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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢は出落ちする~ヒロインは居た~

作者: 堀井和神

これまた勢い余りました。

「キャロライン・グリーデル公爵令嬢。今日、この場に於いて僕は貴女との婚約を破棄する!」

 朗々とした声がダンスボールに響いた。

 キャロラインがダンスホールに姿を出でさせた途端の出来事だった。


 今宵は卒業パーティー。色とりどりなドレスを着た紳士淑女が一同に会する一大イベントだ。

 キャロラインの婚約者である、この国の第1王子ことオブライアン・メリックがホールの中央でパーティー開始早々の宣言だ。

 オブライアンの周りには、宰相候補のヘルナンデス・アーキラ侯爵子息、近衛軍団長の息子であるメルクオーレ・ウラールビッチ伯爵令息、魔法省長官の息子であるルクレッツア・イザーロン子爵令息。

 そうそうたるメンバーだ。まさにテンプレート。

 中央に進むキャロラインと相対する王子たちを中心に輪ができた。


 その光景を見た彼女の感想は、何故断罪イベントが発生しているかということだった。

 うわーとも、うげぇーともとれる非常に複雑な顔をして、ことの推移を見守っている。王子達自殺願望でもあるのという心情で。


 輪の一番外から、ぴょこんぴょこんと飛び跳ねて中央を伺い、カツラがずれたのに気がついて、あっまずったと髪を押さえて直す彼女は、この乙女ゲームの主人公(ヒロイン)である。

 10歳の魔力を目覚めさせる洗礼式で、眩い光に包まれた彼女は前世の記憶を思い出し、3日3晩熱にうなされた。

 朦朧とした意識の中、父親が大公閣下にどう言い訳すればいいのだといい、母親が大丈夫としきりに父親をなだめすかしていたのを聞いて思ったのは、ゲームっぽい設定だなーというくらいだった。

 この世界が乙女ゲームではなく、ファンタジーなゲーム世界に転生しただけと思っていた。よくよく考えれば、壮大なバックボーンがある時点で奇怪しい筈なのに、朦朧とした意識ではそこまでの考えに至っていなかった。


 彼女の名前はアレクシス・モンロー。大公爵領の騎士団に勤めている騎士爵の娘で、3歳下の弟がいる4人家族の長女だ。

 母は、大公爵の城に勤めていたメイドで、結婚を機に職場を辞めた。その時にはアレクシスを身ごもっていたとか。馴れ初めは詳しく語ってくれなかったが、今が幸せそうならほじくる事もないだろうとタカをくくっていた。自身が乙女ゲームの主人公だと気がついたとき、なんであの時もっとクワシクと迫らなかったのかと自分を罵った。後の祭りだった。


 アクレシスがこの世界が乙女ゲームであると知ったのは、13歳の時だ。

 親に内緒で12歳の時に冒険者ギルドに登録し、薬草を集めて練金でポーション作りをしつつ今後の進路を有意に進めようと奮闘してから1年経った時だった。

 漸くレベルが中級ポーションへの道が見えてきた頃、冒険者ギルドへ作ったポーションを納品しにいった時に聞いた話からだった。

 曰く、良質なポーションが大量に出回ったことで初級ポーションの相場が下がっている。作ったのは公爵家令嬢で、名をキャロライン・グリーデルという。だから今回の買い取り価格は~と値切られた帰り道のことだ。

「なんだよ、キャロラインって公爵令嬢なのに練金やってるって、令嬢ならダンスや社交で舞っていればいいのに。キャロラインめぇ、私の育成が捗らなくなるじゃないのーキャロラインめぇ、ああキャロライン……ん、キャロライン?どっかで聞いたような……」

