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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
一章_魔法学院と黒い森

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15話_side_Le_回想



 ~"懐刀"レキ~



 私の名はレキ・ストラト・ラヴィエ。

 ラヴィエ子爵家の三女。


 ラヴィエ家は代々、フレンネル伯爵家に仕える一族だ。その始まりは王国の歴史より古く、もともとは単にフレンネル家の従者の家系だったものが、戦功を立てて爵位を得たのだと伝えられている。

 ラヴィエ子爵領はフレンネル伯爵領と隣接しており、現代でも伝統的に主従関係が続いているのだ。


 私の場合は、物心ついた時には既に、フレンネル家の長女であるイオ様の従者となることが決定付けられていた。私には二人の姉と、一人の弟が居て、弟は私と同じく、既にイオ様の弟君の専属従者となることが決まっている。

 我が家にとってフレンネルに仕えることは存在意義であると同時に誉れだ。

 フレンネル家に同年代の御子が居られない姉上達には専属の主が居らず、私と弟はひどく羨まれたものだ。


 私が主であるイオ様と初めてお会いしたのは、十歳の頃だった。これも伝統的に、十歳までの間は従者として、同時に貴族令嬢としてのあらゆる教育を施され、十歳からは主の御傍に控えることとなっているのだ。

 それまで、お名前とお噂でしか存じ上げなかったイオ様と初めて対面し、私は、ほんの一時で彼女を生涯の主と定めた。

 フレンネルの方々はどなたも大変すばらしい人格者であられるが、イオ様もその例に漏れず、私と同年齢とはとても思えない立派なご令嬢だったのだ。


 強く、優しく、美しい。

 目下の者にも分け隔てなく、礼儀を忘れることなく接し、だけど甘いだけでなく凛然とした強さと厳しさも兼ね備えておられる。

 齢十歳にして優れた魔法技量を有し、剣技においても非凡な才覚を示された。


 一族の使命を抜きにしても、私にとって素直に尊敬の対象であり、彼女の力になりたいと心の底から思ったのだ。





 そんな敬愛するイオ様には、どうやら想い人が居るらしい。


 私がそのことを知ったのは、日常の何気ない会話の中でだった。

 十歳の時分には既に優れた魔法使いであられたイオ様は、しかしそれ以後も弛まぬ努力を続け、常にご自身を高め続けた。大人顔負けの実力者となられても尚揺ぎ無く、誰に称賛されたとて穏やかに謙遜なさるのみで、決して自らを誇ろうとしない。

 それはイオ様の美徳だと思うが、同時にあまりにも目指す頂が高過ぎるのではないかと心配にもなった。

 故に、私はイオ様に問うたのだ。



 ――何故、それほどまでに研鑽を積まれるのか。



 そうすると、イオ様は淡い笑みでこう仰るのだ。



 ――あのお方に、少しでも追いつきたいので。



 まさかそういう答えが返ってくるとは思わず、私はイオ様の前で無様に混乱してしまったのを覚えている。

 それはどこのどなたなのか、という私の当然の疑問には、イオ様はやんわりと『わたくしが心からお慕い申し上げているお方です』とだけ教えて下さった。

 私の同輩であり、イオ様のもう一人の専属従者であるソシエに心当たりを訊いてみても、皆目見当がつかないと言う。

 イオ様と交友関係がある他家の令息には数人心当たりがあるが、失礼ながらその誰もがイオ様に見初められるほどの才覚をお持ちとは思えなかった。少なくとも夜会などでイオ様が彼らとお会いした際にも傍に控えていた身としては、『あのお方』について語られた際の淡い微笑みを向けられた者は一人として居なかった。


 年齢不相応に優れた魔法使いであるイオ様が目標とされる方なのだから、もしかして年上の令息なのではあるまいか、と予想して姉上に心当たりを訊いてみたこともあったが、やはり姉上達にもわからぬとのこと。

 それから年を経るごとにイオ様は目覚ましい成長を重ねられ、その美しさと優秀さに磨きを掛けられていった。

 私とソシエもそんなイオ様に置いて行かれないように切磋琢磨し、従者としても一令嬢としてもそれなりの存在には成ったと自負している。無論、まだまだ未熟者の身であることは重々承知だし、イオ様を見倣って常に自身を高める努力を怠りはしない。



