第28話 気の合うヤツ? ☆
「お、オートラル……?」
「よぅ。……ふははっ、お前……」
オートラルはアキの戦いの一部と、ボロボロの姿を見るなり、長く息を吸ってからこう言った。
「弱っぇぇえぇええなぁぁおいっ、俺そんなに弱いとは思わなかったぜ。マジで、死ぬぞお前――」
「うわぁぁあぁあああぁぁ! マジで死ぬかと思ったぁあっ、うぁぁああああ!!」
「ちょっ!? ま――」
オートラルの姿を見た途端、果てしない安心感が洪水の如くとめどなく溢れ出し、彼に向かって飛び込んだ。
「落ち着け、落ち着けって! さっきの戦いはマジで見るに耐えなかったけど……ま、助けてやれた俺に感謝するんだなッ」
「ありがとう、マジでありがとうっ、オートラルさんマジ神ですありがとうッッ」
「おう。お前の無様な姿は見たくないしな」
そう言って手の平をひらひらさせるオートラル。……ふいに幻覚の彼とその時の印象を思い出すが、今目の前にいる彼は自分の知っている通りのオートラルで、変な感じも一切しなかった。
当然といえば当然なのだが、心につっかえていた僅かな不安も解消され、同時に早鐘を打っていた心臓の鼓動も落ち着きを取り戻していった。……関わりがあるというほど彼とは関わりはないのだが、何故だか彼には自分に近い物を感じる事もあり……現時点で一番安心出来る人物だった。
「…………」
しかし先程の戦いで、一つだけちょっとした疑問が残った。それは、オートラルは先程の男をどうやって殺したのだろうか……という事だった。
なにしろ不思議なのだ。
オートラルが『見るな』と言った後……頭上をナニカが通った気がしたのも含め、オートラルの居た位置的にも何かの武器を投げる事で攻撃したのだろうが、地面には何も残されていなかった。だからといって魔法攻撃に見られる詠唱もしておらず、ユリセアと同じ無詠唱タイプなのかもしれないが……その可能性は低いように思える。
そんな事を考えながら、立ち上がるべく身を上げるアキ。同時に、先程は我慢出来た痛みが勢力を増して、電撃の如く全身に走った。
「……ッいィッ!」
「大丈夫か……?」
加えて戦いの余韻なのか、はたまた幻覚の余韻なのか、短い眩暈を起こして地面に手を付いた。
次に何度も殴られた腹部から吐き気が湧き上がり、それを我慢するよう腹部を抱えると、それだけで痛みが走った。反射で腹からどけた腕を見ると、そこにはかすれるような血が沢山ついていた。
「ぅっえ……だっ……大丈…………うわっ血が、血がいっぱい……」
「……お前、体脆いな……」
「えっ? 人間みんなこんなモンじゃ……」
「……あっ、いや何でもない。……ほらっ、ここで休んでても危険だし、お前には特別にこれやるよ!」
そう言って渡されたソレは、小さな小瓶に入った液体状のナニカだった。
「……なにこれ」
「オートラル特製・超ハイパー回復薬!!」
「えっぐい色してんだけど」
「へっへ〜っ、一度飲めば病みつき待ったナシ、最高の気分が味わえるぜ! グイッとキメちまえッ、エクスタシィー!!」
曰く回復薬らしいが、表現するならば、汚泥に血が混ざったような赤泥色をしており……どう見たって、人間が口にしてはイケナイ物である。もし大丈夫だとしても飲みたくない。
「怪しいからやめとく……」
「いやいや、冗談だって。色はヤバいけど本当に普通の回復薬だって。きっとお前が想像しているような……よくある回復ポーション的な……?」
「えぇ……? どう見ても回復する見た目じゃねーよこれ……」
「見た目はヤベェけど、強い回復薬ってだいたいみんな見た目ヤバいもんだよ」
そう言ってからオートラルは一息付き、今度は真面目な声調で言った。
「……奴らの仲間はきっと近くにいる。遭遇する可能性は高いし、そいつらはさっきの奴よりも確実に強い。お前は唯でさえ弱いんだ、少しの怪我が文字通り命に直結する……だから、折角治せる手段があるんだから、今の内に治しておいた方がいい」
