表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子高生に拾われる話。  作者: 悠生ゆう
7/7

オマケ そして私はクビになる

「碧依!」

 頭の上から怒鳴り声が響いて、私は重たいまぶたをこじ開ける。

「ん? 朝? 散歩?」

 ぼんやりした頭に手を当ててゆっくりと体を起こす。昨日は精神的にも肉体的にも疲労したから、まだ疲れがとれていないような気がする。

「そうじゃなくて、どうしてここで寝てるの!」

 ようやく目の焦点が定まってきた。琥珀が顔を真っ赤にして怖い顔をしていた。

 昨日、彼と別れ話をしに行き、そこに琥珀が駆けつけてくれた。

 広瀬家に戻り、私は琥珀の部屋で一緒に寝ようとしたのだけど、素気無く断られてしまったから、しばらく時間を置いて琥珀が眠ったころに部屋に侵入したのだ。

 別に夜這いというわけではない。

「琥珀の側で眠りたいなと思ったから」

 私は素直に心境を伝える。昨日の琥珀はかっこよくてかわいかった。

「もう一緒には寝ないって言ったでしょう!」

 琥珀はなんだかすごく怒っているようだったけれど、私はそれよりもピョンと跳ねている琥珀の前髪が気になった。琥珀がしゃべるたびに、跳ねた前髪がぴょんぴょんと動く。

「んー、でも……」

 私は手を伸ばして琥珀の跳ねた前髪を抑えた。

「なに?」

「前髪、跳ねてる」

「え? ホント? って、そうじゃなくて」

 私は跳ねた前髪を直すように琥珀の頭を何度か撫でる。

「一緒に眠ったこと?」

「そう」

 琥珀は頭を後ろに引いて私の手から逃れると、自分の手で前髪を抑えた。

「犬ってそういうものでしょう?」

「だって碧依は……」

「琥珀の犬でしょう?」

 すると琥珀は髪を抑えていた手をグッと握ると手を降ろした。琥珀自身のようにめげない前髪は、またピョンと跳ねる。

「もう、それナシ」

「え?」

「碧依を犬にするの、もう止めた!」

 琥珀の言葉に、私は悲しい表情を作って上目遣いで琥珀を見る。

「琥珀は、私を捨てるの?」

「ち、違う。捨てるんじゃなくて犬はもうクビなの!」

「私、犬じゃなくなるの?」

 琥珀はコクンと頷いた。

 それと共に大きく揺れる琥珀の前髪に私は再び手を伸ばした。そして笑みを浮かべて尋ねる。

「琥珀の犬でなくなるのなら、私は琥珀の何になるの?」

 すると琥珀は目を丸くして、口をパクパクと動かした。

「犬でなくなるのなら、もう『待て』は聞かなくてもいい?」

 私はさらに問い掛けながら、髪を抑えていた手をゆっくり下にずらしていき頬に添える。

 琥珀の顔がみるみる赤くなって、体がプルプルと震え出した。

 そして「散歩!」というと勢いよく立ち上がる。

「散歩行ってくる!」

 琥珀はそのまま逃げだすように部屋を飛び出した。

「ちょっと、待って琥珀、私も行くから」

 ちょっとからかいすぎたかなと反省しつつ、私は琥珀の後を追う。

 琥珀の『待て』にそう長く待てないと思ったけれど、さすがに一日も待てないなんて、われながら堪え性がなさすぎる。

 そうして私は琥珀の犬をクビになった。



   オマケもおしまい


最後までお読みいただきありがとうございました!

お楽しみいただけたならうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