 イオ様の想い人の正体はようとして知れぬまま、ついには『王立エンディミオン魔法学院』に入学する日が来た。

 当然、私とソシエもイオ様と同じように入学し、学院でも彼女の御傍に仕えることとなる。

 学院のルールに則って、イオ様や私達もそれぞれが二名ずつの使用人を実家から同行させるが、彼女らは基本的に寮の私室の管理や裏方に徹し、イオ様の御傍には公私を問わず変わらず私とソシエが付くことになる。



 学院に到着してから、イオ様のご様子が少し、と最初に気付いたのはソシエだった。

 彼女に耳打ちされて私もイオ様のご様子を窺ってみると、なにやら、周囲を気にされているようだった。


 まるで、誰かを探しているかの如き姿に、私達はすぐにピンときた。

 例の『あのお方』を探しておられるのだ、と。


 私達が当然のように『我々もお手伝い致します』と申し出ても、イオ様にはやんわりと断られてしまう。

 なんでも、『わたくしがこの目であのお方を見付けたいのです』と。


 なんといじらしく、健気なのかと私は震えた。

 その時に頬を染めて恥じらうイオ様の可憐さと言ったらもう、後世に記録として残しておきたいくらいだ。

 だが、今年度の入学生だけをとってみてもかなりの人数なので、入学式典で学生が一堂に会しようとも、全員の容貌を把握することはとても叶わない。結局式典を終え、ガイダンスを受けるまでもイオ様は変わらずお可愛らしく控えめに想い人の姿を探し続けておられた。



 そしてガイダンスを終え、講義棟を出たところで、ついに見付けたのである。



 最初は、なにやら声の大きい男子学生が居るなと思っただけだった。

 どうやら上級生が新入生に絡んでいる様子であったが、一瞥した私は特に介入する必要性を感じなかった。というのも、絡まれているほうの新入生の外見が、あまりにも特徴的だったからだ。

 イオ様のために万難を排する立場である以上、学内の要注意人物についての情報は頭に叩き込んである。無論、今年入学の新入生についても例外ではない。


 遠目なので家紋はわからないが、あの白髪に矮躯という特徴はどう考えてもアシュタルテ侯爵家の令嬢だ。

 なんでいきなり上級生に絡まれているのか定かではないが、彼女であれば自力でどうとでもするだけの力があるだろう。むしろ、相手の上級生の身が心配なくらいですらある。

 ソシエも同じ結論に至ったらしいのだが、それをお伝えする間もなくイオ様が騒ぎの渦中へと向かってしまわれたのだ。

 イオ様はとても義侠心の強いお方なので状況を見過ごせなかったのだと理解し、私もソシエも主の背に続き、



「ご無沙汰しております。プリムローズ様、ご機嫌麗しう」



 そして唖然とした。



 正直に言おう。『え?これが?』と思った。


 件のアシュタルテのご令嬢に挨拶を告げたイオ様の声音は、常よりも半音ほど高かったのだ。


 わかりやすく言えば、弾んだ声音。

 十歳の頃から常に御傍に控えていた私とソシエは刹那で理解した。未だかつてイオ様がこのような弾んだ声音で話し掛けられた相手など居ない。というか私もたぶんソシエもこんな声初めて聴いたと思う。つまるところ、この白髪矮躯の令嬢こそ、イオ様が長年焦がれておられた『あのお方』なのだと。


 小柄と評するのも余りある、それこそ十歳そこそこにしか見えない華奢な体躯に、新雪のように穢れ無い純白の長髪。大粒の瑠璃を思わせる瞳の類稀な美少女であるのに、そのかんばせは不機嫌そうに歪められていて勿体ないとしか思えない。

 家格を考えれば不自然というほどではないが、イオ様を前にしても尊大で横柄な態度。

 正直、彼女の背後に影の様に佇んでいる美しい銀髪のメイドが想い人であると言われたほうが、余程納得できるのだが。


 鍛え上げられた従僕根性が内心の混乱を表に出すことを許さないが、間違いなく隣のソシエも私と同じく大混乱している確信があった。


 もう一度言おう。


 え?これが?


 確かに、思い返せば『あのお方』が殿方だなどと聞いた覚えはないけれど、あんな恋する乙女みたいな表情見せられたら、勘違いしますって!

