休み時間
「いい加減にしてー!」
怒りのこもった声がする。学校での休み時間。教室の後ろの方で男たちが束になって一人の女子を囲んでいる。怒りの声を発している女子。彼女こそ初恋のりなちゃん。一見女子一人に大勢の男子が囲んで異様な光景に見えるが、これぐらいの時は男も女もなかった。むしろ女子の方が男子よりも力も心も強いぐらいだ。
それにみんな本気で嫌いで彼女を囲んでいるわけではなかった。ただ、みんなりなちゃんのことが好きだった。ちょっかいをかけているだけだ。りなちゃんだってそれはなんとなくわかっていた。自分はモテているのだと。だから怒りながらも毎日休み時間男子たちの相手をしていた。
りなちゃんがスカートを履いてこようものなら誰かがスカートをめくろうとする。そして、そこからこのような光景へと発展する。おれはそれをいつも遠くからみていた。正直、混ざりたいなぁ。いいなぁ。としか思っていなかった。
「レイジ!お前もこいよ!」
クラスの中心人物の男子が俺に声をかけてきた。なぜかはわからない。だけど、おれは少しその言葉を待っていた。いつか加勢したかった。
おれはとことことその輪のなかに入った。
次々と男子がりなちゃんに襲いかかり、なぎ倒されては馬乗りにされてほっぺをつねられる。10歳少々だから可愛いもんでこれがいい年こいた大人だったら本当に大変な光景だ。
みんな次はおれだおれだと言わんばかりに順番を待ってる。おれも興奮を抑えながら待っていた。
りなちゃんはまた1人男をなぎ倒し思いっきりほっぺをつねっている。
「いたたた!!」
男子は痛がりながらも喜ぶ。りなちゃんは構わず次は誰だと辺りを見渡す。
ふとおれと目があった。思わず目をそらす。りなちゃんはじっとおれを見ているようだった。そしてこっちへ向かってくる。おれは何も言葉を発せず気がつけばこかされていた。そして、りなちゃんに馬乗りにされ、ほっぺをつねられた。そのあと、
「めずらしいね。」
行動とは裏腹に優しい声が耳元で聞こえた。
なぜだかその言葉にどきっとした。
ちょうどチャイムが鳴った。
「席につけー。」
先生が言う。おれは仰向けのまま動けなかった。
放課後。1人ランドセルを背負って下校した。
おれが暮らすマンション近くまできた。いつもこのあたりで心がざわつく。なぜならこの帰り道にはある秘密があるから。
「おかえり。」
おれのマンションのエントランスにはほぼ毎日彼女が待っているのだ。
「あ、うん。」
「ねえ、どうして今日はあそこにいたの?」
りなちゃんだ。
「わかんない。」
素っ気ない態度しかとれなかった。
「ねえりな、黒崎のやつ照れてるよ?」
横の女子がおれの顔をみてからかう。彼女は藤島愛。みんなからはあいちゃんと呼ばれている。顔はそれなりに整っていてきれいなのだが、少し口が悪い。だからこの顔にしてはモテない。だけど、おれは彼女に感謝してる。なぜなら、彼女はおれの幼馴染みでおれの家の隣に済んでいるから。しかも彼女はりなちゃんの一番の親友なのだ。だから毎日このエントランスでしばらく二人お喋りしてから別れるらしい。かなりの高確率でおれはそこに遭遇している。
「また明日ね。」
りなちゃんが小さく手を振る。とてもじゃないが手を振ることはできなかった。
「うん。」
それしか言えなかった。