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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
七章_小夜啼鳥は朝を待つ

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362話_sideout_ちょっと前_黒い森



「なんだこりゃあ……」



 どうなってんだ一体、とシリウス・ツェザル・ダンクーガは思わず呟いていた。シリウスはAランククラン『剣の誓い』の長として、実父からその座を引き継いでこの方、それなりに長い時間を討伐者として活動してきた。同クランは拠点を一つ所に定めず、時勢に応じてリヒティナリア王国内を西へ東へと移動することで知られる、通称『旅するクラン』である。故にシリウスは己以上に経験豊富な討伐者は少なからず存在すると知りながらも、己以上に多くの黒い森を経験してきた討伐者はそうそう存在しないはずだと思っている。実父がクランリーダーを勤めていた頃からクランに参加していたシリウスは、幼少期から数えて渡り歩いてきた黒い森の総数は十や二十ではきかない程になる。

 だが、そんなシリウスを以てしても、眼前の光景は信じ難い。


 それは、溶岩の海であった。


 最初、シリウスは自分達が知らぬ間に火山が噴火でもしたのかと真面目に疑った。そうでないとすれば、知らぬ間に魔界との境界線に足を踏み入れでもしたのかと。このブラッドフォードの黒い森では溶岩流というオブジェクト自体は然程珍しくないので、溶岩自体は見慣れていても、この規模は少々を通り越して異常に過ぎる。今日までこの森で活動していてこんな光景はお目にかかったことがなかったし、シリウスの経験上の他のどんな黒い森でも同様だ。



「おいドノヴァン。ここはいつから噴火口になった?」



 ぼこぼこと泡を飛ばす溶岩の熱気に顔を顰めながら、シリウスは現実逃避気味に傍らの仲間に声を掛ける。

 それに対してドノヴァンは疲れたように溜息交じりに応じた。



「僕に訊かれても。ちなみに僕の記憶ではここは若干の勾配があるだけの岩肌の平地だったし、更に言えばほんの十分前くらいに僕がここに到着した時には、まだ記憶通りの光景があった気がするよ」


「じゃあなにか? ほんの十分で溶岩の海ができたってか。どっから湧いた?」



 シリウスの疑問に答えたのは、同じくクランメンバーの一人であるロイドだった。



「これは元々『サラマンデル種』だったものだ」


「まあそうだろうがよ。あの魔物が『熱域操作(ラヴァストラクチャー)』で溶岩を生成するのは俺でも知ってら。だがこの規模はおかしいだろ。やっこさんは『熱域操作』に手前が死ぬまで魔力を注ぎ込んだとでも?」


「その通りだ」



 まさかそんなわけがない、と考えたシリウスの発言は半ば冗談だったのだが、対するロイドは至極真面目な顔で肯定する。

 更に誰かが発言するよりも前に、今度は女性の声が割って入る。



「そんな考察は後にしてくださる? わかってんのアナタ達、まだ魔物は健在で、今も戦ってる仲間が居るのよ?」



 苛立たし気にそう捲し立てるのは、Aランククラン『赤原同盟(レッドプレーリーアライアンス)』に所属しているナタリーという名の女性討伐者だ。今しがたこの場に到着したばかりのシリウスは状況が掴めていないのだが、ナタリーの台詞の意味を理解すると血相を変えざるを得なかった。



「どういうことだ?」


「どうもこうもない。サラマンデル種はまだ生きてるの。この溶岩の中心でね。ヤツが溶岩を生み出し続けているからこんなになっちまったのよ。そして生きてる魔物が暢気なアナタ達に襲い掛かってこないのは、足止めをしてる人が居るから」


「誰だ?」


「ウチのリーダーと、おたくの男の子よ」



 シリウスは即座に該当する人物を思い浮かべる。ナタリーの属するパーティーのリーダーと言えば女帝の孫であるフレデリカ・メルクーシンだろう。そして彼女と共に戦っているという男の子とは、現在『剣の誓い』で一時的に活動している学生の一人、レックス・モラン・コーリッジに違いない。

 ここで件のサラマンデル種と戦っていた討伐者は全部で十八人居たはずだが、その半分以上はこの場に居ない。単に戦闘で散り散りになっただけであり、シリウス達と同じように溶岩を逃れてどこかの高台に避難しているはずではある。だからレックスの姿が見当たらないことにはシリウスも気付いていたが、まさかあの溶岩の海の只中に居て魔物と戦闘中とは考えもしなかったのだ。



