。ただ、討伐者の場合はそれ以前に、魔物というのは飯のタネなのである。倫理観とか使命感とかで全ての魔物を討滅しようとしているわけではなくて(無論そういう人も居るには居るのだろうが)、大半は稼ぐために魔物を狩っているだけなのだ。



「だけどやっぱり、外の世界は怖いもんね」



 討伐者の人達は、自らが魔物を狩る側であるという意識があるから、無闇に恐れない。だから私の姿を見ても、一拍置いて冷静になって、敵か味方かを判断してくれる。

 だけど街で暮らしている大多数の人達はそうではない。彼等が魔物を恐れ、否応もなく排斥しようとするのは生物として当然のことであり、危機管理として真っ当な反応であるのだ。

 で、話は戻ってくるのだが、そんな人々の中を歩けるように、せめて私の容姿をもうちょっと隠せたりしないかなぁ、なんて思ったりしたのだ。クランハウスに外部の人間が来ることだって無いわけじゃないし、普段ハウス内で完結する仕事をしていたとしても、ちょっとしたお遣いとか、なんやかんやで外に出る機会がないとは限らないし、その度にちょっと無理だから誰か代わってなんて言ってられない。だってそんなヤツ全然使えないもん。



「ケイの考えはわかったが……となるとやはり、魔法具か?」


「うん。呪詛が解けて私自身の魔力を使えるようになったから、結構選択の幅が広がったと思うんだけど……」



 とりあえず、ロイドさんに相談してみよう。

 私がロイドさんの研究室を訪ねてみる旨を告げると、心配そうなリュウ君が一緒に行くと言い始める。

 ロイドさんって若い男性だから、まあリュウ君がなにを気にしているかってわからなくはないけれど、ことあの人に限っては杞憂だと私は思う。なんかちょっと気の毒になるくらい、女性への免疫がないのだ。あの人は。

 なので若い男性の研究室に私が一人で訪ねたところで何が起こるでもないのだが、そういう意味ではやっぱりリュウ君についてきてもらうのは正解かもしれない。主に、ロイドさんの心労軽減的な意味で。


 勝手に納得して二人で目的地を目指して廊下を歩いていると、前方に特徴的なシルエットを見付ける。



「ん? シスターラクスじゃないか」


「ほんとだね」



 それは車椅子に乗った女性であり、長い黒髪と黄緑色の瞳が印象的なエキゾチックな美人さんは、私達の間で良くも悪くもなにかと話題に上がりがちなシスターラクスことラクサーシャさんだ。

 現在このクランハウス内で車椅子を使っているのは四肢を失っているラクサーシャさんか、それかリンちゃんが稀に移動する時に使うくらいであった。

 私達がそのまま進んでラクサーシャさんの元に辿り着くと、彼女もこちらに気付いて丁寧なお辞儀をくれた。



「こんにちはケイカ。それにミスタ・フワ」



 話す言葉はリュウ君に配慮してかタイホウ言葉であった。ラクサーシャさんはタイホウ言葉も王国語も教国語もペラペラのマルチリンガルなのだ。



「ああ。ようやく腕が繋がったんだな」



 リュウ君の言葉に、ラクサーシャさんは応じるように片手を挙げて小さく振ってみせた。

 彼女は元々過去に四肢を失っていて、修道士が作った魔法具製の義体を装着して生活をしていた人だ。先日の一件でリュウ君と交戦した際に、彼の刀で四肢の義体を斬り落とされ、以来ずっと手足のない状態で日々を過ごしていた。このクランハウスに来てからは、軒を借りている余所者同士の縁もあって、私が生活の補助をすることも多かった。誰に対しても礼儀正しいというか堅苦しいラクサーシャさんに、下の名前で呼び捨てにしてもらうまでには、私の長く苦しい努力の道のりがあったわけだ。

