第98話 エルフの里 温泉
しばらく沈黙が続いて北エリアに移動すると、広大な田園や畑を耕すエルフが目に飛び込んできた。
シェーナ達が料理を提供している野菜は、ここで生産されている。
「茄子、人参、南瓜、、トマト、キャベツと色々栽培しているな。果物は苺や蜜柑もあるぞ」
エルフの里は豊穣な土地や気候に恵まれて、作物は育ちやすい環境だ。
最近ではギルドを介して人間やダークエルフがエルフの里に入植する者も増えている。
種族の垣根を越えて、プライデンの理念は着々と実っているようだ。
「おーい!」
すぐ近くのトマト畑で作業着に着替えたキシャナが手を振っている。
麦わら帽子や長靴を履いて、農作業を体験していたようだ。
キシャナはトマトを抱えながら、シェーナ達と合流する。
「このトマトを見てくれよ!? 甘くて美味しいよ」
「立派なトマトだな。勝手に収穫して大丈夫なのか?」
「地主さんには許可を取っているよ。皆も一口食べて!?」
目を輝かせて興奮したキシャナはトマトを皆に振る舞うと、たしかに新鮮で甘味がある。
野菜サラダとして提供してもいいし、煮込んでスープにしたら美味しそうだ。
「ここは食材の宝庫だね。土や肥料も適しているし、生産者も心血注いで誇りを持って育てているよ。それでシェーナに相談だけど……食材を追加して仕入れてもいいかな?」
「キシャナが気に入ったのなら、別にいいよ。売上や利益の計算は俺の仕事だから、数字の部分は俺も交渉に立ち会うよ」
「さすがシェーナさんだ! おっぱいのあるイケメンは話が分かる!」
「それ褒めてるのかよ……」
シェーナは追加の仕入れにOKを出すと、キシャナはベタ褒めする。
相変わらず調子の良い奴だが、四人目の異世界転生者の事を考えると、喜んでいる親友の顔を見れればいい。
シェーナとキシャナは生産者と交渉に入ると、スムーズに交渉は進んで交渉成立となった。
キシャナは普段着に戻ると、先程の東エリアにあった温泉施設で汗を洗い流すことにする。
「温泉は賛成ですが、先輩と混浴はしたくありません! 完全にセクハラですよ!」
「ペトラの裸は興味ないよ。自意識過剰じゃないのか?」
「温泉だけは変身を解くか、他の男性に変身してください!」
本屋でサンドイッチをするまで、グラナは性別が男だったのをすっかり忘れていた。
普段はルトルスの姉カルラに変身しているので、男性と意識する場面が少ない。
「仕方がない。温泉だけは変身を解いて男湯に入ってもらおうか」
「おいおい、それはないだろ。一緒に頑張ってきた仲間を見捨てないでくれよ……私も女湯に入りたいよ!」
カルラの姿で声も女性だから違和感はあるが、欲望丸出しのグラナを女湯に入れるのはトラブルを巻き起こしそうである。
シェーナは男湯に入ることを勧めるが、グラナは悲し気に拒否する。
「じゃあ俺が目隠しして誘導するよ。それならどうだ?」
「シェーナも元々は男なのにずるいぞ! シェーナやキシャナも目隠しするならいいよ」
女三人が目隠しして誘導される光景は異様に見える。
さすがにそれは絵的にまずいので、二手にチームを分けて温泉に浸かることにする。
シェーナ、キシャナ、グラナの訳ありチーム。
ルトルス、ペトラの女性チーム。
先に女性チームを温泉に入らせると、訳ありチームは施設の外で待機する。
「キシャナ……変な事に巻き込んでしまって、すまないな」
「別にいいさ。グラナに突っ込まれるまで、自分は男だったことを忘れかけていたからな」
「キシャナは別にやましい気持ちもないだろうし、女性チームと入ってきてもいいよ」
シェーナは女性チームと合流を勧めるが、グラナはずるいと喚き散らして譲ろうとしない。
我儘な魔王だな。
「グラナと温泉に浸かるのは初めてだし、良い機会だよ」
キシャナは前向きに考えているが、シェーナは不安を募らせながら溜息を漏らした。