 しかもよりによってアシュタルテですと?

 一体イオ様はあそこの令嬢とどこで知り合ったのか。アシュタルテ家の令嬢と言えば社交界にまったく出てこないことで有名だったのだ。というのも、身体の発育が未熟過ぎて、同年代の令嬢と並ぶとみじめな思いをするから出てこないのだ、という嘘かホントかわからない噂がまことしやかに囁かれていたのだが。

 本人を見た限りは半分本当で半分嘘という印象。

 確かに噂通りの矮躯であったが、だからといってコンプレックスを抱くような性質には見えなかった。少なくとも、イオ様との会話を聞いていた限りでは。

 八年ぶり、と仰っていたからには、私やソシエが御傍に付く前に既に会っていたということなのだろうが、ということはもしかしてその頃はアシュタルテのご令嬢も人前に出て来ていたのだろうか。


 というか本当に八年ぶりで、その間一切交流が無かったみたいな口ぶりだったけど、その思い出だけを心の支えにしてあれほどまでに頑張り続けられるって、イオ様、貴女一体どれだけ一途なのですか。そんなところも大変素敵ですけど!



 そんなこんなで混乱窮まった私とソシエはその晩、就寝するイオ様に挨拶をして辞した後、寮の私の部屋に再集合して緊急会議である。




「さてどうしたものか……」


「よりにもよって、アシュタルテですからね……」



 議題は勿論イオ様の『あのお方』こと想い人のプリムローズ・フラム・アシュタルテ侯爵令嬢について。

 私とソシエがなにをそれほど悩むのかと言うと、それは偏にアシュタルテ侯爵家の評判の悪さがあるからだ。


 あの家が強い力を持ち、王国に貢献している忠臣であるのは疑いようがないのだが、それと同時にあの家の人間は人間性に疑義があり過ぎる。曰く、変人。あるいは残忍。酷い時は外道とすら呼ばれる。



「お嬢様の、見る目を疑うつもりは微塵もないが」


「無論です」



 渋面にもほどがあるソシエの言葉に、私は間髪容れずに応じる。

 それは私達の共通認識である。

 あのイオ様がアシュタルテ様を慕っている以上、アシュタルテ様が噂で言われる彼女の一族のような非道な人物でないことは確かだ。それはアシュタルテ様の背後に付き従うメイドのあの敬愛に満ちた眼差しを見れば、彼女がイオ様と同じく従者を慈しむお方であることは私達にだってわかる。


 だが彼女自身の人柄とはまったく関係なく、アシュタルテ家の外聞が悪過ぎる。


 清廉潔白にして義の忠臣であるフレンネル家は、その役割としてアシュタルテ侯爵家に批判的でなくてはならないのだ。

 たかがポーズとは言え、されどポーズは重要だ。

 フレンネルがアシュタルテに対する抑止力として機能せずと判断されれば、間違いなく王国貴族のパワーバランスに影響が出る。


 故にイオ様の想いは応援して差し上げたいが、フレンネル家のことを思えばおおっぴらにアシュタルテ様と懇意にするのはどう考えてもよろしくない。そして、そんなことは私達が考えるまでもなく、他でもないイオ様自身がよくわかっておられるだろう。



「お嬢様のために万難を排する覚悟でこの学院に臨んだが……」


「こういう方向性は予想していませんでしたね」



 きっと今、私達の忠義が試されているのだ。

 イオ様がアシュタルテ様とより懇意になりたいと望まれるのであれば、それを叶えるべく動くのは当然だ。

 イオ様がご実家のフレンネル家の不利に働くような真似を望むはずもないので、我らの使命は、秘密裏に、イオ様とアシュタルテ様の間を繋ぎ、逢瀬をセッティングすること……!



「よし、ボクはアシュタルテの使用人との接触を図る」


「ならば情報操作は任せて下さい」



 こんなこともあろうかと、私達が実家から同行させたメイドはそもそも工作を得意とする裏方担当の者達だ。ラヴィエ子爵家の総力を結集し、イオ様の望む学院生活を創り上げて見せる。それこそ従者の本懐である!

 私はソシエと固く視線を交わし、明日からの学院生活に決意を新たにするのであった。




2021/5 細部の描写を修正。

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[一言] 知らないところでどんどん方向がおかしくなっていく
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