17話_side_Mil_親睦会
~"もう一人の転生者"ミリティア~
ちょっと予定と違うところもあったけど、今のところ私の学生生活は順調な滑り出しと言っても良いと思う。
この一週間、ほんと頑張った。
原作主人公のミアベルとお友達になるために、前世の知識をフル動員して、彼女が居そうな場所を探し回って。勿論、伯爵令嬢としての貴族同士の交友関係だって大事だから、貴族の同級生や上級生を茶会に招待したりされたりもした。
原作『夜明けのレガリア』の大ファンである私なので、他のファンによる二次創作の類もわりと楽しんでいた。そういう界隈に理解のある人ならなんとなく想像できると思うけど、二次創作を作るときって、原作が人気であればあるほどテンプレと言われる展開ができやすい。例えば原作の一番最初のイベントとか、要するに二次創作を作るにあたって避けては通れないイベントであり、通過儀礼の如く大多数の作品が通る道のこと。
私のしたことってズバリそれで、所謂オリ主というものが主人公と仲良くなるテンプレ展開を参考にさせてもらったのである。ありがとう同志たち。貴方たちの入魂の作品が私の力となりました。
そんな努力の甲斐あって、無事にミアベルと知り合いになれたし、私の自惚れでなければ彼女にとって頼りになる貴族の友人、というポジションに収まれたと思う。原作のミアベルって平民出身で、序盤は貴族の友人が居なかったから、貴族相手の勝手がわからずにすごい苦労してたもん。それを知っている私なら、彼女を的確にサポートしてあげられるわけだ。
あと、私、原作主人公を舐めてたね。
いや、いくら原作で主人公と言っても、立場的にはただ魔法の素養があっただけの平民でしょ?
性格的なものはともかく、見た目は普通の女の子かなって思ってたんだけど。
もうね。めっちゃくちゃ可愛い。
まじで、おんなじ生き物だとは思えないくらいに可愛い。
声可愛いし、顔可愛いし、動きも可愛い。もう存在してるだけで可愛い。
私の前世が『夜明けのレガリア』の大ファンで、ミアベルが一番好きなキャラクターだったからっていう、所謂思い出補正みたいなのもあるんだろうけど、そうでなくても、あれは誰がどう見ても最強の美少女だわ。
貴族の私相手でも物怖じしないし、自然体で友好的だし、底抜けに明るいし。
そりゃあ、プリムローズも目の敵にするわ、って言うね。
多くの人に好かれる性質であると同時に、向けられる嫉妬ややっかみの量も普通じゃなさそう。
今日のこの親睦会でも、結構な注目を集めてたなぁ。
まあ、今日に限っては彼女の容姿よりも、その行動のせいだと思うけど。
原作通り、ミアベルは親友ポジションのノエルと一緒に行動してたんだけど、見たこともない料理が満載のテーブルに目を奪われて、交流そっちのけで料理に突撃していくミアベルを、ノエルが必死に軌道修正していた。
猪突猛進というか、一心不乱というか。
ミアベルってば何を食べても本当に幸せそうな顔になるものだから、私も釣られて笑顔になってしまった。
この学院に通う平民階級の学生って二種類いて、ざっくり言えば裕福かそうでないかの違いなんだけど。
ここの学費ってかなり高いから、普通の平民の家庭じゃあまず負担できない。ノエルの実家は商家で、下手な貧乏貴族よりも余程裕福なので、ノエル一人分の学費を払う程度わけはないだろう。
だけどミアベルはそうではない。彼女の実家はごく平凡な家庭で、どちらかというと貧乏なくらいだ。
そのミアベルが学院に通えることになった理由は、偏に彼女の魔法的素養がとんでもなく優れているから。
いわゆる特待生というやつ。
将来有望な魔法使いの、優秀な芽を潰さないために、学院側が資金面をサポートしてくれるのだ。
結果を出し続けなければ即座に援助は打ち切られるが、逆に言えば、ミアベルが優秀さを示し続ける限り、彼女の学費は免除される。そして無事に卒業まで行ければ、優秀な魔法使いは引く手数多なので、良い職業について家族に良い生活をさせてあげることができる、と。
それが主人公ミアベル・アトリーの背景。あらすじ的な意味で。
そんなわけなので、こんな上等な食事きっと生まれて初めて食べたんだろうなぁ。っていう。
