お宅訪問
あれからどれぐらいの時が経っただろう。
あのあと高校に入学し、そこで軽音楽部に入部した。人生ではじめてバンドという熱中できるものに出会った。バンドは本当に素晴らしいものだった。だから、当初思い描いていたものとは違い、恋愛なんてものは一切せずただひたすらにバンドだけで高校三年間を生き抜いた。
しかし、高校も卒業すればそのバンド熱もどこかへ行き、大学生になるころには地域のボランティア活動に参加することに意義を感じるようになった。軽音楽部からの反動が一気に大学で来たような感じだった。
大学の4年間は本当に自由な時間だった。中学生の恋愛、高校生のバンド熱中。それがなくなった今、おれは勉強をそこそこ行い、週に3日は地域のボランティア。家に帰ればぐーたらするという毎日を過ごしていた。ぐーたらしていても大学では真面目に授業も受けていたからか母親から注意されることはなかった。
そんなある日の休日だった。家にはおれひとり。何にもない日。昼間、おれはリビングで意味もなくバラエティ番組を無意識に見ていた。
ぴんぽーん
突然インターホンが鳴った。宅配便か?何も頼んだ記憶はないけどな。
「はい。」
インターホンを除きこんで驚いた。そこに写っていたのは藤島とあの、中学時代恋をしていたりなちゃんだったのだから。
「ど、どういうこと?」
「いいから入れなさいよ。」
藤島が力強く言うのですぐドアを開けた。
目の前に女性が二人。
「どうしてここに?」
「いいじゃん、家も隣なんだし。見られて困るものなんて無いでしょ。」
「無いけど。」
藤島の後ろに隠れるように立つりなちゃん。おれはりなちゃんにしか目がいかなかった。二人はどういうつもりなんだ。
「何年ぶりかな?」
りなちゃんが俺に話しかけた。
「な、何年だろうね?」
なんて話せばいいのかわからない。
「ふたりとも固いなぁ。まあとにかく入った入った。」
「ここはお前の家じゃねえぞ。」
「わかってるって。」
藤島とも会うのは中学生ぶりのはずが、一応すれ違う程度はしていたからか今藤島がどういう風な姿になっているかは知っていた。だから緊張はしなかった。でも、リビングにおれの初恋の女性が今いる。それは考えるだけで頭が爆発しそうだった。
「あ、ちょっと忘れ物とってくる。」
突然藤島がそう言い出し、玄関を出た。
「すぐもどるー!」
いかないでくれ!
まずい。気まずい。急にこれはどういう状況だ。二人とも少し顔を赤らめて黙り込んだ。
何か会話をしないと。そうは思っても言葉が出てこない。