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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
序章_二度目の人生もハードモードのようです

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4話_side_Pr_アシュタルテ侯爵邸



 ~"転生令嬢"プリムローズ~



 我が侯爵家の侍女には二種類存在した。


 それは『メイド』か『ごく潰し』かだ。

 本来の意味とは違うかもだが、職務を放棄して給金だけ貪っているのだから似たようなものだと思う。


 上のお兄様が只管女性にだらしないせいで、見た目で気に入った女性を次から次へと連れ帰ってくるのだ。しかも大抵一回味見をしただけで飽きてしまい、さらには元居た場所に返しても来ないものだから、頭空っぽのメイド擬きがどんどん量産されていく。


 彼女らは大抵、自分が高貴なる方に選ばれたのだと勘違いしているお花畑だ。

 立場は愛人でも娼婦でもなくメイドだというのに、職務を果たさないばかりか、身繕いをしてお兄様に媚を売ることしか考えていない。

 もちろん、雇われたからには真っ当に仕事をしようとする出来た女性も稀に存在するのだけど、少数の例外に過ぎない。

 あるいは、お兄様の好みがそういうノータリンの女性なのかもしれないけど。

 尤も、使用人に対して非道な扱いをすると公然と言われているウチに使用人として拉致同然に連れて来られてしまったのだから、自衛のためにはお兄様に取り入るしかない部分もあって、同情すべき点がなくはない。お兄様にぽいっと捨てられたらそれこそどんな扱いを受けるかわかったもんじゃないし。




 ここで、我が侯爵家のイカれたメンバーを紹介するぜ!


 現当主である父親。これは腹黒。外面は温厚なナイスミドルだけどお腹の中はタールよりも黒い。


 件の長男。これは女たらし。頭と同じくらい下半身が優秀。馬鹿じゃないからタチが悪い。


 それから次男。これは暴君。ちょっとどうかと思うくらいに俺様。ワールドイズマイン。


 からの長女。これは私。言わずと知れたゲスロリ令嬢。リア充を爆発(物理)させる系女子。


 他家から嫁いできた母親は、尋常じゃなくプライドが高くてヒステリックだけど、この家の中ではオアシスレベルで癒し系。



 なんかもう、これは酷いとしか言いようがないよね。

 恐ろしいのは、これで意外と家族仲は悪くないということだ。

 全員個性がスパイクレベルでとんがっているけど、皆が皆違う方向を向いているせいで、不思議と衝突しないのだ。そういう意味では、このアシュタルテの血筋と言うのは実によくできている。


 というわけで、上のお兄様が欲望のままにメイド擬きを量産しようが、お父様もお母様も下のお兄様も咎めようとはしなかった。

 好きにしろよって感じ。


 私は正直不快な趣味だとは思ってたけど、でも口出しも手出しもする気はなかった。


 あの日までは。





 六歳のある日、私は屋敷の中を一人でぶらついていた。

 家庭教師の授業をすっぽかして、お気に入りのクマさん片手に優雅な散策なのだ。


 私の基本方針として、原作のプリムローズを参考にしてわがままなお嬢様を演じることにしている。この侯爵家は間違っても良い子で居ることが美徳となる場所ではないし、控えめにして居れば際限なくバカを見る。

 最も幼く何の力も持たない私が自分を主張するために、唯一取り得る手段こそが『わがままであること』なのだ。

 もしかして、こうやって原作のプリムローズのひな型が形成されたのかと思うと、なんとまあ嫌な英才教育もあったものだよ。

 お父様は一見私にダダ甘の溺愛っぷりに見えるが、あの腹黒が見た目通りの内心をしているわけがない、実際、あの溺愛が半分はポーズであるのは原作を読んでいる私には既知のことだったりする。

 まあ、表向きは私に味方してくれるのもわかっているから、ありがたく利用させてもらうこともあるんだけど。あの人、私がわかっていて利用していることをわかっている気配があるからなぁ……。実父ながら、まったくもって油断ならない相手だ。


 ともかく、前世が一般庶民だった私としては豪華絢爛な屋敷の中を散歩しているだけでも結構楽しかったりするのだ。

 六年間生活している場所なのだけど、敷地が広すぎて、子供の行動範囲ではまだまだ未踏の場所がいっぱいだ。


 そんな折、私はいじめ現場に遭遇した。




「ちょっとクラリスさん?これ本当に掃除したんですの?」



 甲高い声でそう言ったメイドの顔をこっそり覗き見し、私は一目で『ごく潰し』のほうだとわかった。

 何故って、化粧してる上にケバいから。

 どうやらメイド三人で廊下のインテリアの掃除をしているところらしい。


 声を上げたメイドの傍らにはもう一人ケバいメイドが居て、少し離れたところで掃除をしていた若いメイドを呼ばわっていた。


 私はその様子を柱の影から観察する。

 別に出て行くタイミングを失ったとかではない。断じて。

 メイド達が私の存在に気付いた様子はない。チビに定評のある私は、ステルス能力も高いのだ!