彼の事を不審な目で見詰めるアキであったが、ふいに洞窟の中にあった、銀色の燐光が輝く青銀ポーション(劇毒ポーション)の事を思い出し、見た目を判断の指標にしてはならないと考え直した。
確かに、怪我していなくても勝てるか分からないのに、今の怪我では戦えるかすら怪しい。そう思った彼は、勇気を振り絞って、彼の回復薬(?)を口にした。
「うぉぉおおお?! なんだこれっ、体の痛みがみるみる消えて……!?」
――途端に、体の痛みが溶けるように消えてゆき、むしろ力が湧き上がってくるような感覚さえ覚えた。傷は完全に癒えた訳では無いが、心做しか回復したようにすら思えた。
味は……不味くも美味しくもなく、味のしない泥を飲んでいるようで非常に気持ち悪かったが、こんな世界だけど、この世界にもすごい回復薬が存在していたのかと彼は感激――
「…………だよ、な。やっぱ、そうだよな」
「……え?」
したのだが、口をついて出たようなオートラルの言葉に気が付き、今度は不安が煽られた。その声は低く落ち着いたもので、何かを考えているようにも思えたからだ。
「えっ、いやぁはは! 効いて良かったなぁってしみじみ思ったんだよ、なんたってMyオリジナル調合品だしなっ!! ……でもコイツの事は絶対に誰にも言うなよ? こんな回復する薬は他にないっつーか……門外不出の特殊製法で作られた、言わば俺のトップシークレットだからッ」
アキの様子に気が付いたのか、咄嗟にそんな説明をするオートラルであったが、アキには何かを隠しているようにしか見えず、怪しさが増しただけだった。
そもそも、どうして飲んでしまったのだろうかと彼は自分の行動に疑問を持った。普段の自分であれば、大丈夫そうであっても、あまり関わりのない人間からは決して薬など受け取らないのだが……。
「……飲んじゃったけど、これって副作用とか大丈夫なやつ? 薬じゃなくて薬的な……」
「いやいやそんな事ないっ、体に害とか一切ないから大丈夫!! そうだなえーっと、確かにこの世界にはキツい副作用と引き換えに体が“再生”する薬草とかも存在するけど――コレはそんな危ない代物じゃない」
「怖くなってきた……」
「……変な反応して悪かったよ。でも本当にちょっと考え事してただけで、薬は全然大丈夫だ。俺が保証する……! そもそも知り合いに変なモン渡すわけないし、特にお前の場合……お金持ってないし、一緒にいる人間がなんかヤバそうだし、変な真似は出来ないよ……」
軽やかな笑いを声調に乗せて、しかし真剣に言うオートラル。アキはオートラルが最後に言った内容に対して、確かにそうだと思いながらも、両者に同意できてしまう事に残念な気持ちが勝った。
とはいえ、薬はきっと大丈夫なのだろう。何となく見えてきた彼の性格だが――たぶん、自分とよく似ていて……だからきっと、“そういう”奴なのだ。端的に言えば、相手を小突くのが好きなタイプだ。特製云々など何処までが本当かは分からないが、本当にヤバい薬なら、あんな相手を警戒させるような前置きをする筈がない。
そんな考えに至ったアキは少しだけ会話を交わしながら背伸びをした。そして、思い出したかのように戦闘中に落とした武器を探して拾い上げ……それを見ながら、呟いた。
「……話変わっちゃうんだけど。俺、弱いからさ。技術もそうだけど、もっとちゃんとした……オートラルみたいな金属製の防具とか着た方がいいのかな。軽い金属とかあるみたいだし、意外と……」
「えーっ、ムリムリムリ! 色んな種類があるけど、鎧って見た目以上にめっちゃ重いんだぜ? お前にはまだ早いっ」
「そうなの?」
「つーか、俺もホントはこんなの着たくないんだよ。兜だけでも重くて頭グラグラするし、視界狭くてウザいし、顔痒くても掻けないし! 何なら全身クソ重い鎧で防御力上げるより、裸になって軽く攻撃を回避した方がいいと思うんだよな!!」
「えぇ……」
