第90話 魔法国家ハシェル国
「すまないね。色々あったから話す機会を失っていたかもしれないな」
リィーシャはシェーナを慰めると、一言謝罪を述べる。
たしかにリィーシャには迷惑をかけるような面倒事を頼んだりしてきたので、一概にリィーシャを責められる立場ではない。
キシャナはシェーナにそっと言葉をかける。
「よかったじゃないか。故郷のご両親に胸を張って会えるね」
「ありがとう。ハシェルの酒や海産物は美味しいから、皆を招待するよ」
「酒は楽しみだな。シェーナを祝って酒盛りパーティーでも開こうかな」
「キシャナは祝いより酒が飲みたいだけだろ。心配しなくても浴びるほど飲ませてやるよ」
「できれば溺れるぐらい期待しているよ。折角だから、シェーナの故郷について話を聞きたいな」
シェーナはハシェル国について語り始めた。
ハルセンティス大陸の北方に位置する五大国の中で、魔法文明が発達した魔法王国だ。
以前、シェーナが装備していた魔法の鎧もハシェル国が魔法を付与した特別製で、攻撃魔法に対して耐性が施されている。
隣国のプライデンは友好国として良好な関係を保っているが、もう一方の隣国であるスエード王国とは敵対関係とまではいかないが、動向を注視している状態だ。
スエードの国境に程近いハシェル領の村で、子供の神隠しが多発したこともあったからだ。
スエードの連中が拉致して奴隷にしたのではないかと囁かれたが、証拠がない。
「ハシェル国の概要はこんな感じだよ。俺がいなくなってから、多少事態は変化しているかもしれないが」
「少し付け足すと、ハシェルはスエードと完全に敵対関係になったよ。最近、神隠しの仕業がスエードである証拠を掴んだらしい。ハシェルとスエードのことで五大国内に亀裂が走ってしまったことで、私も最近まで忙しかった」
シェーナの情報にリィーシャは落胆した声で疲れが滲み出る。
最近まで互いの外交官がプライデンで意見を交わしていたらしく、結果は平行線のまま解決せずに終わった。
「近々、勇者一行のメンバーとハシェルの上官がスエードの視察に入ることが決まってね。戦争状態になるのだけは回避したいところだよ」
一堂は黙ってリィーシャの言葉に耳を傾けていた。
そんなことになっているとは想像もしていなかった。
「不安になるようなことを言ってしまったが、大丈夫さ。君達はこれからも街の発展のために引き続き盛り上げていってくれ」
リィーシャは明るく振る舞って話を締める。
馬車は大きく揺れて街道沿いを横切ると、エルフの森が見えてきた。




