2話_side_Pr_回想
~"転生令嬢"プリムローズ~
前世の記憶を持って転生した世界が、前世で流行っていた漫画の舞台にそっくりだと知ったら、どうする?
ある意味お約束だと思うだろうか。
それとも何かの作為を疑うだろうか。
私はと言うと、そんなこともあるんだね。くらいにしか思わなかった。
だって、記憶持って転生してる時点で非現実的もクソもないもんね!
ともかく、その漫画とは『夜明けのレガリア』と言う少女漫画だ。
正確には、少女向け雑誌で連載されていた少年漫画、と表現したほうがいい作風だったかもしれない。男の子でもとっつきやすい画風に王道の設定とストーリーで、連載当初からそこそこの人気を博し、果てにはアニメ化や映画化、続編も作られた人気シリーズだった。
前世の私が中学生とかの頃に最初のシリーズが連載開始していた。最初のシリーズはリアルタイムで追い掛けるほどには嵌っていたから確実だ。そこから高校、大学と進学するにつれてサブカルチャーからは遠ざかっていったのだけど、就職してから何かの折に『夜明けのレガリア』の関連作品のCMを目にして、まだシリーズ展開が続いていることに感心した覚えがある。
大人になってから最近に読み終わった漫画とかよりも、青春時代に好きだった作品とかのほうが良く内容を覚えているって、あるあるだよね。
この作品を端的に表現するならば、バトルあり恋愛あり魔法ありの異世界学園ヒロイックストーリー、って感じ。
流行ってるもの全部ぶっこみました感が凄いでしょ。
私の今世がその漫画の世界であるといつ気付いたのかと言うと、最初からだ。
なにせ、今世の私であるプリムローズ・フラム・アシュタルテ侯爵令嬢というのは、『夜明けのレガリア』のストーリー上でかなり重要な役割を占めているキーキャラクターの一人なのだから。
役割は、それはもう『悪役』だ。
プリムローズと言えば『悪の権化』『外道チビ』『悪逆令嬢』『だいたい全部コイツのせい』などなど、多種多様の愛称(蔑称?)で読者から親しまれていたけど、最も馴染みのある表現は、ズバリ『ゲスロリ』。下衆いロリっ子のプリムローズちゃんである。ちなみに物語のわりと最初のほうからわりと最後のほうまでがっつり出てくる。
単なる悪役というよりかは、主人公のライバルポジションと表現したほうが正しいかもしれないが、なんというかライバルと評するには些か邪悪すぎるのである。
基本的には主人公や読者にトラウマを与えてヘイトを稼ぐ役割なので、大抵の読者には親しみを込めて嫌われている。いやまあ、物語的になくてはならないキャラなのは間違いないんだけど、必要悪と表現するには本当に外道すぎるのだ。ただ、中盤で一度だけ主人公達の味方をすることがあって、スポット参戦の超強力ユニットレベルで繰り広げられた『ゲスロリ無双』に魅了された信奉者も少なからず居る。
とまあ、そんな感じのキャラ。
最終的にはラスボスの一歩手前で主人公と戦って、読者にカタルシスをお届けしてこの世から退場するわけだけど。
プリムローズちゃんのすごいところは、『実は悲しい過去が!』とか『本当は優しい一面が!』とかそういうのが最後の最後まで一切存在しない清々しいまでの悪役だったことだ。
いや、今となっては私のことなんだけども。
なんなら、読者に感情移入させる余地を絶対に与えないという作者の鋼の意志すら感じるくらいに、徹底的に悪だった。
一応異世界の学園ものということで、物語が始まる時間軸は、主人公が十五歳――前世で言うところの高校生活が始まるところからだ。プリムローズは当然主人公の同級生なので、今の私の年齢から考えて原作が始まるのはまだまだ先だ。
ところが、今の私が姿見の前に立つと、原作でよく見たプリムローズちゃんと既に対面できるのだ。
何故なら、ゲスロリという蔑称が示す通り、原作でのプリムローズはとにかくチビだったのだ。背が低いとか発育不良とかいう次元でなく、一人だけ幼年学校で成長が止まったかのような有様だった。なお、ここで言う幼年学校は前世で言う小学校と考えてもらえば大差ない。
前世で漫画を読んでいた時は、まあ良くある漫画的表現だなとしか思わなかったけど、実際こうしてプリムローズになってみると、齢十歳にして成長が止まった感がひしひしと感じられる。
ぺたぺたとお胸を触ってみた私は悪くない。
キミ、もう大きくならないんだね……!
原作のプリムローズはそんな未熟な身体をコンプレックスにしており、みじめさからくる鬱憤を周囲にぶつけるはた迷惑な女子だった。悪いことに侯爵家令嬢としての権力を始めとして色々な意味で力を持っているので、まあやりたい放題と言って過言ではない。
そんなプリムローズが最も嫌うのは、己と正反対の女子。
要するに明るく人気者で、女性らしい身体つきをしていて、美しい少女。
はい。主人公ですねわかります。
一応言っておくとプリムローズは決して醜いわけではないし、漫画の作画都合かもしれないけど顔は普通に美少女だ。確か作中ではプリムローズを評して『類稀な美少女ではある』という表現もあったと思う。『である』じゃなくて『ではある』なところがミソだ。とまあ性格面はさておき、生憎と容姿が幼過ぎて美しいというよりは圧倒的に可愛い系の見た目だ。そのくせ悪役顔しかしないので、折角の可憐さが台無しになってしまうセルフ悪循環というわけだ。
原作読者間の共通認識は、ぽっと出の女性キャラは大抵プリムローズに酷い目に遭わされるので、可愛い新キャラが登場すると何故か緊張感が走るという謎の風潮があった。ていうか、少女漫画って絶対少年漫画よりも規制緩いよね。何がとは言わないけど。
プリムローズと彼女の取り巻きが行う陰湿で非道ないじめの数々は、前世の私に、私自身が周囲の女子から受けた謂れのない中傷といじめ行為を思い出させた。
きっと前世の私が当時『夜明けのレガリア』に嵌っていたのは、そんなプリムローズに立ち向かう主人公の凛とした姿に感銘を受けたからだろう。
程度は違えども同じような立場に置かれていた私は、しかし主人公のような強さとは無縁で、じっと耐え忍ぶことしかできなかったのだから。逆に言えば、私が学生時代のあの仕打ちに耐えられたのは、『夜明けのレガリア』から勇気をもらっていたからかもしれない。
今となっては皮肉な話だけど、そんなわけで前世の私はプリムローズと言うキャラがわりと嫌いだった。
姿見の中の白い少女とにらめっこしながら、私は考える。
よりによってプリムローズに転生してしまった現実とどう向き合うべきなのかと。
前世の私が唾棄していた連中の側に、今世の私は立っているのだ。
だけど、美しいとか醜いとか、いじめるいじめないとか原作がどうこうとか、そんなことより強烈に私の思考を支配したのは。
ただただ、思ったのは。
もう二度と、死にたくない。
別に、『夜明けのレガリア』のストーリー通りに歴史を進めようなんてことは微塵も思わなかった。原作通りに事が進めば、私はまたもや若くしてこの世を去る羽目になるのだから。
でも逆に、敢えて主人公に味方したりとか、あるいは主人公と親密になるはずのヒーローキャラを攻略してやろうとかも思わない。
だって、主人公の周囲って死亡フラグの地雷原だろうし。原作的に考えて。
結局のところ、折角第二の人生を得たのだから今度こそ精一杯に生きよう、とそれだけのことなのだけど。
2021/5 原作に対する描写を修正。原作知識がうろ覚えで不完全であることの補強。




