ラストチャンス
「藤島?」
いつもならりなちゃんと二人でいるはずなのに。
「黒崎。」
藤島はどこか寂しげな顔で立っていた。
「残念だけど今日はりな来ないよ。」
「は?」
心臓の鼓動が激しい。
「わかってるんだよ?黒崎、りなのこと好きだったんでしょ?しかもずっと。」
「だ、だれが」
「ま、学校じゃ全然そんな感じ出してないし誰も気がついてなかったと思うけど。私はわかるよ。ここにいればね。」
「ちげーよ。」
「ちがくないよ。だってここで会うときあんた、いっつも顔真っ赤だし私とは目が合うのにりなとは一切目を合わせてなかったよね?しかも5年も。」
図星だ。恥ずかしくて無言で立ち去りたい。学校でのキャラと家でのキャラ、1人での立ち振舞い。今おれはどのスタンスで藤島と会話すればいいのかわからなくなっている。
「べつに誰にも言いふらす気ないし、どうせそれぞれ別々の学校に進学するんだし知ったこっちゃないけどさ、」
藤島は何故か不満げに話し出した。
「あんたはそれでいいわけ?」
「え?」
「5年間も想いを胸にしまっておいて平気なわけ?」
「べつに、好きじゃないし。」
平気ではなかった。学校も離ればなれになるし。だけど、どうしようもない。
「あっそ。好きじゃなかったんだ。私の勘違いか。残念だなぁ。」
「残念?」
「だって、もしあんたがりなのこと思ってたら恋の三角関係が出来上がってたのに。ほんと残念。」
「どういうことだよ。」
「さあー?」
藤島が不意にいじわるに話を進めだす。こいつ、こんな感じだったのか。りなちゃんのことしか見てなかったから藤島の性格なんてまったく興味を持とうともしていなかった。
「気になるなら確認してくれば?」
「どうやって。」
「今なら野球部のやつらとりなと何人かの女子で緑公園で話してるはずだよ。」
「ふーん。」
内心そこに今すぐいきたくて仕方がない。でも野球部のやつらがいるんじゃいきにくい。これがラストチャンスかもしれない。それはわかってる。だけど、
おれはエントランスの中に向かった。やっぱりいけない。
藤島の横を通りすぎエントランスに入ろうとしたとき、
「そういや、藤島は公園にいかなくていいのか。」
気になったので聞いてしまった。すると藤島は黙った。
おれはどうすればいいのかよくわからなかったのでそのままマンションの中に入った。
自分の部屋に着き、部屋のドアを閉める。胸の鼓動がますます激しくなる。
どういうことだ。三角関係っておれはりなちゃんしか好きじゃない。三角ってあと1人誰だ。そもそもそその三角関係のおれはどのポジションなんだ。三角関係ってなんだ。わからなすぎる。
公園にいくか?でも今でていけば藤島とすれ違う。そしたら、おれがりなちゃんを好きだってことを認めるようなもの。いいのか。いや、もう会うこともないしいいんじゃないか?いやいや、学校は違っても藤島とは家が隣だ。会うこともしょっちゅうあるかもしれない。
迷いに迷った。この時間さえさっさと進んでくれればこんなこと考えずに済むんだ。明日になれば。どうせりなちゃんは高嶺の花だ。
おれはすぐにベッドに潜り込んだ。そして、意識がはやく遠のくように無心になった。
不意にぴんぽーんとインターホンが鳴った。
胸がどきっとした。誰だこんなときに。母親か?宅急便か?わからないけどとにかく無心だ。
いいぞ、意識が遠のいてきた。忘れよう。すべて。明日から春休み。そして4月からは新しい1歩だ。りなちゃんなんか存在してなかったことでいい。おれの記憶から消そう。
そう思い、眠りについた。
「レイジ鳴ってるわよー。」
母親の声がかすかにする。でももう、聞こえなくなる。