とにかく鎧なんて嫌いだ! といったオートラルの強い気持ちが、彼の口からつらつらと語られる。ゲームで聞いた事ある気がするな……なんて思いながらら放たれたアキの提案は、当然と言うべきモノであった。
「……ていうかさ、だったら取っちゃえばいいじゃん、兜と鎧。……顔も気になるし」
「兜を取る……? …………。……ふ、ふははっ、俺の素顔はトップシークレットだから誰にも見せられないのさッ。謎の覆面紳士の名が廃るだろ?」
「覆面紳士……?」
何個トップシークレットがあるんだよ、という気持ちよりも前に、ある単語が大きな違和感となって脳に引っかかった。
「性格が既に紳士じゃないから大丈夫だよ」
「っ、ひっでぇ!? 助けてやったのにひっでぇ!! ……でもダメだ! 特にお前には、誰が何と言おうと絶対に見せられないっ」
「えーなんで」
「フッ……俺の素顔はイケメンすぎて、世界を知らない赤ん坊のお前には、刺激が強すぎるからな……」
フザけた調子で無駄に格好付けながら言う彼の表情は、もし見えたとすればきっとキメ顔だっただろうとアキは思った。同時にツッコミどころも疑問もあったが、どちらにせよ見せたくないのだろうと思い言及をやめた。
……そんな彼の判断は正解だっただろう。常に明るい調子のオートラルの言葉の裏に包まれ隠された感情を知る事は、今の彼では決して叶わなかったのだから。
「……ふっ、ははっ! しっかしまぁ、さっき戦闘について色々言ったけど、アレは最っ高に良かったぜ?」
「えっ、アレ……?」
「そうだよ、アレだよっ、男にクソ毒団子ぶん投げた時だよ! やられっぱなしは嫌だもんなぁ、あーれは痛快で最高だったぜ! あと、所々のアホみた――考え尽くされた煽りとかも、本当に素晴らしかったよ! お前らしくて」
「それは褒めて……いやまてよ?」
話を逸らしたかったのか、不意に話題を戻したオートラル。それに対して答えようとしたアキだったが、ふとある事に気が付いて言葉を止める。
「煽りって……そんな前からいたのに、どうして助けて――」
「えっ……いやいや、違う違う! 声が森中に響いてたんだよ!!」
「響いて……はぁ?! うっそぉ、それって……?」
「……『気配を隠さなかったのは……えっと……か、隠す必要がないからだァ……』『隠されし能力が今にもお前を殺そうと疼いている……ッ!!』……なんてな!」
アキが先刻男に放っていた煽り文句を、一言一句間違えずに情緒的に読み上げる鎧男。そのどれもが無駄にクオリティが高く、本人と見間違うレベルでアキとそっくりな雰囲気を醸し出していた。
それを聞いてなんだか急激に恥ずかしくなったアキは、「わーー!!」なんて叫びながら止めにかかるが簡単にいなされ、大いに笑われながら肩を強く叩かれた。
中学時代の黒歴史ノートを見られた時と似たような感情に、若干頬を赤らめるが、同時にやはりオートラルとはとても気が合うというか、自分と似ていると改めて思った。
少なくとも、かのユリセアなんかとは違って、とてもやりやすい相手だ。
「……長く話しすぎたな。お前、もう怪我は大丈夫そうだな?」
飛びかかったアキに対して、突然真面目な口調でオートラルは言った。
「痛みならさっき……あっ、あれ、怪我も結構治ってる……?」
そう、痛みのみならず、怪我がほとんど良くなっているのだ。それどころか体には元気が満ち溢れ、体力が有り余っている状態だ。……これは、流石にありえない。まさかオートラル特製云々というのは本当だったのだろうか、それともこの世界の薬は優秀なのだろうか。
――ずっと忘れていたのだが、洞窟内で怪我した左腕も、あんな深い傷だったのに今では全く痛みがない。傷は残っているので内側に包帯は巻きっぱなしの状態だが……なにより、魔紅力の液体に浸かっていたのに、ここまで回復している事が不思議だ。ケイシー達は麻酔草なんて言っていた気がするが、そのおかげなのだろうか……?