「ちゃ、ちゃんと掃除しましたっ!」



 慌てて返事をしたメイドは、よく見れば若いというよりも幼いと表現したほうが正しいような容姿だ。

 ケバメイドの呼び声を聞くに、どうやらクラリスちゃんと言うらしい。

 銀髪と空色の瞳が綺麗な、非常に可愛らしい外見の少女で、たぶん十代前半くらいだろう。十中八九、少し前に上のお兄様が拾ってきたというメイドだ。庶民にしておくには勿体ないくらい美しい外見をしているので、たぶんお兄様はとりあえずキープのつもりで連れ帰ったのではなかろうか。

 流石に、あの子はお兄様が『味見』をするには若すぎる。



「うそおっしゃい!こんなに汚れてるじゃないの!」



 様式美の如く、インテリアの一部につーっと指を這わせて、これ見よがしにフッと埃を飛ばして見せる。

 姑の嫁いびりかよ。

 ちなみに言うほど埃は飛んでない。僅かでも埃が残ってる時点で落第点には違いないけどね。

 もう一人のケバメイドはニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。



「も、もうしわけありません!すぐにやりなおしますっ!」



 クラリスちゃんは真っ青になって駆け寄ってきて、ニヤニヤしていたケバメイドが突き出した脚に躓いて勢いよくすっころんだ。


 うわぁ、絨毯とはいえ痛いぞぉ……。


 しかも運が悪いことに、水拭き用に置いてあったバケツを倒してしまい、汚れ水が派手にぶちまけられた。



「あ、あああ!?」


「あーあ。なにやってんのよ」



 クラリスちゃんは涙目になって大急ぎでバケツを立て直すが、当然中身は既に絨毯に染みを作っている。

 動転しているのか、手に持っていた雑巾で絨毯を拭こうとするが、そんなものでどうにかなる事態じゃあない。



「アンタ、責任もって片付けなさい――よっ!」


「きゃあっ!?」



 あろうことかケバメイドは、四つん這いになって必死に絨毯を拭うクラリスちゃんのお尻を後ろから蹴りつけた。

 バランスを崩して汚れた床に思いっきり顔から突っ込んだクラリスちゃんの姿を一頻り嘲笑って、そのまま二人のケバメイドは姿を消した。


 私はその光景を、冷めた目で見ていた。

 こういう光景は、実は珍しいものではない。ケバメイド達による陰湿な抗争は日常茶飯事なのだから。

 クラリスちゃんなんかは絶好のカモだろう。まだこの屋敷に不慣れで、幼く未成熟で、そして群を抜いて美しい。上のお兄様の寵愛を受けることでしか生きられないケバメイド達にとって、自分よりも見目の優れた同僚を蹴落とすのは最早生存本能だ。

 だって、対抗馬が少なければ少ないほど、そして対抗馬の戦力が低ければ低いほど、自分がお兄様の目に留まる確率が高くなるのだから。



「さいしょからゼロなのにね」



 まあ、クラリスちゃんは不憫だが、この調子ならすぐにメイドを辞して去るだろう。

 どうせ上のお兄様も気まぐれだから、クラリスちゃんが去ったことにも気づかないに違いない。


 床に突っ伏したまましばらく震えていたクラリスちゃんは、やがてゆっくりと起き上がると、お仕着せのスカートに染みを作りながら座り込んで、ぼろぼろと大粒の涙を流し始めた。

 だけど、すぐに袖でぐしぐしと拭うと、表情を引き結んで立ち上がり、よろよろと歩いて行った。

 逃げるのか、それとも掃除道具を探しに行ったのかはわからないけど、私はなんとなく後者な気がした。



「…………あとはまかせるわ」



 私はお目付け役としてこっそり付いてきていたメイドにそう告げると、その場を後にした。





 その後も何回か、同じような場面に遭遇した。

 私が屋敷内でクラリスちゃんを見かけると、彼女は必ずと言っていいほどいじめられている。


 そのたびに彼女は傷付いた顔をするし、涙も流すけど、最後には屹然と立ち上がるのだ。

 私の予想は裏切られ、クラリスちゃんはどんな理不尽に晒されようと、この職場を辞すことはなかった。

 お目付け役のメイドに「なぜあのこはにげないの?」と訊いてみたところ、どうやらクラリスちゃんは孤児で、自分が世話になった孤児院の助けになるべく仕事を続けているのだという。