「おいロイド、ドノヴァン、なんで早くそれを言わねえ!?」



 特にレックスが所属しているパーティーの長であるロイドの胸倉を掴まんばかりの剣幕で詰め寄るシリウスに、ドノヴァンが両者の間に身を割り込ませて制止する。

 そしてそんな様子をチラリと一瞥したロイドは、顔を顰めて自身のグローブの指先を齧る。



「怒鳴るなよ。まさか俺がコーリッジの存在を忘れていたとでも? 見捨てるとでも思ったか? 騒いで事態が好転するなら好きなだけやっていろ。俺は打開策を考えるのに忙しいんだ」


「というわけで、ナタリー女史の憤りも尤もだが、少し冷静になろう。僕達だって仲間の命が掛かってるんだ、真剣だよ」



 この場では最も冷静さを保っているドノヴァンに言われて、シリウスもナタリーも一先ずは気を静めて表情を改める。ロイドだけは険しい表情のまま溶岩海を睨んでブツブツと呟くことをやめていなかったが。

 冷静さを取り戻したシリウスは、状況把握から始めようと考えてナタリーに問いを投げる。



「ガキ共は生きてるんだな?」


「そっちの子がどうかは知らないけど、少なくともフレデリカは生きてる。連繋魔法(コマンドリンク)が健在だから。でも相当弱ってるみたいなの」


「そうか。ロイド、お前のほうは?」


「コーリッジも健在だ」



 シリウスは安堵を覚えるが、しかし現時点で彼等が無事だからといって、それが唐突に失われてもおかしくない状況なのだと理解している。その点、実際にリンクを繋いで二人の無事を観測し続けているナタリーとロイドの焦燥感は自分の比ではないだろう。それこそ、いつ何時唐突にリンクが切れないかという恐怖と隣り合わせの心地で居るはずだ。



「ガキ共の居場所はわかるのか? ここからの距離は?」



 シリウスは炎属性と雷属性を操る魔法使いだ。熱への耐性は相当に高いと自負していた。だからといって当然溶岩の海に飛び込むことなど出来やしないが、距離によっては魔力のゴリ押しで救援に向かえないこともない。

 少なくともこの場からは魔物の姿は見えない。溶岩の対岸も見えないので、これがどの程度の規模で広がっているのかもわからない。溶岩から立ち昇る熱で歪む大気と、そして冗談のように無数に湧き出ている『炎精(エレメンタル)』の存在もあって、そもそも視界は殆ど通らないのだ。逆に、見えないからこそ実は意外と近かったという可能性はないだろうか、と一縷の望みを籠めた問い掛けであった。



「サラマンデル種を最後に観測できた位置から現在地を予測すると、どれだけ近くとも二千メートルはある。元の地形と溶岩の広がり方を鑑みても、妥当な位置予測だ」



 二千、とシリウスは声に出さずに呟き、奥歯を噛む。

 魔法使いにとっては決して遠い距離ではない。身体強化を使えば女子供でも楽々走破出来る距離だ。

 ただ、その二千を埋めているのが土の地面ではなく溶岩の海となると、途端に絶望的な距離へと変貌する。しかも、希望的観測でそれなのだから、実際は更に距離が開いていたとしても何も不思議ではない。

 事態は切迫している。

 フレデリカが優秀な少女であることはシリウスとて知っている。女帝の孫であることを引き合いに出すまでもなく、あれもまた間違いなく将来は女傑と謳われて然るべき逸材だろう。レックスが学生の身分ながら腕も立ち頭も切れる少年であることも知っている。同い年であるはずの息子のルークと比べると、親として色々な意味で悲しくなるくらいには、レックスは出来た少年なのだ。

 しかしその二人が揃っていても、サラマンデル種を相手取るには力不足が否めない。ましてや戦場は圧倒的に相手のホームと来ている。正直に言ってしまえば、二人が未だに生きていることこそが奇跡的だとすらシリウスは思う。



「『地隆操作(ジオストラクチャー)』で道を造れねえか?」


「もうやったよ。というかガイウスが『地隆操作』で溶岩を誘導してくれたから、なんとか死人が出ずに済んでいるのさ」



 思索に忙しいロイドに代わって、傍らで状況を把握していたドノヴァンが説明しつつ肩を竦める。ガイウスという男性はシリウスやドノヴァンと同年代でそれなりに交流のある人物だ。Aランククラン『パンツァー・ドラグーン』に所属している地属性魔法使いで、この場の戦闘に参加していた三つ目のパーティーのリーダーが彼であった。