 ちなみにそんなわけで、私もうこの人とわりと結構仲良しなので、先程皆で相談した時にリュウ君に遺恨がどうのと訊かれて思わずきょとんとしてしまった。お互いに思うところは完全になくなりはしないが、それって結局お互い様だったよねで落ち着けることにしたのだ。死んだ修道士が全部悪い。うん。



「ロイド氏が仰るには、義体の破断面が非常に綺麗だったので、なんとか最低限の機能を回復できたそうです。ありがとうございます」


「斬った張本人に礼を言うのはおかしな話だろう」



 苦笑するリュウ君の横で、まるでダイちゃんみたいなことを言う人だなと私は思っていた。

 ラクサーシャさんの身体には、昨日までは失われていたはずの両腕が戻っている。リュウ君が切断した義体をロイドさんが元通りに繋げたみたいで、彼女の両腕は輪郭こそ生身のそれと大差ないが、外見は完全に金属の質感だった。

 両足はこれから修復するのか、未だ彼女には両足がないが、少なくとも真面に動く両腕が戻ってきたので生活はずっと楽になるだろう。今までは何をするにも他者の介助が必要で、移動は勿論のこと食事や入浴も私がお世話をしていたのだけど、これでお役御免かもしれない。



「最低限の機能ということは、まだ動作には難があるのか?」


「はい、いいえ。それほどでもございません。義体の機能としてはフルスペックの一割にも満たない稼働率でございますが、健常者の腕と同程度の能力は発揮できます」


「おかしいな。普通はそれができれば義体として充分に優秀なはずだが」



 真顔で義体の定義を破壊しようとするのはやめてほしい限りだ。

 ラクサーシャさんの言葉を信じれば、彼女の義体が本領を発揮すれば生身の腕の十倍以上の能力が発揮出来るということになるが、なんとも言えない顔をしているリュウ君の様子を見る限りでは、あながち冗談でもないのだろう。



「綺麗に斬られてたから、繋げて元通りっていうわけじゃあないんですか?」


「はい、いいえ。そうではありません。修道士クロス謹製のこの義体は一種のブラックボックスでございます。真に構造を理解して復元できるのは製作者本人のみでしょう。それでも、通常の腕としての機能だけでもこれだけの短期間で復帰してみせたロイド氏は非常に優秀な技術者でございます」



 逆に言えば、ロイドさんくらいの優秀な人でも最低限の機能を戻す程度が精一杯な代物だということか。

 そうなると両足の義体も同様の条件だとすれば、彼女が普通に歩けるようになる日も近そうだ。

 どうやらラクサーシャさんもロイドさんの研究室を目指していたようなので、私達は一緒に行くことにした。彼女の車椅子はリハビリがてらに自分で漕いでいくそうなので、今日は私が押すことはしない。



「私達、このクランに加わって活動しようかと思ってるんですけど、ラクサーシャさんはどうするんです?」


「基本的には同様になるかと存じます」



 ラクサーシャさんとドルチェちゃんの立場というのは、実のところ私達と殆ど変わらない。現時点では『剣の誓い』のお客様という扱いだ。なんでこうなったのかというと、元凶はスレイさんである。あの人が私達とラクサーシャさん達の身柄を一緒くたにこのクランに押し付けたのだ。私達の事情とか、彼女達の罪とか、そんなのは一切合切知ったことかとばかりに、やることはやったとでも言わんばかりの強引な手法であった。

 私はあまり詳しいことは訊けていないのだけど、どうやらこのクランの上層部であるダンクーガ伯爵家の、とりわけイザベルさんはスレイさんに対して命の恩があるらしく、恩返しのためにスレイさんの頼みならばと快く私達の身柄を引き受けてくれたようだ。なんというか、スレイさんとイザベルさんの間での貸し借りの清算のために体よく使われた感はある。勿論文句なんてないし、死ぬほど感謝してるけど、もうちょっとこう……と思わなくもない。