確か原作でもそんなようなことを言っていたと思う。
立食パーティー形式なので、料理のグレード的にはある程度簡素なのだけど、なんといっても素材が高級だから。学生には下は平民から上は王族まで居るわけで、となれば自然と上のほうに合わせざるを得ないんだよね。良くも悪くも。
私はというと、そんなミアベルとノエルにちらりと挨拶だけして、貴族の令嬢に眉を顰められないように最低限のマナーだけを教えておいた。ノエルが一緒だからそこまで心配していないけど、意地の悪い貴族に睨まれる要素は、少ないに越したことはないよね。
勿論、私がそもそも一緒に居てあげられれば良かったんだけど、生憎と私にはこの親睦会で果たすべき目的があるのだ。
それは、ある人物と友好関係を結ぶこと。
首尾よく主人公と友達になれた今、私が次に何を考えるべきかというと、決まっている。
そう。悪逆令嬢プリムローズの対策である。
原作では私ことミリティア・リリア・ハートアートはプリムローズの取り巻きの一人だったのだけど、今の私はそのプリムローズが今後目の敵にするであろう主人公ミアベルの友人という立場だ。つまりはプリムローズと敵対する立場。
今世において主人公の側に立つことを決めた段階で、悪役であるプリムローズとの対立は避けて通れない道であり、当然以前から対策は考えていた。といっても、大袈裟に言えるような話でもなくて、単純に彼女に対抗できる人物の庇護下に入ろうというだけなんだけど。
他力本願は否めないが、プリムローズが侯爵家で、私が単なる伯爵家である以上、どこをどうあがいても勝ち目がないのだ。それが貴族社会カーストの無慈悲さであり、逆に言えばだからこそ更に上位の庇護を受けられれば、ということだ。
なお、この国の爵位制度は上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となる。同じ爵位でも当然ピンキリがあって、場合によっては地位と実力が逆転する場合もある。例えば、伯爵家の最上位は侯爵家の下位よりも力がある、みたいな。
ただし残念ながら、プリムローズのアシュタルテ侯爵家は侯爵家の中でも最上位に近いので、ウチのハートアート伯爵家が伯爵家の中では有力なほうとはいえど、権力では勝ち目無しだ。
今年度の新入生のパワーバランスについて少し説明しておくと、まず男子学生はこの国の第二王子であるレオンヒルト様と、隣国の王太子であるカーマイン様の二強。この二人は地位も実力も伯仲していて、今後の展開ではライバル関係になっていく予定だ。
で、女子学生のほうは今年は王族の入学生は居らず、公爵家の出身も居ない。となると最も家格の高いのは侯爵家の出身者となるわけなのだけど、これが三人居る。
一人は言うまでもなくプリムローズ・フラム・アシュタルテ侯爵令嬢。
彼女の生家であるアシュタルテ家はこの国の最北端に領土を持つ旧い一族であり、『四大貴族』の一角だ。四大貴族というのは建国時に王家を支えた盟友の一族だと考えれば大差ない。建前上実権とは関係ない名誉称号であり、王都を中心に東西南北にそれぞれ所在している。
つまりアシュタルテは『北の要』だ。
北の国境の向こうは帝国の領土であり、アシュタルテ家は過去幾度にも渡って帝国の侵攻を撃退してきた精強極まる武闘派一族なのだ。強大な軍事力を誇る帝国相手に国境線を百年以上も維持し続けている功績は大きく、政治には殆ど関わらない立場でありながら、有事には王家ですら無視できないほどの発言力を有する。
ちなみにアシュタルテ侯爵家は冷酷かつ残忍で、ついでに変人揃いの人間性でも有名だ。
もう一人はエカテリーナ・ロビン・クレインワース侯爵令嬢。
クレインワース家はアシュタルテ家とは真逆で、代々王宮に勤める中央政治の重鎮だ。この学院の運営にも少なからず関わっていて、そこの令嬢であるエカテリーナは、前世風に言うならば理事長の娘的なポジション。よって学院内での発言力は強いのだけど、その性質は完全にプリムローズの同類である。
プリムローズよりもテンプレ色が強い、絵に描いたような悪役令嬢。それがエカテリーナだ。