「転移で救援に行くってのは?」


「座標の把握ができないだろう? イチバチで溶岩にドボンしてもいいなら、まあやってみる価値はあるかもね」



 『剣の誓い』では緊急時に備えて転移用の魔法具を配備している。ただしそれは召喚専用であり、更にそれなりに高価なものなので持っているのはリーダー格だけだ。つまりレックスはそれを持っていないし、シリウスが持っているそれでレックスの場所に跳ぶことは出来ないのだ。勿論、相手の居場所が掴めない以上は逆にこちらに召喚して助け出すことも出来ないし、ついでに言えば二千メートルという距離は魔法具の使用可能範囲外である。

 フレデリカのほうがどうなのかはシリウスの知るところではないが、そんな手段があればナタリーもこんな場所でやきもきしては居ないだろう。



「溶岩を冷やして固めるってのは?」


「難しいだろう。水属性は何人か居るけど、皆戦闘で消耗している。距離と位置がわかっていればともかく、溶岩を冷やし固めながらレックス君達を捜索するってのは、だいぶ無理がある。それこそ、フレデリカさんくらいの氷魔法使いが万全の状態でもう一人居れば話は違ったかもしれないけどね」



 整然と否定されてシリウスは頭を抱える。シリウスはどちらかというと理論派ではなく感覚派であり、頭の出来がそれほど優れているとは自分でも思っていなかった。故にシリウスが思い付くような手段はとっくのとうにロイドが思い付いて、より高度な考察を経て否定されたはずなので、当然と言えば当然の流れではあった。

 しかし、あれもダメこれもダメでは、最早取り得る手段など、



「もう空飛ぶくらいしかねえじゃねえか……」



 跳躍や滞空ならばシリウスでもどうにかなるが、これが飛行となると話が違う。それもただ飛んで移動するだけならばゴリ押しでなんとか出来なくもないといったところだが、場合によってはそれで魔物と戦闘をして要救助者を抱えて戻って来なくてはならないのだ。

 試してみようという発想すら湧かない程度には、無理であることがわかりきっていた。



「あの」



 と、そこに小さく響く声があった。

 ロイド以外の大人達が一斉に視線を向けた先には、シリウスがパーティーメンバーとして連れて来ていた学生の少女、ミリティア・リリア・ハートアートが控えめに手を挙げていた。気の置けない友人であろうレックスの危機に不安を隠しきれない様子の彼女であったが、分を弁えた態度で大人達の議論に口を挟むこともなく、同じ立場であるミアベル・アトリーと手を取り合って健気に励まし合っていた。その彼女が、どうしてか突然に自己主張をしたのである。



「どうした?」



 なんか案があるのか、とシリウスが前のめりに問うと、ミリティアは一つ頷く。



「もし、空を飛んでレックス達の元まで行くことができたら、なんとかなりますか?」



 いきなり何を言い出すのか、と思わないでもなかったが、シリウスは彼女の問い掛けを一蹴することなく真面目に思案してから口を開く。



「自惚れるわけじゃねえが、俺ならサラマンデルともやりあえる。足場がクソ悪いとしても、少なくとも足止め役をガキ共と変わってやることくらいはできる。移動手段があるなら、ガキ共を逃がしてやることもな」



 事実として、この場に集った討伐者全員の中で最も腕が立つのはシリウスに相違ない。クランメンバーのドノヴァンやロイドは元より、ナタリーもそれに異論はないようで口を挟むことはなかった。先述の通り炎耐性には少々自信があるシリウスなので、例えば空中に足場を作って魔物と渡り合う程度ならば溶岩の海上でもやってやれないことはない。

 そしてレックスとフレデリカ――未来ある少年少女の命を救うためならば、シリウスは自身が死地に立つことに迷いなどありはしない。

 だが、である。

 その移動手段がないからこそ大人達が揃いも揃って渋面を突き合わせているのだ。


 しかし、ミリティアはそれを聞くと決意を固めたように、小さく頷いて告げた。



「手段はあります。――――私が持っています」



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― 新着の感想 ―
[一言] そう言えば、空飛ぶのってレアスキルでしたね。 アシュタルテあんちくしょうなら、空も飛べるし溶岩もフッだけで 凍りそうというボーナスステージだと言うのに… ぶっちゃけ、倒すだけなら砲撃魔法とか…
[良い点] ミリティアさんが動いた
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