「それなら良かった。……さぁ、さっさと他の奴らを見つけ出して、ここから逃げようぜ」
そんなアキの思考を遮ってオートラルは言う。
……襲いかかって来た男は一人とは限らず、しかも目的はユリセアだ。一緒に来た皆と御者さんはまだ幻覚の中かもしれない、早く合流しなければ。
会話の中で気持ちも落ち着き、体力も回復した所で、二人はユリセア達を探すため森の奥へと足を踏み入れた。
◆◆◆
「おうおうおう新人さんよォ。その斧槍はアレだろ、セルファに憧れて討索者になったとかいうタイプだろォ? ……はっ! 如何にも希望に満ち溢れてそうな脳みそお花畑の新米をターゲットにすると、そういうタイプの奴に当たる事が多いんだ」
それは森の中。三人のうち、二人の男に動きを拘束され、もう一人のリーダー格の男に剣を突きつけられた御者と亜人男性がいた。
――圧倒的な戦力差であった。
彼らが男衆に出会った直後、二人の攻撃が開始されるよりも前に勝負は付き、現在の状況が作り上げられてしまっている。
「……まぁ、ンなこたァどぉーでもいい。おいお前ら、銀髪の女の居場所知ってんだろ? 先に答えた方だけ生かしてやるよ」
リーダー格の男が言い放つ。彼の左目は縦に割った傷が深く刻み込まれており、隻眼であった。その風貌も相まってか、緊張感を含んだ大気が張り詰め、今にも破裂してしまいそうだった。
銀髪の彼女の場所。彼らは二人ともその答えを知っていた。彼らと赤髪女性が合流した際、既に女性がユリセアを発見していたのだ。事前に不審な男衆に気が付き、どうしても特定の場所から動きたがらないというユリセアを隠すために、色々としてくれていた。
……発見した当初のユリセアの様子は、それはもう、悲惨な状態であった。
どんな幻覚を見ているのかは知らないが、子供のようにわんわん泣き喚き、自分に向かって罵倒を繰り返しながら、自身の体をナイフで傷付けるその行為は、馬車にいた時の様子からはまるで考えられなかった。
「それ、は……」
「あァ……?! 聞っこぇねェんだよ! 早よォはっきりと答えろや!!」
隻眼の恫喝に乗せられた殺気が、両名の心臓を貫く。
――『英雄セルファに憧れて……誰かの役に立ちたくて……』それが亜人男性が討索者になった理由だった。
だからそこ、誰かを犠牲にするだとか、そんな事は絶対にしたくなかったし、優しい彼はそれが出来るような人間でもなかった。
なのに、それなのに……そんな人間として当たり前の思いは、あれだけの恫喝とこの状況によって酷く揺り動かされ、今にも簡単に崩れてしまいそうだった。
「ふん」
しかし隻眼の男は彼らの解答を待つ時間すら惜しいのか、彼らに睨みを効かせたのち、顎をしゃくって二人を拘束している男に指示を出した。男二人は小さく頷くと、
――ボキィィっ
と、それぞれ二人の片腕をへし折る。
「「ひッ、ぎぁィぃアアア?!!!」」
まるでぶつかり合うかの如く、似たり寄ったりの悲痛な絶叫を上げる二人。男はその口の中に剣を押し付けると、追い打ちをかけるように言った。
「うっせェなぁ、ギャーギャー喚けなんて言ッてねェんだよ! 女の場所を教えろ言ぅてンだ!! 耳ん穴かっぽじって聞けよ。次関係ねぇコト喋ったら殺す、叫んでも黙っても殺す。先に言った方だけ生かしてやる。女の居場所はどこだ!!」
痛みで支配された思考の中に、隻眼の言葉が穿ち貫く。そここら放たれる殺気は“先に言わなければ殺す”という言葉が嘘ではないことを示していた。
激烈な苦痛の中で、ただ『殺されたくない』と。それ以外の事は考えられなかった。