 この後の買い出しをすっ飛ばして家に帰り、母親にこの国の事を聞いた時、アレクシスは確信に至った。

 あ、これ、乙女ゲーだと。

「しかもヒロインじゃないですか、何やっている私と。アレクシスって名前、そのゲームで主人公(ヒロイン)に着けた名前じゃないの」

 なぜ気づかなかったよと、ベッドの上で転がり捲くって、親に叱られた。弟には笑われた。


 翌朝、乙女ゲームの事を詳細に思い出すにあたって、アレクシスは自分がとても残念な娘であるのを思い知った。

 天真爛漫で誰にもやさしくて、慈愛の精神の持ち主がヒロインだ。

「私にそんなのあるわけない。そんな聖者の心なんて持ってない、ありふれたどこにでも居るような娘」

 前世の記憶を持っているが故にでもある。

 前世(むかし)を知らなければ、そういう娘になったのだろうか。考えても仕方がない。

 下手に知識を持っている所為でもあるし、幾らイベントが何時おこって、ベストな選択が解っていようとも、巧く演技なんかできるはずはない。知らなければ、その時の感覚で喋ったのだろうが、知ってしまえばそれはもう相手を見下しているようなものとアレクシスは判断する。

 そういう思考ができる時点でいい娘っぽかった。

「イベントなんかこなそうとしたら絶対ボロがでるわ。イケメン金持ちと知り合いになるのは良いとしても、相手には婚約者が居るはずだし、略奪愛なんて昼メロは願い下げ」


 アレクシスは考える。このまま行けば、15歳で学園に入る事になる。騎士爵といえど、貴族籍であり、貴族ならば学園に通わなければならないからだ。キャロラインって確か悪役令嬢だったはず。その彼女が練金でお金儲けしてる?なんかイメージと違っているような……。そういう裏設定でもあったのだろうか。確か彼女は王子ルートにおける最大の障壁で、ことある毎に突っかかってきて勝負を挑まれたりもする。この乙女ゲー、アドベンチャーだけじゃなくて、RPGパートがあってステータスが低いと積むのだっけ。今から間に合うかな。じゃーなくて、王子ルートいかなければいいだけよ。大体、騎士爵なんて一代限りの貴族だし、私は平民でいい。RPGパートでステータスあげて、適当な男性とくっつけばバッチグーよ。高望みはしない。平穏にひっそりとイベント回避を最重要課題にして過ごせばいいだけよ。卒業後の進路はステータスにかかって来る面があるからそこだけはしっかりすればいいのよ。

 当面の方針を決めたアレクシスは、何時も以上に頑張ることに決めた。


 であったのだが、キャロラインに関しての噂が、“今日はいい天気ね”という会話並に冒険者ギルドに飛び込んで来るに至って、混迷を究めた。

 曰く、欠損を直すポーションを作った。次々とダンジョンを最短記録で制覇した。

 因縁を着けた野郎が女になっていた。王都に巣くう盗賊団を壊滅して、放った台詞が、盗賊は財布よとか。

 スタンピードが起きた時には、ボーナスステージキターと嬉々として殲滅していったとか。

 キャロラインに雇われていた冒険者はレベルをあげて、公爵家に引き取られ親衛隊を作っただとか。黒いスーツ姿が異樣な圧力を醸し出しているが、女子供には優しかったなど。セキュリティーサービスかよっ。

 どこぞの悪代官を自身の身分で持って粉砕した。しかも秒単位だとか。そこは1時間かけろよと思うアレクシア。

 噂に尾ひれはひれが付くのは仕方ないが、至った結果は、キャロラインって転生者じゃないのかしらだった。

 悪役令嬢が転生者、あるあるよあるある。そして、ヒロインが“ざまぁ”されるのね。ヒロインって私よぉぉ~~~とベッドで転がっていたら、親に怒られ、弟にいい年なんだからと諭された。