尤も、原作においては発育以外完全にプリムローズの下位互換だったので、噛ませ犬以外の何者でもなかった人だけど。
最後の一人はレムナント・クロム・クルワッハ侯爵令嬢。
彼女は原作では殆ど名前しか出てこなかったチョイ役である。そのあまりにも不穏なネーミングから、絶対後々ストーリーに噛んでくるキャラだろうという読者一同の予想を華麗に裏切り、最後の最後まで本筋に絡んでこなかった人物だ。
クルワッハ侯爵家は可もなく不可もない立ち位置で、ワインの産地として有名な長閑な領地を経営している。侯爵家としては下位も下位で、良くも悪くも争いとは無縁の家柄だ。
さて、ではミアベルと私自身の身を護るために誰の庇護下に入ろうかと言うと、エカテリーナは論外だし、レムナントも不安が残る。エカテリーナは彼女自身が嬉々としてミアベルを弾圧するタイプなのは言うまでもない。レムナントは原作に出てこないので性格的なものは不明だけど、噂だと物静かな令嬢だと聞くし、彼女のクルワッハ侯爵家がアシュタルテ侯爵家と事を構える気概があるとはとても思えない。
詰んどるやんけ!と言うことなかれ。実はもう一人だけ同学年にプリムローズの対抗馬が存在する。
彼女は原作の主要キャラなので、人となりは良くわかっているし、原作通りならばアシュタルテ侯爵家に対抗できるだけの力を持っているのも確かだ。
その人物とは、イオ・キサラギ・フレンネル伯爵令嬢。
東方の流れを汲む和風情緒あふれる一族であり、原作読者からの支持も篤い人気キャラだ。
艶やかな黒髪、温厚篤実な佇まい、清楚で可憐な物腰とちょっぴり天然さんな一面を併せ持つ、あざといくらいの大和撫子である。
フレンネル伯爵家は所謂辺境伯であり、この国の『北の要』がアシュタルテならば、『東の要』がフレンネルだ。お察しの通り『四大貴族』の一角でもあり、その権勢はアシュタルテにこそ一歩及ばないものの、下手な侯爵家であれば難なく蹴散らせるくらいには強い。
イオ本人は穏やかな性格ながら義侠心が強く、原作ではプリムローズやエカテリーナに弾圧される平民階級の学生の強い味方となっていた。主人公のミアベルの窮地を救ったことも一度や二度ではない。
だから、たぶん特別なことはしなくてもイオはミアベルのことを守ってくれるのだと思うのだけど、今のミアベルには私というコネがあるので、ただの庇護対象ではなく私共々、仲の良い友人としてイオの傍に居させてもらおうと考えたのだ。
つまり、ミアベルの今後の平穏は私がイオと上手く友好関係を結べるかにかかっている……!
なぁんて言うと利害関係だけでイオに近付こうとしているような印象になってしまうが、まあそんなのはぶっちゃけ建前と言うやつで、本音は大好きな原作キャラであるイオと仲良くなりたいって言う私欲塗れなのは言うまでもないのだけど。
ちなみに、フレンネル家の茶会には何度かお呼ばれしているので、私とイオは既に顔見知りではある。この親睦会を通して、知り合いから友人にステップアップしよう、というのが今日の私の目的なわけ。
意気揚々とイオの姿を探して歩いた私は、彼女を見付けて、再びあのセリフを吐く羽目になる。
「なんで……?」
いやほんとなんで?
広い会場だけど、イオの美しい黒髪は目立つので見付けるのは難しくなかった。
問題は、見付けた彼女の横に、あまりにも印象的な真っ白が居たことだ。
なんかそのモノクロの配色にすごい既視感を覚える。
白い長髪を背に流す、異常にちっちゃい人影は、誰あろうプリムローズその人に他ならない。
原作通りの不機嫌な顔をしたプリムローズが、これまた原作通りに穏やかな微笑を浮かべるイオと談笑しているのだ。イオの背後には使用人の代わりに取り巻きの子爵令嬢が二人。彼女らはフレンネル家に仕える家系であり、原作でもその立ち位置に居た覚えがある。
対するプリムローズは原作でお馴染みだった取り巻きは一人も連れず、原作では見たことのないメイド二人を背後に控えさせている。
ほんとなら、私がまさにあそこに居たはずなんだよね……。
最初の決闘イベントや、そのあとのガイダンスでも違和感だったのだけど、ここまで来ると流石に一つの予想が頭を過る。
あのプリムローズ、もしかして私と同じような存在なのでは?