「私どもの場合は何もかもを失っておりますので、ゼロどころかマイナススタートの借金まみれの状況にございます」



 言っていることは笑えないが、ラクサーシャさんの表情はここに来たばかりの頃の死んだような顏が嘘みたいに生気に溢れている。

 実質的に修道士クロスの私兵でしかなかった彼女等は、故に修道士が死んでしまった今、財産もなければ帰る家も組織もない。クランが彼女等の面倒を見ているのはスレイさんとの取り決めがあるからだろうけど、それだってあくまでも環境を提供するだけで、諸々の費用は無償ではないのだ。ロイドさんによる義体の修復にだって工賃等が発生しているのだから、ラクサーシャさんの借金は現在進行形で雪だるま式に増え続けていると言えよう。



「さりとて、身体がなければ稼ぐことも儘なりません」


「前途は昏い……という顏でもなさそうだな」



 リュウ君が問うと、ラクサーシャさんは柔らかな微笑みを浮かべて頷いた。



「残りの生涯を賭してでも、成し遂げたい目標ができましたので」


「もしかして、ドルチェちゃんのことですか?」



 絶対そうだろうな、と私は思ったが、訊いてみると案の定ラクサーシャさんは頷いてくれた。



「というか、彼女は今どういう状態なんだ?」


「あの子は現在、術理化された脳機能だけで自己を保っている状態でございます。基質となる肉体は既に死亡してしまいましたので、先日丁重に弔っていただきました。なので肉体に代わる基質が必要なのですが、それは現状ロイド氏が所有するマギアドライブの記憶領域の一部を間借りしているような状態なのです」


「マギアドライブ、というと俺はよく知らんのだが、要はとんでもなく高度な魔法具という認識でいいのか?」


「はい。差し当たりそれで問題ありません。なので、私の目標の第一歩は、ロイド氏のそれと同等のマギアドライブを入手して、ドルチェの意識を移してもらうことになります」



 ロイドさんのマギアドライブがどうやって製造されたのかというと、強力な魔物から得られるスケマティックを複数組み合わせて作られているそうなのだ。つまりラクサーシャさんはこのクランに加わって借金を返済しつつ、強力な魔物の討伐依頼を遂行してマギアドライブの材料を集めようというのだ。



「そしてゆくゆくは、彼女の肉体そのものを復活し、あの子に、もう一度…………自由を」


「……そうか」



 いわば、人間一人を再現しようというのだ。どれほどの金銭と時間が必要なのか、想像もつかないような途方もない目標である。だけど強い瞳でそれを口にするラクサーシャさんは、宣言した通り、彼女の残りの人生の全てを使ってでもそれを成し遂げるつもりなのだ。

 幸いにして、決して夢物語ではないのだ。なにせ材料は既に揃っている。ドルチェちゃんの自己はマギアドライブの中に保たれていて、ゼロから肉体そのものを構築する技術も、全身を義体化していた修道士が既にほぼ実現している。義体人間となるのが後天的か先天的かの違いだけだ。問題はその当人が死んでいて技術が継承されていないことであるが、少なくとも実現可能であるという事実が確認されていることは相当強い。



「成程。どうやら、長い付き合いになりそうだな」



 そう言って、リュウ君は立ち止まってラクサーシャさんへと片手を差し出した。

 彼には右腕しかないので、右手の握手である。



「あの子共々、どうかよろしくお願いします」



 ラクサーシャさんもすんなりと握手に応じてくれて、手を握り合った二人の姿を、私はなんとなく『いいな』と思った。

 色々あったし、未だに爪痕は色濃く残っているけど、だけどだからって前向きな未来まで否定したくはない。誰か一人でも喪われていればきっとこうはならなかった。だからこそ、この光景を尊いと思いたいのだ。

 ラクサーシャさんの金属の腕を握ったリュウ君が驚いたように目を瞠る。



「貴女の手は、ちゃんと暖かいのだな」


「ふふ」



 すると彼女は「驚きましたか?」と言って、茶目っ気たっぷりに笑って見せた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 義体の腕とココロが掛けてあってとても良いです☆ 癒される〜。 [一言] 短期集中連日更新ありがとうございました!!
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