 羽振りだけはいいもんね。うちの家って。



 そして、あの日。


 私はケバメイドがおかしげに会話しているのを耳にした。



「ちょっとぉ。あれは流石にやり過ぎなんじゃない?」


「なによ。もしかしてあの子の心配でもしてんの?」


「だって、あんなに汚したら時間までに絶対綺麗にならないって。そしたら、くっさいあの子と一緒に仕事すんのよ?」


「うわサイテー。それは考えてなかったわぁ」


「あ、でも。あの子もともとクサいから今更か」


「わかるわかる、なんか貧乏な臭いするよねぇ!」



 げらげらと不快に笑いながら通り過ぎる二人を見送った私は、とりあえす彼女らが歩いてきたほうに行ってみた。

 彼女らが誰の話をしていたかなんて考えるまでもない。

 そのまま屋敷の裏手まで行ってみると案の定、冷え込む初冬だというのに肌着一枚で、屋外の水場で必死にお仕着せを洗うクラリスちゃんの姿を見付けたのだった。



「…………」



 涙を零しながらも、歯を食いしばって挫けんとするクラリスちゃんの姿に、私は既視感を覚える。


 わかるんだ。その気持ちが。


 なんで私が、って思うんだよね。

 理不尽だと思うし、腹が立って腹が立ってしょうがないんだ。


 逃げるわけにもいかなくて、必死に耐えるしかないんだよね。

 誰か助けてって心で叫び続けて、でも声に出すことは出来なくて。


 しかも誰より自分がわかってるんだ。

 誰も助けてなんてくれないって。




 私は知っている。

 『夜明けのレガリア』原作に、クラリスと言う名前のメイドなど登場しない。

 アシュタルテ侯爵家の描写は少なくなかったが、少なくともクラリスちゃんのような美少女メイドは一度として登場しなかった。


 だからきっと、彼女は原作開始までに辞めてしまったか。


 あるいは、原作開始時には既に死んでいたのだ。


 何故って、原作のプリムローズにとって、クラリスちゃんのような人物は最も唾棄すべき対象だろうから。仮に私が原作通りの性格をしていたら、むしろ率先して嬉々としてクラリスいじめに参加して、ケバメイドの比ではないような残酷な仕打ちをして笑っていたことだろう。我がことだからか、確信があった。



 私は死にたくない。

 原作のプリムローズと同じ行動をとると死んでしまうので、原作通りに振舞うつもりなどない。

 だからむしろ、原作とは真逆の行動を取ってみるのもありなのかもしれない。



 いや、これも言い訳だ。


 結局私は、今この場で誰よりもクラリスちゃんの気持ちがわかってしまう。

 遠からずクラリスちゃんは、自身の容姿を呪うだろう。

 美しく生まれて来たのがすべての失敗だった、と自分の人生を全否定するだろう。


 きっと私と同じ結論に至るだろう。



 私は、それが我慢ならないんだ。


 私がプリムローズに生まれ変わった意味があるとしたら、それは今だ。

 かつての私が、してもらえたらどんなに嬉しかっただろうと思えることを、この少女にしてあげたいのだ。

 半分はクラリスちゃんのためでなく、若くして死んだ前世の私の意地のため。


 美人に生まれてきたことがそもそもの失敗だったなんて人生を全否定して欲しくない。

 プリムローズがクラリスちゃんの側に立つことで、彼女が健やかに育つことができていつの日か恋でもして、『美人に生まれて良かった』と思えるような出来事に出会えたならば、きっと無様でみじめな私の前世も報われるのだ。


 私は飛び切り運が悪かっただけで、その人生に意味はあったのだと。


 そして私は、初めて彼女に声を掛けた。



「ねえ……だれがやったの?」



 びくりと肩を跳ねさせたクラリスちゃんの、こちらを見る投げやりな瞳を覚えている。

 後になって思えば、たぶんこの日のこの瞬間が、本当の意味で『プリムローズ・フラム・アシュタルテ』という私が生まれた瞬間だったのだろう。

 彼女と出会うことで、私にとって私は『物語の中の誰か』ではなくなり、私自身として生きる理由を見付けたのだ。




2021/5 ごく潰しの態度について補足。侯爵家の悪評は知っているはずなので。

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― 新着の感想 ―
[一言] この手の転移転生もので世界の滅亡や国の滅亡ならともかく一個人の処刑や追放が既定路線なら物語を真似るでなく最低限人間として当たり前の事をするようにしてれば変わるからね。
2021/12/19 16:32 退会済み
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