 アレクシアの育成状態は悪い。同年代でしかパーティーを組めず、ダンジョンに潜ってもなんとか中層程度。少年少女が潜った中では破格ではあるのだが。

 対してキャロラインはというと制覇制覇制覇~で、レアものをほぼ独占状態。

「敵対したら絶対“ざまぁ”されるね、こりゃ」

 諦めの言葉が紡がれた。

 そもそも敵対する気はない。絶対イベントには関わらない。どのキャラとも!目標は無事に平穏に波風立てず、程々の成績で故郷(大公爵領)へ帰る事と誓いを新たにした。

 念には念をいれて髪をショートボブにした。親に泣かれた。弟には可愛くなったと褒められた。


 国中がキャロライン公爵令嬢の噂で持ちきりの中、15歳になったアレクシスは学園に入学した。

 攻略者も悪役令嬢も同じ歳で入学って、ちょっとは年齢の差つけろと制作会社に文句を垂れながら。

 念のため、どこにでも居るような茶色のカツラを被って、目立つ髪の色を隠し、やぼったい(伊達)メガネにして見た目を変えもした。


 学園では下級(騎士爵や平民)クラスで、品行方正、礼儀正しく目立たず過ごすアレクシア。

 前世の記憶があるせいか、成績で上位をとり、先生方からは上位クラスに移ってはと進められたが、必死に固辞した。

 私、やっちゃいましたと深く後悔した。

 ちょっとしたハプニングはあったが、アレクシアが目立つという事はなかった。なんせ、それ以上に話題の人物(キャロライン)が居たためだ。


 イベントは起こさない、関わらないと心には決めてはいたが、攻略者や悪役令嬢は気になるアレクシア。

 遠目で確認できる所では、覗き行為をしてみたが、やはり関わらないで置こうと更に心を決めた。

 あんなのイベントじゃない。特にキャロライン公爵令嬢が酷かった。王子との絡みはなく、別の意味で絡む男子をとても表現できないような羽目にしていた。

 それに攻略者達も乙女ゲーのような性格でもなかった。俺様王子、陰険メガネ、かまってちゃんやチャラ男という分かりやすいタグはついてない。どちらかというと心労で今にも倒れそうな感じだった。

 それなりに上げたレベルの目でしか解らないだろう、ほんの小さな差ではあるが、そのレベルに達しているアレクシアには解った。

 しかし、身分差や違うクラスでもある為、話しかけることもできない。学生は平等をうたってはいるが、恐れ多くてどうする事もできなかった。冒険では勇敢であるが、身分差には弱い小市民なアクレシア。

 関わりたくもなかったが、悶々とした結果、裏から手を廻した。もちろん極力自分が関わったことが明るみにでないように。

「最近の王子様ってお疲れのようですね」

 などと、令嬢たちにさり気なく伝えて誘導した。


 1年、2年と月日は流れる。

 学園内だけではなく、王国でも噂が持ちきりだ。

 上級ダンジョンをソロで制覇したとか。誰がとはいわない。

 反目する侯爵家が取り潰しになったとか。誰のとはいわない。

 不正をしていた商会の店舗が一夜で更地になっていたとか。いわずものがな。


 不穏な空気が国中に流れていると噂が立ったのは卒業式間近のことだった。

 国王陛下が体調を崩し、政務に姿を見せなくなった。

 次々と王位継承権のあるものが放棄しているとか。

 アレクシアは思う、キャロライン公爵令嬢の所為だと。何かが起きたら、それはどんな事も彼女の所為だと紐づけていた。

 一体彼女は、この国をどうする積もりなのかと、気づかれないよう極力こっそり細心の注意を払って探ってみたが、彼女が何かを企んでいる様子はなかった。

 何時も通りの破天荒、天上天下唯我独尊、逞しく育った攻略者たちの令嬢を取り巻き(子分)にして過ごしていた。

 アレクシアには解らなかった。上級貴族というものの繋がりや力関係が。婚約者達、キャロライン公爵令嬢を筆頭に、侯爵家、辺境伯爵家、伯爵家が一纏まりになっているが為の脅威を。しかも次代を担う若者たちは、キャロラインに物申すことができないということの意味を。