平たく言えば、前世の記憶持ちの転生者が私以外にも存在している可能性。
私自身という例がある以上、同じような存在が居るとしても不思議ではないはずだ。
もしそうならば、彼女が原作とは違う行動を取っているのも頷けるのだけど……。
「うーん。でもなぁ……」
私は悩む。
あそこでイオと会話するプリムローズの姿が、まったく原作から乖離しているのかと言われると、必ずしもそうとは言えないのだ。
だって、原作は当然主人公のミアベル主軸に物語が進行していたので、彼女が知らないところで、裏でイオとプリムローズが会話していた可能性は否定できないのだ。
さらに言えば、これも私がイオの庇護を得ようとした理由の一つなのだけど、原作においてイオという女の子は、殆ど唯一と言っていいプリムローズが敵対的でなかった人物なのだ。
といっても友好的だったわけではなく、言うなれば愛玩動物的な扱いだったけど。
原作でのイオは、幼い時に他家の令嬢から黒髪を理由に無体な扱いを受けたことがトラウマになっていて、周りとは違う己の黒髪を密かに嫌っていたのだ。
誰もが認める美しい容姿を持ちながら、その実、誰よりも自分自身が嫌いというイオの鬱屈したコンプレックス。それは自らの矮躯に激烈なコンプレックスを抱くプリムローズにとっては一方的なシンパシーの対象であり、プリムローズはそんなイオに酷く歪んだ好意を抱いていたのだ。
だから、プリムローズが表面上友好的にイオに絡んでいくのは、実は原作通りの光景とも言えてしまうのだ。
イオは内心を隠すのが上手な女の子なので、プリムローズに対しても表面上は友好的だったし。
ああやって見た目穏やかに談笑していたとて、二人ともがある意味ポーカーフェイスなので、腹の内で何を考えてるかなんてわかりやしない。プリムローズがメイドを連れているのだって、私の行動のせいで彼女の本来の取り巻きが消滅しているのだから、別の手足を用意するのは当然のことだ。いかにもプリムローズが好きそうな、若くて美人なメイドだし……。
なお、ここでいう好きそうは虐めて楽しんでそうって意味だけど。
「ぐぬぬ」
今ここでプリムローズに突撃して『夜明けのレガリア知ってますか!?』って訊ければどんなに楽かと思うのだけど。
それをするには、もしそうでなかった場合のリスクが高過ぎる。
だって、あのプリムローズがもし原作通りの性格で、私のせいで取り巻きが居ないのでたまたま大人しくしているように見えるだけだった場合、不用意に変なことを訊けば、間違いなく私は目をつけられる。
そうなれば、絶対碌なことにならない。
話し掛けた瞬間にプリムローズの不機嫌顔が、彼女の代名詞でもある通称『ゲスロリスマイル』に変わったりした日には、私はその場で泣く自信がある。普通に、冗談抜きで、ある種のトラウマなのだ。あの笑顔が。
それに私が目を付けられるのは最悪しょうがないとしても、私が自分勝手な理由で友人になってもらったミアベル達にまで累が及ぶのは耐えられない。
うん。今は大人しくしておこう。彼女らも親睦会の間中喋り続けるわけじゃないだろうから、プリムローズが去ったタイミングでイオに話し掛ければ良いだけの話である。
俯いて考え込んでいた私は、消極的な結論に至る。
と、そこでにわかに前方が騒がしくなったことに気付く。
「ん?」
顔を上げた私は、さっきまで見ていたイオとプリムローズの付近に、人影が増えていることに気付く。
燦然と輝く金髪が特徴的な、派手な存在感を有するあの美男子は――
「げぇ!?カーマイン様ァッ!?」
同級生男子の二強の片割れ。
ここリヒティナリア王国の隣国、ガルムの王太子であるカーマイン・ラハ・ガルム殿下の姿であった。
2021/5 爵位制度の説明を追加。四大貴族の記述を追加。アシュタルテ侯爵家の権勢にテコ入れのため。




