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ハヤブサトテガミ  作者: とべる
8/15

バンド

ほとんど話したことないのに。どうして急に。

おれはその日カイロから手を離せずにいた。頭の中は終始ぼんやりしている。何も手につかない。

気がつけば終業のチャイムが鳴っていた。もう仕事終わりか。おれは無意識に立ち上がり荷物をまとめた。

「お、もう帰るのか?」

同期の早島が声をかけてきた。

「うん。」

抜け殻のように返事をして立ち去る。

「先輩、今日は帰るの早いですね。奥さんとご飯でもいくんですか?」

続いて気になる彼女が声をかけてきた。本当に今日どうしたんだ?なんでこんなに突然話しかけてくるんだ。

「いや、とくになにもないんだけど、なんとなくかな。」

「ふーん。あ、カイロ温かかったです?」

「あ、うん。ありがとね。」

「いえいえ!」

「じゃあ。」

「はい!お疲れ様です!」

胸の高鳴りが止まない。りなちゃんとの恋をこじらしてそもそも女性との接し方に慣れてない。そんな中気になる彼女にこれだけ話し掛けられちょっとどうすれば良いかわからなくなっていた。

会社を出るとすぐさま仕事のことは忘れようと音楽プレーヤーで好きな音楽を聴く。いつもはジェイソンムラーズやマキシマムザホルモンとかを聴くのだが、今日はなんだかそんな気分ではなかった。

不意に指が勝手に選んだ。

イヤホンからは軽快にドラムのタムの音が鳴った。

そのあとギターがカッティングで入ってくる。そして高温のボーカルが切ない歌詞を軽やかに歌い上げる。

懐かしい。何でこの曲を今選んだのだろう。それは高校時代軽音楽部に打ち込んでいたとき1番コピーしていたバンド、スピッツの曲だった。

『誰よりも早く駆け抜けラブと絶望の果てに

君を自由にできるのは宇宙でただひとりだけ』

8823

スピッツで1番お気に入りの曲だった。



あれは、10年近く前のことだ。

りなちゃんに告白することなく5年間の初恋を終え、新しい未来へ走り始めた。高校1年の春。おれは恋愛をこじらせた代わりに、もうひとつ恋愛と同じぐらい心を踊らさせられるものと出会う。

バンド。

入学式。周りに知り合いは誰もいなかった。おれは1組になり同じ中学だったやつが8組と9組にはいたがどいつもそこまで話したことのないやつばかりで実質ひとりみたいなものだった。何も話すことのない中、周りを見れば中学から仲が良かったであろう人もちょくちょくおり、入学式当日からほとんどの人は誰かと話をしていた。

おれは入学式は黙り込んだまま終え、教室に戻りこれから担任になる先生の話をうつらうつら聞いた。おれは真ん中の1番後ろの席だった。ちびまる子ちゃんのまる子と同じ席だ。

「では、今日はここまで。また明日からよろしく。」

先生がそう言うと教室を出た。今日は午前中で終わり。さっさと帰ろう。そう思い、席をたった瞬間、

「おい。」

前の席のやつに肩を掴まれた。でかい。

実は入学式の時もおれの前にいたから思ってはいたがでかい。高校生にしては大きい。185はある。しかも真っ茶色の髪を上にワックスで思いっきり立たせて顔立ちはハーフのようだ。あまり大きくないおれは当然のようにびびった。

「なに。」

「バンドやろうぜ。」

一言目がそれだった。さらにびっくりした。


翌日。この日も授業は午前で終わりだった。午後からは部活の見学会だった。どこにいっても良かったのだが、おれは昨日ある男に捕まってしまったのでいくところは決まっていた。

「黒崎、いくぞ。」

「はいはい。」

舎弟のようになっているのが気に食わなかった。だけど、正直受験の時から少し興味はあった。この高校にある軽音楽部に。

部室へ向かうとそこには大量の高校デビューのようなチャラそうな1年生と正反対にアニメオタクのような1年生で埋め尽くされていた。何人かは同じクラスであろう人たちもいた。

「すげー人だな。」

「うん。」

♪~

音が聴こえる。

「1年生のみなさん!今からミニライブをやります。どうぞ中に入ってください!」

メガネをかけたらロン毛の男が言った。話をしている感じで部長であることがわかった。

そしておれたちは部室の中でライブを見ることにした。演奏がはじまると二人とも一気にその音に引き込まれた。素晴らしすぎる。一瞬でバンドをやることを決意した瞬間だった。

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