 もし、アレクシアとキャロラインの関係を知っている第三者がいれば、こう言うだろう。

「逃げて、即効逃げて、何処までも逃げて。でも、悪役令嬢(ラスボス)からは逃げられないけどね」


「聞いているのかっ」

 オブライアン第1王子が檄を飛ばす声に我に返るアレクシア。

「そうよ、とりあえずはこの行く末を確認しないと」

 耳をそばだてて、事と成りを伺う。


「僕を見ろっ僕をっ」

 なんだか王子が必死になっていた。

 ざわめきでキャロライン公爵令嬢の声が聞き取りにくい。何を喋っているのか。更に集中する。


「その、ピンクゴールドのふわふわな髪で、エメラルドグリーンの瞳をして、王子の……そうですね、顎位の高さの女の子が何故いないのですか?」

 電撃がアレクシアの背を走った。直後いや~な汗がだだ漏れだ。

 人生最初で最後の衝撃といっても差しつかえなかった。


 えっどうして、今私の事をいい出すの?何なの、強制ざまぁされるんですかー。アレクシアは心の中で叫びまくる。血液が一気に下降し、目眩を起こす。

 逃げる?脇目も振らずにこの場所から逃げ出せばなんとかなる?いえ、ここでそんなことしたら、目立って逆にお終いよー。必死の心の叫びだ。

 大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない。茶髪のカツラを被っているし、ダサダサメガネで誰も私の瞳の色なんか気にしてなんかいない。大丈夫、大丈夫、大丈夫であっていてー。身をちぢこませて必死に気配を消す。

 動いたら殺られるとばかりに、微動だにしないアクレクシア。


「なんだそれは、この場でも女あさりか」

 違います王子、ヒロインあさりです。と、突っ込みたいが言えない。言えるわけがない。


「今って婚約破棄の断罪イベントですわよね」

「断罪?なんのことだ。婚約破棄は告げたが、何故断罪なのだ。そもそもイベントとはどういうことだ」

「え、えーとですね、わたくしがその子をですね、王子と一緒になっているから苛めたりなんか色々してですね、それが積もりに積もって今日この場で、わたくしと婚約破棄とともにその罪状をあげて、わたくしを追放なりして、その子と婚約する流れ的な?もちろんそんな事をした覚えはありませんけど」

「冒険に出すぎて、何か呪いでも受けたのか?それとも酔っているのか?パーティはまだ始まったばかりだぞ」  

 キャロラインと王子のやりとりが嫌でも耳に入る。やっぱり彼女は転生者だったと確信した。

 アレクシアは、しませんしません絶対しません。今まで何もしてこなかったのに、どうしてそういうことをいうのかなー!と口に出しそうになるのを手で抑えて必死に堪える。


 その後も会話は続く。

「つまり、貴女の行動力、決断力、思考その他諸々誰も対抗できない。対抗すれば潰されることは証明されてもいる。貴女の力には誰も逆らえない。貴族社会、いや国民全員が知っている。だから明日から貴女が国王、いや女王陛下だ。あ、王配として僕を選ばないでくれたまえ。なんの為の婚約破棄か解らなくなるから」

 膝から倒れ込むキャロラインが見えた。

「漸く、漸く、貴女をギャフンといわせることができた」

 王子ご苦労さまでした。心の中で手を合わせるアレクシアであった。


 その後……。

 無事?に卒業式を終えたアレクシアは、故郷である大公爵領に戻り、冒険者家業に精を出そうとするも、両親に必死に止められて、今は大公爵のお城勤めをしていた。

 メイドにと言われたが、魔法師団に入って過ごしている。冒険者あがりがメイドなんてと、抵抗した結果だ。

 そこで、今まで躱してきたイベントが形を変えてやってきた。

 療養という名目で、元王家の面々がやってきた。ポーション作りで一家言あるアレクシアは早々に担当にまわされ、王子と出会う。

「あっ、ピンクゴールドの髪でエメラルドグリーンの瞳」

 その言葉にアレクシアは目を泳がせつつもしらを切り通すが出会ったからには、ストーリーが走り出す。

 積もり積もった何かに急かされるように2人の仲は進展することとなり、1年後、口説かれまくったアレクシアは観念して婚約。イケメンに弱かった。

 その1年後、盛大な結婚式が行われ、3男4女の子宝に恵まれるに至った。


アレクシア「あれ、これってハッピーエンド?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] ピンクさん「☺」
[良い点] アレクシアがまともな人間だったw
2020/07/24 21:35 退会済み
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