「ひっ……ぁがっ、こ、ここから東、月虹花の群生地に――」
「ぎ、ぁ……あっちの月虹花の群生地の方! いま、もう一人の仲間が――」
ガじゅッ、と、御者の方の剣が押し込まれ、彼の喉元を深く貫いた。
喉を潰され、呼吸が出来ずに空気の漏れるような悲鳴を上げながら藻掻く御者の頭を掴み、隻眼の男が叫ぶ。
「惜っしかったなァ! 僅差だったぜェ。おぅら、幸運だったなお前。こうならなくて済んだんだからよ」
「ぁ……あ……」
「安心しな。次ぃ目覚めた時、お前は奴隷商の牢屋の中だ」
亜人男性を、この世の全てを呪う様な眼差しで睨み付ける御者。そして暫く苦しんだ後、やがて死に至った。それを見送った隻眼は部下を一瞥すると、その内の一人が、彼から聞き出した場所へと向かう。
「っ、ァ……――」
その瞬間、彼の思考は空疎な真っ白色に塗りつぶされた。
罪悪感だとか恐怖だとか、精一杯のぐちゃぐちゃで動けなくなる。何も考えたくない。……頭上から乾いた嘲笑が聞こえる。ナニカを言われるが理解できない。そして突然髪を捕まれ、乱雑に引っ張り上げられて、頭蓋をかち割られるような衝撃が走り――意識が落ちる。
「それよりボス、一緒に組んでたアイツ……調子乗ったイキリ野郎、一番弱そうな男を追い掛けて行ったきり帰ってきませんね」
「ほっとけ。……やっぱアイツは“ハズレ”だったな。今回は依頼形式が悪かったが……五月蝿いのが居なくなって清々した」
「それもそっスね! ……しかし、今回の依頼ってやっぱおかしいですよね。ただでさえ報酬額が飛び抜けてるのに……」
「詳しい事は知らないが、ティアドルーシュだとか研究所だとか、色んなのが絡んでるらしいな。……あの銀髪にどれ程の価値があるかなんて知らねェし、怪しい点は幾つもあるが……これで俺たちは晴れて自由の身だ!」
はははは! と笑い声を上げる二人の男。
「連れてきました!! コイツらですっ」
その声が届き渡るのに、どれ程の時が過ぎたのか分からない。
先程離脱した男と、見知らぬもう一人の男が、赤髪女性とユリセアを連れて戻ってくる。泣き喚いたのだろうか目を真っ赤に腫らしてきた女性は無抵抗で、腕を折られた亜人男性と御者さんの死体を見て、赤い目の奥をさらに濁らせた。
「へへっお嬢ちゃん、こういうの初めてかァ? お前の下らねぇ“たぁいへんだったケイケン”の幻覚よりもよっぽど厳しぃ現実だろ?」
「…………」
「へっ。そんな薄っぺらいクズみたいな人生も、ここで終わりだな」
そう言って嘲笑いながら、隻眼は彼女の後頭部を強く殴って意識を落とした。そしてそのまま倒れた彼女を乱雑に抱え、亜人男性の方へ捨て置く。
「眠草は後ででいい、銀髪優先だ」
「ウィーッス」
そうした声が響かせながら、ユリセアの元に集まる男衆。
……白くて綺麗な肌に、幼めだが整った顔貌、そして一風変わった鴇色と銀のグラデーションの髪。彼女の体を舐め回すように観察し、情欲の混ざった舌舐めずりをする彼ら。「引き渡す前にヤッてもいいよな?」「体の状態は特に指定がなかったぜ」「全員で回そうぜ」などと言った下卑な会話を交わし合う。
ユリセアは……目を覚ましていたが、まだ幻覚に魘されているのか、明らかに周りの情景や、自身の状況は見えていなかった。そして幸か不幸か、先程とは打って変わって落ち着いてはいたが、反面具合が悪いのか、今にも嘔吐しそうな様子であった。
ナニカをぶつぶつ呟き続ける彼女を見て、強い一蹴りをお見舞する隻眼。そして、彼女を連れていくべく、手を掛けようとした――――。




